「まったくもう!明日の九時にお姉ちゃんの店に集合って言い出したのアンタでしょ‼︎それなのにこんな時間まで………しかもお姉ちゃんの部屋ならまだしも、お店の席で洒落にならないレベルでイチャついて‼︎一晩時間あげたんだからイチャつき終えてなさいよ‼︎」
「うい、ごめんなさい」
「本当にごめんね」
身体を重ねようとしたところをバッチリ見られてしまった僕と罔象は、顔を真っ赤にした
みんなで近くの席に座り、隣には恥ずかしそうに顔を赤くしている東風と、もはや面白がってまでいそうな鯨波さんがいる。
いや違うのよ。
あれだ、罔象以外見えなくなるって言えばいいのかな?そんな感じ。だって、罔象綺麗だし。
それに何かね、あんまりイチャつこうって思ってたわけじゃなかったんだよね。
何というか、一緒にいたらこうなった、みたいな。
「あの竜胆がこんな事するなんて、変わったねぇ」
「本当ですよねぇ」
鯨波さんと東風は感慨深そうに頷いている。こういう事になるから鯨波さんには罔象の事は隠してたのに。
「というか、分ももうちょっと入り方あったでしょ?ちょっとは配慮してよ」
「集合時間ギリギリまでお店の席でイチャついてるなんて、予想出来るわけないでしょ‼︎」
ぐぅの音も出ないド正論。
ちなみに分は僕の正体を東風や鯨波さんから聞いたらしい。それでこれとは、コイツも大したもんだよ。
「それにその首とか手とか………あと………」
分は罔象についたキスマークを見た後に、左手を見る。その薬指には僕のあげたシルバーリングが。
それを見られた罔象はどこか嬉しそうだ。
「まったく、少しは人目を気にしなさいよ」
「ごめん、完璧に忘れてた」
さっきまで夢中すぎて、この後みんなと会うのすっかり忘れてたわ。
「まぁお説教は一旦その辺にしなよ。色々と報告したい事もあるし」
鯨波さんはそう言って一呼吸置くと、話し始めた。
「昨日の一件、ネットニュースにもあがってたけど、どれくらい知ってる?」
「まだ何も」
朝から罔象と一緒でしたから、とは言わないでおく。
「そうか、それじゃあ昨日のあの後から含めて話すかな」
鯨波さんはそう言って、バッグから資料を取り出していく。
「まず昨日のお店での強盗事件は、警察内ではもう完璧に片がついた事になってる。まぁ死者ゼロだから当たり前かな?犯人はヤク中のヤクザの一人が金目的で………」
「ん?あの、ちょっと待ってもらっていいですか?」
罔象が首を傾げながら待ったをかける。分も意味が分からないという風だが、東風は呆れたような顔をしている。
「何か?」
「いや、昨日のが強盗ってとこまではギリギリ納得出来ましたけど、犯人はヤクザでも無ければお金が目的でも無かったんですが………それに死者だって………」
「え?ちょっと竜胆、アンタ何も説明してないの?」
鯨波さんに言われて、僕はハッとした。
しまった、昨日からついさっきにかけて色々あったせいで説明をすっかり忘れていた。
「そういう事になってるって意味だよ。昨日の事件はあの男、木偶とは無関係、ただの強盗事件ってね」
「え?…………それやっちゃって大丈夫なの?というか何でそんな事を?」
「今何ともないなら大丈夫。理由は………そっちの方が楽だから、かな」
むしろあんなイカれたヤツがいて、こんな事する方が世間一般的に信じられにくいと思うし。
「は?アンタ昨日はそうしないと雛罌粟さんの過去がどうのこうのって………」
「あぁぁッ‼︎余計な事言わないで!」
いきなり何言い出すんだ、少しは空気読んでよ‼︎
「あ、なるほど!昨日のがその木偶とかいう人の事件ってなっちゃうと、昔の雛罌粟さんの事も公開せざるを得なくなっちゃう。りん兄はそれで雛罌粟さんが苦しむのが嫌で、痛いッ‼︎」
これまた余計な事を言い出した東風に強めのデコピンをする。いらん事を‼︎
「竜胆、君?」
「そ、そういう事だけど、気にしないでいいって」
「そっか………ありがとう」
罔象は嬉しそうに微笑んだ。この笑顔が見れたなら、まぁいいか。
「とりあえず諸々こっちで処理はしといたよ。ただ、ここからが問題………」
いきなり真剣な表情になった鯨波さんに、僕は思わず心の中で身構える。
「と、その前に………これからする話、結構ヤバめだからね。彼女達どうする?今さらだけど」
本当に今さらだな。
けどたしかに罔象達にこういうのを教えすぎるのもどうかと思うしなぁ。
「私は、ちゃんと聞きたいかな。そうでなきゃ………」
「うん、アタシも」
「私もです」
…………こうなるのか。いや、何となく予想はしてたけど。
「はぁ、だとさ」
「いいの?」
「止めても聞かない。まぁ問題は無いよ」
「そうか………分かった」
鯨波さんは頷くと、話し始めた。
「まず結論から言うと…………この店を襲った木偶とかいうヤツ、殺されたんだ」
『ッ⁉︎』
鯨波さんの言葉にみんなが驚いた。
「まさか、りん兄何かしましたか?」
「いや、何も。僕はてっきり逃げられたものかと」
後一歩ってところでお店の窓が割れて、その隙に木偶は逃げた。それっきり見ていない。
「というか殺されたって、死因は?」
「刃物による出血死。ご丁寧にメッタ刺しよ」
鯨波さんはそう言って資料を一枚くれた。検死の資料かな?
たしかにこれによればそこら中を刃物で刺した事になる。目も抉って口も裂いている。
「私の部下がその男を探してたら、路地裏で見つけたの。今回の事もあって、公表はまだしてないけど」
殺された、ねぇ。
「誰かに恨まれて殺された、とかですか?」
東風が聞いてくるが、この状況を見たらたしかにそうだな。もしくは無差別の猟奇殺人だけど、それは薄いか。
こんな最低のヤツだ。恨んでる人は相当いるだろう。怨恨による殺人と考えるのが自然だ。
「ただ、それはちょっと妙だな」
「妙、って何が?」
「その時の状況だよ。ただの怨恨ってだけには思えない」
首を傾げる分の質問に僕は答えた。
「やり方が完璧すぎる。こんだけ刺して、木偶だって叫んだり抵抗したりしたはずだ。それなのに誰もその様子どころか声すら聞いていない。ましてや近くには鯨波さん達警察がいた。そんな状況でこんなにちゃんと出来るかな?」
「た、たしかに………」。
しかも資料を見る感じ、犯人を特定するための証拠が一切無い。死体が移動した形跡もない。
叫んでもバレない路地裏まで誘い込んだのか?
とても素人のやり方には見えないんだよな。
「もしかして………りん兄と同じ、殺し屋?」
「かもな。何でそんなのがメッタ刺しにしたかは知らないけど。それに死体を放置したのも気になる」
そこまで手際がいいなら処分出来たはずなのに、何で残したんだ?
あと、気になることがもう一つ。
「それに、やっぱり店の窓ガラスを割ったヤツが気になる。本当に助けるつもりだったのかな?」
もしかしたら木偶を殺したヤツが、自分が殺すために妨害したのかもしれない。
窓ガラスは銃によって割れた。素人が銃なんて持ってるかって話なわけで。
「それともう一つ。こっちは公表されてるんだけどね」
鯨波さんはスマホをイジると、僕に差し出した。それはネットニュースだった。
『一流財閥の不正発覚⁉︎御曹司は行方不明に』
そんな見出しで始まった記事だ。
内容はザックリ言うと、これまで木偶のやってきた事だ。サドイーター、新型のヤクを持っていた事と含めて、事細かに書かれている。
そして殺されたが公表されていない木偶は、行方不明扱いになっている。その父親は逮捕されたそうだ。
「アイツの悪事、全部公表されたのか?」
「あぁ、誰かがタレ込んだみたいだな。変じゃないか?このタイミングで」
たしかに、タイミングが良すぎる。もちろん僕は何もしていない。
木偶を殺したヤツの仕業か?やっぱり怨恨かな?
「「う〜ん」」
僕と鯨波さんは首を捻らせた。
まぁアイツはサドイーターの情報な知らないっぽいし、死のうが知った事ではないが、何かいいように利用されてる気がする。
「まぁ一応は丸く収まったって事かな。報告は以上。それじゃあ私は仕事あるから」
鯨波さんはそう言ってお店を出て行った。
「竜胆君はどうするの?」
「僕も一旦家に戻るよ」
やっぱり木偶を殺したヤツの事が気になるし、少し調べよう。
「そっか………今日の夜、来てくれる?」
ほんの少し寂しそうにした罔象は、期待するように僕を見てくる。
「もちろん。コーヒー、楽しみにしてるよ」
「うん………待ってる」
すると罔象はギュッと抱きついてきた。嬉しくなって、僕も優しく抱き返す。うん、やっぱりこうしてると落ち着くなぁ。
「おーい、そこのバカップル。人目気にしろって言ってんでしょ、少し離れなさい」
目の前には呆れたように肘をついて目を細めた東風と分が。
しまった、つい無意識に。
「あの、ちょっと質問なんですけど」
僕の隣を歩く東風がそう言った。
あれから解散した僕は、東風と一緒に歩いていた。途中まで道一緒だからな。
分は買い物があるからと分かれた。本当頼りになる。
「何?」
「あの木偶さん、でしたっけ?その人を殺したのが殺し屋なんですよね?」
あのなぁ、往来で殺し屋とか言うなよ。まぁいいや。
「そうだな、サドイーターのこともある。あれを流したヤクザが口封じに始末したって可能性もなくは無いけど、タイミング的にたぶん殺し屋だな。それが?」
「だとしたら、その人に頼んだ依頼人がいるはずですよね?そこから何か分かりませんか?」
「あぁ、そういう事………」
たしかにそういう事も出来なくはない。ただなぁ………
「今回は難しい。アイツは個人から団体まで、あらゆるところで恨みを買ってる。それこそ怨恨によるものなら、絞るのは難しいな」
何ならそれらの人達が力を合わせて、なんて事もあるわけで。本当にめんどくさい。
大体色々とタイミングが良すぎて………
ん?ちょっと待てよ………まさか………
その瞬間、僕の額から冷や汗が流れた。僕はそれも気にせずにスマホを取り出す。
「りん兄?地図アプリなんて開いてどうしました?」
「すごい嫌な予感がするんだよ。ちょっと静かに」
僕はスマホ上の地図に条件を打ち込んでいく。
ここから、このくらい。すると…………ここか‼︎
まさかとは思う、でも………
僕はスマホをしまうと、罔象が直してくれたトレンチコートを着て右へ走った。
「えぇッ⁉︎ちょ、りん兄どこ行くんですか⁉︎」
街の中にある雑木林。その中に黒いパーカーを着た若い男が、その場に座りスマホでゲームをしていた。
そのパーカーは、裏路地で木偶を殺したヤツのパーカーとそっくりだ。
「これで……こうして……よし撃破!………ふぅ、さてとドロップアイテムは………」
そんな彼に近づく一つの人影。男はそれにすぐ気がついた。
「おっ、ようやく来ましたか」
男はスマホをしまうと立ち上がった。その人影と向かい合う。
「さてと。あなたの依頼通り、酢漿草 木偶を殺しました。疑うのなら、証拠写真でも見ますか?」
「い、いえ………」
「そんな怖がらないでくださいよ。あなたには何もしませんから………ちゃんとお金を払ってくれれば、ね?」
男は人影に近づいた。人影がたじろぐ。
「まぁ一気に払え、ってのが無理なのは察してます。連絡した通り、少しずつ払っていただければそれでいいですよ」
「はい………とりあえず、三万円だけ………」
人影は財布から一万円札を三枚抜き取ると、男に手渡そうとした。
その時
「待て‼︎」
奥の方から人が二人走ってきた。それは連枷 竜胆と橡 東風だ。
竜胆は息を整えながら、男を睨む。
「あなたが木偶を殺したヤツ、って事でいいんですよね?」
今度は人影の方をジッと見た。人影は驚いて後ずさった。
「そんで、お前がコイツに木偶を殺すよう依頼してたんだな………分」
その人影、雛罌粟 分は後ろめたそうに顔を背けた。
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