御手洗ジャンクはハートフルシナリオを書きたい 作:ヤングコーン
本文を見ればわかるけど、それほど元気なキャラクターじゃないので
そろそろこのテンションを維持するのが面倒だぜ!
昨日は弟妹達と楽しい一日を過ごした。何か忘れてると思えば、俺が書いてる小説のファイルを開いたままになってた事だ。まあ、弟もわざわざ俺の書いた小説を覗いちゃいまい。
俺はそう信じて朝からコーヒーを飲んで朝日を眺めていた。
…ピンポーン。
こんな朝早くから誰だろう。俺はすぐに玄関に行って鍵を開けた。外にいたのはイソフラボンだった。
「ジャンク、(自主規制)に美穂ちゃんいなかったじゃないか!」
「いや、フルトン回収されて無事に帰国したんだ。すまん」
こんな所で立ち話もなんなので、俺はイソフラボンを家の中にいれた。そしてコーヒーを出して砂糖とミルクを混ぜる。確か角砂糖2つとミルク1つだったな。俺はマドラーで混ぜて出した。
寒かったらしいので、上から羽織るものを持って来た。
「あざす。向こうのホテル泊まったら、鏡があってさぁ。何となく指で触れたら指の腹が見えないの。クソワロタ」
「どゆこと?」
「そこに鏡あるっしょ。ちょっと指で触れて横から見てみ。鏡に触れてペタンってなってる指の腹が見えるから」
マジか。俺は近くの鏡に指で触れてみると、確かに指の腹が横から見えた。気にしたことなかったな。
「で、指の腹が見えないとどうなるんだ?」
「インターネットで『鏡 指 くっつかない』で調べてみ」
なんなんだよ。俺は調べてみると、検索結果を見ておおう…となった。
それから昨日は小説を投稿していなかったと言われたので不思議に思ってパソコンを見ると、文章は完成しているもののそのまま投稿をし忘れていた事に気が付いた。俺は文章ファイルからサイトにコピペした。投稿が終わったと伝えるとさっそく読み始めた様子。
昨日は黒糖たいやきとエナドリを買いに行ったついでに食材も買い込んでいる。俺は基本的に食べるものにこだわりがなく、おいしく食べられればそれでいいので適当な野菜と肉をフライパンで炒め塩コショウでさっくり味付けした。
小皿にプレーンヨーグルトを入れていちごジャムを乗せた。俺は食器を持って机に行くと、イソフラボンが机の上を拭いてくれていた。ありがたい。俺は2人分の食器を置いた。ああ、そうだ。割りばし…。
そう思ってると、急に呼び止められた。ニマニマとしているイソフラボンは有名なアドベンチャーゲームのアイテムGET音を声真似ながらそれを取り出した。
「マイ箸ー!」
「何でもいいけどあまり俺の家に私物を増やさないでくれよ。変な勘違いをさせないために弟たちが来るたびに隠すの大変なんだぞ」
「隠さなくてもいいじゃん」
「俺の家族に俺と付き合ってるって勘違いされるんだぞ」
「ジャンクと結婚すれば、美穂ちゃんと合法的にお近づきになれる…良いではないか」
「お前の野望に俺を利用するんじゃないよ」
ピンポーン。誰か来たようだ。イソフラボンは目を輝かせて俺の後ろをついてくる。連絡が来てないから妹じゃないと思うが…。そう思っていると、やって来たの片桐だった。
「よお!遊びに来たよ!」
「片桐か。来る時ぐらい連絡しろって」
「どうせ予定なんかないだろ!俺と遊べ~!」
可愛いやつめ。仕方なく家の中に入れると、イソフラボンが片桐をじっと眺めている。片桐もイソフラボンを眺めている。え、何??
「将也!なんでこんな所に!!」
「陽子姉さん!!生きていたのか!!」
将也?陽子??なんか良く分からんが凄い展開になって来たところで、俺はそろそろ小説を書くことにした。
†
タナトスラスターに搭乗すべく生まれた彼には生きる目的なんてなかった。ただ、無意味に痛みを強いられ、無限の死から解放されるその時まで生き続けるんだと思っていた。でも、主人公2との出会いがその考え方を変えた。
生きる喜びを、空いた心の塞ぎ方を教えてくれた。満たされる事を知った。だから彼は涙する。その宿命が故に。
対峙するはイロスゲイン。分かり切っていたが、搭乗者は主人公2だ。お互いに相手の内心を探り合う様に戦う。仕留める気はなく、ただ惰性のように戦い続ける。平生を装うたびに、主人公2への恋心が胸を締め付けタナトスラスターの出力となって放たれる。
『俺は…俺はお前と戦いたくないんだ!投降してくれ、主人公2!!』
『僕だって戦いたくない!でも、アルカッドは人間を滅ぼすつもりでいるから…だから、僕は人間として戦うしかないんだ!!』
それが辛い事なのは分かっている。男の子にとって、アルカッドの事はどうでもよかった。滅ぼうとも。それでも、彼も戦うしかなかった。
『俺だって戦うしかない…。じゃないと、俺は博士に殺されて復活させてもらえなくなる…。そしたら、お前ともう愛し合えない。お前の息遣いも、お前の接吻がどんなものだったかも、お前の肌のぬくもりも…何もかもわからなくなる。俺は、俺はどうしたらいい…』
心の器から悲しみがあふれ出すと、それは涙として目から零れた。この苦しみさえも、タナトスラスターは力に変えてイロスゲインへのビームとしてはなってしまう。まるでお互いにハリネズミになってしまったようだ。お互いを傷つけるだけなら、もう離れてしまった方がいい。
それなのに、離れる事はもっと辛い。
そこで、男の子は今更気づいた。あの時の任務は、イロスゲインの機体の生態データを取るためなんかじゃなかった。初めから、自分をより苦しめるためだけに行ったのだと。体だけの痛みではイロスゲインに後れを取ると考えた博士が、もっと苦痛を引き出すべく優しさと愛を触れさせたのだ。
恨みが、憎悪が、悲しみが心を渦巻くたびにタナトスラスターの力は増していく。もはや、操縦レバーは自身の手から離れ自動でイロスゲインを襲っている。
皮肉にも、心の痛みが出力をあげているせいか体への痛みは少なかった。
『主人公2…俺を、俺を殺してくれ…。お前の手で葬られるなら、本望だ…』
『僕は…お前も救いたいんだ!!』
『出来もしない事を言うなぁぁぁあああ!!!』
叫びと共に真っ赤な光を放つ。タナトスラスターの隠れていた顔が現れ、目が爛々と輝く。そこで、ため込んだ感情を爆発させて血の気が引く男の子。
『やめろ、俺は…』
必死に操縦レバーを握って止めようとするも、急に動き出したレバーに腕が当たって折れてしまう。
自動操縦となったタナトスラスターは搭乗者への配慮などなく出力を上げ痛みを求める。心の痛みに加えて体の痛みも次第に増していく。自動操縦となったタナトスラスターは、イロスゲインと主人公2を本気で殺しにかかる。どうにかしようと藻掻くたびに体に感じる痛みが本物になって行くだけだった。
腕が折れるほどの痛みを退官したことはあっても、実際に折れた腕を見るのは初めてだった。
『止まれよ…お前を操縦しているのは、俺なんだ!!!』
そう言って、操作スイッチの台座に頭をぶつける。ここには自害するための道具がない。痛みに耐えかねた操縦者が自殺しないようにだ。しかし、道具なんていらない。体1つで自殺してみせる。俺は頭を何度もあたりにぶつけて自害を試みる。
レバー付近に首を置いてみたり、舌を噛み切ってみたり、何をしても中々死ねない。
努力も空しく、メインカメラに映し出されたイロスゲインのコクピットに刺さったタナトスラスターのアームを見て、男の子は放心状態になった。そして今頃になって死んだ。
意識が無くなるその刹那、目の前に俺に向かって手を伸ばした主人公2の幻を見る。どんなに手を伸ばそうとしても、折れた指じゃ、手じゃ、腕じゃ伸ばせない。男の子は声にならない叫び声をあげる。誰にも届かない叫び声を。
俺はまた生き返ってしまう。死ぬことも許されない。死にさえ見放されている。この絶望がまたタナトスラスターに力を与えると思うと、もう笑うしかなかった。