※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第109話 見立て

 それからしばらくして僕はスッと立ち上がった。

 そろそろ雛罌粟(ひなげし)さんの所に行くか。

 そう思って椅子から立ち上がって、部屋の中が目に入って立ち止まる。

 しまった、つい条件反射で。ここは沖縄なんだ。

 修学旅行中は雛罌粟さんのコーヒーはお預けかぁ。すごい違和感があるな。

 雛罌粟さん、今頃何してるのかな?………って、別に何も無いか。

 むしろ僕が来ないからその分好きな事してるのかな?それならそれでいいな。いつもお邪魔しちゃってるし。

 最近雛罌粟さんと会う頻度が増えてきた。夜に時間があると、つい行こうとしてしまう。

 何となく雛罌粟さんに会いたくなって、気がつけばいつもお邪魔してしまっている。

 雛罌粟さんと一緒にいると、すごい落ち着いて心が安らぐ。けど、それに甘え過ぎではいけない。

 どんな関係にも距離感が必要だ。でも最近はそれが縮みすぎているように感じている。

 まぁ基本的に行くのは僕だから、原因は僕なわけだ。

 雛罌粟さんの存在に甘え過ぎるのは良くない。そんな事してたら雛罌粟さんも迷惑だろうし。それは子供が大人に甘えているだけだ。

 ちゃんと距離を置いて、一人だった頃に戻るのも大切なことだろう。お互いの時間を奪ったって仕方ないんだし。

 もしかしたら雛罌粟さんだって、僕がいつものように来て疲れる事もあるかもしれない。

 いくら来てもいいよと言われたからって、頻繁に行きすぎても迷惑だ。これでも抑えるようにはしてるんだけどね。

 雛罌粟さんは僕とは違って大人なんだ。

 本当はやるべき事があるはずなのに、子供の気まぐれにいつも付き合わせちゃってるんだよな。反省反省。

 とは言ったものの………やっぱり何か物足りなく感じるな。

 会おうとしない日と会えない日って、結構違うんだな。何か、落ち着かない。

 この辺も甘えだろうか?

 僕と雛罌粟さんの関係は対等だ。僕だけが甘えていいわけない。雛罌粟さんはいつも一人でも平気じゃないか。

 あの人の優しさを当たり前と思ってはいけない。それはいつも気をつけてる事だ。

 むしろちゃんと一人で踏ん張って、雛罌粟さんを支えられるようにならないと。

 そうだ。昔の一人きりだった頃の勘を取り戻すチャンスじゃないか。せっかくラノベもたくさん持ってきたんだし。

 こうやって今は雛罌粟さんと距離を………

「あ、そうだ」

 そこで僕はハッとした。

 

 

 そうだよ、雛罌粟さんだ。あの人にお土産買うのすっかり忘れてたな。

 

 

 このまま放っておくと明日も忘れかねない。今のうちに選んでおいた方がいいかも。

 たしか入り口のすぐ隣にお土産売り場があったはずだ。見に行ってみるかな。

 ついでに外の景色でも眺めて来るか。外で一人になるのも悪くないだろ。こんな景色も珍しいしな。

 僕は荷物の中からトレンチコートとクラッシュハットを取り出す。修学旅行で待ってきていいと言われていたヤツだ。

 沖縄とはいえ冬だからな。これくらいは持っていきたい。というか周りに見られたくないってのもあるんだけどさ。

 というわけで僕はお財布と念のための耳栓を握りしめると、部屋を出た。

 

 

 

 お土産売り場は…………っと、見つけた。

 そこには沖縄土産がたくさん置いてあった。うーん、個人的に買いたいものもあるんだよな。

 あ、そうだ。それなら今日の夜食か明日のおやつとしてでも買っておくか。

 中学の時も生八つ橋買って、夜読書しながら食べてたな。

 部屋に冷蔵庫はあるし、そこで保管すればいい。うん、そうしよう。

 となれば早速物色だ。

 夜食にするならせっかくだから生ものがいいかな?いや、でも沖縄ならではなものもアリか。

 というか本来雛罌粟さんのお土産買いに来たわけだけど、何買えばいいか本当に分からないな。

 今までお土産とか買ったこと無いんだよね。そもそも必要がないと思ってたから。

 けどいつもお世話になってるわけだし、この機会にちゃんとお礼したい。

 こういうのって食べ物の方がいいのかな?それとも何か別のもの?雛罌粟さんが好きそうなもの………

 

 

 というかあの人の好きなものって何なんだ?そういえば聞いたことないな。

 

 

 好きなものだけじゃない。誕生日や連絡先、友達以上の関係なら知ってて当たり前のようなものも、僕は知らない。

 もちろん僕も話したことが無い。雛罌粟さんが僕の好みを知ってるのだって、日頃会ってる中であの人が気がついた事だ。

 でも、それはそれでいいと思う。僕達はそんな親密な関係じゃない。それくらいでいいんだ。

 ただこういう時にそれはキツいな。どうしよう。

 置き物とか場所の邪魔になるかもだし、お菓子なんかも喜ばれるかどうか。

 そもそも具体的なものを頼まれてないのに買う必要が………

「うーん、ダメだな」

 今日考えるのはやめだ。明日東風にアドバイスでも貰おうかな。アイツ気遣いとか上手いし。

 それじゃあ部屋に戻って………っと、夜食夜食。これは買って行こう。

 

 

「〜〜〜♪」

 私は旅館の大浴場で身体を洗っていた。身体にかけたお湯が鎖骨を通って胸の膨らみをつたっていく。

 周りには他の女子達が入浴を楽しんでいる。

 ホテルなんかだと個室のお風呂なんて事もあるけど、今回は旅館だからかそうではない。

 綺麗な石造りのような温泉があり、そこをみんなで使っている。ちなみにサウナは使用禁止である。

 本当はゆっくりと楽しみたいところだけど、入浴時間が決まっている以上それは難しい。他にやる事もあるし。

 こうやってクラスのみんなとワイワイお風呂に入るなんて、日常生活ではまずあり得ない。

 けど友好を深めるという意味では割といいのかもしれない。そういう事も修学旅行の目的の一つなのかも。

 周りの人達もいつも以上に楽しそうに話している。ここまで一緒にいる事は珍しいからだろう。

 中には身体を洗いっこしてる人なんかもいる。

 私はみんなと最初から一緒にいたわけじゃない。去年の夏に転校してきたんだ。

 既にクラスにはだいぶ打ち解けられてるとは思う。それでもやっぱりその辺りは気にするわけで。

 しかし私はそれ以上にとある事が気になって仕方ない。

 

 

「りん兄、大丈夫かなぁ?みんなとうまくやれてるかな?」

 

 

 りん兄が周りの人達といざこざを起こしていないだろうか。それがすごい気になる。

 あの人だっていい歳した高校生。さすがに子供じみた事はしないと思いたい。

 ただいついかなる場所でも、自分の怒る線引きをブレさせないのがりん兄だ。

 あの人は自分のやりたい事を、どうでもいい事で邪魔されるのをすごい嫌う。

 もちろん大切な用事とかならいい(それでも嫌な顔はする)。ただ遊び半分でやるとね。

 普段はどんなに悪口言われたり、暴力を振るわれてもしても適当にやり過ごす人だ。そのくらいの心の広さはある。

 けどその邪魔をやられると、ほぼ間違いなく本気で怒る。周りでは手がつけられないほどに。

 周りの人達が遊び半分で悪戯しようものなら、読書を楽しもうとしているりん兄にとっては邪魔になるだろう。

 そうした場合どうなるか。考えただけでも恐ろしい。ちなみにこれは老若男女問わずだ。

 あの人の周りに対する接し方は大体その二択のどちらかだ。無視して流すか敵として排除するか。

 そして後者の場合、それがたとえ修学旅行であっても、旅館の中であっても関係ない。あの人はそれくらいで変える人じゃない。

 周りを見て分かる通りみんなは修学旅行で軽く浮かれている。その状態だと余計なことをやる確率も高い。

 もちろん悪戯する方が悪いんだけど、時と場所を考えないのはちょっとね。

 それに高校生くらいなら、それくらいは許容するのが暗黙の了解みたいなところもある。

 でもりん兄にそれは通用しない。自分の趣味の時間を害した人を許しはしないはず。

 となると少なくとも今お風呂に入っている女子のように、誰かと仲良くなる事はないだろう。

 今朝あの人はたくさんのラノベを嬉しそうに持っていた。

 今頃はみんなが他の部屋に遊びに行ってるから、読書にはうってつけの時間だろうし。間違いなく読書してるな。お風呂を早めに済ませてね。

 今頃部屋でのんびりと読書を楽しんでる事だろう。

 それにあの人は今日、夕食の時もずっと耳栓をしていた。いつもと変わらずな事の証明だね。

 後りん兄は修学旅行中は間違いなく寝ることは無いだろう。

 りん兄は周りに他人がいる状態だと寝ることができないのだ。だからりん兄は今日に限らず、学校で寝ることはまず無い。

 りん兄がこの程度で寝不足になるとは思わないけど、それでも心配だなぁ。

 

 

 

 私は身体を洗い終えると、温泉につかる。高校生の修学旅行にしては豪華すぎる体験だ。

「ねぇねぇ、東風(こち)ちゃん」

 その時私の隣から一人の友達がやってきた。あ、(よしみ)さんだ。

「温泉、気持ちいいね」

「はい。そうですね」

 多少話す人ではあるけど、そこまで仲の良い人ではない。というかここ数ヶ月でそこまで仲の良い人が出来るわけない。

 すると奥の方が何やら騒がしい。何かの話で盛り上がってるみたい。

「向こうが騒がしいですけど、どうかしたんですか?」

 私は誼さんに尋ねてみた。

「あぁ、宿の庭でウチのクラスの旼娥(みな)ちゃんが朝臣(あそん)君に告白したんだって。それでOK貰えたの」

 へぇ、修学旅行で告白、本当にあるんだ。しかもちゃんと成功してる。

「こりゃ明日の自由行動はデートになるかな。二人同じ班だし」

「デート、ですか」

 その何気ない一言は私の動きを止めた。そうか、同じ班だとそういうのも可能なのか。

 私も、りん兄と…………

 私は明日、二人で沖縄を歩いているところを想像した。

 

 

 

「あ、そういえばさ、東風ちゃんは連枷さんと仲良いの?」

 いきなり質問をされて、一瞬誰のことだと思ったが、すぐにりん兄の事だと分かる。

「え?ま、まぁ」

 急にりん兄の事聞かれて、私は戸惑ってしまった。普段周りから聞かれる事無いし。

「そうなんだ。転校してきて、あの人と仲良くなれるなんて珍しいね。ずっと一人でいる人だったのに」

「いえ、実は小学校が同じだったんですよ。それで中学に入学する時に、私が引っ越したんです」

「そうなの?それって幼馴染ってヤツ?」

 あーそうなる、のかな?あんまりそういうのは意識した事無かったけど。

「私あの人が人とまともに話してるの見たこと無かったんだよね。一番話してて授業の発表の時くらいだし」

 それは私もそう思う。りん兄が私以外の人に対して文章で言葉を返す事はほとんどない。

 何か言われても大体『はい』か『分かりました』もしくは無視だからな。

 まぁ無視するのはどうでもいい事話しかけられた時だけだけど。とにかくりん兄は人とあまり喋らない。

「連枷さんが誰かとまともに話してるの見たの、東風ちゃんが来て以降だよ。すごいビックリした」

「あぁ、そうですよね」

 というか学校でだって、私はそこまでりん兄と話しているわけじゃない。

 それなのにビックリするって、よっぽどりん兄コミュニケーション絶ってるなぁ。

「あの人って、何考えてるか分からないみたいなところない?」

「そうですねぇ、私もよく分かりません」

 あの人が何を考えているのか、私には分からないし、分かったところで仕方がない。

「分からないって…………それでよく一緒にいようと思うね」

「ですよねぇ」

 自分でも変だとは思う。それでも何となく一緒にいたいと思うのだ。

「でも、そういう人って割といませんか?」

「そうだけど、東風ちゃん達ってそういうのと一緒にしていいの?」

「………というと?」

 すると誼さんはうーんと言いにくそうにした。

 

 

「えっと………こういうの言っていいか分からないけど、東風ちゃんと連枷さんって付き合ってるんじゃないの?」

 

 

「え⁉︎ち、違いますよ‼︎」

「そうなの?随分と仲良いからてっきり………」

 そ、そうなんだ。ハタから見たら付き合ってるように見えるんだなぁ。嬉しいような困ったような………

「そんな風に見えましたか?」

「だって東風ちゃんずっと連枷さんと一緒にいたじゃん?仲良さそうに話してたし」

 それはあの人がずっと耳栓してて、それが心配だったからだよ。いつもあんななんだもん。

「そうなんだ。でも、東風ちゃんからして連枷さんはどうなの?」

「どうって………それは、まぁ………」

 いつもはボーッとしてるけど、気を配れるところもあるし時には優しいし。

 それに私にはない発想力とそれに見合った行動力がある。

 それに何か成功した時はよく褒めてくれたなぁ。あれはすごい嬉しかった。なんだかんだで私の一番のモチベーションだ。

「うん。すごくいい人ですよ」

「そっかぁ………今の東風ちゃん、すごい楽しそうだよ。連枷さんの事、大切に思ってるんだね」

「え⁉︎べ、別に、そういう事じゃ………」

 思わぬところを指摘されて、私は慌てて弁解する。

「隠す事無いでしょ。見てたら分かるし」

「う、うぅ………ぶくぶくぶく」

 私は恥ずかしくなって鼻のあたりまでお湯に浸かった。そんなに分かりやすいかなぁ?

「元から知り合いなら少しアタックすれば付き合えるんじゃないの?東風ちゃん結構モテそうだし」

「ぶくぶくぶく…………それは………難しいです」

 私の思いがりん兄に受け入れてもらえる事は無い。だってりん兄には大切な人がいるから。

 その人から私に振り向いてくれる事はまず無いだろう。

 もちろんそうなれば嬉しいけど、今のりん兄の幸せを壊すのはダメな気がするし。

 

 

 

「そっか。東風ちゃんは連枷さんのこと大切なんだね。正直私には分からないけど」

「いいんですよ。当たり前ですから」

 人を好きになるのは結局は運だと思う。

 その好きになるタイミングに自分がいれるかどうか。人の良いところを見れるチャンスがあるか。

 それはどんなに努力しても、最後は運任せだ。

 私はりん兄と一緒にいてそのタイミングがあった。でも誼さんはそれが無かった。それなら彼女がりん兄の良さを知らなくて当たり前。

 そんな話をしながら私達はお風呂を出た。あぁ気持ちよかった。

「あ、そういえばずっと一緒にいると、離れててもその人が何してるか分かるって言うじゃん?そういうの分かったりするの?」

 お風呂を出るタイミングで誼さんが言っていた事だ。

 私は寝る時間に布団の中でそれを考えていた。りん兄が今何してるか、ねぇ。

 

 

 りん兄は元々スマホを二台持ち込んでいて、その一つを先生に渡してもう一台は持っていると思う。そうすれば先生も目を逃れてスマホが使いやすい。

 それなら今頃は寝られないから、その持ってるスマホでゲーム実況の生放送を観てるんじゃないかな?

 イヤホンをして布団を頭から被れば寝てる周りにはバレないし。

 ついでに旅館のお土産売り場で夜食でも買って食べてる。

 こんな見立てでどうかな?

 

 

 

 

 一方その頃の竜胆。

「くっくっくっ、今日も面白いなぁ」

 僕は布団を頭から被って手に持っているスマホと向かい合っていた。耳にはイヤホンをつけている。

 元からスマホは二台持ってきていた。その一つを先生に預けて、もう一つは手元に残す。これで怪しまれずに使える。

 同じ部屋の人はもう寝ている。けど僕周りに他人がいると寝られないんだよね。どうしても周りが気になるから。

 だから今はこうしてゲーム実況の生放送を観ている。あぁ、今日も面白かった!

 僕は隣に置いてあるドライパインに手を伸ばした。旅館のお土産売り場で見つけたものだ。うん、美味い。

 さてと、夜は長い。この後はどうしようかな?




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
 この他にも作品を投稿していますので、そちらもぜひご覧ください。
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