そんなこんなで修学旅行当日。僕は眠い目を擦って学校に向かう。
雛罌粟さんのところに寄って挨拶を済ませると、後ろからやってきた東風を連れて学校に着いた。
体育館に集められて先生の長ったらしい話の後、いよいよ空港に行くためのバスに乗る。
席は自由だ。なのでありがたく東風の隣にさせてもらった。読書の最中に隣で騒がれたら堪らないからな。
もっともちゃんと耳栓は持ってきてはいる。けど、無駄にはしゃがれると落ち着かないしさ。
東風はその辺分かってくれるし、色々楽なんよ。僕は早速耳栓をつけた。
それなら読書でもするかな。今回のためにラノベをたくさん持ってきた。こんなに人がいたんじゃ眠れない。
さてと、まずはどれから読もうかな?
空港に着いた僕達はバスを降りた。そこから飛行機に乗り込んでいく。
行き先は沖縄。陸路だけじゃ無理があるからな。
というわけで僕達は飛行機に乗り込む。
今度の飛行機は静かになるはずだ。人がたくさんいて落ち着かないけど、読書にはちょうどいいかな。
僕はふと隣を見た。すると東風が物珍しそうに辺りをキョロキョロしている。
「何してんだ?」
『あ、いえ。私飛行機って初めてですので、こんな感じなんですね』
そうか、コイツ飛行機初体験なんだな。
『りん兄は飛行機乗った事あるんですよね?』
「まぁな」
『怖くないんですか』
東風は若干怯えながら聞いてくる。
コイツ大丈夫かな?今からそこそこの時間飛行機の中だぞ?
「まぁ大丈夫だけど、あんまり無理するなよ」
『は、はい』
ちょっとした不安もありつつ飛行機は飛び出した。離陸しようと浮き上がった時。
東風が僕の服の袖を掴んできた。
『ちょっとだけ、ちょっとだけでいいですから………』
はぁ、まぁいいや。気にしないでおこう。昔からたまにあった事だしな。
昔から東風は何か怖がる時に僕の袖を掴んできた。いや、抱きつかれるよりかはよっぽどいいんだけどさ。
「気分悪くなったら言えよ」
『はい。ありがとうございます』
東風も離陸してからは割と平気になったのか、僕の服の袖を離した。大丈夫かな?
僕はさっきまで読んでた本を開いた。読書の続き、っと。
そんなこんなで僕は沖縄までの移動時間はずっと読書をしていた。
たくさんラノベ持ってきてよかったぁ。このために新しく買ったの読まずに置いておいたんだよ。
沖縄の空港に着いた僕達は飛行機を降りて、食事の時間となった。
修学旅行の食事らしく、料亭で沖縄の郷土料理が振る舞われた。
中学の時も思ったけどさ、何となく学生には不釣り合いな食事なように感じるのって僕だけかな?
すごい美味しいし嬉しいんだけど、何か申し訳なく感じるよね。
それからはクラス行動の時間となった。まずはクルージングだ。
その前に班に一つデジカメが渡された。写真撮りたかったらこれで、との事だ。そしてスマホは回収された。
クラスで大きな船に乗り込む。他のお客さんもいて、生徒達は使っていけないが飲食店もある。
さらには海の中も見る事が出来るので、魚とエンカウントなんて事もある。
生徒の何人かはそのお客さんと仲良くなっている。よくやるなぁ。
船は適度な速さで海の上を走っている。僕はその景色をボーッと眺めていた。
せっかくなので、僕はデッキに出て耳栓を外していた。涼しい風が心地よい。
周りに他の生徒達がガヤガヤ騒いでいるが、今はそんな事気にならない。
広い場所だし、それにこの景色に集中するとそんな雑音なんか微々たるものだ。
それに生徒のほとんどは海の中を見るのに夢中なのか、ここにはあんまり人がいない。
船が通るたびに海は白い飛沫を上げて流れていく。その色は青緑でとても綺麗だった。
やっぱりこういう景色って心が安らぐなぁ。普段のストレスが溶けていくようだ。
写真撮りたいんだけど、スマホ没収されてるからな。
これでイルカでも飛び出てきてくれたらロマンチックだが、それは期待しない方が良さそうだな。
僕は近くに置いてあった椅子に腰掛けた。景色を楽しみながら読書でもしようかな?
すると隣に東風がやって来た。
「隣、いいですか?」
「あぁ」
僕が答えると東風は隣の椅子に腰を下ろした。コイツなら無駄にうるさくないからいいだろ。
僕と東風はしばらくの間、流れていく海を眺めていた。
「海、綺麗ですね。風も気持ちいいですし」
「お前は海来るの初めてだっけ?」
「来たことくらいはありますけど、こういったクルージングは初めてですから」
そうか。僕は中学で野外研修みたいなヤツで一回あったんだよな。もっともあの時は乗って船は小さかったけど。
「私てっきりクルーザーみたいなのかと思ったんですけど、まさかこんな大きな船だなんて思いませんでした」
「クルーザー…………あぁ船のね」
「バイクじゃないですよ」
僕にとってクルーザーってそっちのイメージが強いのよ。仕方ないじゃん。
「あの、よかったらもう少し船の中見て回りませんか?」
「ん?そうだなぁ…………」
そうなると人口密度の多いところに行くことになる。けどまぁ、こういう所なら問題無いか。
いざって時には耳栓もあるし、問題無いだろ。
「いいよ。行くか」
「はい!」
僕は船の中に入り、適当に回っていた。やっぱりこうした元から騒がしい場所なら問題無い。ちょっと気にはなるけど。
中は外に比べて賑やかで、多くの人が船だからこその景色を楽しんでいた。
「わぁ!りん兄見てください!魚いますよ!」
「おぉ、クロダイだな」
僕は東風と一緒に小窓から海の中を見ていた。目の前ではアオギハゼが泳いでいた。海の中でもその姿は割とはっきりと見えている。
こういう景色は船だからこそだよな。幻想的で平和な瞬間だ。
すると東風がポケットから、先生に渡されたデジカメを取り出した。それで魚の写真を撮る。
「お前が持ってたのか」
「? あぁデジカメですか?海の景色撮りたくて持たせてもらいました」
まぁコイツならピンボケ写真は撮らないだろ。持たせて正解かもな。
東風は小窓の外を楽しそうに眺めている。
すると向こうの方から歌声が聞こえてくる。
身を乗り出して見てみると、予定されていたパフォーマンスなのか、歌手が歌を披露していた。
「…………飛び入り参加するか?」
「しません」
何だよ面白くないな。未だにちょっとした人気者なのに。
「それより、他も見てみましょうよ!」
「あんまり落ち着きないと事故るから、気をつけろよ」
そう言って僕はまた、東風と一緒に歩き出した。
そしてその光景に、多少の違和感と同じくらいの呆れを感じていた。
まったく………
「ん?ここは何ですかね?」
「操縦室………を模した部屋だな。結構凝ってる」
僕達はその見つけた部屋に入ってみた。へぇ、こんな所まであるんだな。
「操縦桿までありますよ。あ、しかも回りますね」
東風が見つけた操縦桿をくるくる回して遊んでいる。なるほど、ここは操縦士になりきるための部屋、という事かな。
東風はデジカメで部屋をパシャパシャ撮っている。別にいいけど、無駄に撮るなよ。
けど待てよ。となるともしかして…………
僕は部屋の中を見渡してみた。
えっと…………お、やっぱりあった。
「東風、これ見てみ」
「? これは………操縦士の服、ですか?」
そこにあったのは大きめのハンガーラック。そこには操縦士の服と、帽子がかけてあった。小さな子供のために服は二着サイズ別であった。
「こんなのまであるんですね。子供に人気ありそうですね」
というか若干かけてある服が乱れている。今日も前に誰か着ていたんだろう。
すると東風は物珍しそうにその服を見ている。
「着てみるか?」
「え?…………周りに誰もいません?」
「特に見当たらないけど、別に気にしなくてもいいだろ」
たぶん前に来たのウチの生徒なんだろうな。
ハンガーラックの近くに、僕と東風以外の僕達とサイズの近いローファーの靴跡がある。
「そ、それなら………ちょっとだけ」
そう言って東風は服に手を伸ばした。何でこっちをチラチラ見てんだ。
服を取って袖を通す。そして最後に帽子を被れば着替え完了だ。
「どう、ですかね?」
そう言って東風は僕の方を振り返る。
ほぉ、こんな感じになるんだ。
大きい人でも着れるようなサイズになっているため、小柄な東風には少し大きかったようだ。
かと言って小さい方の服だと、それはそれでキツそうだしね。
操縦士の真似、というよりかはコスプレみたいになっている。袖が長くて手が半分近く隠れてるし。
前はボタンを止めておらず、学生服の上から着ているのが、尚更その格好のコスプレ感が増している要因に見える。
帽子もやや大きめで、目が少し隠れ気味だ。
何か本来ピシッとするべき服装をこうやって緩く着るとこうなるんだな。
「まぁ悪くないんじゃないか?見てて面白いよ」
「それ褒めてますか?」
「褒めてる褒めてる。可愛い可愛い」
僕は東風の言葉を適当に受け流すように、東風の頭をぽんぽんと軽く叩いてやる。
「何か和む感じの船長、かな」
「そ、それなら………いいですけど」
東風は帽子を傾けて目元を隠してしまう。ん?どうした?
そんな風にして、僕達のクルージングは過ぎていった。
クルージングの後は、沖縄定番の戦争だ。地元のお年寄りからのおありがたい話だ。
まぁ悪いけど、僕はこの辺に関しては全くもって興味がない。
武器の説明とか詳しくしてくれるなら、それはとても好きな分野だよ。銃の種類とかね。
ただ悲惨な光景とか言われて当時の写真見せれても、正直『この程度かよ』としか思わない。
『皆さんはとても平和な国に生まれました』だ?そんなの世界の裏側を知らないからこそ言える発言だ。
おおっぴらになってないだけで、このくらいの争いは日本中で今も起きている。
むしろ時代が進み、状況は悪化しているばかりだ。
罪のない人が死に、飢えた子供が彷徨う。外国だけじゃない、日本でだって毎日のように起きているのだ。
文化祭の時のスリなんかいい例だ。本当に平和ならあんなヤツ存在するわけない。
だから周りがどれだけ解決しようとしたって、無くなるわけない。
僕達のやる事はこの争いを無くすことじゃない。全ての人間が自分の爪をいつでも研ぐ事なのだ。
常に戦い生き延びる。そうでなければ生きていけない。それはこの世界のどんな生き物にも課せられた宿命だ。
人は分かり合えない。みんなが同じ平和を持ってるわけないんだ。
誰かの平和は誰かの不幸。そんな事も分からないのかな?
自分の正しさのためにぶつかるなんて当たり前。大切なのはそのためにどれだけの事が出来るかだ。
そのバランスが崩れてるから、人の意見を上から踏み潰す輩がいるわけで。
自分の手を汚してでも正しさを貫き通せるかどうか。
周りに守ってくれる人なんかいない。自分の手を汚さなければ生きていけない。
そのくらいの覚悟が無いなら人間以前に生物として失格だ。その辺の鼠の方が、まだ生物として価値がある。
過去の戦いは否定するべきじゃない。それは平和ボケしてる人間のやる事だ。
むしろ常にその戦いを参考に自分の戦い方を身につける。生物ってのは争いによって進化するからな。
争いに注ぎ込んだ技術や意思、理想。それらは本来生物として尊敬するべきものだ。
争いがいい、と言いたいわけじゃない。そりゃ争いなんて無い方がいいに決まってる。
でも、その争いを見て『凄惨だな。争いは無くそう』というのは生物としてどうなんだ、って話だ。
それに敬意を払い、自分も自分の正しさのために命を掛けようと思う。たとえどんな事をしてでも。
言葉で解決、なんて言うけど、それにだって限界がある。分かり合えない人間同士が話し合うんだ。当たり前だな。
暴力は一番レベルの低いコミュニケーション。しかしそうせざるを得ない時だってあるんだ。
誰かを殺さなければ自分が死ぬ。そんなのはこの社会じゃ当たり前、
まぁ要するに、人間は戦う事を忘れすぎたってわけだな。何事もほどほどよ。
争いを無くしたいなら好きにすればいい。
しかし争うという手段は無くしてはならない。そこから人は進化するんだから。
というわけで僕は再び耳栓をつけて、のんびりタイムだ。
聞いてて価値がないとは言わないが、興味のない事に時間は割きたくないな。後単純に話してるおじさんの声聞き取りにくい。
これならゲームの攻略方法でも考えた方が、僕にとっては生産性がある。
そんなこんなでお涙ちょちょ切れる戦争話が終わり、僕達は旅館に向かっていた。
僕はバスの中でラノベを読んでいる。耳栓のおかげで周りの声は聞こえない。
すると隣に座っている東風が肩を叩いてきた。東風の口がパクパク動く。
『そろそろ着くそうですよ』
お、そうか。それなら準備しようっと。
旅館に着いた僕達はバスを降りる。外はもう暗くなり始めている。
僕達は旅館に入ると、それぞれの部屋に向かう。
当然だけど、僕の部屋の人間は赤の他人ばかりだ。
余り物に入らせてもらったわけだが、はぁ、先が思いやられる。部屋には必要以上にいないようにしよう。
そして食事同様、学生には到底不釣り合いな旅館のご登場である。もうちょっとショボくても良くない?
荷物を部屋に置いて、クルージングを終えてから返されたスマホを再び回収される。だったらずっと持っててくれ。
そしてお昼ごはんに負けず劣らずの豪華な夕食を食べ終わった後は自由時間だ。
僕の部屋のメンツは他の部屋に行ってるらしい。というわけで部屋には僕一人だ。
はぁ、このまま帰って来なければいいのに。修学旅行の嫌なところって、一人でいられる時間が少ないところだよな。
僕は部屋の窓の近くに行く。おぉ、景色は綺麗だな。
近くにあった椅子に腰掛けてラノベを開く。
最後まで読んでいただきありがとうございました。