「分が人質って………本当か?」
「うん。実は………」
僕と罔象は東風にさっきまでの事を聞いた。
「………というわけで、私と復讐屋さんでここまで来たんです」
「そういうことだったのか………」
東風の話を聞いて、僕は拳を握った。
こんなことなら、分の誘いを断らずに僕もついて行けばよかった。まさかこんなことになるとは………
「それにしても、何故復讐屋であるあなたがわざわざ僕に協力を求めたんですか?他にも色々と聞きたいことがあるんですが」
「僕もですよ。でもそれは移動しながらにしましょう。とにかくあなたの身内がいる以上、あなたも放置はしないでしょう?」
「それに関しても質問が………いや、そうですね。行きましょう。けど………」
僕と復讐屋が外へ出ようとすると、当たり前のように東風が後ろからついて来た。
「おい、何でついて来るの?」
「私そのためにここまで来たので。私もついて行きます」
真剣な表情で言う東風にため息が漏れた。またこれか。
東風が強いのは水鶏の一件で分かってる。ただ今回はおそらく相手の強さは以前の桁違いで危険だし。そうでなくても東風をこれ以上危ないことに極力巻き込みたくない。
でもこれ言って通じるヤツじゃないんだよなぁ………
僕は隣で苦笑いしている復讐屋をジロっと睨んだ。
「はぁ、何で連れて来ちゃったんですかねぇ」
「いや、僕も断りましたよ?そしたらカランビット突きつけられて『連れて行け』と。この人何者ですか?」
「おい」
僕が目を細めると東風はビクッと跳ねて、バツが悪そうに目を逸らした。
「だ、だって………分ちゃんのこと、心配なんだもん………」
だからって復讐屋脅して連れて来させるヤツがあるか。
でもそれだけ東風も心配しているんだろう。コイツ一度こうなったらテコでも譲らないからなぁ。
どうするかなぁ?たぶんここで待ってろって言っても自力で来ちゃうんだろうな。
目の届かないところで変なことされるより、ちゃんと見張れてた方がいいか。
「はぁ………仕方ない。ついて来るだけだよ?変なことはしない、約束できる?」
「うん!」
「あ、でも移動どうしますか?僕のバイク乗れるの二人だけですし、色々話したいので運転したくないんですが」
「顋門さん。車出せませんか?」
「あぁ、ごめん。ちょうど今修理に出してて無いんだよね」
タイミング悪いなぁ。仕方ない。こうなったら近くのバス拾って行くしかないか。
そう思って外に出ようとすると、僕達の話を聞いていた罔象が軽く手を挙げた。
「ねぇ、それだったら私の車乗って行かない?デパートまでならその方が早いよ」
「え?いや、でも………罔象まで連れて行くのは………」
東風と違って、罔象は万が一の時に対処出来る術がない。テロリストのいる所に連れて行くのはなぁ。
「近くに行くだけなら安心だし、もし何かあったらすぐに東風ちゃん連れて逃げるから。それに………」
罔象は僕の手をそっと握った。彼女の手は少しだけ震えている。
「私だって分を、家族を助けたいの………だから、お願い」
そうだよな………家族が危険に晒されているんだ。心配で当然だよね。
危険なのは変わらないが、罔象だって大人だ。この辺の判断は大丈夫だろう。何よりたしかにここからデパートなら車で行く方が早い。
「分かった、お願い。ごめん………せっかくのお出かけなのに、こんなことになっちゃって」
「ううん、家族のためだもん。それに、竜胆君のことだし、何かあった時のために仕事道具は持って来てあるんでしょ?」
「なぁんだ、バレてるのか」
僕のリュックサックの中には、仕事に使うものが一式入っている。万が一のことを考えてのことだったが助かった。
僕達四人は頷き合うと外へと出た。東風が助手席に座り、僕と復讐屋が後部座席に座る。
「鯨波ちゃんには私から連絡しとくから、安心しといて!」
「はい。よろしくお願いします」
顋門さんに見送られて、僕達はガンショップを後にした。
「それで、色々と聞かせてもらいますよ。現状のこと、今回のテロリストのこと」
「えぇ。実は………」
そう言って復讐屋が持っていたタブレットを操作していると眉を顰めた。少しだけ手が止まる。
「これは………!」
「どうかしましたか?」
「電波ジャックされてますね。テロリストの犯行声明が流れてきました」
嘘だろ。テロリストの中にハッカーでもいるのか?
僕と東風は身を寄せ合って復讐屋のタブレットに目を向けた。そこに映っているのは武装をした外国人の男性だった。
その人を見た瞬間、僕は目を見開いた。
気がつくと一番最初に冷たい床の感触が頰から感じられた。
それがデパートの床であると気がつくのにしばらく時間がかかった。それからさらに誰かの話し声も聞こえてきた。
段々と感覚が戻ってくると、さっきまでの事が段々と頭に浮かんできた。
そうだ………アタシ、デパートにいたら妙な煙に包まれて………それからの記憶がない。倒れてたのかな?
い、一体何があったの⁉︎
慌てて顔を上げると、そこには私と同じように多くの人が座らされていた。デパートに来ていたお客さんも、店員さん達もだ。
そしてそれを取り囲むように屈強そうな男の人達が立っている。全員ヘルメットと防弾チョッキのような服を着ている。
この人達があの煙を………よく見ると日本人は少ないように見える。ほとんどが外国人だ。
そしてその人達はみんながライフル銃を持っている。その様子からしておもちゃでないのは一眼で分かった。
それが分かった瞬間、胃の中身が迫り上がってくるような感覚が私を襲った。本能的な恐怖で身体が動かなくなる。
目の前の現実を受け入れられず、はっきりしてきた意識が再び遠のきそうになる。
「Hey,Boss」
しかし男達のうちの一人があげた言葉が、私を何とか現実世界に引き留めた。
「We are ready」
「OK. Start broadcasting」
話しかけられた男は、椅子に座って周りに指示を出しているように見える。彼がリーダーなのかな?
歳は三十代といったところだが、刺青だらけで威圧感がある。
これは英語、かな。受験勉強での英語学習がこんなところで役立ってしまった。
あたりを見渡すと、みんなが恐怖で沈んだ顔をしている。中には小さな子供を抱えるようにして震えている母親もいた。
銃を持っていた男の一人がビデオカメラを持ってくると、リーダーの前に置いた。
男は軽く咳払いするのカメラに向かって話し始めた。
「あぁ、日本の国民の皆さん聞こえているかな。先に言っておくと日本語は慣れてないからな。わけわからなくなったら適当に意訳してくれると助かる」
みんなの視線が話し始めた男に集中する。これから自分達がどうなるのか、私だって怖い。
「簡潔に言うとこのデパートはオレ達が完全に乗っ取った。コンピュータのセキュリティがどうのこうの謳ってるけど、ウチには優秀なハッカーもいてね。今こうやって電波ジャックして放送出来てるのもソイツのおかげだ」
リーダーの男はカメラをこちらに向けた。
慣れていないと言う割には流暢な話し方だ。それだけにより恐怖感が強まる。
しかも彼の言葉が本当なら、この映像は警察だけに届けられたものではなくここ一帯のビルのビジョンや携帯、テレビにも流されている。
「オレ達の要求は大きく二つだ。一つ目は現金二億円とオレ達が逃げるためのヘリコプターを二台持って来い。二つ目は………おい」
リーダーがカメラから視線を外して声をかけると、仲間の男の一人が大きなボードを持って来た。そこには人の名前がいくつか書かれている。
「ここに書かれてるヤツらの釈放だ。この国の刑務所にいるんだろ?分かりやすく書いといてやったぞ」
アタシには分からないが、どうやらあそこに書かれている人達はみんな捕まった犯罪者のようだ。
「時間は今日の今から四時間後の十五時まで。一秒でも遅れたら………まぁ、分かるよな?」
リーダーの言葉に人質となった全員が身を震わせた。思わず声をあげそうになるが、周りにいた男達が銃を突きつけて黙らせる。
「それと突入作戦だの逃げた後の追跡だのはオススメしねぇぞ。オレ達だって被害は最小限にしたいんだ。大人しく言うこと聞けば、寛大な処置をしてやる」
おそらく外には既に警察がいることだろう。コイツらその警察から逃れる方法も考えてるのかな?
「それじゃあ時間までにいい返事を………と言いたいところだが、あんまり遅めの到着はオススメ出来ねぇぞ」
そう言うとフロアの入り口からテロリストの仲間らしき人が、一人の人を抱えてやってきた。
その抱えられた人を見て、アタシだけでなく人質になった人達全員が声をあげた。
連れて来られた人はここの警備員なのだろう。制服を着たその人は血塗れとなっていた。
ピクリとも動くことなく、その顔は歪み青ざめている。彼が死んでいるのは明らかだった。
男はカメラの前に死んだ警備員を投げ捨てた。そしてみんなに見せつけるように持っていたライフル銃で警備員を撃ちまくった。
フロア一帯に鳴り響く銃声にアタシ達は身体を強張らせた。火薬の焦げ臭い匂いと血の匂いが混ざって漂う。
騒いだらダメだと分かったのか、今にも泣き出しそうな子供の口を塞いで目を隠してやる人もいる。
そんなアタシ達に追い討ちをかけるように、今度は五人がかりで警備員をナイフで滅多刺しにし始めた。その表情は愉悦に歪み大きな笑い声をあげている。
アタシは耐えきれずに目を瞑った。周りから吐いてしまう音が聞こえる。
「とまぁこんな風に、ウチには三度の飯より人殺しが好きなヤツらがわんさかいるからな。オレの制止が効いてる内はいいが、いつまで持つか分からねぇぞ。というわけで、なるべく早くするのをオススメするよ。じゃあな」
そう言ってリーダーは放送を止めた。
「この人がテロリストのリーダー、なんですか?」
「えぇ、そうなんですが………」
復讐屋が僕の方をチラッと見た。しかし僕はそんなことも気がつかずタブレットを呆然と見ていた。
「り、りん兄、どうかしたんですか?顔色悪いですよ」
東風に言われて、僕はようやく我に返った。
心臓が締めつけられて全身に鳥肌が立った。息が荒くなり冷や汗が頬を流れる。
「やっぱり、そうですよね」
復讐屋が僕を見てため息を吐いた。どうやら彼はあらかじめ知っていたみたいだ。
「竜胆君、今の人知ってるの?」
知ってる………そんな簡単に片付けられるものじゃない。だってコイツは………
「ぼ、僕は………この人と、会ったことが、ある………」
「仕事で、ですか?」
「…………いや、違う」
それはあり得ない。何故なら僕がこの人に会ったのは
僕は震える手を何とか抑えた。あの時の記憶が一気に頭を駆け抜ける。
薄暗い部屋の中で、何度も何度も響いた銃声と悲鳴、笑い声。嫌というほどの血と火薬の匂いは、今でも離れない。
今の男、間違いない………
「ヤツはエヴァン・ムーア。今この街でサドイーターをばら撒いている組織『Salvation Of Sin』の幹部。そして……… 九年前に僕を誘拐して、父さんをヤク漬けにしたヤツだ」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
評価、感想等ありましたら、ぜひよろしくお願いします。