「ここって………眼鏡屋?」
「そう。アンタの家来る途中で見つけたの。行こう」
そう言って
「どういう事?眼鏡欲しいの?」
そんなにコイツ視力悪そうには見えないけどなぁ。少なくとも学力よりは上だろ。
「んなわけないでしょ。アンタのよ」
「僕の?」
「アンタいつもいつもパソコンだのスマホだのに向かってるでしょ。それなら眼鏡の一つや二つ必要かな、って」
なるほど。たしかに眼鏡は欲しいって思う時もある。
けど、その度に新刊のラノベとかゲーム課金とかがあるもんだから、そっちに金使っちゃうんだよね。無くても困らんし。
「だからアタシがアンタの眼鏡選んであげる」
「なるほど、そういう事ね」
別に気にする事ないのに。意外とちゃんとしてるんだなぁ。
「それじゃあ任せようかな」
「うん、任せなさい!パソコンとかで使うならやっぱりブルーライトカットメガネなんだけど………」
そんなこんなで始まった眼鏡探しは、ほとんど
僕はそういうの詳しくないし、せっかく乗り気なら任せてみようというわけだ。
というわけで僕は分が選んでくれた眼鏡をかけてみて感想を言っていった。
とは言ってもちゃんと使えれば見た目なんてどうでもいいので、割と早く決まった。
お金は
そして眼鏡屋を出た僕達は、そのままスーパーでの買い物も済ませた。
僕だけ先に帰ろうとしたけど、『荷物持ちがいる』と言われて
そんな事をしていればお昼まではあっという間だった。
「さてと、もう正午回ってるな。外でご飯食べてくか?」
「いいけど………この辺何かお店あるの?」
そうだなぁ………無い事もないけど、まぁまぁ少ない。
「うーん………あ、雛罌粟さんのところなら今日やってるわ」
「え⁉︎お、お姉ちゃんのところかぁ………」
「僕も最近行ってないし、行ってみないか?」
最近は
「それはちょっと………というか最近行けてないって、それなりの頻度で行ってるの?」
「ん?まぁね。と言っても夜中だけど。雛罌粟さんにお弁当作ってもらってて、それでお弁当箱返すついでにコーヒー飲んだりしてるの」
最初はすごい慣れなかったけど、今ではすっかり習慣になってしまっている。
「へ、へぇ………それって、平日は毎日って事にならない?」
「まぁそうだな」
そういえばそうなんだよなぁ。一緒にいても全然苦にならないから、すっかり忘れてた。
今では僕の落ち着けるかけがえのない時間だ。
「へぇ、ラブラブだねぇ」
「そ、そこは関係ないよ!それに、ただコーヒー飲みながら話してるだけだし」
「え?何かもっとこう………イチャイチャしないの?」
「しないよ………」
いや、そういうのを拒んだりはしないけどさ。やっぱり二人でいるなら、落ち着いているのが一番だよ。
大体こんな子供がカッコつけたって、ただダサいだけだしな。それなら普通にのんびりしていたい。
すると分が僕の手を握ってきた。ギュッと指を絡める。
「ッ⁉︎ な、何だよ⁉︎」
僕は反射的にビクッとして隣を見た。手から伝わってくる柔らかい感触にドキドキする。
「ん?ただアンタがお姉ちゃんとイチャイチャ出来なくて寂しいと思ったから、代わりにね」
「よ、余計なお世話だ。別に寂しくはないよ」
まぁ出来たらいいな、とは思うけどさ。
「ふ〜ん。にしてもアンタ、顔真っ赤だよ?もしかしてこういうの慣れてない?」
「わ、悪いかよ」
「いや〜、ただ普段の冷静な態度から意外だなぁって。そんなんじゃお姉ちゃんに手が出ないわけだ」
「うるさいなぁ………仕方ないだろ」
そんな事を話しながら、僕達は家に向かった。
「さてと、それじゃあお昼ごはんすぐ作っちゃうから…………ッ⁉︎」
「ん?分、どうかした?………ッ⁉︎」
家に入ろうとした僕達は、目の前にいる人を見てビックリして止まってしまった。
「な、何で………ここに?」
そこには見るからに険しい顔をした雛罌粟さんと、オロオロした東風がいた。
「で、これはどういう事なの?
ここは僕の家のリビング。僕と分はそこで正座させられていた。
そして目の前には恐ろしい威圧を放ってくる雛罌粟さんと、隣で様子を見ている東風がいる。
とんでもなくビックリはしている。ただこんな怖そうな雛罌粟さんを前に下手な質問が出来るわけもなく、大人しくしている。
話によると、東風がたまたま僕と分が一緒にいるところを見ていたらしく、それをたまたま会った雛罌粟さんに話したんだそうだ。
まったく、東風のヤツ余計な事をしやがって。
そんなわけで二人はウチまでやって来たそうだ。
「何で実家にいるはずの分が竜胆君と一緒に暮らしてるのか、説明して」
僕は分と顔を見合わせた。
分は小さく息を吐くと、話し始めた。勉強のために来ていただけという事を主に。
「それじゃあ最近夜にお店に来なかったのって、分の勉強見てたから?」
「まぁそういう事です」
時間的にちょっと無理があったからかな。暇があったら行こうとはしてたんだけどな。
話を聞き終わった雛罌粟さんは小さくため息をついた。
「あのねぇ、何でこの街に来る事私に言わなかったの?言えばちゃんとウチに泊めてたのに」
「いいじゃん、私のお泊まりなんだし。それをわざわざお姉ちゃんに言う必要は無いでしょ。ちゃんとお母さんには許可貰ってるし」
雛罌粟さんのお説教に分は唇を尖らせて反論する。
「そうじゃなくて、竜胆君が困るでしょ。お休みの間に家に押しかけられたりしたら」
「ちゃんと竜胆からも許可貰ったもん。ね?竜胆」
「え?あ、はい」
いきなり話を振られて、僕は戸惑いながらも答えた。
すると雛罌粟さんは驚いたような、悲しそうな顔で僕を見てくる。え?何々?
「り、りん兄、本当に人を泊める許可を出したんですか?」
東風が驚いたような表情で僕を見てくる。たしかにコイツからしたら不思議で仕方ないだろう。
今までこんな事ほとんど無かったし。
「ん?まぁな。それ条件に家事全般やってくれるっていうから、それならと思ってな」
「………はぁ………何やってるんですか」
「え?僕何かマズい事したのか?」
だってそっちの方が絶対利益は高いしさ。ウチに泊めて短い時間勉強を教えるだけで、めんどくさい家事全般やってくれるんだし。
たしかに色々面倒な事はあるけど、なんだかんだで分が家事をやってくれて助かっている。
合理的に考えればまぁまぁ正しい選択だと思うんだけどなぁ。分は一緒にいて苦にならないし。
自己投資、もとい趣味のためには家事削減は割と重要事項なんだと思うが。
「ほらね?だからアタシがここにいるのは何の問題も無いの。ただ友達の家にお泊まりしてるだけ」
「けど………竜胆君はそれでいいの?」
「まぁ、構いませんよ。分がいてくれて助かってますし」
この前なんか面倒だと思ってた物置の整理手伝ってくれたし、三年生の教科書販売にも荷物持ちとして付き合ってくれた。コイツまぁまぁ優秀なのよ。
「と、とにかく!これ以上竜胆君に迷惑かけちゃダメ!この街にいたいならウチに泊めてあげるから」
「だから別に迷惑かけてないって。竜胆がアタシと一緒にいてもいいって言ってくれてんだし」
「それは………そうだけど………」
すると雛罌粟さんは僕をジト目で見てくる。本当に何?
僕自分の中だと趣味に生きる人間にとっては、割といい選択したと思ってんだけど。
だってただ知り合い泊めてるだけでしょ?そこまで問題でも無くない?
「そういうわけで、アタシと竜胆の同棲は続行って事で」
「お、おい、誤解生みそうな事言うなよ」
「定義には当てはまってるでしょ?」
それはそうだけどな。それだとまるで僕と分が付き合ってるみたいじゃないか。
「うぅ………けど………」
それでもまだ雛罌粟さんは納得出来ていないようだ。
まぁそうだよな。妹が知り合いとはいえ男の家で寝泊まりとか、嫌な予感しかしないもんね。
何か間違いが起こったりしたら大変だし、心配なんだろうな。妹思いな人だ。
「大丈夫ですよ。分は僕が責任を持って一緒に暮らしますので」
「ッ⁉︎せ、責任………」
あれ?何か余計に落ち込んじゃったよ。僕そんなに信用無かった?これでも誠心誠意伝えたつもりだったんだけど。
「りん兄、早めに話切り上げたかったら、しばらく黙ってるのをオススメしますよ」
「ん?そうか」
そういう事なら黙ってよ。割とめんどくさそうなのは察せたし。
「や、やっぱりダメ!そんな高校生の男女が二人きりで暮らすとか!何かあったらどうするの!」
「それお姉ちゃんが竜胆といられなくて僻んでるだけじゃないの?」
「ッ‼︎べ、別にそういうのじゃ………‼︎」
「それにほら。万が一何かあったら、それはお姉ちゃんより私の方が魅力的だったって事で…………」
「ちょっと分‼︎」
何か言い争いし始めた姉妹を他所に、僕は東風を呼んだ。
「なぁ、僕ってそんなに信用無い?これでも割と誠実な生き方してるつもりなんだけど」
「りん兄の場合は何をもって誠実か、によりますけどね。りん兄は少し無自覚過ぎるんですよ」
「何だそれ?」
僕は自分なりに合理的に考えただけなんだがなぁ。そんなにマズい事やっちゃったか?
「そうですねぇ………例えば、りん兄は雛罌粟さんが知らない男性と仲良さそうに歩いていたら、どう思いますか?」
「は?そうだなぁ…………まぁ仲良いんだなぁ、としか思わんよ。そんなもんだろ」
「はぁ………ダメだこりゃ」
何がだよ。別に普通の発想だろうが。
あの人にも僕の知らない交友関係くらいありそうだしな。そこを一々追求していくのはめんどくさい。
僕は未だに言い争っている雛罌粟さんと分を見た。見ていて仲良さそうなのが伝わってくる。
あぁいう雛罌粟さんはあんまり見ないからな。見ていてどこか安心する。
ただそろそろめんどさくなってきたなぁ。二人は喧嘩中だし、ここは気配を消して失礼させてもらうかな。
「りん兄、黙っててとは言いましたけど逃げないでくださいね?捕まえますよ」
「チッ、分ぁったよ」
だよな。あの二人は分からなくてもコイツは気がつかれる。振り切れなくは無いけどめんどくさい。
はぁ、そろそろ終わらせるか。
「雛罌粟さん。僕としても
「そ、それは………まぁ、竜胆君がそう言うなら………」
ふぅ、まったくめんどくさい。とりあえずひと段落かな。
「東風もそうだけど、雛罌粟さんもそろそろ帰らないとじゃないですか?お店いいんですか?」
「え?………あ!そうだ、お店そのままだ!」
「私買い物の帰りだったんだ!」
まぁそんなところだと思ったよ。もう帰らないとマズいだろう。
「それじゃあ、私帰るね。竜胆君、分のことよろしく」
「はい、分かりました」
「話を聞いてる限り、どちらかと言うとりん兄がよろしくされるのでは?」
「うん、そうだね」
おい。東風と分、余計な事言うな。たぶんそうだけど。
東風が玄関に行き、分が買ったものを台所に置きに行く。リビングには僕と雛罌粟さんだけになる。
「あ、そうだ。竜胆君」
東風と同じように家を出て行こうとした雛罌粟さんが僕の方を振り返る。僕に近づくと、少しだけ背伸びをした。
その顔は少し赤かった。
そしてそっと僕と唇を重ねてきた。僕の唇に雛罌粟さんの柔らかい唇が押しつけられる。
「んちゅ………」
「ッ⁉︎」
その行動に僕は驚いた。思わず退がりそうになったが、雛罌粟さんが抱きしめてきて阻止する。
柔らかくて暖かい感触に、僕は反射的に抱き返した。
抱き合ったまま雛罌粟さんはゆっくりと唇を離す。耳の先まで真っ赤になっているが、それは僕も同じ気がする。
「い、いきなり何ですか………」
「その………さ、最近会えなかったぶんのコミュニケーション、かな。あと、私に分の事黙ってた事のお仕置き」
「そ、そうですか………」
かなり嬉しいけどハードなお仕置きだ。すごい恥ずかしい。
「嫌、だった?」
「いや、そういうわけじゃない、ですけど」
久しぶりにキスして、少しというか、かなり驚いてしまった。
けどそうだよな、最近会えてないもんね。今夜にでも行こうかな。
「そっか、それならもう一回」
雛罌粟さんはもう一度キスしてきた。今度は僕からも少し求めてみる。誰も見てないし、いいよね?
唇を離すと、そのまま抱き合う。
「分の勉強見てくれるのも嬉しいけど、お店にも来てよ。私、ちゃんと待ってるから」
「は、はい………」
恥ずかしくてまだドキドキする。心臓の音、聞こえてないよな?
「それじゃあ、私行くね」
「はい。その………また今夜に」
「うん………約束だよ」
そう言って僕達は身体を離した。雛罌粟さんが小さく手を振って出て行った。
いかん、嬉しくてちょっとニヤついてしまう。
するとふと後ろから気配がした。
振り向くと、そこにはリビングにいるはずの分が顔を覗かせ、出て行ったはずの東風が窓からこちらを見ていた。
「「………バカップル」」
「東風ははよ帰れ‼︎分もお昼ご飯‼︎」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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