「キャッ⁉︎」
僕は押し倒した後も雛罌粟さんの体を離すことはしなかった。そのままただ抱きしめていた。
彼女の体は柔らかくて、昨日雛罌粟さんに抱きしめられた時と同じいい匂いがはしてきた。
「竜胆くん……?」
突然の事に雛罌粟さんは驚きながらも抵抗することは無かった。
「僕は人と話したりするのがあまり得意じゃないんですよ」
僕はポツリと話し始めた。
「人と話してると、本当にこの人は信用していいのかなって気にするようになっちゃって。おかげで友達も少ないんですよ。まぁそれが苦だとは思いませんが」
さっきまでの雛罌粟さんの謝罪に対して慰めるどころか答える事すらせずに、僕はただ自分の事を話した。
「でもあなたはなぜかそんな風になる事は無かったんです。何でかは分からないですけど、とにかく僕には珍しい事でした」
僕はポツリポツリと話していく。
「よく分からないけど一緒にいると落ち着くというか、何となく自然体になれるんですよ。すごく安心してもっといたいと思えたんです」
僕は雛罌粟さんから体を離すと彼女の目を見て言った。
「だから僕もあなたにいなくなって欲しくないです。これからも一緒にいて、僕の特別な人でいて欲しいです」
それは僕の素直な気持ちだった。僕の彼女に伝えたかった気持ち。
「その、僕人を励ますのとか苦手で、逆に傷つけるのはそれなりに出来るんですけど。だから今のあなたを励ますのは出来ません。それでも自分の気持ちを言う事な出来ます」
僕は人のために何かをしてやれる事は無い。それでも自分のやりたい事をやる事は得意だ。
だから今はただ自分の気持ちを伝える事にした。相手のこれまでとか心境とか、そんなのは無視してただ気持ちを伝える。
自分勝手かもしれないけど、これが今僕が出来る最大限の事だ。
「だからあなたにもあなたの気持ちを言って欲しかったんです。やってしまった事とかこれからなんて気にしないで、ただ素直な気持ちを教えて欲しかったんです」
「……でも、それじゃ君に悪いよ……。ただでさえ、私は……君に……」
「そんな事考えないでくださいよ」
僕は雛罌粟さんの言葉を遮って彼女の涙を拭った。
「僕言いましたよね『あなたの事を受け止める』って。あなたの気持ちがどんなものでも受け止めるつもりですよ?」
彼女の僕に対する気持ちはちゃんと受け止める。その上で僕は自分の気持ち言う。
ただの気持ちのぶつけ合いだ。単純だけど、今の僕達にはこれが一番だと思った。
どうせ人なんて理解するのは難しいし時間がかかる。それなら理解なんてやめてただ気持ちを言うだけにしてしまった方がよっぽど楽だ。
その上で相手を受け入れられるかどうか、人と付き合えるのはそこが肝心だと思う。
受け入れられるなら一緒にいればいいし、出来ないなら離れればいい。無理して理解するなんて効率悪いし、そんなのあやふやだ。
僕はこの人なら受け入れられる気がする。ここまで素直に話してくれるんだ、分かり合うには楽でいい。
それに一緒にいたいという気持ちは二人とも同じなんだ。今はそれでいいと思う。
「その……昨日みたいなのも……ちゃんと心構えがあれば……受け入れられますよ。……たぶん」
昨日は急で何も出来なかったけど、こうやってお互いの気持ちが分かれば少なくとも固まる事は無い……はずだ。断言は出来ない。
正直抱きついたのも我ながら何やってるんだと早速後悔してるからな。やっぱり難しいかも。
とにかく肉体的な事は置いておいて、気持ちなら僕は彼女を受け入れられる。
「本当に。私……その……面倒かもしれないし、重い女だと思うし。君に迷惑かけちゃうかもよ?」
「まぁ、その、色々と持て余してる僕達にはちょっと重いくらいでちょうどいいんですよ」
みんながそうとは言わないけど、何も無いよりかはよっぽど一緒にいるって実感出来る。
「それにこんな年差だし。……君は、こんなおばさんでいいの?」
「そんなの気にするようなら最初から話しかけてませんよ。それに僕は雛罌粟さんは大人っぽくて……その……好き、ですよ」
僕がそう言うと雛罌粟さんは恥ずかしそうに目線を逸らしてしまった。いや、僕も恥ずかしいんだけどね。
それからしばらくの沈黙の後雛罌粟さんが口を開いた。
「私ね……昔いた彼氏と色々あって、それから誰かとこんな関係になる事が怖くなっちゃったの。今でも結構怖いんだ」
色々、ねぇ。聞いてみたいとは思ったけどやめておいた。
人には大なり小なり触れられたく無い事があるからな。僕だってそうだ。
とにかくこの人は誰かと付き合うのが怖くなってしまったのか。
「けどね、君となら大丈夫な気がしてきたの。うまく気持ちが伝えられないかもしれないし、周りとズレてるかもしれないよ。それでも私は君と一緒にいたい」
雛罌粟さんが素直に気持ちを伝えてくれた。それなら僕もそれに精一杯応えるしか無いだろ。
「そんなの僕だって苦手ですよ。それでも僕はあなたと一緒にいたいです」
すると雛罌粟さんがまた泣き出してしまった。
しかしその顔はさっきまでの暗い顔では無く、不安がありながらもどこか幸せそうな顔だった。
「何か中途半端な関係ね」
雛罌粟さんが笑いながら言った。たしかになぁ。
ここでお互い付き合いたいって言わなかったのは、僕達にはまだ早いと思ってしまったからだ。
お互いの気持ちを伝えているだけの僕達が恋人同士になるのはちょっと抵抗があった。
「そうですね。しばらくの間はお互いの気持ちを伝えるだけの関係って事で」
恋人同士ってのはお互いのことをそれなりにきちんと理解していないと成り立たない。
けど僕達はそれ以前にお互いのことを話し合える段階には行っていない。それなら付き合うのはまだだ。
それを知るために恋人みたいなことはするかもしれないけど、決して自分付き合ってるわけじゃない。とても微妙な関係だ。
しかし僕にはそれが僕達二人にとても似合ってるような気がした。
一緒にいることでお互いを知って、いつかちゃんと付き合える日を目指すこの関係が。
「これからよろしく、ね」
「はい」
お互いに短い挨拶を交わす。
そして僕達は再び抱き合った。雛罌粟さんの温もりがじんわりと伝わってくる。
僕達はしばらくそのままでいた。
すると抱き合ったまま雛罌粟さんが尋ねてきた。
「あのさ……竜胆くんは……その……今夜これから何か用事とかってあったりするの?」
用事かぁ。今日は特にゲームイベントも無かったよな。アニメは録画してあるし。
「ありませんよ。暇ですね」
「そう、それならさ……今日は……ここに泊まっていかない?今夜はずっと一緒にいたいな」
その意味を理解した途端に僕は顔が熱くなるのを感じた。雛罌粟さんもこれまで見た中で一番顔が赤くなっている。
泊まるって。それはいいのか?って昨日までは僕が彼女を泊めてたんだったな。
「別にいいですけど……えっと……一緒にいてやる事って……」
「うん」
雛罌粟さんは短く頷くと僕の顔に自分の顔を近づけてきて言った。
「私達の気持ちをお互いの体に伝えるの」
雛罌粟さんはそっと呟いた。
そして僕達はお互いの唇を重ねた。
最初はしばらくそのままだった。固く抱き合いじっくりとお互いを感じていた。
しかし少ししてどちらからともなく舌を絡ませ始めた。
雛罌粟さんに舌を入れると一瞬体がビクッと跳ねた。
けどそれもすぐに無くなり、僕の舌を自分の舌でなぞってきた。
技術なんてものはなく、ただ自分の気持ちを相手に伝えるための行為。
これまで溜め込んできたお互いへの気持ちをただ伝えている。
動きが穏やかだったのも束の間で、お互いに気持ちが昂ってきたのか舌の絡みは段々と激しくなっていった。
「んあっ……くちゅ……じゅるるっ、んっ……んんっ……はむっ、はぁ……じゅぷ、んんっ……ぐちゅっ」
「んんっ、れろ……くちゅくちゅ、ぐちゅっ、んっ……ちゅるっ……じゅぷ、ぐちゅ、んんっ!」
部屋の中にお互いの吐息の音と口腔内で舌を激しく絡ませる音だけが響き渡る。
舌が絡んでくる度にもっともっと彼女が欲しいと思い、それがどんどん行為を激しくさせる。
それは雛罌粟さんも同じのようでギュッと僕を抱きしめて僕を求めてくる。
それを感じると体がゾクゾクしてきて、また行為が一層激しくなる。
段々頭がボーッとしてきた。それでも舌の動きは止まらない。
一体どれくらいの時間が経ったのだろうか。
一度唇を重ねてから僕達は一回も離すことはなく、ひたすら舌で相手の口腔内をかき回していた。
息も絶え絶えになってきても止める事はなく、鼻で息をしながら続けていた。
それほどに僕達はお互いを求めていた。ただひたすら貪欲に。
お互い気持ちを伝えるのが苦手だ。だからこそ言葉で伝えるのではなくて行動で伝えるしか出来ない。
抱き合う力も強くなっていって、お互いが満足するまで離すつもりはない。
段々と頭がぼんやりとしてきた。そろそろ本当に酸欠になりそうだ。
雛罌粟さんもそれを感じ取ったのか、名残惜しいと言わんばかりに一気に舌の動きを激しくした。
僕もそれに合わせて動きを激しくする。
じゅぷじゅぷと口腔内の唾液がかき回される音がより一層大きくなる。
いよいよ息が苦しくなってきたので僕達は唇を離した。僕達の口に唾液の橋が架かる。
「ぷはっ!……はぁ、はぁ……はぁ、はぁ」
僕が荒く息をしていると、雛罌粟さんも呼吸を荒くしていた。
彼女は僕を見ると恥ずかしそうに目を逸らした。
僕にはそんな彼女がたまらなく愛しく思えた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。