その頃、班の他二人のメンバーは東風がいなくなった事に気がつき慌てていた。
さっきまで一緒にいたはずなのに、いつの間にかいなくなっている。その事にとても驚いている。
「ねぇ、そっちいた?」
「ううん。相当遠くに行っちゃったのか、または結構前にはぐれたかだね」
それなりに人混みも落ち着いてきたというのに、そこに東風の姿は見えない。
となれば東風が迷って遠くに行ってしまったか、結構前にはぐれたかだ。
どの道迷子になってしまっている可能性はとても高い。彼女が班の人に黙ってどこか行く事はまず無いだろう。
途中からみんなが夢中になっていて、班での移動が曖昧になってしまっていた。そのせいでいつどこでいなくなったのかの予想がつかない。
とりあえず来た道を少し戻ってみたが、もちろんいるわけもなく。
連絡を取りたいとは思うものの、スマホは先生に預けてあるから連絡が取れない。
さすがに館外に出ているとは考えにくいので、人探しにしてはやりやすい状況なのだが、何も手がかりがない。
最悪係の人に頼んで探してもらうしか無いが、それは最終手段として残しておきたい。
とりあえず可能な限りは自分達で何とかしたい。しかし何の手がかりもなく見つけるのは難しい。
となるとやっぱり大人に頼るしか…………
「いや、ちょっと待って………まだやりようはあるかも」
「え?…………あ、そうか」
さっきから東風を入れた三人で行動していたからすっかり忘れていたが、この班は三人班じゃない。
もう一人、ここにはいないけど班員がいる。しかも幼馴染から『私達が逃げたってちゃんとついて来ます』と言われてる人が。
「連枷さん、何か知ってるかも」
何なら東風と一緒にいる可能性だってある。とりあえず話を聞いてみて損はないだろう。
ただ一つ問題なのは………
「その連枷さんがどこにいるか、だよね」
とんでもなくマイペースなその班員は自分達の近くにはいない。きっともっと後ろで魚を楽しんでいる事だろう。
班行動がそれでいいのかとか言われそうだけど、まぁ何とかなるならいいかな、と。
班、というかクラスで唯一彼の場所をすぐに分かりそうな人はいるが、その人が行方不明なのだからどうしようもない。
「人探しをするために別の人探しするの?」
「他に方法無いし、仕方ないでしょ」
今は彼以外に頼れる人がいない。
「とにかく通ってきた道を戻ろう。そうすればいるはずだし」
「だね。早く連枷さん見つけないと」
「僕がどうかしましたか?」
「うん。今ちょうどあなたのこと探してて…………
……………………え?」
そこまで言って二人は会話を止めた。
今横から自分達以外の声が聞こえた気が…………
そう思って右横を見てみると、そこにはいないはずの連枷 竜胆がいた。
「「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ⁉︎」」
二人は思わず大声を出して後ずさった。周りの視線が自分達に集まる。
それに気がついた二人は慌てて声を顰めた。
竜胆は二人の叫び声がうるさかったのか耳を押さえていた。
「い、いつからそこに………」
「今です。さっきからあなた方がチョロチョロしてたので」
どうやら本当に私達の行動はある程度把握していたみたいだ。それでも現状はさすがに察していないらしい。
それにしても後ろにいたならまだしも、真横にいて気がつかないとは。この人何なんだ?
というかチョロチョロってトカゲか何かか。こっちは一生懸命班員探していたというのに。
勝手に単独行動しておいて随分と失礼な人だ。
でも近くにいたなら好都合だ。さっさと用件を言おう。
そう思ったのはいいけど、よく考えたら竜胆と話すのは二人ともこれが初めてだった。
学校ではもちろん、今日一日一緒にいて一言も話していない。というか声をかけられたのも初めてだ。
基本的に東風が彼のコミュニケーションの代わりをしていたような気がする。それも二回か三回くらい。
正直何と言えばいいのか分からない。それでも時間がない。ストレートに言ってしまおう。
「じ、実は東風ちゃんがいなくなっちゃったの。何か知らない?」
すると竜胆はそのまま黙ってしまった。どうやら知らないみたいだ。
二人はそっと話した。
「どうするの?知らないみたいだけど」
「それでも探すのは手伝ってもらおうよ。人手はいるし」
「そうだね………それじゃあ私達と一緒に探して…………………………って、あれ?」
話し合って顔を上げた二人は目を見張った。
何故ならつい今までそこにいたはずの竜胆はいなくなっていたからだ。
「え、えっと………こ、ここ………どこ?」
私は辺りを見渡して途方に暮れていた。地図が無いから今自分がどこにいるのか分からない。
一緒にいたはずの誼さん達も後ろにいるはずのりん兄もいない。どこにいるかの検討もつかない。
それ以前に場所が分かったところで班と合流出来ないのでは意味がない。
昔から酷かった方向音痴がこんなところで問題になるなんて。ここ数年で何とかなったと思ってたのに。
本当は周りの人に聞けばいいのだろうけど、いきなり一人になってしまった私は気が動転していた。
私は周りをウロウロしながらどうしようかと考えていた。
とにかく少しでも早く合流しないと。今頃みんなに迷惑かけちゃってる。
それに誼さん達二人とりん兄だけをセットにしておくのも少し、というかかなり怖い。
絶対言わなくていい事言って怒らせてるよ。それかりん兄が単独行動をして困らせてるかだ。
そう思ってもどうしたらいいのか分からない。普段ならスマホを使って一発なんだけど、スマホは先生に預けてある。
りん兄は持ってるはずだけど、それだけじゃ意味ないし。
それじゃあ私…………どうしたらいいの………
私は急に寂しくなってきた。薄暗くて広い空間の中に一人で立っている。
何とかしないとと思っても、それをどうしようもないという絶望感が打ち砕き身体に力が入らない。
周りにいるのは誰も彼もが一人じゃない。みんな誰かと一緒に来ている。
それがより今の自分と比較されているようで悲しくなってきた。一人の焦燥感と虚無感が一度に押し寄せて来る。
さっきまで楽しかった場所が、一気に寂しい場所へと変わっていく。心細くなって、私はその場にしゃがみ込んでしまった。
周りが私を変な目で見てくるが、それを恥ずかしいとは思っても打破しようという気力は湧いてこない。
私のダメなところだ。すぐに弱気になっちゃう。ただ迷子になっただけなのに、すごい寂しくなる。
ダメだなぁ…………私、何も変わってないや。昔と同じ、泣き虫のままだ。
昔からそうだった。道に迷った時、誰かにいじめられた時、いつもすぐ折れて座り込んでしまっていた。
たぶん理由は…………お父さんだ。
私とお母さんはお父さんによく暴力を振るわれていた。
お父さんはいわゆるヒステリックな人で、すぐに怒ってそれを暴力にして私達にぶつけてきた。
仕事や家庭の些細な不満、そうでなくても単なるストレス発散やたまには面白半分で。
それは私が生まれた頃からそうで、私は小さい頃から殴られたり蹴られたりしていた。
お母さんが言うには、最初は小さな事だったらしい。それでも段々と酷くなっていった。
離婚したくても報復が怖くて出来なかった。お母さんはそれを今でも悔やんでいる。
そこからは私もよく知らないけど、お父さんは麻薬なんかにも手を出していて、それが原因で外で犯罪も起こしていたらしい。
そんなお父さんが私は怖かった。いつも怯えて、それでも無理なんだって、抵抗しても意味は無いと思っていた。
そんな弱りきった私の心は学校でのイジメにも繋がって、ますます私の心は折れやすくなった。
そんな時だった。私がりん兄と出会ったのは。
りん兄は私の持ってないものを全部持ってた。
賢くていつも冷静で、りん兄が焦ったり驚いたりはもちろん。泣いたり怯えたりすることなんかほとんど見たことが無かった。
何事もまず挑戦してみてそれを上手く自分のものにしていた。
大人相手でも臆する事なく自分の意見をぶつけられて、自分を貫き通すためならどんな事でも躊躇しなかった。
まぁおかげで小学校では、ガキ大将的な人とは別の意味で問題児だったけど。
たまにシャレにならない事やって、一緒にいてたくさん迷惑かけられて、それを悪びれもせずのんびりとしている人だった。
それでも臆病な私よりもずっとすごいと思う。周りに流されるなんてまず無かった。
私はそんなりん兄が羨ましくて尊敬していた。今でもそうだ。
いつかあんな人になりたい。りん兄と肩を並べられる人になりたいと、強く願ってた。
それなのに…………私は…………
そう思うと、目から涙が溢れてきた。
「り、りん兄ぃ…………会いた、ぐぇっ⁉︎」
その瞬間、私は後ろから誰かに首根っこを掴まれた。
いや、訳が分からなかったのはその一瞬だけ。すぐにそれが誰かは分かった。
そこにいたのは呆れたような顔をしていたりん兄だった。
「まったく…………面倒事起こしやがって」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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