「ふわぁ〜〜〜」
家に帰って来た僕は玄関で大きなあくびをした。あーよく寝た。
東風の家でチョコを作って、食べてる途中にウトウトしちゃったんだなぁ。こたつ暖かかったし。
ちょうど東風が足の間にいたもんだから、抱き枕にして寝ていたようだ。昔からよくあった事。
それからしばらくして目覚ましたら年魚さん帰ってるし、何か色々と誤解されそうな状況だったな。
後東風が顔真っ赤になってたけど、こたつに入りすぎてたせいかな?
僕がずっとしがみついてたから出られなかったんだろう。ちょっと悪い事したな。
そんなこんなで残りのチョコを貰った僕は、家に帰って来たわけだ。東風がもう少しいないかと言ってたけど、そうすると夕方になる。
今日はいつもより早く雛罌粟さんのところに行くと決めてたし、あんまり向こうにいるのもな。
という事で戻ってきた僕は、貰ったチョコを食べつつゲームで時間を潰した。
それから僕は夕方になると『Cafe Red Poppy』に向かった。ちょっと早かったかな?
「すみませーん」
「竜胆君、いらっしゃい」
僕が声をかけると、お店の奥の方からエプロン姿の雛罌粟さんが出てきた。
「来るの早かったですか?」
「ううん、もうすぐでできるから、ちょっと待ってて」
ん?できるって何がだ?
「あの、雛罌粟さん?何作ってるんですか?」
「夕ご飯よ。君こっちに来るのはいいけど、それだと夕ご飯食べられないでしょ?」
あぁそうか。普段休みの日夕ご飯抜く事もあるから、すっかり忘れてたわ。
「すみません、わざわざ作ってもらって」
「いいのいいの。元々誘ったの私だしね。その辺座ってて」
僕は言われるがままにお店の席の一つに座った。
そうか、その辺も考えてくれてたんだな。なんだか申し訳ない。
しばらくして雛罌粟さんが料理を運んできた。美味しそうなポトフだ。
「はい、お待たせ。食べようか」
「ありがとうございます」
雛罌粟さんはエプロンを脱ぐと僕の向かい側に座った。
「「いただきます」」
僕達は手を合わせると、ご飯を食べ始めた。
「おぉ、美味しい………暖まりますね」
この時期に美味しい煮込み料理って嬉しいよね。体の芯から暖まる。
「よかった。たくさん食べてね」
それからしばらくは普通に食事をしていたが、途中から雛罌粟さんがオドオドしながら聞いてきた。
「あ、あのさ、今日東風ちゃんと何してたの?」
「へ?」
珍しいな。雛罌粟さんがこんな事聞いてくるなんて。普段はあんまり聞かないのに。
「あ、いや、別に話したくないなら話さなくてもいいんだけど………」
「いや全然構いませんよ」
そんな大した事はしてないし、隠すような事でもない。
「ただチョコ作って、その後は普通にグダってただけですよ」
「チョコ………作ったの?二人で?」
「はい、何か友達にあげるから、その余りをやるとか言ってて」
まさか手伝わされるとな思わなかったけどな。あの感じなら一人でやっても変わらなかっただろうに。
「へ、へぇ………そうなんだ。そ、それで作ったチョコ貰ったの?て、手作りチョコ」
「まぁ。というか僕も手伝ってるんで、手作りの範疇なのかは怪しいですけど」
そういうのって一人で作るもの、である必要もないかもだけど、基本的にはそうなんじゃないの?
「そう、だね………そういえば、竜胆君ってバレンタインとか意識するの?あんまりそういうイメージ無いけど」
「それはしますよ。一応大々的なイベントなわけですし」
バレンタインなんて大切な日、意識しないわけがない。
「そうなんだ」
「そりゃもちろん。多くのゲームにバレンタインイベントありますからね。忘れられませんよ」
「あ、そっち?」
え?他にバレンタイン意識する理由あるの?
そんな事を話しているうちに夕ご飯も食べ終わった。
「ふぅ、ごちそうさまでした。それにしても、結局用件って何なんですか?」
何か当たり前のようにご飯貰っちゃってるけど、僕何する予定なのか全く知らないよ?
「え?それは………その前に先にお風呂入らない?その後でゆっくりと、ね?」
何だそれ?というか前にもこんなくだりあったな。別にいいんだけど。
「私後片付けあるから、先に入っちゃってよ」
「はぁ、分かりました」
こうして僕はまた流されるまま、お風呂場に向かった。
お風呂から出た僕は、廊下で雛罌粟さんとすれ違った。
「お風呂上がった?それじゃあ私の部屋で待ってて」
「は、はい」
あのさ、今さらなんだけど自分の部屋に男子を入れる事に抵抗とか無いんだな。
まぁここにいても仕方ない。大人しく待ってるか。
雛罌粟さんの部屋に入ると、僕はその場に突っ立っていた。いや何もする事ないし。
軽く部屋を見渡すと、雛罌粟さんのベッドの近くに熊のぬいぐるみがあった。花火大会に僕が射的で手に入れたヤツだ。
まだ持ってくれてるのか………そうか。
すると部屋の扉が開いた。そこにいたのは紺色のパジャマ姿の雛罌粟さんだった。
うわぁ………可愛い………
いつもとは違ってプライベートの緩い格好で、何か距離が近くなったように感じる。
それでいて身体のラインを隠しきれていない格好が、大人っぽさを感じる。普通のパジャマなのにすごい魅力的だ。
軽く湿った黒髪は艶やかに光を反射し輝いている。それは三つ編みにされていて左肩から胸にかけて垂れている。上気した肌も艶があり綺麗だ。
「竜胆君?何で立ったままなの?」
「え?あ!い、いえ………えっと………今日はここでコーヒーですか?」
見惚れていた事を誤魔化すように、僕は話題を変えた。
雛罌粟さんの手にはお盆があり、コーヒーカップが二つ置いてある。それと何か可愛らしい袋あるけど、何だ?
「まぁ、お風呂入っちゃったし、さすがにこの格好でカウンターにいるわけにもね」
「そ、そうですね………パジャマ、初めて見ました」
「え?前に一回あるよ?」
あれ?そうだっけ?…………って、あぁ、あったな。
文化祭終わった辺りの時に、この部屋でコーヒー飲んでたら根落ちたんだよね。
それで起きたら僕の隣にパジャマ姿の雛罌粟さんがいたんだっけ。あれはめちゃくちゃ焦った。
色々不思議であったけど、僕としてはご褒美だったので深くは追求してない。
僕と雛罌粟さんは近くのソファーに腰を下ろした。雛罌粟さんが僕の前にコーヒーを出す。
「いつもありがとうございます」
「全然………あ、でも………今日はちょっと待って」
「え?何ですか?」
僕が尋ねると、雛罌粟さんはお盆に乗っていた袋を手に取って僕に差し出してきた。
「はい、これ」
不思議に思いながら袋を受け取って中身を見る。
「これは………チョコ、ですか?」
その中に入ってきたのはチョコだった。綺麗なハートの形をしている。
「う、うん………君に、あげようと、思って」
へぇ、嬉しいな。というかチョコの形スタンダートなのがハートってのは本当みたいだな。
けどこのラッピング、たぶんお店のものじゃないよな。
「もしかして、これ………手作り、ですか?」
僕が聞くと、雛罌粟さんは身体をピクッとさせて俯いた。そして小さく頷いた。耳の先まで真っ赤になってる。
手作り………雛罌粟さんの………
「い、嫌………かな?」
「そんな事無いです。………ありがとうございます」
素直に嬉しかった。正直東風から貰った時、雛罌粟さんからも貰えるかなとは思ってたけど、まさか本当に貰えるとは。
「そ、そう?でも………その、ちゃ、ちゃんと付き合ってる、わけでもないのに………手作りって……重い、とか………」
はぁ………重い、ね………
「えっと………付き合ってないと、手作りチョコって重い、んですか?」
そもそも僕は、こういう贈り物、というか恋愛に関して重いという感覚が分からない。僕は質量以外で重さを感じた事がない。
何せこれまで経験してないので。思いの籠ったものなら、普通は喜ぶものだと思うんだが。
「すみませんね。僕その辺の概念が無いもので」
「え?………あ、そっか」
雛罌粟さんは納得したように頷いた。何、そんなこと気にしてたの?
「作ってくれたの、嬉しいです。食べてみていいですか?」
「うん。お口にあうといいな」
僕は袋を開けて、中からチョコを一つ取り出す。いただきます。
摘んだチョコを口の中に放り込んだ。甘い味が口いっぱいに広がる。
その後にコーヒーを飲むと、とてもいい味になった。なるほど、コーヒーに合うようにもしてあるのか。
「どう、かな?」
「すごく、美味しいです。コーヒーにもよく合います」
東風のヤツとはまだちょっと違った、僕好みの深い味だ。味や匂いもキツ過ぎず、変な飾りもないところが気に入った。
「そう?よかった!」
雛罌粟さんは本当に嬉しそうに笑った。いい笑顔するよなぁ。
「それじゃあ、これはコーヒーと一緒にありがたく貰いま………」
「え?あ!ちょ、ちょっと待って!」
早速二個目、と思っていたら雛罌粟さんに止められた。
「どうかしましたか?」
「えっと………あの、その……」
ん?何だ?
すると雛罌粟さんは袋の中に手を入れて、チョコを一つ取り出す。
「………わ、私が、食べさせてあげる」
「え?べ、別にいいですよ」
そんな子供みたいなことしてもらわなくても………って、東風にもしてもらってたわ。
でもそれを雛罌粟さんにやられるのはなぁ。
「い、いいから」
そう言って取り出したチョコを………自分の口に放り込んだ。
あれ?自分が食べたかっただけか?そう思って苦笑いした、その時だった。
「んっ………」
「ッ⁉︎」
雛罌粟さんがチョコを口に含んだ状態で、僕に抱きつき唇を重ねてきた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。