一方その頃竜胆の家。
「えっと………ここの整理よし、っと。水拭きも終わったから………一階はもういいかな。古紙の束を出すか」
アタシ、雛罌粟
なんで本人がやらずにアタシがやらなきゃならないのか、というツッコミは無しだ。一応家事やるの条件で来てるし。
家主である竜胆はお姉ちゃんと旅行中。その間に大掃除を任されたアタシは、勉強の合間に友達の家を一人で大掃除中だ。
竜胆からある程度なら家の中漁ってもいいという許可は出てるので、遠慮なくものの整理や掃除をしている。
竜胆の部屋は掃除するなと言われている。仕事関係のものもあるから、漁られるのは困るとのこと。
アイツの部屋が一番汚いんだけどなぁ。まぁこれから床掃除くらいはするけど。
でもそれっぽいもの何もないな。トレンチコートとクラッシュハットも無い。
というか、何でアタシは家主がいない中で一人で友達の家に泊まってるんだろう。アタシ勉強教えてもらうために来たんだけどなぁ。
まぁこれを条件に来週の花火大会一緒に行くことになったからいいんだけどさ。
あぁ楽しみ!お母さんからちゃんと浴衣も借りてきたし!ちょっとでもアイツにアタックしたい。何か東風がどうのこうの言ってたけど、二人きりがいいなぁ。
夏休み一緒にいても特にアタック出来てないからなぁ。デート出かけたり、もうちょっと二人きりで親密に…………
一応今回竜胆とお姉ちゃんは新婚旅行という体らしい。竜胆もだいぶ楽しみにしてたからなぁ。
つくづく二人ともいいバカップルになったよねぇ。人前でも無自覚でイチャつくことあるし。
「まったく、人の気も知らないで………ん?」
竜胆の部屋に入り床掃除をしていると、机の上に一つ目につくものがあった。
それはSDカードだ。隣にはビデオカメラもある。
アイツ仕事ものもは一まとめにしてあるとか言ってたし、仕事で使うものじゃないんだよね。
アイツ今時ビデオカメラ使ってるんだ。それもプライベートで。何撮ってあるんだろう?ちょっと、いや、だいぶ気になる。
「…………………よし」
アタシはビデオカメラの電源を入れて中にSDカードを入れた。
まぁ、一応ね。断捨離するもの決めないといけないし、大掃除の一環ということで。もし仕事のヤツだったらすぐ閉じよう。
「最新のビデオは………お?今年の六月二十八日?まぁまぁ最近じゃん」
そんな最近でもビデオカメラ使ってたんだ。何撮ったのかな?
アタシはビデオカメラを操作してその時のビデオを表示した。何か暗くない?
再生、っと。
若干のノイズと共に、薄暗い映像が映し出され…………んん?
ここって………竜胆の部屋、だよね?今アタシがいる。何で部屋なんか撮ってるの?
そこのベッドで、いるのは竜胆と………お姉ちゃん?しかも………二人ともパジャマ姿だ。
そういえばちょっと前にお姉ちゃんがお泊まりしたって竜胆言ってたな。
竜胆がお姉ちゃんをベッドに押し倒すようにして、覆い被さっている………おや?ちょっと嫌な予感が。
段々と映像が明確になっていくと、アタシは映像に不穏なものを感じた。
すると映像のお姉ちゃんがカメラの方を向いた。顔は赤くどこか恥ずかしそうだ。
『なんか、君以外の人に見られてるみたいで、恥ずかしいね』
『そうかもね。でも………罔象の全部を味わいたい』
『うぅ………そんなにジッと見られたら………』
二人の会話が小さくだけど聞こえる。頭の中で見ない方がいいという声が響くが、それでもアタシはビデオに目が釘付けになった。
その瞬間、竜胆がお姉ちゃんのパジャマを少し乱暴に脱がせ始めた。それを見て顔がカァッと熱くなる。
お姉ちゃんの豊かな胸が下着に包まれてカメラに映される。さらに竜胆はその下着をめくった。お姉ちゃんの胸が揺れながら露わになる。
アイツ、ハメ撮りなんてしてたの⁉︎そんなものその辺にポンって置くとか何考えてんの⁉︎いや、誰も観ない前提ならいいのか。
そうは思いつつも、アタシは無意識にカメラを持って竜胆のベッドに寝そべった。アイツ………ここでお姉ちゃんと。
ビデオなのに二人の熱気をすごい感じた。
竜胆はお姉ちゃんの服をどんどん脱がして、露わになったお姉ちゃんの身体に触れたり、舌を這わせたりする。
お姉ちゃんも口では恥ずかしがって抵抗しているが、その表情は明らかに蕩けていた。竜胆が触れるたびに甘い嬌声をあげる。
竜胆に胸を掴まれると、白濁の母乳を噴き出した。まるでお姉ちゃんの興奮を表しているかのようだった。
昔、竜胆とお姉ちゃんがシてる時の声を聞いたことがあるけど、映像で観るとまた違う。
というかアイツ、普段はすごい奥手な感じがするのに結構ガッツくタイプなんだ。
もはや貪ると言ってもいいほどに、お姉ちゃんの身体を味わっている。お姉ちゃんも嬉しそうにそれを受け入れる。
普段見ることの無い、快感に蕩ける表情をして、竜胆に抱きついている。お姉ちゃんの肌に真っ赤なキスマークがいくつもつけられた。
『ッッッ♡‼︎ひゃあぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ♡‼︎ダメぇッ‼︎イッちゃ、あぁあぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ♡‼︎』
『んっ!んんッ♡!ぐちゅっ、じゅるるるッ♡‼︎んあっ、あむっ♡!ぐちゅっ、んんッ!れろっ♡!んくっ、じゅるッ♡‼︎』
うわぁ………お姉ちゃん、アソコから潮噴いてる………ッ⁉︎ すごい、あんなに汗かいて、激しいキスしてる………
好きな人とエッチって、こんななんだ。あんなお姉ちゃん、見たことない。
気がつけばアタシは自然と短パンの中に手を入れていた。下着はもう愛液が滲むほどに濡れている。
下着を捲って、そっと秘所に触れる。
「んんっ!」
全身を走る快感に、思わず声が漏れた。
どうしよう………アタシ、いつも竜胆が寝てるベッドで、一人でシちゃってる。そう思ってても指は止まらない。
そっと指を動かすと、くちゅくちゅと小さな水音が聞こえる。でもそんなことが気にならないほど、アタシはビデオに夢中だった。
竜胆はお姉ちゃんを何度もイカせて、お姉ちゃんの身体はびちゃびちゃになっている。
二人は小さな声でお互いを求めながら、その証を刻み込んでいた。お姉ちゃんの果てる姿がたくさん映されている。
すると竜胆がお姉ちゃんの脚を掴んで大きく開かせた。え………まさか………
その時チラッとだが、竜胆のモノが見えた………あ、あんなに、大きいを………
竜胆が腰を前に出して二人の距離が無くなる。
『ッッッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♡♡♡‼︎‼︎‼︎あぁぁぁッ♡‼︎あぁッ♡‼︎はぁあぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ♡♡♡‼︎』
は、入った………お姉ちゃんの中に、竜胆の………しかも、ゴムとかしてないのに。お姉ちゃん、すごい声。
「あ、あぁっ………ふぅ、んんっ!ひゃ、はぁっ!んっ、やぁっ!」
自分の口から変な声が出ちゃってる………考えちゃうんだ………私も、竜胆にこういうことしてもらえたら、って。
竜胆はお姉ちゃんを抱きしめて強く腰を打ちつけている。二人のぶつかり合う音がはっきりと聞こえる。
お姉ちゃんも竜胆を離さないとばかりに脚でホールドしている。激しく唇を重ねて、快感を貪っている。
竜胆、すごい気持ちよさそう。必死に腰振って、お姉ちゃんに想いを伝えている。
すると自然に私の指の動きも大胆になってきた。右手でワレメをなぞるようにして秘所を撫でて、左手は胸をイジっている。
繋がっても尚、竜胆はお姉ちゃんの身体に吸いつき快感を与えている。
「はぁっ、やぁ、んんっ!竜胆、んあっ!もう………ッ!」
自分の中で限界が近づいている。人のエッチ見て興奮してる………
アタシは竜胆の枕に顔を埋めた。それでも、ビデオの声は聞こえてくる。
「ス──ッ…………ッッッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜‼︎」
竜胆の匂い………結構ちゃんと感じられるなぁ。それを感じるだけで、お腹の奥がキュンと疼く。
二人の行為はどんどん激しくなり、お姉ちゃんの声音も高くなっている。
竜胆が腰を引いて、お姉ちゃんに思いっきり打ちつけた。
『ッッッ♡♡♡‼︎あぁぁぁッ♡‼︎はあぁぁッ♡‼︎ ひゃあぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ♡♡♡‼︎‼︎‼︎』
その瞬間、二人とも身体をガクガクッと震わせて力強く抱き合った。お姉ちゃんは甲高い嬌声を放って、竜胆も力の抜けたような気持ちよさそうな顔をしている。
イッてるんだ………お姉ちゃんの中に、竜胆の精液いっぱい出てるんだ………
「んんっ!はぁっ!あぁッ!んん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ‼︎」
それと同時にアタシも果てた。腰が嫌でも震えて、手に噴き出した愛液がかけられる。
身体がすごい熱い………そして、力が抜けて頭がだんだんボーッとしてくる。
絶頂の余韻に浸っているアタシは脱力した。 後で下着だけでも取り替えないと。
手を短パンから引き抜くと、愛液に塗れて糸を引いている。
ビデオでは竜胆とお姉ちゃんが絶頂の余韻に浸り唇を重ねている。二人ともキス好きだねぇ。
するとすぐさま竜胆がお姉ちゃんの身体を撫でた。
前にウチに来た時はすぐ終わってたけど、まさかまだするの?さっきまであんなに激しくシてたのに。
きっと二人とも身体が動かなくなるまで愛し合うんだろう。アタシは再びビデオに目が引き寄せられて………
ピンポーン!
いきなり鳴り響いたインターホンに、アタシは思わず身体を跳ね上がらせた。
ひ、人が来たの、かな?この家にはアタシしかいないし出ないと。
そう思って力の抜けた身体を起こし玄関に行こうと………する前に立ち止まった。
今のアタシは髪や服が乱れてるし、手には愛液がべっとりとついている。このままじゃ出られない!
慌てて手を洗って髪を整え、下だけ着替えてビデオカメラを元に戻すと玄関の扉を開けた。
「はーい………って、東風?」
そこにいたのは竜胆の幼馴染兼妹の東風だ。手には手提げ袋をかけている。アタシを見て驚いた。
「分ちゃん⁉︎どうしてここにいるの⁉︎」
「え?あぁ、春休み同様お泊まりに来てるの」
「へ、へぇ…………」
そんなあからさまに顔引き攣らせないでよ。まぁ逆の立場ならアタシもそうしてるけど。
東風が竜胆のことを好きなのは知ってる、というか察せる。きっといつもアタックしてるんだろうな。
「それで、何か用?」
「あぁ、いえ、大したことじゃないんですけど。りん兄長期休みだとご飯まともに食べないから体壊すんですよ。だから何かご飯でも作ってあげようかな、と」
ほーらね。こんなんだもん。アタシが言うのもアレだけど、彼女持ちの人にそこまでするか。
「アイツは今いないよ。伊豆にいるから」
「伊豆⁉︎お仕事ですか?」
「え?お姉ちゃんと旅行中だよ。アンタ知らなかったの?」
「知らないですよ!りん兄雛罌粟さんと旅行中だったんですか⁉︎」
あぁ、言ってなかったんだ。まぁアイツらしいわ。アタシはザックリと事の経緯を説明をした。
「そうだったんですか………せっかく家の分も含めて、一緒に買い物行こうとしたのに」
おーい、小声でもちゃんと聞こえてるぞー。本当に油断も隙もない。
悪い子じゃないんだけどね。何せあの竜胆の妹だから。色んな意味で危険だ。
けど、そうか………よし。
「それならさ、今からアタシと行かない?ちょうどこれから買い物行くところだったんだ。ついでに外でご飯食べようよ」
せっかくこの街に来たんだし、家ばっかりにいないで出かけたいんだよね。
「そうですね、いいですよ。お母さんに連絡しないと」
「それじゃあ、その間に準備してくるね」
アタシはそう言って家の中に戻った。
ここはとある駄菓子屋。奥のスペースは鉄板屋になっていてご飯も食べられる。
「いらっしゃ〜い、って鯨波ちゃんじゃない!」
「こんにちは、おばちゃん」
私、流鏑馬 鯨波はお昼ごはんのために駄菓子屋の奥へと立ち寄った。店の前では元気な子供達がお店のカキ氷を食べている。
カウンターにいたおばちゃんに声をかけて、私は席に座った。
「いい歳した子が、お昼ごはんにこんな鉄板屋でいいの?」
「たまにはガッツリ食べたいの!お好み焼きお願い!目玉焼きもつけて」
「はいよ」
この店にはたまに来るけど、どうしても子供っぽくなってしまう。きっと昔からの付き合いであるおばちゃんの影響かな。大きく伸びをした。
「う〜〜〜ん!癒される!久しぶりのリフレッシュ〜〜〜」
「あのねぇ。仕事一生懸命なのはいいけど、たまには休みなよ」
そう言っておばちゃんが出してくれたお冷を一気に飲み干す。
「色々と忙しいの。下手に休むわけにもいかないし」
「鯨波ちゃんもそうだけど、竜胆のこともだよ。まったく………最近じゃずっと鯨波ちゃんにくっついて仕事してるらしいじゃないの」
「アイツいないと回らない仕事ばっかりだからさぁ」
私がおばちゃんと長い付き合いなのは、ただプライベートでってだけじゃない。
おばちゃんはいわゆる殺し屋の仲介人だ。昔は竜胆もよく仕事を受けて、私も情報提供とかしてもらっている。
「まったく………ウチにもあの子目当ての依頼たくさん来るのに、鯨波ちゃんに連れ回されて受けてもらえないよ」
「分かってるけどさぁ、ウチもサドイーターの事で大変なの」
裏社会の人間専門の殺し屋として有名な竜胆こと『DEAD SURVIVOR』は、この近辺の裏社会じゃ重宝されている。
というのもサドイーターが広まって、それに誘われるように大きな多国籍マフィアがこの街にやって来てしまった。
私達警察も何とかしようとはしてるけど、かなり上の警察関係者も加担してるため色々面倒で。
今朝も一人上司を強請って、警察内で加担してる人間の情報を吐かせた。早急に処分しないと。
こんなだから裏社会の殺し屋が動くけど、規模が規模だけに出来る人間も限られる。
そのマフィアを煙たがる大きな裏組織が何百万、下手したら何千万って金を注ぎ込んで、彼に依頼を出す。
「あのヤクねぇ。ウチにもね、それ絡みの依頼が来るのよ」
「それってどんなの?私も竜胆に頼みたい依頼あるから、被ってたらまとめてお願いしちゃうよ?どうせ後でアイツに頼みたいこともあったし」
「助かるわぁ。ちょっと待ってて、後でリスト持ってくるから」
それじゃあ竜胆に仕事入るって連絡しとくか。どうせ暇してるでしょ。
そう思ってスマホを出した時
「すみませーん」
聞き慣れた声がしたと思うと、二人の女の子達が鉄板屋の暖簾をくぐってきた。
「二人なんですけど、って鯨波さん⁉︎」
「東風ちゃんに、分ちゃん⁉︎何でここに?」
いきなり現れた東風ちゃんと分ちゃんに、私は思わず声を上げた。東風ちゃんはともかく、何で分ちゃんがこの街に?
おばちゃんもいきなり高校生二人が来て目を丸くした。
「あら、東風ちゃんいらっしゃい。それで………ん?もしかして分ちゃん?やだ、久しぶり〜!大きくなったわねぇ!」
「あ、うん。久しぶり。鯨波さんも、こんにちは」
そうか。そういえば雛罌粟家は昔はここに住んでたから、面識あってもおかしくはないか。
「せっかく来たからここでお昼食べようと思って。大丈夫?」
「もちろん!そこ座って」
嬉しそうにおばちゃんに案内されて、二人は近くの席に座る。
「鯨波は今お昼休憩ですか?」
「まぁね。というか、えっと………何で分ちゃんはこの街にいるの?」
「え?また竜胆の家にお邪魔させてもらってるから………って、アイツ鯨波さんにも言ってないんですか?」
初めて知ったよ!アイツまた泊めてるの⁉︎一言言ってくれてもいいじゃん。
というか一応彼女がいるのに、分ちゃん泊めていいの?まぁアイツなら楽できればそういうのは気にしなさそうだけど。
何でもそれぞれ家の買い物をして、お昼ごはんのために立ち寄ったらしい。何で竜胆の家の買い物を分ちゃんがやってんのよ。
「えっと………という事はもしかして………今竜胆がどこで何してるかも知らないんですか?」
「え?どうせ家でグータラしてるんでしょ?」
「いえ、今お姉ちゃんと伊豆に旅行中ですよ」
「旅行⁉︎」
「何々?竜胆今伊豆にいるの?」
私とおばちゃんの質問は予想していたようで、分ちゃんはため息をついて事情を話してくれた。
「………というわけです」
「えぇ………」
何も知らなかった。そんなことになってたんだ。って、自分の家の大掃除を他人に押し付けるなよ。
おばちゃんが私をちょいちょいと手招きした。
「ねぇ、あの子今彼女いるの?しかも罔象ちゃんって、結構歳の差あるわよね?」
「いや、そこはいいんだけど………」
二人の関係すら初めて知ったおばちゃんは意外そうに戸惑っている。あの人付き合いが苦手な竜胆に彼女がいる時点で驚くのは分かるが。
それは置いておいて、今いないのはさすがに言えよ!危うく仕事の電話して旅行潰すところだったろ!
すると東風ちゃんは呆れたように笑った。
「まぁ、りん兄のことだし、私はともかく鯨波さんにはわざと黙ってたんじゃないですか?」
「え?何で?」
「だってそしたら鯨波さん、旅行中仕事頼まなくなるでしょう?」
「? そりゃもちろん………って、なるほどねぇ………」
東風ちゃんに言われて、竜胆を知る私達は納得した。おばちゃんは二人が竜胆の仕事のことを知ってるのに驚いているが、一旦スルー。
どうせアイツのことだ『サドイーターのことで忙しい中、自分勝手に旅行に出かけて仕事を放棄するなんてあり得ない』とでも考えてるんだろう。
このまま私が仕事の連絡をしたら、きっと罔象さんのことを置いて仕事のために戻ってくるだろう。
その後罔象さんのことを傷つけると分かってても、もしかしたら関係が悪化するとしても、仕事だからと割り切ってしまう。
『殺し屋として仕事を貰ってる身分で休むなんてあり得ない』みたいな発想が染み付いてるというか。
自分勝手な理由で私に仕事で遠慮して欲しくなかったのだろう。そんなの申し訳ないとか思ってそうだ。
仕事のためなら、たとえ楽しみにしてることも我慢してしまう。今回の旅行だって、分ちゃんの話じゃすごい楽しみにしてたみたいだし。
いや、偉いっちゃ偉いし、基本的な休みの無い殺し屋の世界で、たしかにアイツいないと回らない仕事が多いけどさ。
私としてはせっかく罔象さんという人生のパートナーを見つけたんだから、裏の汚い仕事よりも二人きりの幸せな時間を優先して欲しい。
私はそれを自分勝手だとは思わない。むしろそれこそ私がアイツに望んでたものだ。
少しくらいは殺し屋という身分から離れればいいんだけど………それやる無遠慮さが、殺し屋としてのアイツには無い。
はやい話がワーカーホリックだ。
「あの馬鹿は………」
アイツだって馬鹿じゃない。この仕事にのめり込むことが罔象さんを幸せにすることじゃないのは分かってるはずなのに。むしろ傷つける可能性が高いのに。
辛い過去があって汚い裏社会に浸かって、ようやく心から一緒にいて幸せになれる相手を見つけたのに。
自分の仕事の大切さを分かってるから、どんなに汚くてもその場所から離れようとしない。そんな勝手は出来ない。
きっと仕事のためなら、どんなに愛してても罔象さんと別れるのも覚悟の上だろう………本当に頭固いなぁ。
私はスマホを取り出して竜胆に電話をした。すぐに竜胆が出た。さてはずっと連絡気にしてたな?
『鯨波さん?どうしたの?まさか、仕事?』
語尾があからさまに元気が無くなっている。そんなに楽しいならそっち優先すればいいのに。
「サドイーターの件でね、警察内部に捜査情報を流してるヤツがいたよ。割と上層部の人間で、私も目つけられててね。アンタとの関係を探ってる可能性あるの。だから私がソイツシメるまでアンタが仕事するのやめて欲しいの。アンタの事が知られたら面倒な事になるかもだし」
『ッ⁉︎………そ、そうか。分かった』
その声はどこか嬉しそうだった。何となくだけど。
『どれくらいかかる?』
「最低でも二週間はかかるから、それまで殺し屋としての仕事はやめて。念のため仲介人からの仕事も。いいね?」
『了解』
私は電話を切ると席に戻った。
「よかったの?竜胆に任せたい仕事あるんでしょ?」
「いいよ。おばちゃん。仕事受けるの、やっぱり無しでいい?」
「………そうね、分かったわ。はい、お好み焼き」
おばちゃんはそう言って私の前にお好み焼きを出した。
「ありがとう。分ちゃん。教えてくれてありがとうね」
「いいえ。アイツの部屋にコートとかなかったので、アタシもまさかって思ってたんで」
やっぱり持って行ったのね。
たぶんアイツは悩んでいるんだ。自分に正直になった、愛した人と共にいる事にした結果の道が正しいのかどうか。
だからしばらく………そうだな、夏休み終わるまでアイツはお休み、いや、別の仕事をしてもらおう。
夏休みが終わるまで………アイツの仕事は、自分の奥さんを幸せにする事だ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
評価、感想等ありましたら、ぜひよろしくお願いします。