「ぐはぁッ‼︎」
「ぎゃあッ⁉︎」
「うげぇッ‼︎」
目の前から襲ってくる濁酒組の連中を、僕は相手から奪ったナイフで斬りまくっていた。
放たれる弾丸をかわしながら、相手に近づき喉を斬り裂く。ここまでの人数だと流れ作業だ。
銃とか色々物騒なものは持ってはいるけど、この人達あんまり大したことないな。
ちょっと強い不良とくらいにしか思えない。こんなんでよく乗り込んできたな。
「オラァッ‼︎逃げてんじゃねぇぞ!」
虚宿さんはその身一つで突っ込んでいっている。そして武器を振るう相手に対して、素手で戦っている。
元々コイツらは
「よっ!っとぉ。おっと、ほい!」
虚宿さんの隣ではスリが部屋にあった刀を使って、濁酒組のヤツらを倒している。
といっても鞘からは抜かずに、そのまま突いたり叩いたりしている。まぁ使い慣れてないならそっちの方がいいだろう。
あのスリやっぱりそこそこ強いな。こういう場面にも慣れてるのか、淡々とこなしている。
僕はスリの近くに飛び込むと、まとめて五、六人ほどを一気に殺した。
「おぉ!さすが伝説級の裏社会専門の殺し屋!やるじゃないですか」
「別に、これくらい普通です。後虚宿さんいるのでその事は言わないでください!」
というかそんなにすごい事かな?よくある事だからあんまりそうは思わない。
足に力を入れて、強く踏み込んだ。とりあえず周りの目についたヤツを全員殺す。
喉を斬り裂くと、別の人の胸に刃を突き立てて軽く捻る。
そして引き抜くとまた別の人の目にナイフを突き刺し、奪った拳銃で後ろにいた三、四人を撃ち殺す。
「うひゃあ、おっかないですねぇ」
「そうですか?僕よりもおっかないの、アイツだと思うんですが」
「まぁ………今回のMVPは間違いなくあの人ですよね」
僕とスリはやや引き気味で部屋の奥の方を見た。
「んだよこの女!ぐはぁッ‼︎」
「めちゃくちゃだ!囲め囲め!」
「やめろ!そんなの意味が、ぎゃあぁッ‼︎」
そこではヤクザに囲まれた
突きつけられた武器も腕で軌道を逸らして余裕で奪い取る。ナイフの突きも腕を交差させて捻って奪うと、足を掬って倒す。
ついでに自分の作り出した波を使って威力を上げて敵の腕を捻った。股関節を柔らかく使って蹴り飛ばす。
さらに別の人の両耳を手で挟み込むようにして叩いた。倒れるのを横目で確認しつつ次の敵。
武器を奪った相手の気管を押さえて盾にすると、後ろから襲ってきたヤツの武器を片手で奪い二人まとめて首を捻らせて吹き飛ばす。
この間およそ二十秒弱。
「あれだけのことをあのスピードで………」
「まぁ本人からしたら怖い人が襲ってきて無我夢中なだけですけどね」
元々怖がりなヤツだ。危険が迫れば手加減なんか出来ない。内心はパニック状態だろう。
それであそこまでのことが出来る。それが東風のすごいところだ。
「おいおい、あの女バケモンかよ………そりゃウチの舎弟が全滅するわ」
ヤクザを倒しながら僕達と合流した虚宿さんもドン引きだ。
でもアイツの真価はここじゃない。それを見るには………
僕は持っていた銃で東風の近くにいたヤツを撃ち殺した。眉間の辺りを狙う。
「おい、他人の部屋で人を殺すなよ」
「いや、さっきからみんな………って、殺してるの僕だけか」
「今さら気がつきましたか」
でもこれでいい。
ある程度余裕の出来た東風は、ショルダーバッグから僕があげた白い箱を取り出した。攻撃を避けながら中身を出した。
「「なぁッ!」」
その中身にスリと虚宿さんが驚く。
東風が握りしめたのは一本のナイフ、それもカランビットナイフだった。
大きく曲がった刃や指を通すあなたが特徴の人を殺すためのナイフだ。
「ッ!」
東風はそれを両手で構えると、身体を揺らす。肩甲骨がゆっくりと回っていく。
そして一気に踏み込むと、ナイフで相手の腕を捻り蹴り飛ばした。別の相手の腕にも引っかけ、武器を奪うと同時に捻り倒す。
片手に持ち替えると、腹を突いてきた男の首を捕まえて喉元を柄で強く突く。
決して人は殺さないけど、かと言って手加減が出来るほどの余裕もない。ヤクザ達はバタバタ倒れていく。
「カランビットナイフって………堅気のガキにしちゃ随分と物騒なモン持ってやがるな」
「あなたがあげたんですか?」
「まぁ、そんなところです」
アイツが引っ越す時にあげたプレゼントだ。そこで一つ、約束をしたんだけど………
「さてと、僕達も終わらせましょう」
僕は東風の戦いを見ながら、握っている銃で後ろから襲ってきたヤクザを撃ち殺して言った。
「ぎゃあッ‼︎」
「ふぅ………これで全部、ですかね?」
「だな………って、部屋血塗れじゃねぇかよ」
それは知らん。アンタらの敵の血だ、処理はそっちで頼む。
「にしても、何で正面突っ切って来たんでしょうかね?」
「そりゃあ、警備はガラガラ、しまいにゃ舎弟が倒れてたらチャンスだとは思うだろ」
うーん、完全に僕達のせいか。申し訳ないな。
「東風、お疲れさん。終わったよ」
「はぁっ………はぁっ………そう、ですか………って、ひゃあッ‼︎部屋血塗れじゃないですか⁉︎」
「その一端はお前だからな」
テンパってやりすぎだっての。東風の周りには何人ものヤクザが倒れている。死んではいないけど。
「パパ?ママ?」
すると部屋の影にいた
「もう大丈夫だよ」
「うん!」
東風が近づくと、水鶏は走って東風に抱きついた。二人はギュッと抱き合う。
「冬青、ご苦労だったな。そこの二人も」
「いえ。それよりコイツらどうします?」
「死んだのは処分するとして………残りは情報聞きてぇから残しとくか。ったく、お前殺しすぎだ」
「あはは………すみません」
僕は平謝りした。つい癖で目の前にいたヤツら皆殺しにしちゃった。
「それじゃあこれで濁酒組が潰せるし、一件落着………っつーわけにはいかねぇか」
「そうですね………」
僕達の視線が水鶏に集まる。
「この子、どうするんですか?」
スリの発言にみんなが押し黙った。唯一わけが分からない水鶏は首を傾げる。
すると牛尾菜さんが口を開いた。
「俺達は今回、組の事情で水鶏を危険に晒してしまった。こんなんじゃおじいちゃん失格だ。俺達の口から水鶏をどうこうする意見は出せない」
「親父………」
「それに、俺はこの子に普通の生活を送って欲しくて、倅と縁を切った。そんな俺が今さら引き戻せるわけねぇだろ」
牛尾菜さんと虚宿さんは少し悲しそうな表情を浮かべた。
「となると、幼児施設に返しますか?」
「そう、なるか………けど、また攫われたら………ウチの組の敵は多い。無いとは言い切れないな」
まぁそうだよな。今回の事を受けて、その可能性はさらに大きくなった。
「それか、えっと………そこのお嬢さん。彼女が引き取るってのも、一つの手だ」
「え?………私が、水鶏ちゃんを?」
牛尾菜さんにいきなり話を振られた東風は焦って目を泳がせた。
「あぁ。負担を押し付けるようで申し訳ないが、少なくとも今回みたいな可能性は減らせる。君は強いみたいだし、水鶏だって懐いている。どうだろうか?」
東風はジッと水鶏を見た。
たしかに一番安全なのはそれかもしれない。
身も隠せて、水鶏も楽しく暮らせる。年魚さんだって事情を話せば分かってくれるかもしれない。
「東風、選ぶのはお前だ。これから水鶏をどうするか」
「わ、私は………」
東風は水鶏の髪をそっと撫でる。どうするべきか悩んでいた。
「ママ?」
その様子に水鶏が顔を覗き込む。
でも、僕には東風がなんて言うか、何となく予想はついていた。
東風は決心したように頷くと、水鶏に目線を合わせてしゃがんだ。
「水鶏ちゃん、大事なお話があるの。聞いてくれる?」
「う、うん………」
東風の真剣な表情に水鶏は頷いた。
「私は、これ以上水鶏ちゃんと暮らせないの。だから………これからは、ここが水鶏ちゃんのおうちになるんだよ」
『ッ⁉︎』
東風の答えに、僕と東風以外のみんなが驚く。
「ママ………ど、どういう事?」
「ここが水鶏ちゃんの新しいおうち。それで、あそこにいる人達が水鶏ちゃんの新しい家族」
「なんで?………ママは一緒じゃないの?」
「うん………ずっと一緒にはいられないの」
「ヤダ!私、もっとママといたいよ!」
水鶏が涙を浮かべて叫んだ。
東風はそんな水鶏を優しく抱きしめた。
「私もね………本当はもっと、水鶏ちゃんと一緒にいたいよ………やりたい事もたくさんあるの。でも………それをしちゃうと、ママは悪い人になっちゃうんだ」
そう言う東風の声は、どこか震えていた。
「ママが、悪い人?」
「うん」
東風は水鶏を離すと、牛尾菜さん達の前に立たせた。
「この人達はね、水鶏ちゃんを命をかけて守ろうとしたんだよ。水鶏ちゃんの事を大切に思って、一生懸命頑張ってたの」
「………」
そう言われて水鶏は牛尾菜さん達を見た。
「そんな人達から、水鶏ちゃんを奪うなんてやっちゃダメなんだよ。この人達は、水鶏ちゃんの事を大切にしてくれる『家族』なの」
やっぱりな………コイツならこうすると思ったよ。
「私は水鶏ちゃんの家族だよ。でもね、この人達も水鶏ちゃんの家族なの。ずっと昔から水鶏ちゃんの事を大切に思ってくれてるんだよ」
「わたし、を?」
「うん。だから、今度は水鶏ちゃんの番。自分を大切にしてくれた人達を、水鶏ちゃんが大切にしてあげるの」
「ママ………」
「自分の事を大切にしてくれる家族がいるのって、すごい事なんだよ。だから、ちゃんと隣にいないと、ね?」
「………ママとは、もう会えないの?」
「そんな事ないよ。そうだな………水鶏ちゃんが大きくなったらお泊まりに来てよ」
東風は水鶏の頭を優しく撫でた。
「だから、それまでここで家族を守ってあげて。ママとの約束、守れる?」
「………うん。分かった!おっきくなって、パパとママに会いに行く!」
「そっかぁ、楽しみにしてるよ」
東風と水鶏は再び抱き合う。
「だそうですよ。いいですか?」
「い、いや、それはいいけど………いいのか?」
牛尾菜さんは戸惑ったように呟いた。
「たぶん東風は、水鶏が羨ましいんですよ」
「羨ましい?水鶏が?」
「えぇ。アイツ、父親に暴力振るわれてて、お母さんも守る余裕無くて。だから、ほとんど一人で耐えてたんです」
僕といる時も辛いなんて言った事なかったな。今思えばよく耐えてたもんだ。
「だから水鶏が羨ましいんですよ。自分のためにこんなにも頑張ってくれる家族がいる、水鶏が」
「そうか………」
「水鶏を守るのは、難しいかもしれません。でも、大切に思うならちゃんと背負ってあげてください。出来る出来ないじゃない。守ってください」
僕が罔象と別れて落ち込んでた時に、東風は僕に似たような事を言ってくれた。そのおかげで今の僕がある。
大切な人がいて、その人のために頑張れるなら、側にいないと。
すると水鶏が東風に手を引かれてこっちに歩いてくる。そして牛尾菜さんの前で止まった。
「これから………よろしく」
水鶏は牛尾菜さんの目を見て言った。
「………うん、そうだな。こっちこそ」
牛尾菜さんはそっと水鶏の頭を撫でた。水鶏は東風と顔を見合わせて嬉しそうに微笑んだ。
「なぁ、お前さ」
事務所を出て外に出た僕に、虚宿さんが声をかけてきた。
ちなみにスリは襲ってきた濁酒組のヤツらの財布を全部取って帰った。さすがだなぁ。
「お前、
「ッ!………さすがに分かりますか」
「普通の高校生があんなに人殺し上手いわけねぇだろ。その他にも色々」
やっぱりかぁ。もうちょっと気を付ければよかったな。
「けどまぁ、あの女は違うな」
「東風が?その根拠は?」
「バ〜カ………あんなにいいヤツが、
「ですよね」
人の事を思いやれて、親身になれる。アイツはこの世界には向いていない。
「似てるんだよ。水鶏のお袋、昔の俺のダチに」
「水鶏のお母さんと友達だったんですか?」
「まぁな。ついでに水鶏の親父とも。俺とソイツら二人、後もう三人でよくつるんでた。親父の方は、お前に似てたな。のんびりした理屈っぽいヤツでさ。水鶏がお前達をパパだママだって呼ぶのも、近いものを感じたからじゃないか?」
そうだったんだ。それで二人の子供の水鶏の事で必死に。
「水鶏の事、よろしくお願いします」
「おぅ。組の立派な跡継ぎにしてやるよ」
「それはやめてください」
僕と東風は牛尾菜さん達に頭を下げて歩き始めた。
「パパ‼︎ママ‼︎またね〜‼︎」
後ろからする水鶏の声に、僕達は振り向いて手を振った。
その笑顔は東風にそっくりの笑顔だった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
評価、感想等ありましたら、ぜひよろしくお願いします。