※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第116話 順番

「…………んっ」

 頬に違和感を感じて、私は目を覚ました。するとそこはバスの中だった。

 あれ?………私………って、そうか。私修学旅行中で、さっきまで寝ちゃってたんだ。

 目が覚めて意識がはっきりしてきた私は、違和感を感じた頬の方に目をやった。

 するとりん兄が私の頬を引っ張ってむにむにしていた。楽しそうにイジっている。

「…………りん兄?」

「お、起きたか。そろそろ着くよ」

 私は若干寝ぼけた頭でりん兄の言った事を咀嚼した。あぁ、今旅行の帰りだっけ。

「さっさと起きろ。んでもって離れてくれ」

 ん?離れる?

 りん兄にそう言われて、私は自分のいる位置を確認した。

 私は今ガッツリりん兄の肩に頭を乗せて、寄り掛かるようにして寝ていた。

 さらに寝ぼけてたからだろうか手まで繋いでいる。りん兄がするはずないし、私がやったのだろう。

「うわぁ!ご、ごめんなさい!」

 その状況を察した私は急いでりん兄から離れた。

 私ったらなんて事を⁉︎ここは家じゃないのにのんな甘えるような事をしてしまうなんて‼︎

「ったく………ちょっとは気をつけろよな」

 りん兄は呆れるように言ってため息をついた。本当にごめんなさい。

 そんなこんなで私達は無事学校に到着した。

 自分の荷物を受け取り、全体で集合。それから先生の軽い話を聞いて今日は解散となった。

 

 

 

 私はりん兄と一緒に帰る事にした。

「りん兄、これから雛罌粟さんの所行くんですか?」

「ん?まぁそうだな。お土産も渡したいし」

 そうは言うけど、私はりん兄の表情を見て理由がそれだけじゃないのを察した。

 りん兄の顔はどこか楽しそうな感じが見て取れた。雛罌粟さんと会うのが楽しみなんだろう。

 そうか………りん兄はもう、会うだけでこんな顔になるようになったんだ。私じゃなくても。

 そしていつもりん兄と別れる場所まで来た。

「んじゃ、僕はこれで」

 りん兄はそう言って、私と行く方と反対方向に向かって歩き出そうとした。その背中を私はどこか悲しく感じた。

 

 

 りん兄はこのまま………私から離れちゃうのかな?そんなの………絶対嫌だ!

 

 

「あ、あの…りん兄!」

「ん?どした?」

 りん兄は立ち止まって私の方を振り返る。それだけで私はとても嬉しかった。

「少しだけ、私と付き合ってもらえませんか?」

「は?………まぁ構わんけど、どこか行きたい所でもあんのか?」

 そう聞かれて私は何も言えなかった。つい口から出てしまった事でどこに行きたいなんてあるわけない。

 私は頭の中でぐるぐるとした思考で考えた。えっと………

 どうしようか考えながら、私は反射的に動いていた。

 私はりん兄の方に歩くと、彼の手を掴んで引っ張って行った。

「ちょ、ちょっとついてきてください!」

「は?お、おぉ………」

 りん兄は戸惑っているが、そんなの私も同じだ。何でこんな事してるのか分からない。

 どこに行くかも考えていない中で、私は町の中を歩いた。

 とにかく今はりん兄を離したくなかった。

 ワガママかもしれないけど、今離したらずっと私から離れてしまうと思ったから。

「おい東風、お前どこに行こうとしてんだ?」

「え、えっと………」

 さすがにりん兄が怪しみ始めた。これ以上は無理だと思って歩みを止める。

 私は伏せていた目を上げた。

 

 

 そこは私がりん兄と初めて出会った公園だった。

 

 

 どうやら適当に回っていて偶々ここに着いたみたいだ。何でこんな時に………

 私は公園の景色をジッと眺めながら、その場に立ち尽くしていた。

「東風?お前どうかしたのか?」

「私は………」

 りん兄に言いたい事なんて山ほどある。けどそれは私の喉まで来て止まってしまう。

 それを言ってしまえば、もう今までみたいにいられなくなってしまうから。

 けど心の底では言った方がいいって叫んでいる。それは戸惑っている私の理性を跳ね除けて出てきてしまう。

 結果私は自分でもよく分からない事を言ってしまう。

 

 

「りん兄は………雛罌粟さんの、どんなところが好きなんですか?」

 

 

 私、何聞いてるんだろ。私はこんな事が言いたいんじゃないのに。でも、心はもう止まらなかった。

「は⁉︎きゅ、急にどうしたんだよ?」

 突然の事にりん兄は恥ずかしそうに戸惑っている。

「答えてください」

「嫌だよ。な、何でお前にそんな事………」

「いいから答えてよ‼︎」

 私は何故か叫んでしまった。心の中がぐちゃぐちゃで、自分が何したいのかも分からない。

「東風………お前どうしたんだ?………ッ⁉︎」

 私は、心配そうに聞いてくるりん兄の胸に飛び込んだ。りん兄は反射的に受け止めてくれる。

「お願いだから………答えてよぉ………」

 私は自分の目が熱くなっていくのを感じた。それは涙となってツーーッと私の頬を流れる。

「東風………」

 りん兄は戸惑いながらも抱き返してくれた。そして私の頭をそっと撫でてくれる。

 何で………こんな時も優してくれるの………

「そうだなぁ………正直、僕もあの人の事が好きなのかよく分からないんだよ。これまで人の事好きになった事無いし」

 りん兄はそのままそっと話し出した。

「けど、少なくともあの人はとても魅力的だった。何か温かくて一緒にいて落ち着くし。後、淹れてくれるコーヒーが美味い」

 ポツリポツリとりん兄は話してくれる。その顔は少し赤かった。

「たぶん、僕の求めてた大人ってのがあの人なんだよ」

 求めてた、大人………

 私は昔りん兄に何があったのかは知っている。その時にりん兄は周りの大人や友達が信じられなくなった。

 それはりん兄が頭で思っていた存在と違ったからだ。

「もちろん今の僕をあの人に受け入れてもらうつもりはない。そんな事させたくない。けど………」

 りん兄はどこか懐かしそうに言った。

 

 

「もし、あの頃に雛罌粟さんと出会ってたら、たぶん僕はこんな風になってなかったな、って思ってな」

 

 

 そうか………それがりん兄が雛罌粟さんと一緒にいる理由なんだ。

 あの頃欲しかったものを今でも求めてるんだ。

「こんな事考えても意味ないのは知ってるんだけどさ。その………最初に雛罌粟さんに………こ、こ、告白、された時………もしかしたら、って思ったんだ」

 りん兄が恥ずかしそうに言った。

 まったく、人の人生めちゃくちゃにするのには一切抵抗無いのに、恋バナだけでここまで抵抗あるとは。

 けど………

「それって………」

「ん?何だ?」

「い、いえ。何でもないです」

 それって、私じゃダメなのかな?そう聞こうとした自分を何とか押し留めた。

「も、もういいだろ?これ以上言わせんな」

 りん兄はぶっきらぼうに言うと私から離れようとした。でも私はしがみついて離さない。

「ちょ、東風⁉︎まだ何かあるのか?」

 あるに決まってる。ちゃんと言いたいこと言えてないから。でも………

「り、りん兄………りん兄は雛罌粟さんと、その……付き合ってるわけじゃないんですよね?」

「は?…ま、まぁ………何というか、お互いそういう関係には早いかなって事で。というか水族館でも言ったけど、僕は誰かと付き合っていい人間じゃない」

 たしかに………りん兄は誰かと付き合っていい人間じゃない。それを私はちゃんと分かってる。

 けど………

 

 

「それじゃあ。もしも今ここで、私が、りん兄と…………つ、付き合いたいって言ったら………どうしますか?」

 

 

 結局逃げちゃったなぁ。ストレートには伝えられなかった。

 けどこれが私の出来るりん兄への告白代わりだ。

「いやいや、そんなの………あり得ないだろ」

「もしもの話です」

 あっさり否定されちゃった。私のアプローチそんなに分かりにくかったかな?

 

 

「そうだなぁ…………たぶん、断ってる」

 

 

 分かりきっていた答え、あまりにも当たり前な答えなのに、それは私の心に深く突き刺さった。

「な、なんで………です、か?付き合ってないなら、いいじゃないですか」

 私は声が震えそうになるのを抑えて聞いた。これ以上聞いても傷つくだけなのに。

「うん。雛罌粟さんと一緒にいるようになって、大切な人となら付き合う事に抵抗が無いのは分かった。それはたぶん、お前とだって」

「それなら………なんで………」

 

 

「それは………順番、かな」

 

 

「じゅん、ばん?」

 予想外の答えに私は戸惑った。

「あぁ。僕はお前と雛罌粟さん、どっちがいいかなんて選べない。その中で雛罌粟さんに先に告白された。だからあの人を選んだ。それが付き合ってないどんなに中途半端な関係でも、周りから好きだと言われても。っていうか、僕それ以外じゃ決められないし。今ここでお前に告白されても、僕は前に雛罌粟さんに告白されて、僕は受け入れた。それは覆したくないし、それ以外で僕は判断出来ない」

 あんまりに彼らしい答えに私は笑ってしまった。

 つまりたとえ二人から告白されても、順番以外で判断するのは無理って事だ。

「お前も雛罌粟さんも同じくらい大切だ。それなら、順番以外じゃ決められないだろ?」

 まったく………性格とか見た目とか、言い訳ならたくさんあったのに。こういう時はちゃんと正直に答えるんだよなぁ。

「それじゃあ、もし、私が………転校する前に告白してたら?」

「たぶん………受け入れてた、かな」

 りん兄のあまりにも素直な意見に、私は何も言えなかった。

「もういいか?そろそろ帰んないと年魚さん心配するぞ?」

「そう、ですね。付き合わせちゃってすみませんでした」

「別に。まぁ雛罌粟さんにお土産は明日渡すわ」

 そう言って私達は離れた。

「それじゃあ、また」

「あぁ」

 りん兄は家に帰ろうと、私に背を向けた。しかしそこで立ち止まる。

「あ!そうだ………これだけは言っとくか」

 そう言ってりん兄は振り返り、私の頭をそっと撫でた。

 

 

「お前は強くなった。よく頑張ったな」

 

 

「………え?」

「あ、いや………文化祭の時とかも含めて、こういうのって言った方がいいかなって………と、とにかく!そういう事だから!それじゃあ!」

 りん兄は早口で捲し立てると、足早に帰って行った。恥ずかしいなら言わなきゃよかったのに。

 私はその背中を呆然と眺めていた。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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