※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第114話 現実的

「イルカショー楽しかったね!」

「はい!見れてよかったです」

「うんうん、可愛かったよねぇ」

 イルカショーを見終わった私達は三人で並んで館内を歩いていた。

 見れるかどうか怪しかったイルカショーも無事に見ることが出来て、結果的には全て上手くいったわけだ。

 ちなみにりん兄はまた私達と距離をとって離れている。

「一時はどうなるかと思ったけど、何とかなって良かったよね」

「本当にすみませんでした」

 いやはや、自分の方向音痴がまさかこんな所で炸裂するとは思わず、ね。これからはもっと気をつけないと。

「あはは!いいのいいの。それよりもちょっと残念だったんじゃないの?」

「え?何でですか?」

「だってせっかく連枷さんと二人っきりで回れてたのに。ご丁寧に手まで繋いじゃって」

 そう言われて私はドキンッと心臓が跳ね上がった。そうだ!歩いてるところで合流したんだから手繋いでるところ見られてるよね‼︎

「そ、そんなことないですよ!それに、私達、別にそんな関係じゃないですし」

「本当に?いつも一緒にいて手繋いでて、ハタから見たら付き合ってるようにしか見えないけど」

 やっぱりそうなんだよなぁ。嬉しいけど、何となくりん兄に申し訳ないような気もする。

「そういえばお土産売り場行こうって話だったけど、東風ちゃんも来る?」

「あ、はい」

 私だって見てみたいし、お母さんのお土産になりそうなものがあるかもしれない。

 それに………

「あの、ちょっと待っててもらっていいですか?りん兄呼ぶので」

「あ、うん」

 私はそう言って手を上げた。どこにいるか分からないけど、りん兄なら見えてるでしょ。

 私は手招くようにするとしばらく待った。

 すると人混みの中をスルスルと通り抜けてりん兄がやって来た。やっぱりちゃんと見えてたか。

「どうした?」

「今からお土産買いに行くんです。りん兄雛罌粟さんのお土産買いたいんですよね?それなら一緒に行きましょう」

「ん?………あぁ」

 そういうわけで私達はお土産売り場に到着していた。誼さん達は自分達のを買うらしい。

 そんなわけで私はりん兄と一緒に考えていた。

「何か要望とかは聞いていないんですか?」

「特には聞いてないな」

 そうか。となると完全に勘頼り、か。まぁなんとかなるかな。

 

 

 

「これでよし、っと」

「すみません、お待たせしました」

 私とりん兄はお土産売り場を出ると、先に外に出ていた二人と合流する。

 なんだかんだでりん兄がお土産選びに結構な時間をかけてしまったのだ。

 りん兄のお土産選びのスキルの問題もあるけど、それ以上によっぽど雛罌粟さんにいいお土産を渡したいみたい。

 結果割とギリギリまで考えていた。その努力の方向性を他人とのコミュニケーションに生かしてくれたら。

 そんなこんなでタクシーに乗って私達はみんなとの集合場所に向かった。

「いやぁ、やっぱり修学旅行って楽しいね!」

「だね。けどさぁ………どうせだったらちゃんとみんなで来たかったよね」

「あぁ………そうだねぇ。そう考えると少し寂しいよね」

「え、えぇ………そう、ですね」

 二人が言ってる人達の事を察した私は何とか返事を絞り出す。

「何だい、誰か休んだのかい」

 私達の話を聞いていたタクシーの運転手が声をかけてきた。

「あ、いえ、違うんですよ。文化祭の後にウチのクラス、というか学校全体で結構な人が退学になっちゃったんですよ」

「集団で退学?そりゃ珍しいね」

「まぁ問題があったらこそだったんですけどね。それでも残念だよねぇ」

 もう分かっただろう。誼さん達が言っているのは、学校でイジメやその他の問題、軽犯罪をしていた生徒たちのことだ。

 それは文化祭の日にネットを通じて全国にばら撒かれた。クラッキングという犯罪によって。

 おかげでその生徒たちは退学を余儀なくされて、顔写真や住所も公開されたので、もうまともに就職する事も難しい。

 普通なら生徒が退学の理由を知る事なんてまず無いけど、今回は特別だ。

 そのばら撒かれた情報は学校中の生徒にも送信された。それでみんな誰が何をしたのか、大体分かっている。

「おかげで今年のウチの学校の倍率めちゃくちゃ低かったらしいよ。学校も面子丸潰れだよね」

「ホント、だれがこんな事したんだろうね。学校のパソコンから流されたんでしょ?」

「そ、そうですね………」

 それは私の隣で耳栓してラノベ読んでる人ですよ。と、喉まで出かけた言葉を飲み込む。

 本当はこの事を言うのが道徳的に正しいんだろうけど、現実的に考えるとこのままでいい。

 私自身実際に見たわけじゃないし、証拠もない。先生が信じたって、りん兄なら上手く誤魔化して罪を逃れるだろう。

 りん兄って人と仲良くなるのは無理でも、騙したり脅したりは得意なんだよなぁ。

 つまりやるだけ無駄、という事だ。まぁやる前から分かってたけど。

 バスに乗り込むと、そこから空港に向かう。そしてそこから飛行機に乗り、またバスへ。

 その間、基本的には私の隣にいたりん兄はずっとラノベを読んでいた。ブレないなぁ。

 すると私はうとうとと眠くなってきた。なんだかんだで体力を使ったからなぁ。

 そしてついに私は意識を手放した。

 寝る直前までりん兄を見ていたからか、その時の夢は忘れる事のない、私が初めてりん兄と出会った時の事だった。

 

 

 

 私が小学生三年生の時の冬。

 お父さんは仕事、お母さんは買い物に出かけていない。家で一人でいるのも危険という事で、私は近所の公園にいた。ここでお母さんが来るのを待っていた。

 私はそこの砂場で遊んでいた。特に運動の出来ない私にとって、砂場は楽しい遊び場だった。

 でもそこに上級生の男子二人が割り込んできた。

 その二人はここでサッカーしたいから、邪魔だからどけと言ってきた。

 お母さんにここで待てと言われている以上、下手に動くわけにもいかない。というかここを出て行ったらいるところがない。

 それに最初にいたのは私だ。それなのに何で出て行かないといけないのか。

 そう言ってもその二人は聞こうとせずに私を怒鳴りつけてきた。

 日頃からお父さんに怒鳴られて暴力を振るわれている私は、それが怖くて動けなくなってしまった。

 それを向こうは私が意地を張ってると見たのか、ついに手を出してきた。

 持っていたボールをぶつけられて、殴られた。どんなに叫んでもやめてくれない。

 どんどん傷ができて、涙が止まらない。それでも怖くて何も出来なかった。

 別にその日に限った事じゃない。私は学校でもいじめられていた。暴力を振るわれたり、悪口を言われたり。

 もう嫌だ、やめて、痛いよ。どんなに言っても止まらない。

「…………助け、て」

 消えるような声で呟いた私の声は、誰にも届かない。

 そう思った時だった。

 

 

「あの〜、ちょっといいですかね」

 

 

 公園の入り口から間延びした声が聞こえてきた。

 上級生二人もそれに気がついたのか、そっちを見た。

 そこにいたのは私と同い年か少し歳上の男の子。

 長くボサボサとした髪を文房具のピンでまとめていて、顔はどこか疲れたように白い。

 眠そうな目をしていて、背中は若干猫背になっている。全体的に青白い人だった。

 ゆるゆるのパーカーの上からはんてんを着ていて、首にはヘッドフォンをかけている。

「何だよ」

 相手が弱そうと見たのか、上級生は強気に出た。

「いやね、さっきからビービーうるさいんですよ。ちょっと静かにしてもらえませんか」

 上級生の威圧に怯む事もなく、のんびりとした感じで男の子は言った。

「コイツが退こうとしないから悪いんだよ!」

 上級生の一人がそう言って私を蹴った。もう叫ぶ気力も無い。

「はぁ………じゃあ摘み出せばいいでしょう。それとも摘み出す筋力もありませんか?」

「んだと!」

 男の子の言葉に怒って上級生の一人が、男の子の胸ぐらを掴んだ。もう一人も詰め寄る。

 どう見ても男の子は身体を動かすのが得意そうじゃない。あんな上級生に殴られたらひとたまりもないだろう。

 それでも男の子はめんどくさそうに目を細める。

「ちょ………もうめんどくさいなぁ。えっと………そこの人」

 そう言って男の子は私の方を見て何かを放ってきた。それは白い耳栓だった。

「ちょっとそれつけて、僕が肩叩くまで目瞑っててください」

 よく分からないけど、私は言われた通りにした。耳栓をつけて目を閉じる。

 それから一分足らずで私の肩が叩かれる。

 私が目を開けると、目の前にいたのははんてんを着た男の子だった。

 しかし私をいじめていた上級生二人はいなくなっている。

 男の子は私に手を伸ばすと耳栓を引っこ抜いて回収した。

「あ、あの………上級生は?」

「ん?あぁ………ちゃんと話したら帰ってくれましたよ」

 どうやら二人を説得したらしい。そんなにすぐ済むんだ。

「ありがとうございました」

「まったく、あなたもあんまり騒がないでくださいよ?うるさいったらありゃしない」

「ご、ごめんなさい」

 私は謝った。すると男の子は小さくため息を吐く。

「はぁ、ただでさえ寒くて疲れてんのに、勘弁してくださいね。これからゲーム実況の生放送があるんですよ」

「え、あ、あの………こたつとか、出せばいいのでは?それか暖房とか」

「暖房は絶賛故障中、こたつは………僕一人じゃ出せないんですよ」

 なるほど、たしかに小学三年生が一人でこたつを出すのは重労働だろう。

 あ、それなら………

「あの、そ、それなら………私が出すの、手伝いましょうか?」

「え?」

 男の子はキョトンとした表情になる。

 お母さんから『お世話になった人にはちゃんとお礼をしなさい』と言われている。それならこういったお手伝いを、という事だ。

「出すの手伝ってくれるんですか?」

「はい。せめてものお礼という、ぐぇッ⁉︎」

 私が言い終わる前に、男の子は私の首根っこを掴んで私を無理矢理引きずって行った。

「やったぁ!タダではたら人材ゲット‼︎」

 当時の私は男の子の言っている意味が分からなかったけど、ここまで来たら引き返すのは難しそうな事だけはよく分かった。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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