※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第177話 将来

 お互いの身体をたっぷりと味わった僕達は、温泉に浸かって寛いでいた。日も段々と傾いていって、そろそろ暗くなり始める。

 僕達は身体を寄せ合ってその景色を眺めていた。こんな風にお風呂に入りながら外の景色を眺めるなんて、初めてだなぁ。

「んん〜〜〜!温泉って気持ちいいねぇ」

「そうだなぁ」

 罔象はさっきと同じように、僕の腕に抱きつくようにしてくっついてきた。僕の腕が罔象の胸に挟まれる。

 恥ずかしさもあるけど、それ以上に愛おしさが強い。僕も体を預けて寄り添いながら温泉を楽しんでいる。

「まだ身体ジンジンする。君にいっぱい可愛がってもらえたの、ちゃんと身体が覚えてるみたい」

 罔象は緩みきった表情で僕に抱きついてくる。ふと目が合うと僕達は顔を近づけて唇を重ねた。罔象の唇の感触をじっくりと味わうと、唇を離して抱き合う。

「えへへ♡君と一緒に温泉に入られるなんてなぁ。しかもこんな綺麗な景色も見れて、贅沢だよねぇ」

「本当に………チケット当ててくれた罔象に感謝しないとだよ。ありがとうね」

 僕は軽く罔象の頭を撫でた。罔象は嬉しそうに微笑んで、僕と手を繋いで指を絡める。

 抱き合うような体勢でいたせいか、僕はそのまま優しく罔象の身体を撫でた。しっとりとした柔肌が心地よい。

「んぁ♡………もう、そんなに優しく撫でられたら、またシたくなっちゃうでしょ」

「罔象が隣にいてくれるのが嬉しくてさ。それに、罔象すごい綺麗だし。ちゃんと隣にいるって確かめたいから」

「そんな心配しなくても、今の私の居場所は君の、旦那さんの隣だけだよ。どこにも行かないし、離れるなんてあり得ないから」

「罔象………ありがとうね、側にいてくれて」

 僕達は身体を密着させるようにくっついた。むにゅんと押しつけられた胸なら、罔象の心音が聞こえる。

「罔象、いつもよりすごいドキドキしてる?」

「ッ‼︎そ、それは………大好きな人とお風呂入ってるんだし、ドキドキはするでしょ。ただでさえ君がじっくり見てくるし」

「し、仕方ないでしょ。つい見ちゃうんだよ………最近は特に」

 ふとした時、つい罔象に目を奪われてる時がある。隣にいる時は特に。

「まぁ………最近は身体のこと、色々気をつけてるからね………」

 罔象が小さくつぶやいた言葉は、はっきりと僕の耳に届いていた。

「ん?身体のことで何かあったの?見た感じ何か困るようには見えないけど」

「え?あ、あぁ、その…………気にしないでいいよ」

「? 何か困ってるなら、出来る限り手伝うよ?」

 すると罔象はお湯に首まで浸かり、僕の方をチラッと見た。

「理由言って、引いたりしない?」

「え?まぁ、理由が何であれ何か頑張ってるならいいことだと思うけど」

 僕が答えると、罔象は繋いでいる僕の手に力を込めた。それから限界まで僕に近づく。

 

 

「あ、いや、えっと………しょ、将来、竜胆君との、こ、子供とかできた時に………そっちの方が、いいじゃん?」

 

 

 それだけ言うと、罔象は離れて目を逸らしてしまった。耳の先まで真っ赤になっているのが分かる。

 そうか………罔象との子供、ねぇ………

「その、最近そういうの考えるようになって………その、将来というか、先のこと………」

 罔象は身を縮こまらせて呟くように言った。僕は言葉に詰まって罔象を見つめた。

「な、何か、ごめん………いきなりこんな事言われても、困っちゃうよね」

「いや、まぁ………ちょっと、だけ」

 何となく気まずい雰囲気になってしまい、お互いに何と言えばいいか分からなくなってしまう。

 そういう事考えたこと無かったからなぁ………

 でも………

「でも、ありがとう。ちゃんとこれからのこと考えてくれて」

「え?」

 罔象は不思議そうな顔でこっちを振り向いた。

「その、引いたりしないの?だって、別にまだ本当に結婚したわけじゃないのに、こんな事………」

「それだけ僕とのこれからを考えてくれたんでしょ?嬉しい以外の感想なんて無いよ」

 そりゃちょっと慌てたけど、それは僕の思慮不足とも言える。

 罔象、そんな事まで考えてたんだなぁ。僕は今罔象と一緒にいる事しか考えてなかったや。

「僕、正直罔象とちゃんと付き合えて、それで満足してたところがあったからさ。そういうところまで頭回らなかったし」

 これからも一緒にいるつもりなら、今にだけ目を向けていてもダメだ。ちゃんとこれからのことも考えないと。

 罔象は僕のことも考えてくれてたけど、僕は自分のことしか考えてなかったからな。

「だから、ありがとう。そういう罔象がいるから、僕は先を見て生きていける」

 きっとこんな風に自分の将来の姿を少しでも想像するから、人は先へ先へと進めるんだ。

「竜胆君………」

 罔象は嬉しそうに微笑んだ。腕を伸ばしてきた罔象を受け入れるように、僕は罔象を抱きしめた。

「今はまだ、家族のこととか考える余裕も、守る力も無いけど………ちゃんと答えは出すよ」

 大切な僕の家族なんだ。罔象や新しい生まれるかもしれない家族の人生を全て支えるためにも、ちゃんと考えて答えは出す。

 仕事のことや過去のことを全て背負える人間にならなければ、その資格は無いだろう。

「だからその時は、ちゃんと答えを聞いて欲しい、かな」

「うん………いつでも待ってるよ♡」

 僕達はそのまま抱き合っていた。罔象の温かさが柔肌からじんわりと染み込んでくる。

「何か、重い話しちゃったかな。旅行中なのに」

「ううん。むしろ今でよかったよ」

 罔象と向き合って真剣に考えることが出来た。こういう話したこと無かったからな。

「それなら、もうちょっと聞いていい?」

「ん、何?」

 罔象は僕をジッと見つめると、僕のおでこに自分のおでこをコツンと合わせた。

「前も聞いたけどさ。竜胆君は、その………子供とか、欲しい人?」

「え?そうだなぁ………今はまだ無理、としか答えられないな。仕事のこともあるし、今はそれしか考えられないよ。将来を願望で考える余裕は無いかな」

 これまでは罔象と一緒にいながら、仕事を続けていくことしか考えてこなかった。

 これから数年経って罔象と本当に結婚しても、今のところ殺し屋を辞めるつもりはない。

 だから子供を作るなんて考えられないし、そもそも考えたことすら無かった。

 でもちゃんと仕事のことも、家族のことも背負えるようになったら………そういう考えが浮かぶんだろうか。

「ふふっ、やっぱり竜胆君は責任感強いね」

「別に。当たり前のことでしょ」

 誰かと家族になるってことは、それくらいの意味があるんだから。その人達の命を、人生を全て背負えるくらいのことは考えないと。

「少なくとも、僕はそのつもりだよ………」

 僕なりの正しさと覚悟を持つ。その正しさがどれだけ変わっても、それに責任を持って貫き通す。

 子供の甘い考えかもしれないけど、それが出来ない人間に家族でいる資格はない。

「私も………そんな君を支えられるような人間になりたい、ううん、なる。私も竜胆君の家族でいたいもん。その覚悟はあるよ。今はね」

「それだけで充分すぎるよ」

 これから一生ずっと一緒にいるのは無理かもしれない。どこかで離れ離れになるかもしれない。

 それでも、今だけでもこの気持ちで繋がれているなら、僕はそれだけで前に進める。

「罔象は?やっぱり子供欲しいの?」

「う〜ん………こんな話振っておいて変かもしれないけど、そこまで強く欲しいか、って言われたら分からないかも」

「そうなの?」

 たしかに少し意外だった。

「なんて言うか………君と家族なことははっきりと頷けるけど、そこに新しい家族が加わるって考えると、それでいいのかなって考えちゃうんだ」

「それは………」

「うん、分かってる………自信が無いんだ。新しい家族ができても、また私のせいで無くしちゃうんじゃないかな、って」

 かつて罔象に植え付けられたトラウマは、今でも彼女の中に根強く残ってる。それはきっとこれからもずっと残るだろう。

「だから、私も強くなる。君と一緒に、新しい家族を迎えて守ってあげられるように」

「………そうだね」

 力強い罔象の言葉に、僕は惹きつけられた。本当に、罔象は強いなぁ。

「それにしても、私達気がついたらすごい距離近くなってるね」

「本当だ………つい近づいちゃったな」

 そう言いながらも、お互いの鼻先がぶつかり合うほどまで距離を縮まっていた。

「もっと近づきたい、な………」

 僕達はゆっくりと唇を重ねた。ねっとりと舌を絡めて唇を離す。

「んぁっ………うん。いいね、こういうの」

 そのままギュッと罔象を抱きしめた。その温もりを確かめるように、優しく罔象の身体を撫でる。

「こういう一つ一つの事、大切にしたいね」

「これっきり、かもしれないからね」

「もう、だから彼女にサラッとそういう事言わないの!」

「本当のことじゃん」

 僕達は見つめ合うと、自然と笑みが溢れた。外は暗くなっていて月が見えている。

 夜景の温泉に罔象の笑顔。僕は吸い込まれるように見惚れている。

「さてと、そろそろお風呂上がろうか」

「そうだね」

「行こう、あなた♡」

「………そ、そういうのもサラッと言わないでよ」

 僕達は温泉から上がると脱衣室に戻った。持ってきた浴衣を着て適当に髪を乾かす。

 罔象軽く髪を拭いて身体も拭き、下着を着ると浴衣を手に取って………僕の方を見た。

「り、竜胆君、そんなに見られると、さすがにちょっと、ね………」

「あ、ご、ごめん!」

 つい見惚れてしまった。着替えをそんなにジロジロ見られたら落ち着かないか。

 僕は目線を逸らしつつ手早く着替えを済ませた。

「ふぅ、これでよし、っと」

「竜胆君終わったの?私もうちょっとだから待っててね」

「あぁ、急がなくていいよ、外で待ってるから、ごゆっくり」

 僕は外に出て罔象を待った。それからしばらくして扉が開く。

「お待たせ〜」

 そこには浴衣姿の罔象がいた。その姿は………言い尽くせないほど美しい。嫌でも目が惹きつけられる。

 そういえば去年の今頃罔象と夏祭りに出かけて、そこで罔象の浴衣姿を見たんだった。あの時も思ったけど、罔象って和服似合うよなぁ。

 しかも今回はお風呂上がりという事で、肌は上気していて、艶のある黒髪が濡れていることによってより艶が増している。

 露出は少ないが、はっきりと身体のラインが分かる。その艶やかで清楚な雰囲気に心臓が高鳴った。

「ど、どうかな?変じゃない?」

 罔象が恥ずかしそうに髪をイジりながら聞いてきた。

「すごい………綺麗。ギュッてしたい………」

 あまりにも綺麗な罔象を見て、ついポロッと本音が出てしまった。しかし罔象は引くことなく、僕を見る。

()()()の………?」

「え?」

 罔象は僕にそっと手を伸ばした。浴衣姿を見せつけるようにして小さく呟いた。

「…………ギュッて()()んじゃなくて?」

「………ギュッてする」

「私も♡」

 それから僕達はここが普通の廊下であることも忘れて抱き合った。




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