日が傾きかけてきた頃、僕は駐車場で罔象を待っていた。
「竜胆君!お待たせ!」
水着から着替えた罔象が手を振りながらやってくる。
「それじゃあ行こっか」
「あぁ」
僕は罔象の車で旅館まで向かった。というか、いつもいつも二人で遠出する時は罔象の車でだよな。いやはや申し訳ない。
「う〜〜〜ん!あんなにはしゃいだの久しぶりかも!楽しかったぁ!」
お昼ごはん食べ終わってからは、人気のない所で二人きりで遊んでたからなぁ。遠慮なく手を繋いだり、ちょっとなら抱き合ったりも、ね。
「そうだなぁ。あんなに動いて遊んだの本当に久しぶりだった」
「楽しかった?」
「もちろん」
ただなぁ、あの水着姿でベタベタされるのはちょっと。色々湧き上がるのを堪えるのも大変なんだから。
「そういえば、お昼ごはんの時に電話してたよね?大丈夫なの?その………お仕事のこと、だよね?」
罔象が心配そうに顔を覗き込んでくる。たしかにいきなり仕事が入ったら行かなきゃならないからな。
「まぁね。けど大丈夫、むしろいいことだったよ。しばらく仕事するなって」
なんでも警察の中で割と上の人間が、サドイーターの流通に関わっているらしい。鯨波さんがその人を捕まえたいんだと。
でもその中で鯨波さんも目をつけられていて、僕との関係も探られているそうだ。
だから向こうが鯨波さんを押さえるとっかかりを作らないために、仕事はするなとの事だった。
殺し屋と警察が繋がってるなんて、向こうからしたら関係がバレてしまったら、証拠とか捏造されて捕まっちゃうからな。しかも本当は本当だし。
というわけでしばらく仕事はしない事に。警察の上層部ともなれば、どこで情報が漏れるか分からないからな。
「そうなんだ。よかったぁ………ずっと、竜胆君が途中でいなくなっちゃうんじゃないかなって思ってたから」
「え?何で………」
「だってずっとスマホ持ち歩いてたでしょ?だからもしかしたら、お仕事の連絡気にしてるのかなって」
「うわぁ、バレてたのかぁ」
「それなりの付き合いがあるんだもん。竜胆君が鯨波さんに黙って来ちゃった事くらいは察せるよ」
お恥ずかしい限りです。だってなんか自分勝手みたいで申し訳なかったしさぁ。
けど、罔象には申し訳ないなぁ。こんな事で心配かけさせちゃったし。
「ごめんね………罔象を雑に扱うつもりはないし、旅行だってすごい楽しいよ。でも………」
「いいよ、気にしなくても。それだけ真面目にお仕事に取り組んでるって事でしょ?それってすごいと思うな」
「罔象………」
「それにお仕事ダメってことは、これからは気にしないで楽しめるんでしょ?」
「うん。ずっと罔象の側にいるよ」
「ありがとう」
僕達はギュッと抱き合うと車に乗った。
「それで、今から旅館に行くんだよね?」
「うん。そんなに遠くないからすぐに着くよ」
「それじゃあ、その間寝てようかな」
「だからすぐ着くって。体力保たせようよ」
そんなことを話していれば、宿まであっという間に着いた。
「着いた、っと………すごい。なんか雰囲気あるね」
「こんな所のチケットを当てた罔象が一番すごいよ」
それにしても後半とはいえ夏休みだ。もうちょっと人がいるもんだと思ってたけど、割と少ないんだな。
僕達は車を降りると旅館に入った。罔象が受付を済ませてくれて、すぐに部屋へと通される。
案内された部屋はいかにも旅館というような雰囲気で、畳の床に木の机と椅子がある。
その雰囲気に若干押されながらも、僕は適当な場所に荷物を下ろした。
「うわぁ!竜胆君見て!ここからの景色すごい綺麗だよ!」
罔象に呼ばれて窓の外を見てみると、たしかにそこには美しい景色が広がっていた。
近くには美しく造られた庭がある。旅館の外には緑あふれる森林や小川、遠くに視界を移せばさっきまで遊んでいた海も見える。
それらの景色を夕焼けが優しく照らしている。
「うん………いいなぁ」
「来れてよかったね!」
同じ景色を見ながら罔象が笑った。気がつけば僕の目は罔象に惹きつけられていた。
やっぱり、罔象はいい笑顔するな………一緒にいれてよかった。
「竜胆君、どうかした?私何か変?」
「え?あ、あぁ、何でもないよ!それより、色々荷物出さないと」
「そうだね」
僕は慌てて目を逸らして荷物へ向かった。変だなぁ、僕こんなに罔象に見惚れることあったっけ?
準備の終わった僕は、持ってきていた本を読んでいた。しばらくすると罔象が僕の方にやって来る。
「はい、お茶どうぞ」
「ありがとう、って………わざわざ淹れてくれなくてもいいのに。罔象もゆっくりしなよ」
「いいのいいの、ついでだよ。隣、座っていい?」
「もちろん」
学校とかだと東風を除いて読書中は話すのはもちろん、極力近づいてすらも欲しくないんだけど、罔象なら全然いい。全く迷惑にならないし。
それからしばらくは僕は読書に集中した。こういう時こそ恋人と仲良く過ごせよと言うかもしれないが、ベタベタしても悪いしさ。
それに最近はずっとそういうのが多かったからな。少しはこういう落ち着いた時間もいいだろう。
読書にも一区切りがついて本を閉じた。読書の集中が切れた僕は、そこでようやく隣にいる罔象の視線に気がついた。
テーブルに肘をついて僕の事をジッと見ている。どこか嬉しそうに微笑んでいる。
「罔象?どうかした?」
「え?あぁ、いや、君楽しそうに本読むなぁって」
「まぁ趣味だからね」
周りを気にせずに自分の世界に入れるこの時間は、色々な面で僕を癒してくれる。
「ねぇ竜胆君。ご飯まで時間あるし、今のうちにお風呂入っちゃわない?」
「あぁ、そうだね。行くか」
せっかく伊豆に来たんだもの、これ無くしちゃいけないでしょ。
てなわけで僕達は着替えを持って、っと。温泉はこっちかな。
通ってきた男湯の場所を思い出しながら行こうとすると、罔象に服の袖を掴まれた。
「っとぉ、罔象?どうかした?」
僕の袖を掴む罔象は少し目を泳がせて、顔を赤くしていた。
「あ、あの………露天風呂入るの、また後にしない?」
「は?え、でも、お風呂入るって………」
「だから、その………別のお風呂、入るというか、その………」
別のお風呂?そんなに種類があるとは説明されてなかったけどな。
「どこか行きたいの?」
「うん………家族風呂、入ろうかな、ってね………」
罔象に言われて一瞬何のことかと思ったが、すぐに何のこと思い出した。あれか、みんなで入るのじゃなくて割と小さめのやつだ。
「今なら空いてるはずだから、さ………二人きりで温泉、入りたいな」
罔象はジッと僕を見つめて軽く袖を引く。そんなことされたら僕だってドキドキしてしまう。
そうか………てっきり温泉はそれぞれ分かれて入るとばかり考えていたけど、そういうのもアリなのか。
僕はチラッと罔象を見る。
こんなストレートに誘われてるんだ。それに僕だって………罔象と一緒に………
僕は袖を掴む罔象の腕を掴んだ。
「それじゃあ………行こうか」
「………う、うん」
僕達はそのまま家族風呂の方へと向かった。別に必要は無いけど、少し周りを見て入る。
旅館の外の様子を見て何となく察してたけど人はいないか。
自然と僕達は手を繋いでいて、お互い若干ぎこちなくなりながらも到着する。
一応これまで二回一緒にお風呂に入ってるわけだが。それでもやっぱりこうも堂々とするのは慣れないものだ。いや、何かすると決まったわけじゃないけどさ。
『入浴中』という看板をかけて脱衣所に入る。それから少しだけ微妙な空気になってしまう。
何もしない!って心の底から断言できればまた違うんだろうけど、何せさっき一回シちゃってるからなぁ。
「入ろっか」
「うん………」
どちらとなく頷き合うと、僕達は着替えを籠に入れて自分の服に手をかけた………が、僕は自然とそのまま固まって、罔象を見つめていた。
罔象はノースリーブを脱ぐと短パンを脱いで、下着姿となった。うわぁ………いつ見ても綺麗だなぁ。
あぁ、この場で押し倒しちゃダメかな。もう少なくとも僕はその準備ができてしまっている。
さらに用意されていて持ってきたタオルの端を口に咥えて広げと、自分の身体を前面のみ申し訳程度に隠した。
その状態で背中に手を回してブラのホックを外す。それから下も脱いでタオル一枚で裸体を隠す。
それから長い髪を温泉に入るためにまとめて、咥えていただけだったタオルを身体に巻きつける。
この前はタオルをつけなかったが、さすがに外だからか今回は纏っている。
強調された身体のラインや、タオルの中から少しだけはみ出している胸や太ももが僕の興奮をさらに増長させる。
胸には暴力的なまでの膨らみがあり、そこから逆に引っ込んでいる。そして腰から太ももまでまた膨らんでいる。
顔は真っ赤になったままで、僕の方をチラッと見た。
「竜胆君も、そんなボーッとしてないで脱いでよ………」
「え?あ、あぁ、うん!」
知らず知らずのうちに罔象に見惚れていた僕は、ハッとして慌てて服を脱いだ。タオルで体を隠すと準備を終えた。
そして扉を開けると、そこには小さな露天風呂のように岩場に囲まれた温泉があった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。