※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第12章 日常と生活
第151話 疲れ


「があぁッ‼︎」

 人気のないひっそりとした森の中、男の断末魔が響き渡る。

 その男は地面に倒れていて、首からは血が流れている。

「ふぅ、これで終わりっと」

 男の隣で一息吐いた僕は、短刀に付いた血を払うと鞘に収めた。

 すると向こうから足音が聞こえてくる。

「お〜い竜胆、そっちはどう?」

 それは鯨波さんの声だ。木の影からその姿を表す。

「今終わった」

「ん、殺し屋殺しお疲れさん」

 僕は近くに生ってるビワの木から、実を一つ採って皮を剥いて食べる。

 もうビワが美味しい季節かぁ………っと、食べ過ぎに注意だな。

「それにしても意外だねぇ」

「何が?」

「お前がまだ殺し屋やってる事だよ。あんな綺麗な奥さん捕まえたら、もう来ないと思ってな」

 まぁ、たしかに普通ならそうするよな。でも僕は違う。今は罔象達が応援してくれている。だから止める気はない。

「でもお前、むしろ昔よりも仕事に力入ってんじゃん。何か生きる(・・・)ようになったな」

「それは………当たり前ですよ」

 昔なら仕事でいつ死んでもいいと思ってた。いや、今も無くなったわけじゃない。

 けど今は帰るべき場所で待ってくれる人がいるからな。命をかけて殺しをする。でも死ぬわけにはいかない。

「この死体私達の方で処理しとくから、お前はもう帰って大丈夫だぞ」

「本当ですか?よし!」

 僕はグッと拳を握った。今ならまだ大丈夫だろ。

「それじゃあ、後はよろしくお願いします」

 そう言って僕は素早く森を後にした。

 

 

 

『Cafe Red Poppy』は今日はもう終わったが、店の中の明かりはまだついている。

 僕は足早に向かうと、そのドアを開けた。そこには一人の女性がいる。

「あ、竜胆君!いらっしゃい」

「こんばんは罔象」

 罔象がカウンターから出てきて僕に近づいてきた。

「ギリギリ来れたよ。時間大丈夫?」

「うん。待っててよかった」

 仕事が夜に多いため、終わるのが深夜とかだとその後行くのも罔象にも迷惑だと思って、お店には行かないようにしてるからな。

「お弁当、今日もありがとうね。美味しかった」

 僕は罔象にお弁当箱を手渡した。

「ありがとう。上で待ってて、コーヒー持ってくから」

「うん」

 僕は先に罔象の部屋に入ると、コートを脱いで彼女が来るのを待った。

 しばらくして罔象がコーヒーを運んできた。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 罔象からコーヒーを受け取ると、一口飲んだ。ふぅ、美味しい。

 それから僕達はコーヒーを飲みながら二人だけの時間を過ごした。

 

 

 

 それから数十分ほど。コーヒーも飲み終わり、話すことも無くなってきた。

「それじゃあ、僕そろそろ帰るね」

「うん………また明日」

 僕は立ち上がって部屋を出て行こうとした。その時

 

 

 ギュッと罔象が僕の手を握った。

 

 

「………罔象?」

 突然の事を僕は驚いた。どうしたんだ?

「やっぱり、もうちょっと一緒にいよう」

「どうかしたの?」

 まさか引き止められるとは思っていなかったので、僕は首を傾げた。

「………な、何か理由がなきゃ引き止めちゃダメ?」

 罔象は指を絡めて僕との距離を縮める。罔象の熱が弱くも伝わってくる。

「ダメだなぁ………最近、もっと君と一緒にいたいってすごい考えちゃう。ワガママだね」

 ほんのりと顔を赤く染めて、僕の方を見てくる。

「僕は………別にいいよ。時間はあるし」

「いいの?」

 罔象の問いに、僕は小さく頷いて答えた。

「そっかぁ。ありがとう」

 罔象は僕の肩にぽてっと頭を乗せた。身体を委ねられるような体勢になり、顔が熱くなる。

 外も暑くなってきて、その上で感じる熱なのに全く嫌とは感じなかった。

 握った罔象の左手の薬指にあるシルバーリングが見えて嬉しくなる。

「君から貰った指輪、仕事の時もつけてたらお客さんに『結婚するの?』ってすごい聞かれるんだよ」

「仕事の時外してないんだ」

「もちろん。竜胆君からの最高のプレゼント、手放せるわけないでしょ」

「そうか、嬉しいな」

 僕達は見つめ合うと微笑み合った。しばらくそのまま手を繋いで身を寄せ合う。恥ずかしいけど、どこか心落ち着く時間だ。

「そのコート、仕事終わってそのまま来たんでしょ?疲れてない?」

 身体を預けたまま罔象が僕を見上げた。

「いつもの事だからなぁ、慣れてるよ。それに疲れてるからこそ、罔象のコーヒーが飲みたいの」

 僕も少しだけ罔象に身を委ねた。この時間だけはどんな時でも僕を癒してくれるんだ。

「それなら、さ………もっと、竜胆君のこと、癒してくてあげたり、とか………しようか?」

「え?」

 罔象の言葉に僕はポカンとした。僕の手を握る罔象の力が少しだけ強まる。

「そ、その………君が疲れてるなら、癒してあげるのも、か、彼女の私の役目かなぁって………」

「た、例えば、何してくれるの?」

 すると罔象が僕の方に顔を向ける。

「えっと………そのまま、ね」

 そう言って罔象は僕に向かって少しだけ首を伸ばした。

 

 

 罔象の柔らかい唇が僕の頬に触れた。

 

 

「チュッ………どう、かな?元気出た?」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ‼︎」

 僕は俯き気味に何度も頷いた。体に溜まっていた疲れが一気に吹き飛んだ。

「よかった。でもこれくらいの事だったらいつでもしてあげるよ」

 僕達は抱き合うようにして身体を密着させる。あぁ、これだけでも癒される。

 でもそれと同時にもっとして欲しいという欲求が湧き出てくる。

 その欲求に従って、僕は罔象を抱き寄せた。

「ひゃっ⁉︎」

 柔らかい身体の感触と共にフワッといい匂いが漂う。どことなく甘くて、求めたくなる匂いだ。

「あっ、ちょっと………もっと、するの?」

「う、うん」

 僕は抱きしめる力を強くすると、自分の意思を示した。どうしよう、体が止まらない。

 たまらなくなった僕は、そのままソファーに押し倒そうと………

「ちょ、ちょっと待って」

 その前に罔象が僕を止めた。

「ダメ、だった?」

「そうじゃなくて、その………先にお風呂、いいかな?ほら、その、汗とかかいちゃってるし。君もそのままじゃ嫌でしょ?」

「あ、そうか………」

 そういえば殺し屋殺してそのまま来たからな。返り血とかはついてないけど、汗もかいてる。

「私カップとか洗っておくから、先にお風呂入ってて」

「うん、分かった………」

 僕は罔象の部屋を出るとお風呂場に向かった。

 あぁ、いきなり押し倒そうとするとか、何やってんだか。頬にキスされて舞い上っちゃったな。

 ちゃんと自制しないと。よく考えたら癒されたいって変だったかなぁ。

 とりあえずシャワーを浴びて体を洗いながら頭を冷やす。あんまりガツガツし過ぎたら嫌われちゃう。

 変だなぁ、仕事の時は頭完全に冷えてたのに、罔象といるとどうしてもそれが出来ない。

 いくら彼女とはいえ節度を持ったお付き合いでなきゃ。

 シャワーを浴び終えた僕は、お風呂場を後にした。そのタイミングでお風呂を入ろうとしていた罔象とすれ違う。

「あ、竜胆君。先に部屋で待っててね。すぐに行くから」

「うん」

 さっきの事もあり、思いっきり抱きしめたい気持ちを何とか押し留めて、僕達はお互い見つめ合うと分かれた。

 罔象の部屋に入ると、僕はソワソワしながら罔象を待った。

 コートの中にある短刀を鞘から抜いては振ってはしまい、それを繰り返す。

 それからしばらくして部屋の扉が開かれる。

「竜胆君、お待たせ」

 入ってきたのは夏用のパジャマを着た罔象だった。

 前に見た冬用のものよりも薄くなっていて、罔象の煽情的な身体のラインが浮き出ている。生地の水色もよく似合っていた。

 袖も半袖になっているため二の腕まで露わになっているのが、とても美しい。

 濡れて艶の増した黒髪をタオルで拭きながら、僕の方を見て微笑んでいる。結んでいた時とはまた違う魅力があった。

 大人っぽい綺麗というより、可愛いが先に頭に浮かんだ。

 罔象は僕の隣に座った。見れば見るほど罔象の美しさが見つかる。

 無意識に僕達の距離は近くなっていった。お互いチラチラと見合っている。

 ふと罔象の胸元を見ると、服の中から深い胸の谷間が見える。

 前のボタンを止めるタイプのパジャマで、下着をつけていないから尚更。

 でもなんか失礼な事をしているように思ってしまい、僕は距離をあけて目線を逸らした。

 さっきちょっと強引に迫ってしまった事もあり、どうも誘いにくい。罔象もさっきの事があってか、僕をジッと見てくる。

「ねぇ、竜胆君」

「な、何?」

 いきなり声をかけられて僕はドキッとした。

 

 

「私の脚の間、座らない?」

 

 

「え………?」

「たまにはさ、こんなのもどう、かな?」

 あけた距離を詰めるように罔象が近寄ってきた。さっきまでと変わらない距離なのに、どことなく恥ずかしい。

「いいの?」

「うん。君がよければ、だけど」

 罔象は閉じていた脚を広げて指し示した。その仕草はとても艶やかに感じる。

「そ、それじゃあ………座ろう、かな」

 僕は誘われるがままにソファーから立ち上がった。

「し、失礼、するね」

「うん」

 罔象の前に立つと、ゆっくりと腰を下ろそうとした。でも子供っぽいかなと思って、戸惑ってしまう。

「竜胆君?」

「えっと、その………」

 どうしよう。いい、のかな?

「…………おりゃっ」

「うわっ!」

 罔象が後ろから服を引っ張ったからか、僕はストンと腰を下ろす事になった。開いた罔象の脚の間に収まる。

「み、罔象?」

「う〜ん、やっぱり君って背丈の割に細いねぇ。ちゃんと毎日ご飯食べてる?」

 そう言うと僕の体に腕を回した。回された腕が温かく、背中に柔らかい膨らみが押しつけられて心臓が高鳴った。

 夏めいてきたとは言っても、まだ夜は肌寒い。そんな時にこの温かさは心地よかった。

「捕まえた」

「え?」

「あ、あんな事されて………我慢してたの、君だけじゃないんだからね。私も、身体熱くなっちゃったし」

 罔象が僕の背中に顔を押し付けたのが分かった。優しく頬擦りしてくる。

 僕は自分の腹に回された罔象の手をそっと撫でた。そして覆うようにして手を握る。

「ふふっ、君との二人っきりの時間。離れてたら損でしょ?逃がさないよ」

「べ、別に、逃げるつもりはないよ。ただ、また襲っちゃいそうで」

「そしたら私も竜胆君のこといっぱい求める」

「何か罔象、積極的になったね」

「どこかの彼氏さんが、いつまでも求めてくれないからだよ」

「そ、そういうの………何か、理由が無いとさ………」

「ふーん………」

 すると罔象の口元が僕の耳元に近づいた。吐息混じりに囁いてくる。

 

 

 

「このまま帰ったら湯冷めしちゃうよね?」

「………うん」

「それじゃあウチ泊まる?」

「………うん」

「一緒に、寝る?」

「………うん」

「その前に………お互いの熱、何とかしよ。ベッドでさ」

「………うん」

「ありがとう♡」

 

 

 

 僕達は手を繋いで立ち上がると、部屋の明かりを消した。




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