道行く人に会釈されれば言葉を返して会釈をする卓三。
同居と言えばそれぞれの実家で、息子や娘なりが親と暮らしを共にするのが一般的なのだが、卓三に限っては息子の家に親の方が引っ越したという稀な同居なのだ。
したがって、近所付き合いに気遣いを見せる卓三だった。
律子が買い物に出かけたと思っている卓三はどこからや聞こえてくる声に耳を傾けていた。
くつろいでいる部屋に聞こえてくる声。
(・・・?・・・)
あたりをキョロキョロ見渡しても部屋にいるのは卓三ひとり。声の出どころがわからない。
「お義父さん、行ってきますね」
と、律子から声をかけられたのは数分前だった記憶がある卓三。
声が気になれば、その声は徐々に大きく耳に残ってくる。
(どこから?)
卓三は重い腰を上げた。
手を腰の後ろで組み一階の各部屋を見回ってみるが何の変化もない。
同居している家は二階建ての一軒家。
残るは二階のみとなった。
(二階は・・・ちょっとなぁ・・・)
憚れて当然だった。
ソコは息子夫婦が夜ごと愛をはぐくむ寝室。
しかし、声がする部屋があるとするなら、見回りを残している部屋は夫婦の寝室だけとなっていた。
もし、泥棒とか不審者の侵入ならことを急がなければならない。卓三にとって不可侵の部屋でも躊躇している暇はないはずだ。
下駄箱の横に置いてある野球用のバッグの中から一本のバットを取り出し、手に握ると再び二階に向かって廊下を歩きだした。
一歩、一歩と足音に気遣い階段を踏みあがる卓三。
(うん?・・・)
聞こえてくる声に耳を立てれば、その声は確かに息子夫婦の寝室から漏れていた。
(うん?・・・)
戸締りは欠かさないはずの律子が、先日の浴室に続きまた今日も寝室の扉が手前に隙間を作っている。
寝室に近づけば近づくほどに声が大きく聞こえ判別できるまでに聞こえる。
(うん?)
聞こえる声は一人ではない。男の声に交じり女の声。
(いつも間にか帰ってきて、友人と一緒なのかな?)
そう思えてくれば振り上げていたバット下におろし部屋の前まで足を鉾ぶことが出来たのだが、声の主が友人だという保証は何もない。
いざという時のことを考えた卓三はバットを握りしめ直した。
(わっ!)
卓三の眼に飛び込んできたのはアダルトな場面。
ベッドの脇に置いてある大型の画面に映されている。それをベッドに横たわり見ているのが律子。
(買い物は?)
浴室と同じで、一度 覗いてしまえば後戻りできないのが卓三。
(わぁ~エロいビデオを見るなぁ!)
大型の画面に映し出されているのは素っ裸の女性が大股を広げ自慰に耽っているシーン。修正なしのビデオなのか、妖しい女性の性器がハッキリと見える。
女優が指で開いているラヴィアは、ヌメヌメに光りピクピクと男を誘うように蠢いている。
その影で時々現れる男性が女優に対して何かを言っている。
(あ~この声が聞こえてきていたのか・・・でも・・・?)
部屋の外から聞いているよりも、卓三がいた部屋の方が音声がハッキリと聞こえたような気がしている。
アダルトと分かれば卓三も安心を覚え不可侵の部屋の前から退散しようと思った時だった。
ビデオに後ろ髪をひかれ再び隙間を覗いた。
(まっ!・・・あれれ・・・)
卓三は扉にすり寄り目を大きく見開いた。これ以上に瞼が開けられないほどに開けた。
ベッドに横たわっていた律子の手が着ている上着の上から胸に伸びたのだった。
上向きでもきれいな隆起を披露していた胸を触ろうとしているのだ。
卓三がテレビに目を移すと、女優が入れ替わり律子と同じように胸に手を置いているのだ。
律子が身体を横たえているベッドの上下にはボードがある。
そのボードが、腰を屈め覗いている卓三の視野を妨げ、律子の全身を目で捉えることは無理だった。腰を伸ばせば見つかる可能性がある。
律子の腕の動き、身体の動かし方から想像し、テレビの場面を見比べ過程を想像するしかないのだが、それだけでも卓三の官能を刺激するには十分だった。
卓三はテレビの画面に目を移したらコマーシャルが流れているのを見てネット配信のビデオだと言うことに気づき、再びベッドに視線を移した。
白くて細い両肩を露わにしている律子が、ベッドのボードに手を伸ばすとティッシュの小箱を持っている。
(律子さんも、いよいよ・・・)
いよいよ卓三も忙しくなった。テレビを観ながら律子の様子を探らなければならない。
「・・・・・・」
ネット配信のコマーシャルが終わり再びアダルトが開始された。
テレビの女優が上着を脱ぎ刺繍が施されているブラジャーだけを上半身につけ胸に手を当てている。
律子の手がボードの端から時折覗いていることを見れば、女優と同じように豊かな乳房を揉みしだいているのだろう。
(はぁ・・・はぁ・・・はぁ)
テレビと律子の様子を見比べて覗くという行為も、卓三の妄想力を逞しくしていきリアル以上の興奮を覚えていき、呼吸も次第に荒くなっていく。
(おっ!・・・始まるか?)
卓三はテレビからベッドへと目まぐるしく視線を変えていく。
テレの女優がスカートの中に手を入れ、ブラジャーとお揃いのパンティーに指をかけた。
律子の腰がボードの端から浮き上がるのが見えた。
(ははぁん・・・律子さんもパンティーを)
想像だけで卓三の股間は大きく膨らんでくる。
女優がパンティーの脇から唾液をベットリと絡ませた指を侵入させていった。
(あれっ?・・・)
ベッドの律子がリモコンをテレビの方に向け操作している。
「あっ・・・いや~ん・・・ダメ、ダメ・・・」
聞こえてきたのは女優の喘ぎ声。テレビの音量を上げ律子の喘ぎを消そうとしているのだろう。
女優の喘ぎが耳に届いた瞬間、卓三の興奮も萎えいでいき、律子の部屋の前から立ち去った。
「やれやれ・・・?」
部屋に戻った卓三は首を傾げた。
聞こえていた音がピッタっと止み、聞こえるのは盛りがついた野良猫のニャーニャーという泣き声だけだった。