「
私はスマホに向かって必死に叫んだ。しかし一度途切れてしまった会話が繋がる事は無かった。
何かドタドタと大きな足音が聞こえて、さらに銃声のようなものまで聞こえる。
それから誰かが分ちゃんのスマホに近づく音がすると同時に、通話は切られてしまった。
どうしよう………今の音、明らかに変だよ。何かがデパートを襲撃したんだ。
いや、ここで私が焦ったって仕方ない。とりあえずりん兄に伝えないと!
たしか今は雛罌粟さんとデート中だったっけ?二人には悪いけど、このことは伝えないと。
分ちゃんが行ったデパートは最近出来たもので、セキュリティも厳重だってネットに書いてあった。
その中で襲撃なんて普通は出来ない。となると、襲撃した人達もただの素人じゃない、という事になる。
裏社会の人間専門の殺し屋であるりん兄なら何か知ってるかも。今はガンショップにいるんだよね?
私はスマホを操作してりん兄の連絡先を選びながら、カーディガンを着てベレー帽を被った。
ポシェットにお財布とりん兄から貰ったカランビットナイフをねじ込んだ。
私もデパートに行ってみよう。何があってもいいように武器も持っていく。
慌ただしく準備を済ませた私は、髪を整えることもなく一階へと降りていった。
すると何故か玄関にいるお母さんとバッタリと出くわした。
「ちょっと東風、そんなに慌ててどうしたの?何か叫んでなかった?」
「あぁ、えっと………ちょっと急ぎの用事ができたの!」
さすがに本当のことを言ったら行かせてくれるわけないので、適当にボカした。
「そ、そう?あ、それより、学校のお友達が来てるわよ?」
「え?友達?」
こんな非常事態に誰?りん兄、なわけないよね。お母さんはりん兄の顔知ってるし。
というか今時連絡無しで来るなんて珍しいな。そう思って私は早る気持ちを抑えて、靴を履きながら玄関に顔を覗かせた。
「あ、いたいた。こんにちは」
たしかにそこには私と同い年くらいの男子がいた。大きめの黒いパーカーを着たその人は、私に丁寧に頭を下げる。
一瞬『誰だ?』と思ったが、すぐに私は思い出した。たしかこの人は春休みに会った………復讐屋だ‼︎
それに気がついたと同時に私の心が凍りついた。思わず私は後ずさった。
「ヒイィィィ───────⁉︎」
「ひゃっ⁉︎東風、どうしたの?人の顔見て驚くなんて失礼でしょ?」
「ち、ちがッ!お、お母さん!この人は復しゅ、むぐっ⁉︎」
私が叫び終わる前に、後ろから復讐屋の手が伸びて私の口を塞いだ。
「堅気の人の前で僕の事を叫ぶ人がいますか‼︎すみません、ちょっとお子さんお借りしますね」
復讐屋はお母さんに軽く頭を下げると、口を塞いだまま私を外へと引っ張り出した。
家の前まで引きずっていくと、ようやく手を離してくれた。家の前には復讐屋が乗ってきたであろうバイクがあった。
「ぷはぁっ!………あ、あなたって、あの時の………」
「あ、覚えてくれていたんですね。それなら話が早い。お久しぶりです」
やはり間違いない。今年の春休み、分ちゃんの依頼で雛罌粟さんの元恋人である木偶って人を殺した復讐屋だ。
「わ、私に何の用ですか?私誰かに恨まれる事した事も無いんですが………」
「いや、仕事で来たわけじゃ………無い事もないんですがね。『DEAD SURVIVOR』がどこにいるかって知りませんか?もしくは連絡先とか」
「私もりん兄に用があるんです!分ちゃんが‼︎」
「は?分って、あの前の依頼人?落ち着いてください。何があったんですか?」
この際この人でもいい。復讐屋なら何か知ってるかもしれない。私はついさっきまで事を話した。
「………なるほど。………遅かったか………!」
「え?どういう事ですか?」
「僕が来た理由もそれです。テロリストがデパートを襲撃するって情報を手に入れて、それでてDEAD SURVIVORを探してたんです。一応私の方に彼らに対する依頼が来ているんですが、私より彼の方が詳しいはずなので」
しかしりん兄の家はりん兄が上手い事隠してるのか分からず、仕方なくすぐに調べられた私の家に来たらしい。
「りん兄に会ってどうするですか?」
「色々手伝ってもらいたいんですよ。今回の立て籠りの犯人達は、ただのテロリストってわけじゃないんです。僕でやるだけでは限界がありますので」
そうだったんだ。それなら………!
「分かりました。りん兄の場所教えますので、私も一緒にデパートに連れて行ってください!」
「はい⁉︎いいわけないでしょう。テロリストがいるんですよ?危険です」
「でも!分ちゃんが心配で………!」
「ダメです。あなたが行っても何も出来ないでしょう?大人しくそこで待ってて………」
呆れたように言っている復讐屋に業を煮やして、私はポシェットの中のカランビットナイフを取り出して復讐屋に突きつけた。
急いでいるからか流石に手加減が出来なかった。復讐屋の動きを止めると、腕を捻りながら素早くナイフを首に沿わせる。
「いいですから‼︎私も連れて行ってください‼︎」
「ちょッ⁉︎待っ、わ、分かりましたから!あ、あなた本当に堅気の人間ですか⁉︎何でそんな物騒な物をそんな上手く扱えるんですか⁉︎」
復讐屋は驚きながらもバイクの後ろに積んであったスペアのヘルメットを私に貸してくれた。
ベレー帽とナイフをポシェットにしまうと、私は復讐屋の乗ったバイクの後ろに跨った。
「人乗せるの初めてなんだけど………まぁいいや、捕まってください。飛ばしますよ!」
そう言って私達はりん兄の元へと向かっていった。
「う〜ん。モデルガンって結構思ったように当たらない物なんだね」
「本物と同じだよ。それぞれの銃の特徴が分かってくると、結構当たるもんだよ」
「そうなんだろうね。竜胆君はすごい当たってたし」
僕と罔象はガンショップの中で店内を回りながら話していた。
正直引くかなとも思ってたので、予想以上な罔象の食いつきが良くて安心した。
色々な銃を試してみて、罔象もすっかり楽しくなってきたようだ。
「ん?ねぇ、この銃変わった形してるね?」
「あぁ、P90か。たしかに、マガジンの形も変わってるからね。モデルガンだとあまり関係ないけど、本来右横にあるはずの廃俠口が下にあるんだよ」
「へぇ、何で?」
「利き手を選ばないようにするためだよ。罔象は右利きだけど、左利きの人は罔象と逆の手で構える。それで右横から廃俠したら射撃に影響があるからね」
「なるほど!他に左利きの人でも使えるのってあるの?」
「ライフルだとH&KG11とか、かな。そもそも空薬莢が出ないの」
そんな事を話しながら店内を歩いていると、カウンターにいた三十代くらいの女性がニヤニヤと笑って声をかけてきた。
「いやぁ、久しぶりに竜胆がウチに来たと思ったら、まさか歳上の彼女連れてデートとは。あの無愛想だった竜胆が、大きくなったもんだねぇ」
「う、うるさいですよ、
「そうだけど、あの竜胆がねぇ………しかもあの喫茶店の美人マスターと。少年も隅に置いとけないねぇ、このこのぉ〜」
顋門
僕はここの常連といえば常連なので名前を覚えられていてもおかしくないんだが、僕が彼女と顔見知りな理由はそれだけじゃない。
「てっきりウチの依頼受けに来てくれたと思ったのに。最近だとずっと鯨波にべったりなんでしょ?」
顋門さんがこっそりと僕に囁いた。
そう、この人表向きはガンショップの店長なんだけど、裏では殺し屋の斡旋と殺し屋達の武器の修理を行っている。
というわけで色々と仕事でもお世話になっていたりするのだ。
ちなみに呼び方と歳で何となく察したかもしれないけど、鯨波さんの高校生の頃の同級生だ。
気さくでいい人なんだけど、ちょっと面倒くさいところがある。ちょっと分に似てる。
「たまにはウチにも顔出してよ。君にしか頼めない依頼なんてたくさんあるんだから」
「だったら、高校卒業したらここでバイトさせてくださいよ。そしたら積極的に依頼受けますから」
「本当⁉︎ぜひぜひ!ウチも人手は必要だと思ってたんだよねぇ」
よし、今日ここに来たもう一つの
そんなやり取りもありつつ、僕達は楽しく店内を回っていた。
すると顋門さんのスマホが鳴った。すぐに顋門さんが電話に出る。
「はいはい、どしたの?………うん、うん………えぇ⁉︎」
顋門は大きな声で叫び、僕と罔象はビクッと驚いた。どうしたんだ?
「うん、分かった。ありがとう…………ちょっと竜胆、いい?」
顋門さんは電話を切るなり僕を呼んだ。罔象には待っててもらいカウンターに向かう。
「どうかしましたか?」
「今ウチの殺し屋から連絡があったんだけどさ。この近くにできた新しいデパート。そこでテロリストが人質とって立て篭もったらしいんだよ」
「え?」
僕は驚きが隠せなかった。テロリストが立て篭もり⁉︎
「と、とりあえずテレビつけるよ」
顋門さんは近くにあったリモコンを取ると、お店の天井の角にあるテレビをつけた。
そこには『緊急速報』と大きく映し出されており、たしかに近くのデパートでテロリストが襲撃したというニュースが流れている。
ニュースキャスターが現状を読み上げて、周辺地域に住む人達に警戒を促している。
詳しいことは分かってないらしいが、最新セキュリティを取り入れたデパートを襲撃するとは、嫌な予感がするな。
ニュースを見た罔象もこっちなやって来た。
「り、竜胆君、これどういう事?」
「まだ分からない。ちょっと鯨波さんに連絡して聞いてみる」
僕はスマホを取り出して鯨波さんに電話しようとした。
その時、ガンショップの前に二人の人が乗った一台のバイクが止まった。
すると後ろに乗っている人がヘルメットを乱暴に取って、お店の中に飛び込んできた。
「りん兄‼︎」
「東風⁉︎お前、何でここに?」
いきなり現れた東風に驚きながらも、僕はバイクに乗っていたもう一人の青年に目を見開いた。
「あなたは………復讐屋」
「どうも、DEAD SURVIVOR。お久しぶりです」
春休みの時に木偶を殺した復讐屋。僕も一回会っただけの関係だが、その存在はちゃんと覚えていた。
「何であなたが東風と一緒に?」
「あなたに会いたかったからですよ。デパートのこと、知ってますか?」
「えぇ、今ちょうどニュースで見ましたけど………ッ⁉︎」
すると東風がいきなり僕にしがみついてきた。倒れそうになるのを何とか耐える。
「りん兄‼︎雛罌粟さん‼︎た、大変なんです‼︎分ちゃんが、分ちゃんがぁ‼︎」
「ちょッ、うるさい!分がどうしたって?」
異常なほどにまで慌てている東風を宥めた。
「分ちゃんが!そのデパートにいて、人質になっちゃったんです‼︎」
「「えぇ⁉︎」」
僕と罔象の声が重なって店内に響いた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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