「
「春休みの間にお前がウチに来て、さらに今回の一件、これらが重なったのが気になってね。もしかしたらと思ったんだ」
だからスマホの地図アプリで『Cafe Red Poppy』から僕達が出て行った時間で、尚且つ歩きで行けて目立ちにくい所を探した。
その中で一番可能性が高かったのがここだ。
「誰かに
自分の家族や友達を殺されて、姉に深い傷をつけた。動機としては充分すぎる。
「お前はそこにいるヤツに木偶を殺すよう依頼した。その関係でこの街に来る必要があった。だからウチに来たんだな」
「うん………この人に、この街にしばらく滞在してろって言われて………」
意図は分からないけど、
「どうやってコイツに依頼したんだ?そう簡単に出来ることじゃないはずだけど?」
「アタシの学校の先生が………前にこの人に依頼してて、たまたま相談したら、教えてくれた………」
その先生も余計な事してくれたもんだ。生徒になんて事教えてるんだよ。
「
分は首を横に振る。コイツの独断だったのか。
「何でこんな事したんだよ。裏社会ってのは、お前が簡単に手を出していいようなところじゃないんだ」
「分かってるわよそんな事‼︎でもッ………でも、アイツが………アタシの大切な人達を傷つけたアイツが、許せなくて………」
分は顔を伏せた。
まぁ分にあんまり問い詰めても仕方ないかな。僕はパーカーの男の方を向いた。
見た感じ歳は僕達とあまり変わらなさそうだ。こんな歳で裏社会に………って僕もか。
真っ黒なパーカーを着た男は、口元を押さえて笑っていた。
「ヒッヒッヒ………まさかこんなにも早く見つけるとは………少し予定を早めて正解でしたか」
コイツ………僕達がここに来る事を予想してたのか?
「それはどうも。あなたが木偶を殺した人、でいいんですよね?」
「まぁね。連枷 竜胆さん………いや、DEAD SURVIVORさん」
「ッ⁉︎………そうか、あの様子を見てたら………」
おそらく窓を撃って壊したのもコイツなんだろう。その時に様子を見てたんだから、知ってて当然だ。
「いや、もっと前から知ってましたよ。といっても情報が流出してるわけではないので安心してください」
「ん?どういう事です?」
「何か文化祭の時もこんな感じのスリがいたような………」
後ろで東風がボヤいているが、僕も同じ事を思った。あの時といい、何で本名までバレてんだよ。
「スリ?………あぁ、あの貧民街の人ですか?あの人は情報通ですけど、それで商売はしてませんからね。知られても心配する必要はありませんよ」
「それで、何故あなたは知ってるんですか?」
「それは…………まぁこっちにも色々ある、ってんでとりあえず納得してもらえれば助かるんですが」
たしかに仕事の事情を聞くのはマナー違反だ。でも、分が絡んでるなら話は別だ。
「あなたは、殺し屋なんですか?」
「はぁ………またこれか。違いますよ。僕は『復讐屋』です」
復讐屋………なるほど、死体がメッタ刺しにされてたのは、復讐の一つだったのか。
「いやぁ、それにしても名高いDEAD SURVIVORさんに会えるとは、幸運な事もあるもんですねぇ」
「そんな事はどうでもいいんです。あなたには聞きたいことがある。東風、分を」
「は、はい」
どこか飄々とした態度に、僕の中での警戒度はさらに高まる。
東風が分を退がらせるのを確認すると、万が一何があってもいいように、懐の刀にだけは手を伸ばしておく。
「ちょっとちょっと、そんな警戒しないでくださいよぉ。僕はただ、仕事に対する対価を貰おうとしただけ。何か問題あります?」
「それだけに問題はありませんよ。でも、これまでで変なところはあります。返答によっては………殺します」
僕は短刀を引き抜いた。
今回のことでみんなそれぞれ傷ついた。その要因が一つでもコイツにあるなら、許すつもりはない。この場で殺す。
「クックック、いいねいいね、面白い面白い………っと、失敬。怖い怖い」
復讐屋は言葉では怯えてても、どう見ても楽しんでいる。笑い声が漏れてる。
「初めに言っておくと、僕だってあなた相手に喧嘩売るほど馬鹿じゃないですって。だから今のところ敵意はありません。というわけで、後ろのお二人もそんなに怯えなくていいですよ?」
僕の後ろでは東風が分を抱いて、警戒心満々で見ている。逃げないだけ立派だよ。
「まぁいいや、それで、質問って?」
「何で木偶の死体を残したんですか?処分しようと思えば出来たはずです」
「それかぁ………まぁ簡単に言えば、あなたと会うためですよ」
「何?」
僕と、会うため?
「どういう意味です?」
「そのまんま、あなたと接触したかった。といっても、本当に接触したかったのは僕じゃなくて父さんなんですけど」
「そのために死体を残した。会うための手がかりとして?」
「ふふっ、察しが良くて助かりますよ」
コイツの父親?何でそんなヤツが?
「あなたの父親も復讐屋なんですか?」
「いや、表社会の割と勝ち組」
そんな人間が何で裏社会の殺し屋の子供に会いたがるんだよ。
「端から説明してくれませんか?目的も分からないヤツに、これ以上分を関わらせるわけにはいかないので」
「いや、それとこれとは話が………まぁいいや。分かりましたよ」
男は近くの木に寄りかかった。
「あなたの持ってる短刀、誰か貰ったか覚えてますか?」
「短刀、ってこれか?」
僕はコートから短刀を取り出した。
「そういえば私も聞いた事無かったですね。誰から貰ったんですか?」
東風が後ろから聞いてくるが、あれ貰ったって言えるのかなぁ?
昔まだバタフライナイフで殺し屋をしていた時だった。
とある仕事を請け負って殺し終えたところに、一人のおじさんがやって来たのだ。ベロベロに酔っ払って。
死体の処分も終わってたのでどうしたもんかと思っていると、そのおじさんは僕に近づいてきた。
『お前面白いじゃ〜ん!これやるよ〜!』
そう言って渡されたのが、この短刀だ。
いきなりこんなもの渡されて、何が何だか分からない僕を置いておじさんはフラつきながら歩いて行った。
わけが分からなかったが、特に大した細工もなくて使い勝手もいいので今も使っている。
「………何ですかそれ?」
「いや本当なんだって」
変な話なのは自覚してるが、本当の事だ。
「まさか、あの人があなたの父親?」
「そういう事。んでその人、分さんだっけ?彼女から依頼を受けた時に、父さんからついでにあなたの様子も見てこいって言われたんですよ」
「ちょっと待ってください。あなたの父親は復讐屋じゃないんですよね?何で分の依頼の事知ってるんですか?」
「僕に聞かないでください。離れて暮らしてるはずなのに、ホームページ勝手に覗かれてるんですよ」
この人のお父さんはクラッキングでも出来るのかな?
「ちなみにあなたのその名前も、父さんがつけたものですよ。ある日電話でね『ガキの殺し屋に刀やって名付け親になってやったぞ〜』って酔いながら言われたんで」
そういえばこの厨二くさい名前がついたのも、刀を貰った辺りだったな。たしかネットで広まってたんだっけ。
とにかく、僕のことを知ってるのはその父親経由ってことか。
「あなたの父親はそんな事して、何がしたかったんですか?」
「さぁ?昔から面白ければ何でもやる人ですから。面白半分とかストレス発散とか酔った勢いとかで裏社会に首突っ込んで、テロリストの基地爆破したり殺し屋の仕事手伝ったり、そんな事ザラにやる人だからなぁ」
だいぶ頭イカれてるのは分かったわ。
まぁ自分の子供が復讐屋やってるのに、止めるどころか悪ノリしてる時点でなんとなく察してたけど。
とにかく、それで分を僕の所に泊まるよう仕向けたのか。そうすれば僕が勘づくと思って。
というか僕と分が知り合いなのも知られてるのかよ。
「それじゃあ木偶の行動とかは?」
「あれは僕も完全に予想外ですよ。あなたが来なかったら、僕が行くつもりでした」
そこのタイミングは偶然だったのか。まためんどくさい。
「父親とはいえ、何故従ったんですか?」
「そしたらお小遣い増やしてくれるってのが一つ。もう一つは、僕自身あなたに興味があったからです」
またこんなのかよ。文化祭の時もそんなハッカーがいたな。
「そろそろいいですか?その人に払うもん払って欲しいんですけど。あくまで仕事なんで」
復讐屋はそう言って手を出した。
たしかに、依頼をした以上それが当たり前だ。しかしそれと同時に、これ以上分をコイツと関わらせたくないという思いがある。
それにここでお金を払ったら、分は完全に裏社会に足をつけた事になる気がする。それは、嫌だな。
…………そうだ!
「なぁ。つまり、あの時窓ガラス割ったのはあなたなんですよね?」
「まぁ、そうしないと僕が仕事出来ませんでしたから。それが?」
「それなら弁償代払ってくださいよ。それと今回の事について黙ってやるんで、口止め料も」
僕の隣で東風と分がポカンとしている。向こうが金の催促をするなら、こっちもするまでだ。
コイツは僕が警察と繋がってるのも知ってるはずだ。それなら簡単に隠蔽出来ないのも分かるはずだ。
「ちなみに僕もあなたに撃たれてるんだけど、それは………」
「あの場合は当たり前ですよ」
「…………なるほど、いくら?」
「二十万」
「チッ!」
復讐屋は軽く舌打ちする。
これくらいの値段は予想がつくんだよ。料金ちょっきりにしただけ良しにしてもらおう。
「はぁ、はいはい分かりましたよ。僕もあなたに会えればそれで良かった。それじゃあその人の料金はチャラでいいですよ」
「だってさ、良かったな」
僕は分にお金をしまわせた。これにて一件落着だ。
「それじゃあ、僕はこれで」
復讐屋はそう言って僕の隣を通り過ぎようとした。そして、僕にしか聞こえない声で呟く。
「守れよ」
「…………あぁ」
短く言葉を交わすと、復讐屋は雑木林を出て行った。アイツ、悪いヤツじゃないのかもな。
「さてと、僕達も帰るか。………って、どうしたんだよ?」
僕はさっきから一言も発さずに、ただ俯いている分に声をかけた。
「だって………結局、全部竜胆に頼っちゃったから。アタシ何も出来なかったし、むしろ迷惑かけて………」
そういう事か。まぁ面倒ではあったけどな。
「別に僕が事情知らなかっただけで、知ってたら僕が殺してた。どうあったって僕が動いてたんだから気にしなくていいよ」
事情さえ知ってたら、あんなクズ、頼まれなくたって殺してた。
「でも………」
「たしかに、迷惑だったよ。でもそれだけ罔象の事思ってたんでしょ?その想いは絶対無くして欲しくないんだ。分の取り柄なんだしさ」
その強い想いと行動力は、今回のことで僕も見習いたいと思った。やった事はアレだけど、僕は尊敬する。
「それに、それが分の正しさなら………僕がいくら振り回されたって、文句言う権利はないよ。嫌ならぶつかる」
「竜胆………」
「まぁこれに懲りたら、もうこんな事はしない事だな。ほら、帰ってご飯作ってくれ………あと、笑顔見せてよ」
僕がそう言うと、分は少し俯いて顔を上げた。
「………うん。ありがとう、お義兄ちゃん♪」
そう言って分は僕の腕に抱きついてきた。その笑顔は、いつもの分だった。ちょっと安心する。
けど東風いるんだからやめろよ!
そう思って東風を見ると、東風はその光景を見てワナワナと震えていた。
「な、何ですか‼︎いきなり抱きついて‼︎それに、お、お義兄ちゃんって‼︎」
「えぇ〜、だってお姉ちゃんと竜胆結婚したなら、アタシ義妹でしょ?ちゃんと妹だよ!」
「まだ結婚したわけじゃないんですから、それは変ですよ‼︎」
「いいじゃん!アタシは竜胆の家族なの」
そうか、たしかにそうなるな。妹が二人かぁ………また面倒な。
よく分からない事でギャイギャイ言い始めた二人を、僕は呆れながら見ていた。
『守れよ』
「あぁ、やってやるよ」
僕の新しくできた家族達のためなら、この命かけられる。それだけの価値がある。
もう二度とあんな事は起こさせない。この手をどれだけ汚しても、どれだけ身を削っても側にいて守る。
それが僕の正しさだから。理由はそれだけ。
こうして数日後に分は帰り、僕の忘れられない春休みは終わりを迎えた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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