※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第126話 底辺

「竜胆………君?」

 私は目の前に現れた少年に目を見張った。

 もう一生会う事はないと思っていた。それなのにまた会えるなんて………

 彼の姿を見ただけで、私の心は満たされたような気がした。会えただけでこんなに嬉しくなるなんて………

 けど竜胆君はいつもとどこか雰囲気が違う。

 何というか………そうだ、文化祭の時と似ているのだ。文化祭の時の怖かったあの雰囲気と。

 格好もいつものダルっとしたパーカーではなく、冬休みに帰省した時のようなトレンチコートにクラッシュハットを被っている。

 竜胆君は私の方を見るとどこか嬉しそうに笑った。しかしその目はすぐに冷たいものとなって木偶さんを見据える。

「お前………」

 木偶さんは私から離れて立ち上がった。

「今さら何しに来たんだよ。コイツは俺の女だ。フラれた元カレは家に帰って泣いてろよ」

 自分が無理矢理別れさせたのに、木偶さんはふざけたように言った。

「あなたは二つ間違えがあります。一つ、僕は雛罌粟さんと付き合ってるわけではありません」

 竜胆君の声は驚くほどに冷たかった。

 そこはっきり言わなくても良くないかな。たしかに付き合ってるわけじゃないとはしてるけど。

「それともう一つ、僕は別に雛罌粟さんを奪い返すためだけに来たわけじゃないですよ。ぶっちゃけそれは副産物です」

 え?………どういう事?軽くショックを受けた私は呆然とした。

「あなた『サドイーター』持ってますよね?」

「あぁ?なんだよお前もこれ知ってんのか?」

 そう言って木偶さんはポケットから何か袋のようなものを取り出した。中には何か乾燥したお茶っ葉のようなものが入っている。

「新型のブツ………どこで手に入れたんですか?」

「は?知るかよ、父さんから送られるんだから」

 私は二人の会話の内容が全く理解出来なかった。

「まぁいいや。そういう事ならあなたが行くのは喫茶店じゃないでしょう」

「あ⁉︎ガキが何言ってんだよ!」

「こんな事も分かりませんか?ヤクに手染めたからシメられろって言ってるんですよ」

「ナメてんじゃねぇぞ‼︎」

 木偶さんが竜胆君に殴りかかった。

 竜胆君はお世辞にも頑丈な子には見えない。殴られなんてしたら怪我するのは間違いないのに。

 危ない‼︎

 

 

 しかし竜胆君は、私の予想に反して木偶さんの拳を手を前に出すだけで腕で振り払った。

 

 

「なッ⁉︎」

「ふぅ、危ないですねぇ」

 そう言いながらも竜胆君は余裕そうだ。その声は抑揚がなく淡々としている。

「ガキがぁッ‼︎」

 木偶さんはもう一度竜胆君に殴りかかる。

 しかし竜胆君は肩を少しずらしてそれを避けた。そして木偶さんの腹を軽く素早く手で押した。

 

 

 その瞬間木偶さんが押された方向に押し吹き飛ばされた。

 

 

「ぐあぁッ‼︎」

 何で?竜胆君ってそんな力あるようには見えないのに。

「さてと、色々と聞きたい事がありますが………その前にサツにお届けするのが先ですかね」

 竜胆君が木偶さんに近づく。

「何ッ⁉︎………ふざけるな‼︎何で俺みたいな人間が捕まらなくちゃいけないんだ‼︎俺はお前みたいなガキに捕まる存在じゃないんだよ‼︎」

 そう叫ぶと木偶さんは立ち上がると、ポケットから何かを取り出した。

 

 

 それはドラマや漫画でしか見たことのない拳銃だった。

 

 

「死ねぇ‼︎」

 木偶さんはヒステリックに叫ぶと、引き金を躊躇いなく引いた。

 そんな………これじゃあ竜胆君が‼︎それにお店も‼︎

 しかしガチッと音が鳴るだけで、弾が放たれるような音は聞こえなかった。

 木偶さんは何度も引き金を引くが、軋む音がするだけだ。

「な、何でだよ‼︎何で撃てないんだよ‼︎このッ‼︎………ギャアッ‼︎」

 木偶さんが拳銃に目が向いた隙に、竜胆君はとんでもない速さで木偶さんに近づいて、拳銃を捻るようにして奪った。

「そりゃセーフティーかけましたからね。さっき触れられる機会があってよかったです。弾避けちゃうとお店を傷つけちゃいますから」

 竜胆君は拳銃のセーフティーらしきものをイジると、それを木偶さんに向けた。

「ヒィッ‼︎あ、山慈姑さん!榷さん‼︎コイツを殺してくれぇッ‼︎」

 木偶さんが叫ぶと、扉が開いて一人の男性が入ってきた。そしてもっと驚いたのは階段から女性が一人駆け降りてきた。

 あの人どこから入ってきたの⁉︎

 お店に入ってきた二人はポケットからナイフを取り出した。

「コ、コイツらは俺が雇ったプロの殺し屋だからな‼︎お前なんかすぐにあの世行きだ‼︎ギャハハハハハッ‼︎」

 木偶さんは狂ったように嗤った。

 殺し屋?………何それ………何でそんな人達が。

 いや、そんな事どうでもいい………このままじゃあ竜胆君が殺されちゃう‼︎

 そこで初めて竜胆君は表情が動いた。どこか苦しそうな表情だ。

 しかしその顔は私と分に向けられている。え?私達がどうかしたの?

 しばらく苦悶の表情を浮かべていた竜胆君は、はぁっと小さくため息を吐いた。

「雛罌粟さん、本当にごめんなさい。極力気をつけますが、ちょっとお店汚しますね」

「え?」

 竜胆君は腰を低くした。

 それと同時に男性が竜胆君を刺そうと攻撃を仕掛けてきた。その動きは私には見えなかった。

 竜胆君は体をうねるようにして男性の攻撃を避けた。

 

 

 その瞬間、男性はその場に倒れた。首からは紅い血が流れていて、ピクリとも動かない。

 

 

『ッ⁉︎』

 その場にいた全員が息を呑んだ。特に私と分は顔が青くなる。

 竜胆君は表情一つ変えずに体勢を戻す。その手にはさっきまで持っていたかったものが握られている。

 

 

 それは日本刀だった。刃が30センチほどの短刀だ。

 

 

 何、あれ?………竜胆君、何であんなものを持ってるの?

 男性はあんなもの持ってなかった。つまりあれは竜胆君のものだ。

 竜胆君は私の方を振り向くと、どこか悲しそうな表情を見せた。しかしすぐに女性の方を向く。

 女性はナイフを素早くしまうと拳銃を取り出して、竜胆君に向けた。銃口には何か筒のようなものがついている。

 その瞬間、竜胆君は男性の持っていたナイフを拾うと、それを女性に向かって投げた。

 そのナイフは女性の手に刺さり、その痛みからか女性は拳銃を落とした。その隙に竜胆君は女性に近づく。

「このッ!」

 女性が叫んで抵抗しようとしたが、その猶予を与える事なく竜胆君は女性の首を短刀で掻き斬った。

 ブシュッと血を流しながら女性はその場に倒れた。それから彼女が動く事は無かった。

 目の前で竜胆君が二人の人間をあっという間に殺した。その事実に私の頭の中はぐちゃぐちゃだ。

「さてと、残るはあなたですね」

 竜胆君は短刀を木偶さんに向けた。腰をついた木偶さんは後ずさる。

「ヒ、ヒィッ‼︎や、やめろ‼︎何で俺がこんな目に遭うんだよ‼︎俺は何をやっても許されるんだ‼︎お前みたいなガキにこんな事される存在じゃない‼︎」

「何で?そんなの決まってるでしょう………」

 竜胆君は木偶さんに歩み寄った。頭を掴むと、首筋に短刀の刃を当てた。

 

 

 

「雛罌粟さんに近づいたからだ。あの人は………お前や僕みたいな底辺の人間が、手に入れられるような人じゃねぇんだよ」

 

 

 

「い、嫌だぁッ‼︎何なんだよお前ェッ⁉︎何でこの俺にこんな事するんだよ‼︎」

「おや、警護の殺し屋から聞いてなかったんですね………裏社会じゃあなたみたいなヤツは生きていけない。それはとある殺し屋が、そういった度の過ぎたヤツを殺しているからなんですよね」

 すると木偶さんは目を見開いた。ガタガタ震えて小さく呟く。

 

 

 

「お、お前が………で、『DEAD SURVIVOR』………」

「なぁんだ、知ってるんじゃないですか」

 

 

 

 『DEAD SURVIVOR』?………何それ?………竜胆君の事を言ってるの?

「や、やめてくれ………死にたく、ない………」

「すみませんね、これが僕の正しさなんで」

 そう言って竜胆君は短刀を振おうとした。

 その時

 

 

 突然パリンッという音と共にお店の窓が一枚割れて、竜胆君達の近くに傷ができた。

 

 

「何ッ⁉︎」

 竜胆君は木偶さんを離すと、後ろに後退した。

 倒れていた女性の拳銃を拾うと、割れた窓に向けてバスッバスッと二発撃った。

 それと同時にお店の扉が勝手に開いた。

「い、嫌だぁッ‼︎死にたくないッ‼︎」

 そう叫んで木偶さんはもたついた足でお店を駆け出していった。

「ッ⁉︎ 待て‼︎」

 竜胆君は追おうとするが、既に木偶さんはいなくなっていた。

 

 

 

 

 お店から逃げ出した木偶は薄暗い裏路地をよろめきながら走っていた。

「嫌だぁッ‼︎ 嫌だぁッ‼︎ 嫌だぁッ‼︎俺は死にたくないッ‼︎何で俺がァッ⁉︎俺はずっと楽しく暮らせる人間なのにィッ‼︎」

 パニックになっている木偶は必死に足を動かしている。

 何はともあれ幸運だ。こうやって逃げる事が出来た‼︎やっぱり自分は許される人間なんだ‼︎神様が味方してくれたんだ‼︎

 そんな希望に狂った木偶は走った。

 

 

 するとどこからか口笛と共に目の前に一つの人影が現れる。

 

 

「ふぅ、何とかここまで連れてこられたかぁ」

 その人影から声がした。のんびりとした男性の声だ。人影が近づいてくる。

「な、何だお前⁉︎あのガキの仲間か⁉︎」

「ん?違いますよ。僕は基本的に人生ソロプレイなもんで」

 人影の姿がはっきりとしてくる。それは真っ黒なパーカーを着た男性だった。背丈からして木偶より歳下なのは間違いない。

「あなた、結構ヤバい事してますよね。殺人、強盗、暴行、レイプ、果てには薬物乱用まで………相当な人があなたに恨みを持ってますよ?」

「うるさいッ‼︎どいつもこいつも俺を咎めやがって‼︎俺は何しても許される人間だ‼︎」

「生憎、僕ら下々の人間にはそんな事理解出来ないんですよ。そんな方から依頼がありました。『家族を殺し苦しめた人間、酢漿草 木偶を殺して欲しい』とね」

 その瞬間木偶は脂汗が止まらなくなった。コイツも俺を殺す気なんだ。

「お、お前も………殺し屋なの、か………」

 すると男はしょんぼりしたように肩をすくめた。

「はぁ、またかぁ………これで何度目かな?殺し屋と間違われるの」

 男は顔を上げて言った。

 

 

「僕は『復讐屋』です」

 

 

 復讐屋?俺に復讐しに来たのか………?

「あの男がある程度あなたを苦しめてくれてよかったです。この手のお膳立てってまぁまぁめんどいんで」

 すると男はポケットからバタフライナイフを取り出すと、クルクルッと回して展開した。

「あそこであなたが殺されたら僕の仕事にならないんでね。さっきあなたを逃したんですが………もしかして神様が助けてくれたとでも思いましたか?」

 そして男は木偶に素早く近づくと、ナイフを木偶の右のアキレス腱に突き刺した。

「ギャァ───────ッ‼︎」

 襲ってきた痛みに、木偶は蹲って叫ぶ。男は紅く染まったナイフを抜く。傷から血がドクドク溢れ出る。

 そして今度は右腕にナイフを突き刺す。

「ガアァァァァッッッ‼︎‼︎やめろ‼︎痛いィッ‼︎死にたくないよぉッ‼︎」

「さぁて、あなたに殺された人の何人がそう思って、あなたに踏みにじられたんですかね?」

 そしてまた引き抜くと、今度は左脚、左腕とナイフを突き刺していく。

「ギャアァァァッッッ‼︎‼︎やめてくれぇッ‼︎謝る‼︎謝るから‼︎殺さないでくれ‼︎」

「う〜ん、それだと仕事にならないんですよねぇ」

 そう言って男はどんどんナイフを突き刺していく。足をズタズタにすると、腕を刺し傷まみれにする。

 そしてしばらく待った。恐怖心が煽られていく。

「ごめんなさい………ごめん、なさい………もう、許して………」

 恐怖から木偶は失禁した。それでもひたすらに謝る。もうそれしか出来ない。

 そんな木偶を無視するように、十分してまた男はナイフで木偶を斬った。

 耳を斬り落とし、顎を裂いて、目をくり抜いた。

 こうして木偶は微動だにしなくなった。その表情は涙と鼻水、血で塗れた醜い表情だった。

 それを確認した男はゆっくり立ち上がる。

「これにて依頼完了………にしても、まぁややこしかったな」

 男は『Cafe Red Poppy』の方を見た。

「けどまぁ、あの『 DEAD SURVIVOR』と接触出来たんだ。良しとするかぁ。………ッ‼︎」

 すると男は近くの壁に寄りかかって腕を押さえた。そこからは血が滲んでいる。

「まったく………あの状況でバッチリ当たるとか、たいした人間だなぁ。うん、面白い」

 その時、男のスマホが鳴った。男はスマホを取り出して目を見開く。

「ヤバッ!後三十分でゲームイベント始まるじゃん‼︎急がないと‼︎えっと………バイクバイク………どこ止めたっけ⁉︎」

 男は慌てながら裏路地を後にした。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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