「おい、そこの死体片付けとけ」
「はい」
何人かのテロリストは人質を囲み、他の人達がフロアを彷徨いていた。
人質となった分達は銃を突きつけられて、全員が動けないようになっていた。
拘束はされていないものの、誰も抵抗する意思を見せない。目の前で人が滅多刺しにされれば当たり前だろう。
「そういえば、まだお前に名乗ってなかったなぁ。オレはエヴァン・ムーア。コイツらのリーダー、つっても組織のトップじゃねぇけどな」
ボスと呼ばれていた男・エヴァンが立ち上がり人質達へと近づいた。
「お前達よぉ、本当にツイてねぇなぁ。こんなチンケなところに来たばっかりに殺されかかってんだからよぉ」
エヴァンはニヤニヤ笑いながら腰に提げている銃を引き抜き突きつける。
「いや、ある意味ツイてるか。オレ達が世界へと羽ばたく瞬間に立ち会えたんだからなぁ。ちゃんとその目に焼き付けな」
そう言って躊躇いなく銃の引き金を引いた。乾いた銃声が何度もフロアに鳴り響いた。
「ヒャッヒャッヒャアッ‼︎そうだよそれ!その顔………もっと見せてくれよぉ‼︎」
みんなが恐怖で身がすくみ、それを見てエヴァンはさらに喜んだ。
「いいねぇ、やっぱりやるなら実行が一番だ。おい、お前」
エヴァンは銃を突きつけたまま、目の前にいた中年の男性に声をかけた。
「え………?」
「こっち来いよ。ほら、来いって。撃ちゃしねぇよ」
エヴァンに呼ばれて、男は震えながら立った。みんなの視線が彼に集まる。
男は冷や汗をかいて震える脚で前に出た。
「今からクイズを二つ出す。二つとも当たったら………お前だけ逃してやる」
「クイ、ズ………?」
「そうだ。まずオレがどんなヤツか、当ててみな。あ、外国人とかいうのナシな」
シンと静まり返ったフロアで、立たされた男性が俯いた。息が荒くなり今にも倒れそうだ。
それからしばらくして、男は震える唇で弱々しい声を漏らした。
「ぐ、軍人………でしょう、か」
「なるほどな………まぁいい。次のクイズだ。何でオレ達がこんな事してると思う?」
次のクイズに男は目を見開いた。その問いを彼だけでなく、みんなが考える。
「お、お金のため、でしょうか………」
「ふーん………」
彼の答えはみんなが納得するものだった。エヴァンは男の解答を咀嚼する。
そして目にも止まらぬ速さでナイフを取り出すと、男の内股に突き刺した。生々しい音が耳にこべりつく。
「ギャアァァァァァァッッッ‼︎」
男の絶叫がみんなの耳を貫いた。刺された箇所から鮮血が溢れ出した。何人かが目を瞑って蹲った。
「残念だったなぁ。二つともハズレだ」
エヴァンは男の右手を踏みつけると、その人差し指を脚から引き抜いたナイフで斬り飛ばす。
「ア゛アァァァァァァッッッ‼︎ア゛ァッ‼︎ギャアァァァッッッ‼︎」
「一問目の答え、オレはこの世界の救世主だ。二問目の答え、オレ達がこんな事が出来るのは、神の思し召し。神から許されたからだ」
エヴァンは男の髪を掴むと、自分に近づけて睨んだ。
「そんな簡単な事も分からねぇ、オレ達の価値が分からねぇヤツだから、お前は生贄になったんだ。神の使徒が羽ばたくためのな」
エヴァンは持ってたナイフを男の目に突き刺した。男の絶叫はもはや声になっておらず、血の混じった涙を流す。
「─────────ッッッ‼︎」
「おいお前ら、好きにしていいぞ」
そう言うとエヴァンの周りにいた何名かが笑いながら男に歩み寄った。
「キャッキャッキャアッ‼︎」
瀕死の男を囲むと、みんなが狂喜の声をあげて持っているライフルを構えて乱射した。男は血塗れとなり、断末魔は銃声に掻き消えた。
あの時もそうだった。押し入ってきた強盗達は奇声をあげながら人を次々と殺していった。
自分もそうなるのかと思うと、もう意識を保つ余裕もない。
しかしその瞬間、頭に何かがゴツンと当たり、かろうじて意識を保てた。
「痛ッ!」
するとぶつかった何かが声を上げる。その声が分を現実に繋ぎ止める。
「ちょっと、倒れるなら人のいないところに………ん?」
どうやら分は人とぶつかったようだ。それは分と同い年くらいの青年で、不思議そうに分の顔を覗き込んでいる。
紫色のよれている大きなシャツを着ていて、髪はボサボサ。しかしこの状況にも関わらず顔色も声音も普通だ。
「ねぇ、倒れないでって。しっかりして」
青年はテロリストに目立たないように分を支えると目を合わせる。当たり前だが、見たことのない人だった。
「君、雛罌粟 分さん、だよね?」
霞む意識の中で自分の名前を呼ばれて、分の意識が少しだけ回復した。
「あ、アンタ、誰………?」
こんな友達はいないし、クラスメイトでもこんな顔の人はいない。何故自分の名前を知っているのか。
「そんなのどうでもいいんですよ。とにかく、ゆっくり深呼吸してください」
青年に言われて、分は震えながらも深呼吸した。乾いた口が気持ち悪いが、それでもゆっくりと息を吸い込む。
「ちょっとは落ち着きましたか?無理に話さないで、僕の質問に答えください」
青年は分を支えたまま周りの様子を確認した。
「あなた、一人でここに?」
分は静かに頷いた。青年は少し悔しそうな顔をしたが、すぐに顔を上げる。
「連枷 竜胆、あなたの友達ですよね?彼にここにいる事は教えましたか?」
分はまたもや驚いた。まさか竜胆の名前まで知っているとは、彼の知り合いだろうか。
しかし分は首を横に振る。お買い物に出かけるとは言ったが、ここにいるとは言ってない。竜胆も知らないはずだ。
でも………
「東風には、言った………かな」
自分でも驚くほど弱々しい声だった。言葉が上手く出てこない。それに彼が東風の名前を知っているわけないのに。
しかし青年は目を見開いた。
「それって、
謎の青年は一人でブツブツ話している。
この状況を何とかしようとしているのか。並の精神でできる事じゃない。一体何者だろうか。
しかしおかげで少しだけ落ち着いた。それと同時にみんなのことも思い出す。
東風には確実に自分の身に何かあったのは伝わっただろう。そうなれば姉である罔象や、竜胆の耳にも届いているはずだ。
「竜胆………」
分はポツリと呟いた。
彼は今頃何をしているだろうか。自分が捕まったことを知って、もしかしたら助けに来てくれているのかもしれない。
そんな何の確証もないことでも、考えただけで心が温かくなった。意識もさっきよりハッキリしてくる。
「竜胆………来てくれる、のかな」
「まぁ来るにしても、今すぐは無理でしょう。というかそれはやめてもらいたいですね」
「え?」
分の独り言が聞こえたのか、青年が小さく呟いた。
しかし無理はまだしも、やめてもらいたいというのはどういうことだろうか?この人は捕まったままでいたいのか。
「どうも中の警備が薄すぎるんですよ。それに遠慮なく銃撃って、これじゃあ警察に突入しろ、とでも言わんばかりです」
自分が殺されるかもしれないというのに、青年は冷静に状況を把握していた。
「べ、別に………いいこと、じゃないの?」
「普通なら、ですけどね。あの『Salvation Of Sin』ですからねぇ………」
「何、それ?」
「え?あぁ、あの人達の組織の名前。そういや名乗ってませんでしたね。彼らは『Salvation Of Sin』。世界各国で破壊活動してたり、ヤクばら撒いたり、人身売買やってるような………まぁ、大きな犯罪組織です」
分は目を見開いた。一般人じゃないのは何となく分かっていたが、そんなに凶悪な人達だったとは。
それ以上にそんな事を知っている青年も不審に思った。見た目はただの高校生みたいだが自分達の名前を知ってたりと、明らかにおかしい。
「さっきのボス、エヴァンの言葉聞いてたでしょう?自分は救世主だって。『Salvation Of Sin』は神の名の下に犯罪を犯すと言う、ちょっと宗教色のある組織でしてね。規模も含めて何するか分かったもんじゃないんですよ」
たしかに世界史などをやっていれば、宗教絡みの争いなど山のように習う。正直分には理解できないものも。
こういうのはその宗教に携わらない限り、わかる事はない気もする。
「メンバーも猟奇殺人者、ヤク中、破門されたヤクザ、全員問題のある人達ばかりですが、中にはプロもいます。こんなザルな立て篭もりをするはずないんですよね。主力メンバーも全員はいなさそうだし、どこかに別の所にいるんでしょうね」
「ほ、本当に、何者なの、アンタ………」
「見ての通りただの高校生、でもないですね。社会のゴミですよ。それよりも、彼らはもっと大きな事を企んでるはずです。それこそ、警察が突入することすら、計画の内くらいの」
「何、どういうこと?」
「例えばですが………さっきから全員服が妙に膨らんでます。おそらく爆弾のようなものを携帯して、いざと言うときは自爆するくらいの、ね」
分は背筋に悪寒が走った。まさかとは思いたいが、自爆も躊躇わない集団なのだろうか。
「そんな………」
「いや、それだけならまだマシですよ。起爆装置ひっぺがせば終わりですから。もっと怖いのは、外にいる警察や野次馬の中に彼らの仲間がいることです。それで、その人達まで爆弾を持ってたら………」
青年の淡々とした言葉に分は体の震えが止まらなかった。
「あ、アンタ………何、言って………」
「分かりませんか?これはデパートの立て篭もりだなんて生温いものじゃない。ここ一帯、都市の破壊活動なんですよ。警察が下手に動けば………いや、このまま大人しくし取引をしても僕達は殺されるでしょうね。彼らはただ人殺したいだけ、力を見せつけたいだけですから。神の名の下に、ね」
そんな事あり得ないと思いたかった。しかしさっき目の前で見せつけられた虐殺が、それを許さない。
あんな事するようなヤツらが、要求が果たされたからといって見逃してくれるだろうか。
また意識が遠のきそうになる。自分はこのままでは殺されるのだ。
「唯一助かる道は、彼ら全員を倒す事。それまでに来ると死ぬんですけど………」
そして青年は誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
「さぁて、どう出る?………DEAD SURVIVOR」
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