※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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序章
プロローグ


 授業が行われている教室の中。教師が黒板にチョークで文字を書く音が響き渡る。

「はーい、ではこの問題について周りの人達と話し合ってみてください」

 チョークを置いた教師の指示が教室に響き渡る。またこれかよ。

 僕は飽き飽きとしながらため息を吐いた。それさっきの授業でもやったんだけど。

 しかし僕の思いに反してクラスの人達は周りの席の人達と意見を交換し始めている。

 もちろん全員が意見交換をしているかと言うとそれは違う。

 中には授業と全く関係のない事を話している人もいるし、人と話さずに自分で考えている人もいる。

 ちなみに僕は後者だ。人と話さずに黙々と自分の答えと向き合っている。

 まぁこうしてると大抵は──

竜胆(りんどう)またか。少しは周りの人と意見を交換したらどうなんだ?」

 教師が僕の方にやってきてため息混じりに声をかけてきた。

 これだよ。いい加減にして欲しい。ため息吐きたいのはこっちも同じだから。

 これってあくまで自分の意見と他人の意見を比べて誤りを見つけるものだよね。

 これが国語とかだったらまだ分かるんだけど、生憎今の授業は数学、よって答えは一つだ。

 それなら確実に当たっているっていう確信があるなら、やらなくてもいいわけだ。

 コミュニケーション能力がどうのこうの言われている時代だからこうしているのかもしれないけど、やたらめったら話せばいいってもんでもないでしょ。

 時には一人で黙々と考える力だって必要だ。自分の力だけで正解を導く力を。

 ちなみに竜胆って僕の事ね。連枷《からさお》 竜胆、今年で十六歳で高校二年生。どうでもいいか。

 まぁこの人もこれが仕事なんだし文句を言うような事はしないけどさ、せめて無視して欲しかったな。ノート見れば解けてるの分かるだろ。

 僕が適当に頷くと教師は再びため息を吐いて去っていった。

 ストレス与えちゃってすみませんね。自分がやっておいてアレだけど教師って本当にストレス溜まるんだなぁ。

 それでも僕は誰かと話すことは無くひたすらボーッとしていた。

 周りの人間に関心があるわけでもないが、やはりこうしていると周りから色んな声が聞こえてきてしまう。

「マジでそれねー」

「分かるわー、超ウケる!」

 そんな言葉が耳に入ってきて僕は思わず声を上げて笑いそうになった。さすがにそんな事しないけどさ。

 何がそれねだ。何が分かるだ。

 人との理解なんてのはそんな簡単なものじゃない。そんなものただの上辺だけのものだろ。

 人との理解というのは同じものを同じように感じて初めてそれを理解出来るかどうかの段階に踏み込むのだ。

 果たしてそれを数秒で行える人間がいるのだろうか。その人は本当に理解してくれているのか。

 ネットの普及などにより自分の事を自由に発信出来るようになり、捉え方や価値観の自由が多くなったこの世界でそんな人に出会える可能性は限りなくゼロに近くなった。

 それがいい事なのか悪い事なのか、それこそ人の価値観によって変わってくるだろう。

 しかしこれだけは言えると思う。

 そんな世界でお互いを理解する人が少なくなってしまっている。

 そして同じくらいの割合で人の理解を求める人は増えている。

 だからこそ本当に理解し合えた人達は極めて稀なのであろう。

 みんなそんな人を求めているのだ。自分を理解してくれる存在を。

 そんな事を考えていると授業終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。

 ようやく終わりか。疲れたぁ。

 たまに思うんだけどさ、受験や社会に出て行くために勉強ってやってるんだよね?

 だったらそれ相応の学力があれば授業やらなくても良くないかな?

 一通り自分でやってみて、分からなかった人だけ授業を聞いてみる。その方が個人のためにはなるだろ。

 ちゃんと結果さえ出せればそれでいいみたいなシステムにならないかな。

 これ言ったら教師に失礼なのは分かってるけどさ、ぶっちゃけ授業とかとてつもなく暇なんだよな。

 これは教師にもよるんだけど、授業って当たりはずれがあるんだよね。

 問題を多く出してくれたり自習の時間を多くしてくれる授業って嬉しいんだよな。自分だけの時間が増えるから。

 でもさ、ずっとダラダラと話しているだけの授業って結構キツい。

 この数学の授業も話し合いがあったとはいえ、ほとんど教師が説明しているだけだった。

 人のやり方にケチつけたくないけどさ、キツいものはキツいって。

 ただ話すだけでも淡々とテンポ良く話す人ならいいんだけど、そうでないと面倒だ。

 ちなみにこれは僕が勝手に推測したものなんだけど、生徒の授業中の騒がしさって授業のやり方に関係してると思うんだよね。

 もちろん教科とか教師の評判も関係があると思うんだけど、それ以上に授業のやり方って大切だよ。

 生徒全体から見て面白いと言われている授業ほど騒がしくて、つまらないと言われている授業ほど静かだ。

 学生のみんなも学校で検証してみるといい。学年が上がるほど当たっている気がする。

 っとそんな事はどうでもいい。次はお昼休みだったな。

 僕は手早く授業の片付けを済ませるとお弁当を用意した。

 購買という手もあるけどあそこ人多いし人が出歩いてるから落ち着かないんだよな。

 それだったら騒がしいとはいえ教室での弁当の方がマシだ。

 僕はお弁当を広げるとバッグの中から耳栓を取り出した。

 お昼休みに限らず休み時間は大体こうして耳栓をして過ごしている。

 こうでもしないと教室の中の騒ぎ声がうるさくて休みどころじゃなくなる。

 本当は授業でもしてたいくらいなんだけど、それやっちゃうと教師に当てられた時に答えられなくなる。

 それにこれは教師がいない休み時間だからこそ出来るものであって、授業でやるとバレる可能性がある。

 一応不要物だからさ、その辺は気をつけないと。

 まぁ教師がいない事をいいように、使ってはいけないという誓約書を書いて持ってきているはずのスマホを堂々と使っている周りの人達の方がよっぽどマズいけどな。

 たまに放送とかがあって聞き逃す事もあるけど、休み時間を阻害される事に比べたら些細な事だ。

 そしてバッグの中からラノベを一冊取り出して開いた。

 読書してのお昼休み、これが僕のいつもの日課だ。

 この時間だけが僕がこの学校で安らげるひと時だ。自分のペースで物事が出来るこの時間だけが。

 ちなみにこの耳栓をつけているのと人付き合いが苦手なのは同じ過去からこうなっている。

 まぁその説明はまた今度という事で。

 そんなお昼休みもすぐに終わり午後の授業だ。

 眠気に耐えながら授業を終えると掃除をしてホームルームの時間だ。

 その後は放課後。僕は部活に入っているわけではないのでこのまま帰る。

 今日も一日が終わっていく。昨日もこんなだったな。

 きっとこれはこれからも続くんだろう。

 まぁそんな事を考えていても仕方がない。放課後はゆっくりと自分の時間を過ごすかな。

 そうと決まれば行く所は決まっている。

 僕は素早く学校を出るとそのまま目的地へと向かった。電車に乗って、後は自転車で。

 大体は家でゆっくりしてるのがお決まりなんだけど、今日は別の場所に向かっている。

 特にどういう時に行くとかは決めていない。その日の気分でなんとなくだ。

 そんな事を考えているうちに目的地に到着した。目の前には一軒の建物が建っていて、ドアの前の看板にはこう書かれている。

 

『Cafe Red Poppy』 

 

 そこが僕の今日の目的地だ。

 まぁ名前からなんとなく分かるだろうけど、ここは喫茶店だ。

 僕はドアを開けて中に入った。ドアに付けられた鐘がチリンと僕を出迎える。

 店の中は全体が木でできていて落ち着いた雰囲気が感じられる。

 この時間帯なのか中にはそれなりの客がいるようだ。

「いらっしゃい」

 カウンターでカップを洗っている女性が声をかけてきた。

 歳は二十代半ばくらいで背丈は僕とあまり変わらないだろう。スタイルが良くて、青と白のストライプのTシャツの上に赤いエプロンを着ている。

 顔立ちは整っていて黒くて艶のある長い髪はハーフアップにして背中まで伸びており、穏やかな目は僕を優しく見てくれている。

 彼女がここの店長だ。というかこの店は彼女が一人で切り盛りしている。

 ちなみに名前は知らない。聞くような間柄でもないしね。

「いつものでいい?」

「はい、お願いします」

 僕は短く答えると空いている席に座って学校で読みかけになっていたラノベと耳栓を取り出した。

 基本的に静かな所ではあるけど、こればっかりは学校で身についた癖みたいなもので仕方ない。

 外出先で読書する時は大体つけちゃうんだよ。なんというかちゃんとその本の世界に入りたい、みたいな?

 周りをシャットダウンすればするほど落ち着いて本の世界に入れるのだ。

 しばらくして店長さんがこっちにやってきて僕の目の前にコーヒーとフルーツサンドを置いた。

 僕が軽く頭を下げると店長さんはカウンターへと戻っていった。

 僕は出されたフルーツサンドを齧るとコーヒーを一口啜った。

 フゥ、いつも変わらず美味しいなぁ。

 いつも協調性を求められて忙しなくて騒がしい学校とは違って、落ち着いた所で美味しいものを食べて自分の好きなこと自分のペースで出来る。この時間が一番落ち着くな。

 僕はこの落ち着いたひと時を楽しんだ。

 気がつけば僕はもうコーヒーを飲み干しており、フルーツサンドも無くなっている。

 ラノベもちょうど読み終わったところだ。帰るにはちょうどいいタイミングだな。

 僕は耳栓を外してラノベをバッグにしまった。

 名残惜しい気持ちもあるけど、また来ればいい。何なら明日は休日だ。午後にでも来ようかな。

 そんな事を考えながら僕はレジに向かうと店長さんにお金を払った。

「ごちそうさまでした」

「うん、また来てね」

 店長さんに見送られて僕は喫茶店を出た。

 さてと、帰ってゲームしようかな?いや録画したアニメを見るか。

 そんな事を考えながら帰路に着く。外はもう日が暮れ始めている。

 

 それが僕の日常──なはずだった。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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