※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第101話 植物

 二月十四日の日曜日。

 僕はこの日東風に彼女の家に来るように言われていた。

 チョコレートが貰えるということでおやつ代が浮いてラッキーと思ったわけだが、どんなのだろう?

 まぁ僕は貰うだけだしすぐ終わるでしょ。雛罌粟さんも何か用事があったみたいだし、今日は少し早めに行ってみようかな。

 

 

「…………って、そう思ってたはずなのに」

 

 

「りん兄、どうかしましたか?」

「この状況への不満が募った」

「そ、そんなに嫌ですか?」

 僕の隣で東風が呆れながら言ってくる。いつもの私服の上にエプロンを着ている格好だ。

 まさか東風のこんな格好を見る日が来るとは。

 

 

「嫌じゃないけどさ。僕はてっきり貰うだけだと思ってたのに、何で僕まで作るのに巻き込まれてるんだよ」

 

 

 僕は目の前にあるボウルの中身をかき混ぜながら言った。

 僕達が今いるのは東風の家のキッチン。僕はそこでチョコレート作りを手伝わされていた。

 僕の目の前にはデコレーションのためか、色んなものが置いてある。

「いいじゃないですか。たまにはこうやって娯楽として料理を楽しむのもいいものですよ?」

「別に今でなくても、料理は基本的に娯楽でしかやってない」

 いつもご飯は大体惣菜だし。その方が時短になる。

「僕はただ貰うだけだと思ってたんだけど?」

「そのつもりだったんですけどね。どうせなら一緒に作った方が楽しいかな、と」

「それお前が楽したいだけじゃないのかよ」

 まぁ普段はやらないことだから楽しくないわけじゃないけど、だからといって進んでやりたいかと言うとちょっと違う。

「そういえば年魚さんは?」

「お母さんならお買い物ですよ。後一時間くらいはかかると思います」

 東風がスマホでチョコレートのレシピを見ながら答えた。

「まさかこうやってりん兄と料理する日が来るなんて。夢のようです」

「僕としてはお前が料理得意になったって方が夢のようだよ」

「どこかでりん兄のご飯も作ってあげましょうか?」

 あのおっちょこちょいな東風が、こんな特技を身につけたとは。僕は昔からちょいちょいやってたけど。

 何でも正月の時に貰った栗きんとんも東風が作ったものらしい。意外すぎる。

 

 

 

「さてと、そろそろ元が出来上がるわけですけど、りん兄はどんな形にするつもりなんですか?」

「形?………って、そうか」

 固めるんだから形決めないとか。そうだなぁ。

「ボウルごと冷やして掘って食べるか」

「別に止めませんけど、たぶん硬いですよ」

 あ、やっぱり?何せチョコレート100%だからな。固まったらまぁまぁ硬いよな。

「こういうのって何がスタンダードなんだ?」

 下手に考えても仕方ないので参考程度に聞いてみた。

「それはもちろんハートですよ。バレンタインなんですし」

「けどバレンタインのチョコに意味はないって聞いたことあるけど?」

「あー、それ言い始めると色々揺らぐのでやめましょう」

 あれってお菓子メーカーのプロモーションがどうのこうのって、何かで見たな。

「でも最近は色んな形のチョコをネットで見かけますね。動物とか植物とか。あ、でも動物は難しいですかもしれませんね」

 

 

「なるほど。それじゃあミロガンダ、もといグリーンモンスでも作るか」

 

 

「何でその発想になるんですか………りん兄らしいですけど」

 え?違うの?植物アリって言うからいいと思ったんだが。どうせやるなら凝りたいな。

「抹茶と黄色のカラーチョコ使えば色は割といけそうだよ?型はアルミ箔で作って…麻酔液の再現は………」

「あーやめてください。あんなおっかないのウチの冷蔵庫に入れたくないです」

 え〜ダメか?貰った時の印象は強そうだからいいと思うんだけど。

「植物といってもお花とかですよ。りん兄でもそれは難しいのでは?」

「花、ねぇ………ミロガンダも花なんだが………そんじゃチグリスフラワーかジュランでも………」

「だから何でその発想になるんですか………別にそこに縛られる必要は無いんですが」

 仕方ないだろ。リアルに想像出来る植物ってそれくらいなんだよ。

「というかそれ作るの大変じゃないですか?ここにあるもので出来ます?」

「そうなんだよなぁ」

 思い浮かべられて簡単に作れるもの、ねぇ。植物は確定として、後は連想的に。

 ハート……心臓……身体……血液………あ!あるな。

 よし………僕は頭に思いついたイメージを思い浮かべると、早速作業に取り掛かった。

 

 

「これで………出来た!スフラン‼︎」

「………まぁ、りん兄はそれでいいならいいですけど」

 

 

 

「さてと、チョコ固まったのでリビングで食べませんか?友達の分はもう取ったので」

「うーん、そうだな」

 貰うにしても全部じゃなくていいだろ。いくつか今食べて、余りを貰うか。

 リビングに行くとそこにはこたつがあった。

「私友達のラッピングしますので、こたつの中適当に入っててください」

「お、ありがとさん」

 僕はのそのそとこたつに入った。ふぅ、暖まるなぁ。

 しばらくしてチョコの乗ったお盆を持って東風がやって来た。お、待ってました。

 やって来た東風は僕の隣に座る………と思いきやそのまま立っている。

「りん兄、ちょっと下がってくれますか?」

「ん?……こうか?」

 僕は少しこたつから出るように後ろに下がった。

 

 

 すると東風は僕とこたつの間に割って入るようにして座ってきた。ちょうど僕の脚の間に収まる。

 

 

「なぁっ⁉︎何してるんだよ!」

「チョコが溶けるのでこたつの上に置けないですからね。それならこうやって近い方がいいでしょう?」

 そう言って東風は僕に身体を預けてくる。何か(くまり)にもこんな事されたっけな。

「というかそれなら隣に座ればいいだろ」

「それは………ほら、これなら上半身も暖まりますよ?」

「だからって………まぁお前ならいいか」

 僕は抵抗を諦めると東風に身を預ける。お互い寄り添うようにして一息ついた。

 分だったら恥ずかしい事でも、コイツなら割と普通になれる。

「なんか、懐かしいですね」

「ん?………そうだな」

 そういえば、昔はこんな事よくやってたようなやってなかったような。

 こたつに入ってても上半身は寒い。だから適度に暖かくてサイズもちょうどいい東風を抱き枕代わりにしていた。

 こうやって後ろからギュッとすると、東風の暖かさがじんわりと染み込んでくる。これが心地よくてよくやったなぁ。

 たぶん(くまり)にやられた時も、これがあったから抵抗少なかったのかも。

 ふぅ、身体暖まってきたら、何か眠くなってきたな………

 

 

 

 

「それじゃあ………りん兄、はい」

 私はお盆の上から自分の作ったハートのチョコを摘むと、りん兄の口に差し出した。

 正直この体勢すごい恥ずかしいけど、りん兄と密着出来るならそれも悪くないよねぇ。けどちょっと攻めすぎたかな?

「それじゃあ、いただきま〜す」

 りん兄はどこか間伸びした声で差し出されたチョコに私の指ごとパクついた。少しドキッとはしたが目を背けて誤魔化す。

「ん、美味い」

「そ、そうですか?よかったです。りん兄甘いもの好きですよね?」

 りん兄好みに合わせて味つけてみたけど、成功してよかった!

「それじゃあ今度はりん兄の食べてみますか」

「あれ?僕のは全部残したのか?」

「あんな観葉植物みたいの渡したら、友達目が点になります」

 まぁ化け物みたいなの渡すよりかは何倍もいいけどね。というかたぶん友達の中でスフラン知ってる子、まずいないだろうし。

 私だって昔りん兄に教えてもらったから知ってるだけだしね。

 私はりん兄の作ったチョコを食べた。葉っぱの形なのでパキパキと食べられる。当然だけど元は同じなので味は変わらない。

 いくつかチョコを食べ終わると、私達はこたつの中でぬくぬくとしていた。

 さっきまでチョコを食べていたりん兄の手は私の胸元の前に置かれている。ちなみにやったのは私だ。

 そのせいで私はりん兄に抱きしめられているような体勢になった。

 あわわわ………ちょっと大胆すぎたかな?でもこれくらいやらないとりん兄分かってくれないし。

 わざわざ早めにバレンタインを指定して呼んだんだし、りん兄にもそれなりに想いが伝わってる………はずないか。

「りん兄、チョコどうでした?」

「思ったより良かったよ。まさかお前が料理出来るようになってたとはな」

 りん兄のために練習したから。とは言わないでおこう。

「数年も会ってないだけで、ここまで変わるとはな」

「そうですね。昔はりん兄をウチに呼んで遊べるなんて思ってなかったですし」

「あんな状態じゃ、呼ばれても行かないよ」

 だよねぇ。

 さすがにあの時りん兄をウチに招く気にはなれなかった。というか家での私をりん兄に知られたくなかったし。

 

 

 私やお母さんがお父さんに暴力振るわれてるなんて、知られたくなかった。

 

 

「でもお父さんの件が終わってからは、りん兄の方から来てくれたじゃないですか」

「それは………やっぱり僕だってアレには関わってる。処理もせずにそのままは無いだろ」

 相変わらず真面目だなぁ。普段は無気力そうでも、その辺はちゃんとしてる人なんだよね。

「だから………好きなんだよ………」

「ん?何がだ?」

「え?あ、あぁ、何でも無いですよ!」

 私の呟きもりん兄は聞き逃してなかったようだ。耳聡いのも相変わらずだね。

「そ、そういえばりん兄、今年はこたつは一人で出せましたか?」

「いつの話してるんだよ。さすがに一人で出来るっての」

 そりゃそうだよね。もう私が手伝う必要は無いか。何か微妙な気分だ。

 あの時手伝わなければ、今の関係は無かったわけだし。そう思うと変わったもんだねぇ。

 

 

 その関係がなければこんな気持ちも………

 

 

 そう思うと今のこの体勢が、なんだか自分の気持ちを大声で露わにしてるようで急に恥ずかしくなってきた。

 胸がドキドキと高鳴っている。よく考えたらりん兄の手が胸に当たりそうじゃん!

「あ、あのりん兄。そろそろ片付けしないとですので一旦離れてもらっていいですか?」

 と、とりあえず一旦りん兄から離れて気持ち落ち受けよう。

 そう思ったのにりん兄が離れようとしない。あれ?

「りん兄?少しでいいので離してもらって………」

 そう思って振り返ると、私は驚きで目を見開いた。

 

 

「スー………スー………」

 

 

 ね、寝てる⁉︎

 りん兄は私を抱き枕のようにしてぐっすり眠っている。

 添えてただけの手は、離すまいと私の身体に回されている。抜け出すのは難しそう。

 さっきからちょっと口数少なかったのは眠かったからか!たぶん昨日ゲームであんまり寝てないでしょ!

 するとより暖かいものを求めてか、りん兄の手が服の中に入ってきた。私の脇腹をそっと撫でる。

「んっ!ちょ、ちょっと!り、りん兄、起きてください。あの、お母さんがそろそろ帰ってくるんですが………」

 こんなところお母さんに見られたら絶対誤解される!そう思ってりん兄を揺らしても起きる気配は無い。

 普段眠りが浅いからか、一旦深く眠るとなかなか起きないんだよ!ここも相変わらずなの⁉︎

 すると外から車が入ってくる音が聞こえた。ひぃ───────ッ‼︎

「りん兄!起きてください!お母さん帰ってきたんです!これ以上はマズいですって!ちょ、りん兄!りん兄!りん兄──‼︎」

 その後帰ってきたお母さんが、私達の様子を見て気遣って出て行こうとするのを何とか止めた私であった。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。評価、感想等ありましたら、ぜひよろしくお願いします。
 今回出てきた植物は完全に私の趣味です。分かる人いたらとても嬉しいです。
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