修学旅行二日目。私は朝起きると着替えて同室のメンバーと一緒に朝食を食べに向かった。
「ん〜東風ちゃん、おはよう」
「おはようございます」
えっと、たしか朝食は左の大きな部屋だよね。昨日の夜予め案内されている。
たしかこの辺りだったはずなんだけどなぁ…………うーん………こっちかな?
何せ広いからどこに何があるのかうろ覚えなんだよね。
「おーい、東風ちゃんどこ行くの?朝食の会場はこっちだよ」
全然違ったみたい。私は軌道修正して会場へと向かう。危ない危ない、友達と一緒でよかった。
私の方向音痴は昔からで、出かけるたびによく迷子になっていた。まぁ昔よりは良くなったけど。
そういえば私がどこか迷うとりん兄が必ず探してくれたんだっけな。何でりん兄あんなに早く私の場所が分かるんだろう。
そんな事を考えながら私は朝食会場に到着した。そこには既に何人かの生徒が着いていた。
そのうちどんどん生徒が入ってくる。その中にりん兄がいた。
見た目に頓着しないりん兄らしく、大勢の人の前だというのに寝癖を直すことなく寝起きそのままといった感じの雰囲気。
いや、寝てないだろうから寝起きは変か。
よかったぁ。ちゃんと来てくれて。
「りん兄、おはようございます」
「おぉ」
軽くあくびをしながらりん兄は私の隣に座った。食事の席は男女バラバラだ。
耳には耳栓がついているから、私の声は聞こえてないのだろう。私の口の動きで判断している。
まぁりん兄にとって朝から生徒の騒がしい話し声を聞くのは、さぞ地獄だろう。
「昨日は何も問題無かったですか?」
「何をもって問題かによるが、諍いは無かったよ。うるさかったからイライラはしたけど」
それでも周りの話だとりん兄の部屋にいたメンバーは、りん兄を除いてギリギリまで他の部屋にいたらしい。
よかったぁ。ずっと同じ部屋で騒いでいたら間違いなく面倒な事になってた。
「これを機に少し慣れてみては?」
「人と一緒にいるんだから静かにするのは最低限のマナーだろ。何で僕が騒がしいのに慣れなきゃならないんだよ」
「それはそうかもしれませんけど………」
何でも結構遅くまで騒いでいたらしい。
たしかに女子も結構騒いでたからなぁ。あのレベルはちょっとね。
けどそこはある程度我慢するのが暗黙の了解みたいなものでしょ。相手学生なんだし。
りん兄この手の一部の学生特有のふざけたノリが通じないからなぁ。はぁ、面倒だ。
「はぁ………お前だけと一緒だったら楽なのに」
「む、無茶言わないでください」
たしかに私だけと一緒なら、りん兄とってはストレスが無いんだろうけどね。いつもの事だし。
けど同性ならともかく、異性で同室は完璧にアウトに決まってる。
まぁ………私としては、それでも全然いいけど………
「とりあえずシャキッとしてください。今日は班行動なんですから、少しは前向きになりましょうよ」
昨日に比べたら全然少ない人数での行動。これならきっと少しはいいと思う。
「はいはい。それじゃあ今日の僕のコミュニケーションはお前持ちね」
「だからそこを前向きに………」
「そっちの方が間違いないし楽なんだ。僕がやるよかよっぽど効率がいい」
コミュニケーションってそういう考えするものだっけ?たしかにりん兄が無理にしたら諍いが無いとも言い切れない。
「はぁ、もういいですよ」
こうやって朝食に来ただけでもすごい、と思う事にしよう。
りん兄なら周りがうるさいの嫌だからとか言って、部屋にこもって朝食取らないとかやりそうだし。
というか普通に朝ご飯食べない事とかある人だしな。それで全然平気なんだよね。
こうして全員揃った私達は朝ご飯を食べる。旅館とかホテルのご飯って、あんまり経験無いけど豪華だよね。
ちなみに修学旅行ということで落ち着きのない周りの生徒に、りん兄は終始ムスッとしていた。
しかし私の分のデザートのリンゴをあげたら収まり、シャクシャクとリンゴを食べ出した。ふぅ。
私達はご飯を食べ終わると、各部屋に戻って荷物の準備をして部屋を出た。
そして班に分かれた私達は、用意されたタクシーに乗った。タクシーに乗るなんて中学校の修学旅行以来二回目だなぁ。
りん兄はタクシーに乗るなり持っていたラノベを開いたけど、それでいいのかな?
私達は四人班で行動することになっているが、私とりん兄以外の他二人は明らかにりん兄を変な目で見ている。
そりゃそうだよね。普通班の人と仲良く話すものなのに、こんな一人で本読み始めたらおかしな人でしかない。
まぁその辺は私がうまく取り繕ったけどね。一応コミュニケーション私持ちと言われてるので。
もっともりん兄だって無駄な諍いは起こしたくないだろうから、最低限のコミュニケーションはするはず、だよね?
多少の心配はありつつも、班行動はまぁまぁうまく進んだ。
文化遺産見たりサイクリングしたり、普段じゃ見れないような景色がたくさん見られた。
伸び伸びとした自然っていいよねぇ。何というか、気が楽になる。
りん兄もほとんど話すことは無かったけど、見た感じ楽しんで入るようだった。
割とりん兄自然とか好きだもんね。
それにある程度人混みがあるとしても、広大な自然にいれば昨日までの集団行動のストレスもある程度は和らぐでしょ。
ただ一つ問題があるとすれば………
「はぁ………室内に入りたいな」
私の隣でりん兄がボヤく。
りん兄が日中外での長時間行動に慣れてない事だ。人混みもあったし、寒暖関係なく疲れたのだろう。
後周りに合わせて動くというのも慣れないのかな。自分のテンポ崩されるわけだし。
それでも周りに迷惑をかけないようにはしているみたいで、止まろうとはしなかった。
そういう迷惑にならないための気遣いはちゃんとしてるんだよね。愛想とノリのための協調性が無いだけで。
「次最後で室内なので安心してください」
タクシーの中で私はりん兄に言った。
「最後って………割と早いな。どこに行くんだ?」
「美ら海水族館ですよ。みんなそこに長くいたいらしいので」
「おぉ、いいね」
あぁいう薄暗くて生き物と戯れられる場所なら、りん兄のリラックスにはちょうどいいでしょ。
そんな事を考えているうちに目的地の美ら海水族館に着いた。
私のここが一番楽しみだったんだよね!さぁて、楽しもうっと!
そんなわけで私達は美ら海水族館に入った。
はやる気持ちを抑えながらパンフレットを一枚受け取って、館内へと足を進める。
私達はパンフレットの館内説明を見ながら、どこに行きたいかを話し合っていく。
「やっぱりジンベエザメ見たいなぁ」
「そうですね………あ!イルカのショー、時間的に見れるかもしれません!」
「本当だ!これは外せないね!」
そんな事を話しながら、私達は水槽の中に目を奪われていた。
そこには様々な種類の魚が広い水槽の中を自由に泳ぎ回っている。その姿は自然な華やかさがあり、とても綺麗だった。
私は先生から預かっているデジカメで写真を撮っていく。映しているものがいいからか、どれもいい写真になった。
すると班のメンバーの一人、誼さんが辺りを見渡す。
「あれ?連枷さんどこ?」
「え?本当だ、いない。どこかで置いてきちゃった?」
もう一人のメンバーも気がついて、辺りを探している。たしかに私達の周りにりん兄はいない。
けど、りん兄がどこって………
「りん兄ならあそこにいますよ」
私は後ろの遠く方を指差した。そこにはニシキアナゴと睨めっこするりん兄の姿がある。
「あぁ、あそこか。って、遠いな!」
「予想はしてたけど結構マイペースだね」
誼さんが苦笑いをする。
りん兄は水槽の前に張りついて、私達について来るつもりは全く無さそうだ。
昨日から今まで人が多くて、落ち着かない状態が続いたからな。落ち着いた水族館がよっぽど癒しになったのだろう。
さっきまでつけていた耳栓も外して、面白そうに水槽を眺めている。
「えっと………どうするの?連れて来る?」
「そうですね………迷う事を心配しているなら、たぶんこのままで大丈夫ですよ」
「けどこのままだと私達見えなくなってはぐれない?」
たしかにここにだってそれなりに人混みはある。あんまり離れると見えなくなるだろう。
でも………
「りん兄なら大丈夫ですよ。私達が逃げたってちゃんとついて来ます」
いくら楽しんでいるからといって、視界の端で私達を捉える事くらいりん兄なら出来る。
私達が隠れたって見つけれるだろう。
「何それ?ストーカー?………まぁ、それならいいけど………それにしてもよく見つけられたね」
「え?ま、まぁ………昔からあった事なので」
フラッとどこかにいなくなるりん兄を探すのは慣れている。視界に入るだけ楽な方だ。
「ふーん、さすが幼馴染、かな。でもいいの?」
「? 何がですか?」
「いや、だって本当は一緒にいたいんじゃないのかなって。昨日そんな感じだったし」
いきなりそんな事を言われて、前に進もうとしていた私はその場に躓きそうになった。そうだ、誼さんとは昨日お風呂で………
「べ、別に!そんな事は………そ、それに今りんに…竜胆さんは、一人で楽しんでるみたいですし」
「別に呼び方変えなくても、さっきからその呼び方だったし。それにしても………そっかぁ、連枷さんは東風ちゃんのお兄ちゃんなんだ………」
「と、とにかく!放っておいても大丈夫ですから!私達は前に進みましょう!」
何やら不穏な会話になってきたので、私は手早く切り上げると前に進む。顔がすごい熱いよぉ………!
そ、そりゃたしかに、りん兄と楽しめたらそれは一番だけど………誼さん達がいる前は恥ずかしい。
せめて二人きりならな。気にしないのに。
それにりん兄からなるべく誼さん達といるように言われている。意図は知らない。
それともう一つあるとしたら………私はりん兄の方を見た。
あんな楽しそうなりん兄の邪魔なんか出来ない。一緒に過ごすのはまた後だ。
そんなこんなで水族館を楽しんでいった私達は、いつの間にか話すことすら忘れて、魚に魅入っていた。
すごい楽しいけど、こうなってくるとよりりん兄と見たくなる。せっかく二人で楽しめるのに。
それにしても人混んできたなぁ。行くところ少し考えた方がいいかも。
「あの誼さん、ちょっと行く所決めた方がいいかもしれませんよ」
そう言って私は隣を見た。
しかしそこに誼さんはいない。もちろんもう一人のメンバーも。
………………………………あれ?
私は顔を引き攣らせて辺りを見渡す。さっきまで一緒にいたはずの二人の姿が見えなくなっていた。
視界に映っていたはずのりん兄も見えなくなっている。いるのは多くなってきた他人の人混みだけ。
「り、りん兄ー、誼さーん」
辺りに声をかけても返事はない。
私、途中から魚見るのに夢中で誼さんの持ってるパンフレット見てなかった。それなのにボーッとしながら進んじゃって………まさか。
「私、迷子になった?」
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