※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第143話 布団

 それから東風と水鶏がお風呂から出てきた後、僕も入りすっかり真夜中となった。と言ったも八時だけど。

「ふわぁ〜」

 僕と一緒にソファーでのんびりしていた水鶏が大きなあくびをする。このくらいの歳の子なら、そろそろ寝る時間だな。

「水鶏、そろそろ寝るか?」

「うん」

 よし、それじゃあ布団敷くかな。

 寝る場所は東風と話し合った結果、布団で東風と水鶏が寝ることになった。

「東風、水鶏がそろそろ寝るとさ」

「分かりました。布団ならリビングの端に用意しておきました」

 ちょっと洗濯物を干し終えた東風が、リビングに戻りながら言ってきた。

 本当に気が効くねぇ。なんだかんだで東風は、水鶏のお世話に張り切っているみたいだ。

「それじゃあ布団敷くから、水鶏は東風……ママと一緒に寝るんだよ」

「? パパは一緒じゃないの?」

「は?いや、布団一枚に三人じゃ狭いって。さすがに無理あるでしょ」

「そっか………一緒じゃないんだ………」

 水鶏はあからさまにしょぼんとしてしまった。え?そんな事したいの?

「いいじゃないですか。三人で寝ましょうよ」

 すると東風が手を叩いて言ってきた。

「だから、布団一枚に三人じゃ狭いって。この時期に寝苦しいのは嫌だろ?」

「うーん、布団もう一式ありませんか?りん兄なら用意してそうですけど」

 お前は本当に察しがいいな。たしかに布団もう一式あるよ。ただ予備用というわけではない。

 よく分からないけど、春休み終わって分が帰るときに『アタシが次来る時までに布団もう一式買っときな』と言われたので。

 僕が罔象と一緒にいる時に何かあったのかな?一緒にいたはずの東風に聞いても答えてくれないし。

「二枚あれば大丈夫じゃないですか?」

「それもそうか………それじゃあ、三人で寝る?」

「うん!」

 そういうことになった。まぁ東風達が風呂入ってる間にゲームは終わっちゃったし、いいか。

 僕は布団をもう一式引っ張り出すと、リビングに既に東風が敷いておいてくれた布団の隣に敷いた。

 水鶏が真ん中に寝るようにして、僕と東風が左右に寝る。いわゆる川の字ってヤツだ。

 水鶏は布団の間になってしまうので、少し僕の方に寄ってもらえば大丈夫。

 それにしても、水鶏はともかく東風と一緒に寝ることになるとは。まぁ過去に何度かあるからいいんだけど。

 布団に入ると、これまでの疲れのせいか水鶏はすぐに寝てしまった。僕と東風の間で可愛らしい寝息を立てる。

「すぐ寝ちゃいましたね」

「そりゃあ、誘拐されて倒れてたわけだからな。疲れも溜まってるだろ」

 東風は寝ている水鶏の頭をそっと撫でた。たった数時間なのに、すっかり親子のようになってしまっている。

「そういえば、あれから水鶏ちゃんのこと何か分かりましたか?」

「あぁ、それなんだけどな………」

 僕は水鶏がちゃんと寝ている事を確かめると、話し始めた。

「家とかはまだ分かってない。例の車の移動ルートは分かったから、明日色々確認しようと思う。それで………」

「? それで、何ですか?」

 言い淀んだ僕に、東風が首を傾げる。

「今回の一件、もしかしたらヤク絡みかもしれないんだよ」

「ッ⁉︎ ヤクって………麻薬、ですか?」

「あぁ、水鶏がそれっぽいものを見たんだと」

 何かの見間違いの可能性もあるけど、使用してるところまで見てるらしいからな。可能性はかなり高い。

「それって………薬物中毒者が誘拐、とかですか?」

「うーん、その可能性もなくはない。ただ、量がそれなりにあったみたいだから、個人のやり取りとも思えないんだよな」

 どこかのヤクザか何かの可能性が割と高い。

「水鶏ちゃんが………何で?」

「それは分からない。けど、明らかに水鶏を狙っての事だったのは間違い無いな。となると、これからも狙ってくるかも」

 まさか何の意味もなく子供を攫うとも思えないしな。何か水鶏を攫う理由があったんだ。

 

 

 

「そんな………それじゃあ、もし水鶏ちゃんが捕まっちゃったら………」

 

 

 

 東風は水鶏を見た。身体を震わせて拳を握る。その表情は青ざめて暗いものだった。

「そんなの………絶対ダメだよ………あんな事………」

「東風………」

 僕は腕を伸ばして東風の頭を優しく撫でた。昔のように優しく。

「ッ!………りん兄………ごめんなさい。つい………昔の、お父さんのことが………」

「仕方ないよ。大丈夫だから」

 僕はそのまま東風の頭を撫でた。

 いくら人生が変わったからと言って、昔の事が忘れられるわけでは無い。むしろ時折思い出すからこその恐怖もあるだろう。

 僕としては、それは色々と思うところがあるわけで。

「絶対………水鶏ちゃんを守らないと」

「あぁ、そうだな」

 僕だって水鶏を渡すつもりはない。絶対に守り抜く。

「そういえば、この前の一件でりん兄が追ってた薬物がありましたよね?サドなんとかって」

「サドイーターな。正直その可能性もあるんだよ。となると、警察に頼らなくて正解だったかもな」

 警察の中には、サドイーターの売人と繋がってヤツらを守っているヤツがいる。しかも割と上層部の人間という噂だ。

「まぁ裏社会の人間なんて、警察と連んでるのが大半だけどさ」

「りん兄がそれ言いますか?」

 たしかに僕もだけどね。

「こうなったら、手早く解決した方がいいかも。どこかに預けたら、どの道この子は捕まる」

 バレにくいここにいる内に何とかしないと。

「りん兄………ありがとうございます」

「別に、僕にだって関係ある事だしな」

 僕と東風は水鶏を見た。どこか嬉しそうに寝ている。

 とりあえず、この笑顔を守るかな。一応、家族だし。

 僕はそう思って横になった。

 

 

 

「………兄、りん兄、起きてください」

 僕は何かに体を揺すられて目を覚ました。目を開けると、そこにはエプロン姿の東風がいる。

 あ、そうだ………昨日から東風が家に泊まってるんだった。

 何だろう、この前は分で今回が東風、もっと言えば昔には罔象ともこんな事があった。すごいマズいことしてる気分だ。

 これは浮気にはならない、よな?

 っと、そういえばその原因はどこだ?布団にはもういない。

「水鶏ちゃんはもう起きてるんで、早く着替えて来てくださいね」

 もう起きてるんだ。早起きだねぇ。

 僕は自分の部屋に戻り着替えると、テーブルに向かった。すると既に水鶏が席に着いている。東風はキッチンにいた。

 水鶏の服、昨日とはまた違う。東風のヤツどれだけ持ってきたんだ?髪も整えてやったのか、サラサラの金髪には寝癖一つない。

 テーブルには東風が作った朝食が並べられている。

「パパお寝坊さん?」

「そうだね。今度から水鶏ちゃん起こしてあげて」

「うん!」

 おいコラ、余計な事させんな。何でゴールデンウィークに早起きせにゃならんだか。

「もうちょっとゆっくりしててもいいんじゃないか?」

「もう七時ですけど」

 僕大体十時くらいに起きるんだが。今日は仕事も無いし。

「それに水鶏ちゃんのことも調べるんでしょう?それなら早起きしておいて損はないですよ」

 まぁそれもそうか。動きはなるべく早く取りたいし。

「りん兄、飲み物ココアでいいですか?」

「お、おぉ………」

 分もそうだったけど、何でコイツらは人の生活に突然踏み込んでもこんなにも早く順応するのか。

 使える人間がいるのはいい事だけど、ここまで慣れられると逆に拍子抜けだ。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 僕はココアを受け取ると、席に着いた。東風も席に着く。

「それで、結局今日は何するんですか?」

 朝ご飯を食べ始めた東風が、僕に聞いてくる。

「その前に一つ。水鶏」

「何?」

「攫われた時、直接車に押し込まれたのか?それとも途中までは別の方法で連れて行かれた?」

 昨日までの話を元に、どうもこの事件には何かしらの大きな目的があると思う。

 その一つがこの誘拐である以上、やり方だって相当練られているはずだ。

 すると水鶏はパンを食べる手を止めて、首を傾げた。

「うんと………本当はよく覚えてないんだ。捕まったと思ったら眠くなって………それで、気がついたら、車の中に………」

 やっぱり眠らされてたか。

 住宅街で誘拐なんて、本来は目立つ。だから抵抗されて騒ぎになるのは避けたいはずだ。

 それなら一旦眠らせる。よくある手段だな。

 となるとルートの可能性も大幅に広がってしまう。何せ車の通る道以外の可能性もあるからな。

「とりあえずある程度の道は目星つけといたから、その辺を見てみようと思う。もしかしたら何か思い出すかもしれないし」

「はい、分かりました」

「? どういう事?」

「えっとね………ちょっとその辺お散歩しようって事なんだけど、いい?」

「うん!みんなでお散歩?」

「そうだよ」

 東風と水鶏が仲良く話しているのを見て、やっぱり違和感が拭えない。

 何というか東風がこんな風に人と接するのを見るのが初めてなんもんで。

『ごちそうさまでした』

 食事を終えた僕達は、早速出かける事にした。

 ゲームのクエストとか済ませたいから、もうちょい後でも………と思ったけど、楽しそうに準備している二人にそんな事言えるわけもなく。

 はぁ………世の中の親ってのは大変なんだなぁ。

 っと、そうだ………

「東風、これ持ってな」

 僕は自分の部屋から持ってきた白い箱を東風に渡した。

「え?これって………私がクリスマスの時に返した………」

「今のお前には必要かもしれないからな。持っときな」

「………分かりました」

 東風は箱を受け取ると、バッグの中に入れた。

「ママ?どうかしたの?」

「ううん、何でもない。水筒とハンカチ持った?」

「うん、大丈夫だよ!パパ行こう!」

「はいはい、行くから待っててな」

 こうして僕達のお散歩(一応)が始まった。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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