「それじゃあ、お風呂出ようか」
僕に抱きしめられながら罔象が呟いた。
なんだかんだで三十分以上入っていた。体感的にはすごく短く感じたんだけど。
「あんま長く入ってるとのぼせちゃうからね」
「何言ってるの。君になら、とっくにのぼせてるよ♡」
「ちょッ⁉︎ 罔象………あ、ありがとう」
普段はあまり聞けないような台詞に、恥ずかしさよりも嬉しさが出た。
僕は罔象を後ろから抱きしめると、彼女は僕の方を振り向いた。そのまま僕の頰にそっと唇を触れさせる。
「んっ………また、一緒にお風呂入ろうね」
「ッ!………そうだね」
やった!また予約ゲット!
「えっと………罔象、先に出る?」
「そうだね。一緒に出たら、またシたくなっちゃう」
「こっちの台詞だよ」
僕達は名残惜しげに繋いだ手を離した。
罔象が立ち上がって湯船から出て、浴室を後にした。やっぱり、綺麗だよなぁ。
窓一枚向こうで罔象がバスタオルで身体を拭いているのが見える。それだけでも、つい目が惹き寄せられてしまう。
窓の造り上ぼやけてしまってはっきりとは見えない。ちょっと惜しい事したかな………
それでもジッと見ては失礼かと、着替え中の罔象から何とか視線を引き戻す。さっきあれだけ求めたのに、もう欲しくなるな。
「竜胆君、いいよ」
それから少しして、窓の外から声がした。
「分かった。えっと………それじゃあ、先に僕の部屋に行ってて」
「うん、待ってるね」
あ、リビングの方が良かったかな。何かあからさまに求めてるように捉えられたかも。
ダメだなぁ。色々と戸惑っちゃう。
そんな事を思いながら、僕は湯船から出た。
先にお風呂から上がった私は、髪を拭いて竜胆君の部屋に入った。お風呂でのぼせちゃったかな。ちょっとボーッとする。
竜胆君の部屋に入るのは、去年の竜胆君の夏休み明け降りか。中身はそこまで変わっていなかった。
けどさけどさ、部屋にいてって事は………やっぱりそういう事だよね⁉︎さっきちゃんと約束したし!
さっきまでいっぱい竜胆君が求めてくれた身体が、キュンッと奥底から疼いてくる。
お腹の下辺りがモヤモヤして、胸がドキドキと高鳴る。
どうしよう………さっきたくさんシたばっかりなのに、もっと欲しくなってる。
竜胆君が求めてくれるの、すごい嬉しい。さっきまでの事もあり、今は少し離れただけでも焦ったい気持ちになる。
もっと竜胆君の側にいてお話ししたい。手を繋いでギュッてしたい。そんな気持ちで溢れそうだ。
竜胆君とこんな関係になって一年が経った。まぁ竜胆君は気がついてなかったけど。
この日に竜胆君の家にお泊まり、これはずっと前から計画していた事だった。
上手くいって良かったなぁ。一緒にお買い物して、ご飯作って、お風呂まで入っちゃって♡!
そんな事を考えると、さっきまでのお風呂での時間が頭の中を駆け抜けた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ♡♡♡‼︎もう!竜胆君たらぁ!」
私は真っ赤になった顔を押さえて悶えた。この熱さはのぼせちゃっただけじゃない。
あんなにいっぱいシちゃって〜〜〜〜♡!夢じゃないんだよね⁉︎竜胆君が自分から抱きしめてくれたり、キスしてくれたり!
あぁなる事は予想してたし、本音を言えばそのためと言っても過言じゃないんだよね。
一年前に入った時はずっと目を逸らして触れる事もしなかったしね。だから今日は一緒にお風呂に入って、竜胆君と触れ合いたかった。
いや、正直今日竜胆君と会ってからずっと身体が疼いて仕方なかった。
人前だろうともっとイチャイチャしたかった。まぁキスはしたけど。
普段の関係から少しだけ踏み出したかったのだ。その………ちょっと、夫婦っぽいかなぁって。
幸せだなぁ………大好きな人の側にいれるのが、こんなに嬉しいなんて。
この気持ちを、絶対に当たり前にしちゃダメだ。竜胆君が側にいてくれるのは当たり前のことじゃない。
ちゃんと感謝して、二人での時間を大切にしたい。それが永遠でなくても。
私達の今の関係は必ずしも永遠じゃない。いつか人生半ばで別れることもあるかもしれない。
まさか竜胆君本人からあんなにはっきり言われるとは………それを言われても受け流せる辺り、私も彼に慣れたものだ。
竜胆君と一緒にいる上で一番大切なことは『慣れること』だね。言ってることはある意味正論だし。
東風ちゃん曰く、後天的に彼と付き合えるようになるためには『慣れる』。これに尽きるらしい。
けどあんな別れる前提で話すとか………いや、変に取り繕って『永遠の愛を誓うよ』なんて竜胆君らしくないや。
客観的に考えれば、そんなもの存在しないんだから。
あの子はどんな時でも変わらない。どんなに特別でも冷めて現実的だ。その場のノリに乗ったりは絶対にしない。
でも私はそれが嬉しかった。ありふれた愛を囁かれるより、竜胆君の本音が聞けた気がするから。
だから浮かれずに今を心の底から大切にしようと思う。
というわけで竜胆君まだかなぁ♡
私は髪型を直したりしながら竜胆君を待った。どうも落ち着かない。
すると目の前にある竜胆君のベッドに目が向いた。
この後ここで………って、別にそう決まったわけでも、ないわけでもない、か………う〜ん!もどかしいよぉ!
それにしても、竜胆君………いつもこのベッドで寝てるんだよなぁ………
その時、私の中で妙な気持ちが湧いた。
私はちょっと部屋の外を覗き、まだ竜胆君が来てない事を確認する。それから部屋はと戻った。
ちょっとなら………いいよね?
「とぁっ!」
私は竜胆君のベッドに突っ伏した。そのまま枕に顔を埋めて擦りつける。
「んん〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ♡♡♡‼︎」
あぁ………竜胆君の匂い、思ったよりもちゃんとするんなんだなぁ。さっきまで感じていたのと同じ匂いに、私の頬が緩む。
そういえば、一年前ここで一緒に寝たんだよなぁ。家族以外の人の隣で寝たのはあれが初めてだった。
あの時、昔の事があって私はどこか『私の身よりも人の事』って考えてた。
でも、竜胆君が「お店を守れるのはあなたしかいないから」って言ってくれたんだよなぁ。
その時からだ。彼の事をどうしようもなく意識するようになったのは。
安っぽい言葉じゃなくて、自分本意の話し方だった。でもそれが私は嬉しかった。
こんな私を自分自身のために『元気でいてほしい』って言ってくれた。その事が。
誰かのために自分が存在出来るって分からせてくれた。
そんな彼に私は何となく惹かれていったんだろうな。
最初はそんなぼんやりしたものだったけど、それで今があるなら私は全然いい。
そんな事を思いながら私はベッドに身体を沈めていた。
「ス──♡ハ──♡ス──♡ハ──♡」
何となく、本当に何となく枕に顔を押し付けて息をする。すると身体が甘く痺れてくるように感じた。
竜胆君に抱きしめられているような、そんな感覚になる。本人が近くにいるのに変な話かな。
でも、それくらい早く竜胆君と一つになりたい。強く抱いてもらいたい。大人気ないかもしれないけど、気持ちが抑えられない。
私は膝をついてお尻を突き上げるような体勢で、竜胆君のベッドに突っ伏している。
感じる甘い痺れで腰が自然と揺れてしまう。あ、どうしよう………ちょっとだけ、濡れちゃってる♡
「りんどぉくん………♡」
こうしてるだけで、普段私の頭の中で一点強く輝くものが、私の頭の中を埋め尽くしていく。
身体が疼いて仕方ない。竜胆君のこと以外、考えられなくなる。
明らかに変な体勢ではあったけど、それが気にならないくらいに私は夢中だった。
そう、私は夢中になっていた。
「み、罔象………?」
「ッ⁉︎」
部屋に入ってきた竜胆君に気がつかない程までに。
竜胆君はパジャマ姿で、私の方を見ながら呆然としている。
「り、竜胆君⁉︎ いつからそこに………」
「今、だけど………さっき鯨波さんから仕事の事で電話入っちゃってさ。遅れちゃったんだ」
そういう事だったのか。それで時間かかってたのね。
「そ、それで………その、今罔象は、何してたの………?」
竜胆君に戸惑いながら聞かれて、私は改めて自分を客観的に見ることが出来た。
人のベッドに顔擦りつけてハァハァ言ってる。おまけに腰まで振っちゃって。
あぁ──ッ‼︎完全にやらかしちゃったぁ‼︎
私はすぐさま身体を起こした。
「ち、違うの!これは、その………深い意味は無くて、えっと………変な気持ちとかそういうのじゃ………!」
私は何とか弁解しようとしたけど、言葉が出てこない。
すると竜胆君がゆっくりとこっちに近づいてきた。そして私の隣に座る。
顔が赤くなっていて、隣で申し訳なくて縮こまっている私をジッと見つめた。
へ、変に思われちゃった、かな?
そのまま有無を言わさず私をギュッと抱きしめた。それから優しく頭を撫でてくれる。
「罔象………すごい、綺麗………」
「ッ♡♡♡⁉︎」
私はもう身体が溶けそうだった。いや、それでもいいかもしれない。
彼の温もりがこんなにも温かいなんて………身体の隅々までその温かさが染み渡る。
竜胆君の匂いがさっきの何倍もはっきりと伝わってくる。
「何か、安心した………」
「え?」
「お風呂上がったら、たぶんこうしちゃうの分かってたからさ。一人で盛り上がってるみたいで申し訳なくて」
そんな事無いよ。私だってずっとこうしていたい。もっと竜胆君の側にいたい。
彼を求める気持ちが身体からどんどん溢れ出して、下着がじんわりと濡れていく。
「たぶん、この後止まれなくなるからさ………今のうちにちゃんと言っておきたくて」
竜胆君が抱きしめる力を強くした。
「こんな僕と、一年間も一緒にいてくれて………あ、ありがとう。それと、これからもよろしく」
その言葉が、私の心を完全に溶かした。私は竜胆君に身を委ねた。
「うん♡私も君のこと、大好きでいたいな♡」
竜胆君の心音がバクバクと音を立てて聞こえてくる。緊張してるのかな。
竜胆君が私と向かい合いジッと見つめる。その顔は耳の先まで真っ赤になっていた。
ダメだよ………そんなに見られたら………
私の身体がもはや限界だった。これ以上我慢なんて出来ない。
竜胆君の手を握って指を絡めた。竜胆君から貰ったシルバーリングが、部屋の光を反射して輝く。
「ねぇ、竜胆君………」
「な、何………?」
「えっち、シたいな………♡」
「………うん、僕も」
私は力強くベッドに押し倒された。
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