帰り道に女の子が倒れているのを見つけた僕達は、急いで僕の家に運び込んだ。
身体の汚れをある程度拭いて、服も僕のものを貸した。サイズはえらくブカブカだけどね。
それで今は僕のベッドに寝かせてある。
僕と東風はその様子を近くで見ながら、一息ついていた。
「これで問題ない、はずだがな」
「りん兄、この子は一体………?」
「僕も知らない。今警察のデータベースにお邪魔させてもらって調べたけど、この近辺でこんな特徴の子供は行方不明にはなっていない」
もっと遠くならいるにはいたけど、時間的な問題もあるしたぶん違うだろう。
もしくはまだされていないか。こっちはちょいちょいデータを監視すれば分かることだ。
「身元が分かるようなものは無し。少なくとも、何か分かるのはこの子が目を覚ましてからだな」
「そう、ですか………」
東風は眠っている女の子を見た。
やはり目を引かれるのは特徴的な金髪だ。顔の作りからして間違いなくハーフなのは分かる。歳は五、六歳
しかし逆に言うと今分かるのはそれだけ。まぁ今は軽く調べた程度だから、もう少し調べてみるけど。
この近辺の小学校の生徒のデータも見てみたけど、こんな子供はいなかった。他所から来た子なのかな?
今の状態からじゃ何も分からないな。
「そもそも何であんな所に子供が倒れていたんでしょう?」
「さぁな。近くの監視カメラ映像で、地面についてた足跡は極力追ってみた。でも路地の近くの茂みの所で見えなくなって」
この子の状態からしてあんまりいいことがあったとは思えない。まるで何かから逃げて来たような様子だった。
「こんなに小さな子が、何であんな状態で………」
「それは本人に聞くしかないな」
もっとも、この子が何か知っていればな。
「そういえばりん兄、あの時いた人の気配は一体何だったんですか?」
「悪い、はっきりとは見えなかったんだ。でも確実にこの子を見ていた。あの状況で野次馬って感じにも思えない」
「それじゃあ何で………?」
「それもこの子に聞くさ。ただ、ちょっと気になることがあった」
僕は東風をパソコンの所まで引っ張っていく。そしてさっき行方不明者を調べるついでに調べた、もう一つのデータを見せた。
「これは?クラッキングしてるんですか?」
「まぁね。これは警察のデータベース………っと、これだ」
それは今日この辺りで起きた事件をまとめたものだった。
「実は今日の正午、僕達がこの子を見つけた所から二十キロ辺りでスピード違反のめちゃくちゃな運転をしていた車を発見。その車はあの子が倒れた方向に向かってた」
「なるほど………でも、それが?」
「その車、ナンバープレートを偽装していたみたいでな。まだ発見されていないんだ」
「え?」
この車は人気のない所に消えると、それ以降見つかっていない。ナンバーの偽装、こんな事するヤツの素性は限られてくる。
「それだけじゃない。その車が消えた近辺と、この子の足の長さと健康状態を元に速度を大雑把に求めて、移動範囲を調べると………見てみろ」
「あ!私達が見つけた所に被ってる」
まさかとは思うけど、あの子この車に乗ってんじゃないかな?それで降りるか逃げるかして、あの場に倒れ着いた。
「もちろんそうじゃない可能性が高いし、この範囲だって大雑把すぎる。けど、可能性としてはあり得る」
「そんな………」
とにかく状態があれだ。まともな事があったとは思えない。
「とりあえずもうちょっと調べる範囲を広げるよ。そうすれば何か分かるかも」
するとベッドの方からモゾモゾと何か蠢くのが見えた。
「⁉︎ りん兄!」
「あぁ」
僕は椅子から立ち上がると、ベッドに向かった。
すると眠っていた女の子が、ゆっくりと目を開けた。ぼんやりとした目つきで、僕の部屋の全体を捉える。
そして最後に僕達の目があった。お、目は茶色だ。
僕達を捉えると、その子の表情はたちまち引き攣った。
「ヒィッ⁉︎」
僕達を危険だと認識したのか、女の子はビクッと跳ねて後退した。そりゃそうだよな。
こんな小さな子に怯えられると地味に傷つく。
「あぁ、落ち着いて。僕達君を攻撃するつもりはないから。君は倒れてたんだ、だからここに運んだの」
簡潔に状況を説明すると、女の子は少しだけ落ち着いてくれた。とりあえず逃げる事はせずに止まってくれる。
「もう一度言う、僕達は君を攻撃するつもりはない。ただ見た感じ何かあったのは分かるんだ。だからいくつか質問に答えてもらいたい。いいね?」
「…………う、うん」
女の子は戸惑いながらも頷いてくれた。話の通じる子でよかった。
「まず、君の名前は?」
「………水鶏………鴨舌草 グレース 水鶏」
やっぱりハーフか。イギリスかアメリカのハーフかな?
「親は?どこに住んでるの?」
「お母さんとお父さんは………いない………」
「え?………あぁ、もしかして幼児施設………たくさんの子供達と一緒に暮らしてるとか?」
すると水鶏は小さく頷いた。なるほど、そういう事か。
「その家どこか分かる?」
今度は水鶏は戸惑って首を横に振る。まぁそうだろうとは思ったよ。
小学生に入るか入らないかってくらいの子が、自分の住所を正確に言えるわけがない。
試しにこの近辺の幼児施設を調べたが、多すぎたので一旦やめた。
「何で自分が倒れてたとかって分かるかな?」
結局肝はそれになる。どうもキナ臭い感じがするからな。
「え、えっと………お外で遊んでて………そしたら、怖い人達に車に乗せられて………でも途中で止まったの………車が開いたから、私逃げて………」
縦横無尽に全力で走った結果、疲れ果てて倒れたってわけか。
「それっていつの話?」
「たぶん、今日の朝………」
変だな。本当ならすぐに行方不明届けが出ると思うけど………何で出ていないんだ?
「あの、りん兄………」
「分かってる」
僕はパソコンを操作して、さっきのスピード違反の車の画像を印刷する。
「ねぇ、乗せられた車ってこれのこと?」
僕は水鶏に印刷した画像を見せた。これでそうなら楽なんだけど………
しかし予想に反して、水鶏は首を横に振った。
「………ううん、これじゃない」
「ッ………そうか」
となるとこれは無関係、かな?
「………あ、でも、これ見た」
「何?」
水鶏の予想外の言葉に、僕は顔を上げた。
「私の乗ってた車が止まった時に、近くにあった、と思う」
「近くに………?」
何かの待ち合わせ?でも、この車と水鶏が関係あるのは間違い無さそうだ。
けど、何でこんな子供を誘拐したんだ?いや、子供だから誘拐は当たり前か。
「なぁ、君を連れて行った人達の事って覚えてる?」
「………ごめんなさい。顔隠れてて、分からなかった」
「そうか………そうだよな」
誘拐するならそれくらいはするか。
「りん兄、どうしますか?この子、警察に預けますか?」
「うーん、ちょっと待ってくれないか」
どうも引っかかる。何でこの子は逃げられたんだ?
人達って事は複数人。この暴走車の人達も含めればそこそこはいた。それなのにこんな小さな女の子一人捕まえられないなんて。
それにあの人影………どうも気になるな。
「東風、この子しばらく預かってって言ったら拒否るか?」
「え⁉︎預かる⁉︎何でですか?」
「予想だけど、これたぶんただの誘拐事件じゃない。下手に警察に渡すのはやめた方がいい」
やり口が荒っぽい割に、不透明な事が多すぎる。しばらく様子を見た方がいいかも。
「もちろん僕がこの子の身元調べて、安全って分かったら返す。だからそれまで………ダメか?僕じゃ子供の面倒なんて見られない」
「う〜ん、私の一存じゃなんとも………ちょっとお母さんに聞いてみます」
「分かった、ただこの子の事もある。悪いけど年魚さんに来てもらえるように話してくれ」
「はい!」
それから東風は年魚さんに連絡し、すぐに年魚さんは来てくれた。
僕達は水鶏の説明をして、しばらく預かる事を頼んだ。
当然答えは………
「何言ってるの!そんな事出来るわけないでしょ!」
ですよねぇ。
「東風だけでも大変なのに、いきなり増えるなんて無理よ」
「お願い!この子を警察に届けるのはマズいの!りん兄が身元調べてくれるって言うし、ちょっとの間だけだから!」
「あのねぇ………大体その、警察に届けられない理由って何?身元調べるって、どうするの?」
「それは………」
東風は言葉に詰まってしまった。そりゃそうだ。理由なんて無い。ただの勘なんだから。
まさかクラッキングで調べますとは言えるわけない。年魚さんは僕の事知らないし。
それなら………
「分かりました。それならこの子はウチで預かります。代わりにしばらく東風を貸してくれませんか?」
結局のところ僕一人で子供の世話なんて無理だから頼んでるのだ。東風がいればいいだろ。
「そうは言ってもねぇ………」
「この子を危険な目に遭わせたくないの!二人でちゃんとお世話するから………お願い!」
渋る年魚さんに、東風が食い下がった。年魚さんはうーんと悩むと、小さくため息をついた。
「はぁ………ゴールデンウィーク中………」
「え?」
「この子を保護する期間よ。ゴールデンウィーク中だけ。今年は五月頭からなんだし、五日間ね。東風や竜胆君だって、学校あるんだし、始まるまでの間」
「お母さん………」
「それまでちゃんとこの子のお世話して、始末をつけなさい。いいわね?」
「うん!ありがとう!」
年魚さんの許可に、東風は嬉しそうに頷いた。五日間………まぁ充分か。
こうして僕と東風、水鶏の三人の生活が始まった。
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