※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第113話 お土産

「り、りん兄………」

 僕に首根っこ掴まれた状態の東風は、僕のことをジッと見てくる。

「お前なぁ、迷子になるかもと思ってあの二人についてるように言ったんだぞ?それで迷うな………」

 

 

 僕が言い終わる前に、東風が僕に抱きついてきた。僕の身体に腕を回してギュッとしてくる。

 

 

 フワッとしたいい匂いと柔らかい感触に、思わずドキッとする。

「なぁっ⁉︎ちょ、東風、何だよ⁉︎」

 いきなりの事に驚いた僕は、危うく倒れかけた。周りの目が少しだけ僕達の方に向いてくる。

「りん兄ぃ………りん兄ぃ………」

 しかし東風は離れようとしない。

 まったく、たかが迷子でそんな泣くなよ。まぁ慣れてるけどさ。

 僕は軽く東風の頭をポンポンと撫でてやる。こういうところは変わらずだな。

 僕は東風が泣き止むまでそのままにしていた。

「なぁ、そろそろ周りに人いるんだから離れてくんないか?」

「あ、ご、ごめんなさい!でも、何でここが?」

「単なる消去法だ。お前達が通ってきた道の中でお前が迷いそうなのはここくらいだった」

 コイツが人混みの多いところで周りに気を遣わないとは思えない。

 となるとある程度人混みが少なくて、制服という割と目立ちやすい服が見えにくくなるような場所。

 それらを考えたらここになった。

「そうでしたか?他の二人は?」

「置いてきた。たぶんお前のこと探してるよ」

 あんなのついて来たってガヤガヤうるさいだけだ。それじゃ思考がまとまらない。

「そうですか。迷惑をかけてしまいすみませんでした」

「別にいい。ほら戻るぞ」

 僕はそう言って東風をつれてその場から離れた。

 しかし周りの人混みが多くなっている。こりゃまたはぐれそうだ。

「東風、大丈夫か?」

「は、はい」

「とりあえずこの辺から一旦逃げるか」

 とは言ってもこりゃ一苦労だな。しかも東風もいるのに。

 別にこのままでも悪くはないんだけど、班の事がある。めんどくさいから何も言わずに来ちゃったし。

 そう思っていると、何か柔らかいものがギュッと方の手を包んだ。

 

 

 顔を下げると、東風の手が僕の手をギュッと握っている。東風の熱がじんわりと伝わってくる。

 

 

「こ、これなら大丈夫、ですよね?」

「え?あ、あぁ………」

 僕はついどもりがちになって答えた。東風も少し顔が赤い。

 東風と手を繋ぐなんて、昔はよくやっていたはずだ。それなのに妙に恥ずかしくなってしまった。

 やっぱりいくら昔からの付き合いでも、こういうところはちょっと意識しちゃうのかな。

 一応雛罌粟さんがいるのにこういうのはいいのかな、とは思ったが、まぁ仕方ないよな。妹なわけだし。

「な、何か………デートみたい、ですね」

「なっ!へ、変なこと言うなよ。ほら、行くぞ」

 僕は少し乱暴に東風の手を引っ張った。

 妹とデート、かぁ。あんま気にしないでおくか。

 

 

 

 東風と手を繋ぎながら、僕は水族館の中を歩いていた。

「えっと………こんなにのんびり歩いててもいいんですか?」

「言っただろ?合流を図るなら、あんまり動くのは得策じゃない。こっちから二人に向かいながら行けばいいんだよ」

「…………単に班行動が面倒なだけでは?」

 分かってるじゃないか。

 今のところとやかくは言われてないけど、それでも班行動をしてるってだけで束縛感があって窮屈だ。

 けど今なら捜索という大義名分の元、思うように自由行動が出来る。これが他二人を置いてきた理由の一つでもある。

「いいじゃん。やる事変わらないんだしさ」

「ダメですよ。まとまって班行動でないと、帰る時とかどうするんですか?」

「問題ないな。このままどこかで落ち合えればそれで良し、そうでないなら向こうが大人に頼って探してくれるはずだ。そうすれば自然と会える」

 だってこんな素晴らしい所なら何にも縛られずに楽しみたいじゃない。せっかくたっぷり時間取ったなら少しくらいいいでしょ。

「これでもそれなりに気を遣ってたんですが」

「それに関してはありがとさん。それじゃあ行くか」

「拒否権は無いんですね………はぁ、分かりました」

 というわけでここからは僕と東風だけの自由時間だ!

 

 

 

「へぇ、ここってタコいるんですね。けど………どこにもいませんよ?」

「ん?あぁ、東風、目の前の岩見てみ」

「へ?うわぁ‼︎いた!」

 僕と東風は水族館の中をのびのびと楽しんでいた。ちなみに歩く時は手は繋いでいる。人混み多いんだもん。

 でもやっぱり何にも縛られないのっていいなぁ!何も気負わずにいられて楽だ。

 一応東風が隣にいるけど、コイツなら別に構わない。特別とかそんなではなくて、純粋に慣れてる。

 さっきまで半泣き状態だった東風も、今ではすっかり元通りだ。

「さてと、次はどこに…………って、あぁ!」

「ん?りん兄、どうかしましたか?」

「お土産、すっかり忘れてた」

 雛罌粟さんのお土産、昨日買えなくて今日買おうとしてたのすっかり忘れてた!

「旅館で買わなかったんですか?」

「何買おうか分からなくてやめた。というわけで東風、アドバイスちょうだい」

「あぁ………りん兄お土産とか買ったことないですもんね。それじゃあここで買いますか。帰りにお土産売り場寄ろうって話は出てるので」

 それはよかった。ここ出たらいよいよお土産買えるところ無くなるからな。

 

 

 

 そして僕達は再び歩いていた。

「あの、りん兄。一つ聞いていいですか?」

「ん?何だ?」

 

 

「りん兄って雛罌粟さんの事好きですよね?」

 

 

 東風の言葉に、僕は躓いて倒れそうになったのを何とか耐える。

「お、お前いきなり何言ってんの⁉︎」

 僕は思わず声を荒げた。顔がすごい熱い。

「いえ、その、りん兄って人に贈り物とかしないですから、よっぽど雛罌粟さんの事大切なのかなって」

「そ、それはいつもお世話になってるからで!別にそういう意味じゃないよ!」

「けどあの人(・・・)には何も渡してませんよね?」

「ッ!」

 僕は何も言えなかった。ちなみにあの人ってのは僕の今の保護者の事だ。

「というかいつもの接し方見てれば普通に分かりますよ」

「マジで?」

 僕そんなに分かりやすいか?引かれないようにちゃんと気をつけてるつもりなんだが。

「人付き合い嫌いなりん兄が、ゲームの時間削ってまで自分から会いに行くんですから、よっぽどなんですね」

「う、うるさいなぁ、それ雛罌粟さんに言うなよ」

 そうかコイツいつもギリギリまでいるから、さすがにバレるか。

 子供っぽいとは分かってても、つい会いたくなってしまうのだ。

「りん兄が恋愛、ですか」

「何だよ、変か?」

 

 

「いえ。ただ、りん兄はこれからもずっと、雛罌粟さんと一緒にいるつもりなのかな、と」

 

 

 そう言われて、僕は足を止めた。

「………お前も意地悪な事聞くようになったな」

「そんなつもりじゃないですよ。でもどうなのかな、って」

 まぁそうだろうな。僕は軽くため息を吐くと、頭を掻いた。

 

 

「たしかに、僕はあの人ずっといるつもりはない。どこかで別れるさ」

 

 

 それは今の関係になってからずっと考えていた事だ。いや、結論だけならずっと前から出てる。

「でもりん兄は雛罌粟さんの事………」

「それとこれは別問題だ。僕は雛罌粟さんとずっと一緒にいちゃいけない」

 僕の想いは関係ない。それがお互いのためなんだ。

「本来はお前だって良くないんだよ?」

「私はちゃんと事情知ってますし」

「知ってりゃいいってもんでもないの」

 僕は彼女を幸せには出来ない。むしろ不幸にしてしまう。いや、雛罌粟さんだけじゃない。誰でもそうだ。

「それでも、雛罌粟さんと一緒にいるんですね」

「そうだなぁ。変だよねぇ」

 いつか別れなくちゃならない。それが分かってて一緒にいるなんて、無駄でしかない。

「それくらい好き、って事ですか?」

「さぁな。後そういう事言うな」

 でもあの人が大切なのは確かだ。それが『好き』なのかは分からない。

「けど、あの人の中で特別でいたい。いつか別れるとしても。僕はそれが正しいと思う」

「そうですか………それじゃあ私は………」

「ん?お前が何だ?」

「いえ、何でもありません。行きましょう」

「あぁ、そうだな」

 僕達は再び歩き始めた。

 しかし僕は繋いでいる東風の手の力が少し強くなった事には気がつかなかった。

 

 

「それにしても誼さん達と一向に会えませんね」

「あの班員二人の事か?それなら出口で会えればいいだろ」

「いえ、実はイルカショー見ようって話をしてまして。そろそろ時間じゃないかな、と」

 イルカショーねぇ、そういえばそろそろ時間なのか。

「いつまでに合流出来ればいいの?」

「出来れば今すぐですね」

「それじゃあ問題無いな。ほら、目の前」

 

 

 僕は目の前を指差した。そこには他の班員二人がこっちに歩いている。

 

 

「ん?あ!東風ちゃん!」

 向こうも僕に気がついたのか、駆け寄ってきた。僕は手を離して少しその場を離れる。

「もうどこ行ってたの!心配したんだから!」

「迷惑かけてしまってすみませんでした」

「ううん、イルカショーの前に会えてよかったよ。もう始まるから行こう」

 そう言って三人は会場に向かおうとした。

 しかし東風は止まると、僕の方に駆け寄ってくる。

「りん兄、行きますよ」

「僕はいい」

 その辺歩いて、終わる時間見計らって合流すればいいだろ。東風だけならまだしも、他がいるのはめんどい。

「いいから、行きますよ。一緒にいたいんです」

 そう言うと東風は僕の手を握って引っ張る。

「ちょ、おい!」

 僕はそのまま東風に連れて行かれてしまった。はぁ、こりゃ何言っても聞かないか。

 僕は諦めて東風について行く。

 すると東風は僕に顔を近づけてコソッと囁いた。

「りん兄、ありがとうございました。イルカショーに間に合うように調節しててくれてたんですね」

「………何のことだか」

「二人の移動速度とか行動範囲とか考えて、ちゃんとショーの前に合流出来るようにしてくれていたんでしょう?」

「別に、たまたまだよ」

 僕は適当にあしらうように言った。

「私、りん兄のそういうところ大好きです」

「…………あっそ」

 僕はその真意を知る事なく、東風について行った。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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