※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第192話 正義

「ぐぁっ⁉︎」

「っと………睡眠ガスの手榴弾は、これだけあれば大丈夫ですね」

「えぇ。そろそろ人質のいるフロアに着くはずです」

 僕は殺したテロリストの一人の死体を近くの階段の影に隠した。

 ほとんど僕が殺してるよな。一応復讐屋もMAC−11とナイフを持っているんだが。

 とりあえず僕と復讐屋は着々と上に進んでいた。目的地までもう少しだ。

「ここまでは特に何も無し。強いて言えば、さっきからちょいちょい銃声が聞こえるのが気になりますが」

「そう、ですね………」

 不安に駆られながらも、僕は声を絞り出した。おそらく僕達が入ってから何人か殺されているだろう。

 その中に(くまり)が入っている可能性だって………

 すると、僕のスマホが震えた。

 東風が作戦成功したのかと思ったが違った。そもそも来たのはLINEじゃなくてメールだ。アイツはこんな事しない。

 何だこのアドレス?見たことな………くないな!

「ん?DEAD SURVIVOR、どうかしましたか?」

「ちょっと気になる人から連絡です」

 僕達は止まると、近くに身を潜めた。

「誰かから連絡ですか?」

「はい。ただ………ちょっと嫌な予感が」

「え?」

 このアドレス、一度だけ見たことがある。

 一年前の文化祭の時だ。東風をイジめてたヤツらのデータを僕に寄越した謎の人物、彼が送ってきたものと同じアドレスだった。

 何でこのタイミングで?

 僕がメールを開くと、そこには何かの中継映像が見られるようになっていた。鍵がかかっていて、そのコードが下に書かれている。

 送られたURLからサイトに飛ぶと、コードを入手した。

 それからすぐにノイズの混じった映像が映される。

「なぁッ⁉︎これは………!」

 僕と復讐屋はその映像に目を見張った。

 そこは僕達が目的地としているデパートのフロアだった。商品の棚などが見える。

 何でこの映像が………たまたまなのか?いや、違う。一年前僕にデータを寄越した人物がそこにいるのだ。

 するのカメラの向きが変わり、大勢の人が映った。彼らが人質か。

 そこからさらにカメラの向きが右に移った。そこに映し出された光景を見て、僕は思わず声を上げた。

「分………⁉︎」

 そこには立ち上がってテロリストと向かい合っている分がいた。

 まるで噛みつくような姿勢に、大きく叫んだ後のような息の切れ方。どう見ても彼女が自発的に立ち上がって叫んだんだ。

 まともな理論すら通じないテロリストに反抗する。そんなの見える未来は一つしかはない。

「アイツ………何してんだ!」

 僕は立ち上がると周りも気にせず上に向かおうとした。それを復讐屋が止める。

「ちょっと待ってください!今行ってはならない!何で僕達がコソコソここまで来たのか忘れたんですか⁉︎」

「けど、これはどう見ても分が!」

「だからです。彼女が自発的に彼らに反抗したのなら、まだ余裕があるはずです。慌てるのは今じゃない」

 復讐屋の言葉に、僕は彼が何を言いたいのかを察した。

 そうだ。彼らは実力はともかくほぼ全員が愉快犯だ。面白半分やくだらない理由で人を痛めつけて殺す。

「彼らは彼女をすぐに殺しはしません。怯えさせたり、痛めつけたり、とにかく今すぐ殺す事はないはずです。焦る必要はない」

「けど………!」

「フロアまではもうすぐです。近くで待機して、様子はこの映像で見る。本当に危なくなった時には突入しましょう」

「………分かりました」

 僕は大きく息を吸うと頷いた。ここで焦れば外にいる罔象や東風、鯨波さんの命が危ない。それに人質の人達も。

「急ぎましょう。ここから先の見張りは僕が殺しますので、あなたは様子の確認を」

「お願いします」

 僕は軽く頭を下げると、その映像に目を向けた。

「分………!」

 

 

 

「アンタ達、いい加減にしなさいよ‼︎」

 

 

 

 子供に向けて銃を向けて嗤うテロリストに、アタシは大声で叫んだ。

「あ?何だぁ?」

 エヴァンを含めたテロリストはもちろん、人質全員がアタシの方を振り向いた。

 その視線を受け止めて、改めて自分のしたことの重大性がのしかかってくる。

 口の中が乾いて、冷や汗が頰をつたって流れていった。脚が震えて、今にもしゃがんでしまいそうになる。

 それでも拳を握って、必死に耐えた。隣にいる女の子の腕を引いて自分の後ろに隠す。

「だ、大丈夫だから………そこから、動いちゃダメだよ」

 自分でも驚くくらい掠れた声だ。それでも女の子には通じたのか少しだけ泣き止んでくれた。

「んだよ、ガキが。俺の欲望の邪魔すんのか?」

 女の子に向いていた銃口がアタシに向いた。昔、銀行強盗にあった時もこんな風に銃口を突きつけられた。

 その男の目はどこか虚で、手も震えている。何か薬物をやっているのは明らかだった。

 その記憶が意識を蝕むが、全身に力を込めて身体を支える。

 ここで折れちゃいけない!自分の正義を、貫く!

「そ、そうよ………こんな、小さな子供が泣くのを、迷惑だって言うなら………まず、アンタ達が大人しくしなさいよ!」

「黙れぇッ‼︎ガキが、神のご意志に背くんじゃねぇッ‼︎」

 薬物のせいだろうか、ヒステリックに叫んだ男が引き金を引こうとした。

「まぁ待て」

 するとエヴァンが前に出てきて男を止めた。

「面白いじゃねぇか。すぐに殺すこともねぇだろ」

「うるせぇ‼︎俺の欲望を邪魔したんだ!死んで当たりま………ッ‼︎」

 男の言葉は最後まで続かなかった。エヴァンが持ってた銃で男の脚を撃ったからだ。

「ギャアァァァァァァッ‼︎い、痛い‼︎やめろ‼︎て、テメェ………何し、ッ⁉︎」

 脚を抑えて転げ回る男の頭に数発撃つと、男は動かなくなった。銃声に身体がすくむ。

「ふむ、本当はもう少し痛めつけるのが好きなんだが、まぁいい」

 味方を躊躇いなく殺したエヴァンは、今度はアタシに銃を向けた。心臓がギュッと締め付けられる。

「ほら、言いたいことあんだろ?言ってみろよ」

 ニヤニヤ笑いながら、エヴァンはアタシに銃口を向ける。

 身体中が震えて、目の前がぼーっとする。

 それでも息を大きく吸い込むと、震えた声のまま言った。

「あ、アンタ達………何で、こんな事するのよ。これが、アンタ達の、正しいことなの?」

 するとエヴァンは小さくため息をついた。

「はぁ………どこ行っても同じこと聞かれるな」

 間近に迫った銃口が、アタシの額に触れた。その熱さに身体が跳ねる。

「いいか?人間ってのは誰でも罪を犯すんだよ。罪を犯すのは人の本能だ。んな当たり前のことを、同じ人間が規制するなんて狂ってるだろ?」

 そう言われて、アタシの頭の中にお父さんの顔が浮かんだ。アタシが殺してしまった、家族の顔が。

「だからぶっ壊すんだよ。この世から『罪』を!人間を本来あるべき姿に戻す!」

 罪を、壊す………

 その言葉を聞いて浮かんだのは、竜胆だった。

 アイツの背負ってきた罪、それが全て、消える………

「本当は九年くらい前に実現するはずだったんだけどなぁ。うるせぇサツのせいでパァになっちまった。まぁ、サツの仲間と一緒に家族拉致って捕まえて、ヤク漬けにしてやったけどなぁ‼︎」

 その瞬間、アタシの記憶の中一部が、エヴァンの言葉に反応した。

 九年前………警察官…………拉致、ヤク漬け………

 コイツ、まさか………!

「特にしつこかったヤツ!名前何つったっけ?たしか………」

「連枷………扁螺」

「あ!そうそう、ソイツ!んだ、知ってんのか?九年前だぞ?」

 エヴァンが意外そうな顔をするが、そんなの気にする余裕も無かった。

「アイツの姿は見ものだったなぁ!面白そうだから家に帰してやったら、愛する妻撃ち殺したんだぜ?」

 間違いない、コイツが………コイツが竜胆のお父さんを………

「しかもよぉ、もっと面白れぇのは、その馬鹿なヤツだけが止めたと思う?ソイツのガキが二階から突き落として殺したんだよ‼︎笑えるだろ⁉︎ギャハハハハハッ‼︎」

 エヴァンは狂ったように笑い出した。恐怖とは違う、別の何かが身体を震えさせる。

 コイツが竜胆を………何年も何年も、今でも苦しめたんだ。自分の快楽のために。

「そのガキも、今頃くだらねぇ罪に悩んでんのかな。まぁ、犯罪者なんてみんな同じようなもんさ。オレもそうだった」

 コイツも、かつては罪に悩んでいたのだろうか。それならば、たしかに竜胆のような人達と同じとも言える。けど………

「でも、それも今日までだ。オレ達の神様が、人々を解放する!罪人は消える!」

 愉悦に浸った表情で、エヴァンが叫んだ。

「オレ達は神の使徒だ!選ばれた存在なんだよ‼︎神によって全ての罪を許されている‼︎神に代わり、この世界を支配する‼︎」

 

 

 その瞬間、アタシの中で何かが爆ぜた。

 

 

「………ざけんな………ッ!」

「は?聞こえねぇよ。何か言った、ッ⁉︎」

 アタシは自分の額に突きつけられた銃口を手で思いっきり払った。

 頭の中が真っ赤になった。自分を悩ませていたものが全て赤く染まる。

 相手がテロリストなのも、自分が殺されることも、コイツのくだらない妄言も、自分や竜胆の過去(・・・・・・・・)のことも。

 

 

 

「ふざけんな‼︎罪は………罪は、許されるものなんかじゃない‼︎」

 

 

 

 アタシは吠えた。自分で自分の言葉とは思えないほどに。

 今はっきりとした。コイツと竜胆は違う。今とか昔とか関係ない。竜胆は絶対にこんなヤツみたいにはならない。

「は?んだよ、神がお許しになった事だぞ。罪なんて無くなった方がいい。そんなの誰だって思って………」

「違う‼︎」

 竜胆は………アタシが本気で愛してる人は………

「自分が犯した罪は、ずっとずっと自分に斬り刻み続けて、一生背負い続けて、生きなきゃいけないんだ‼︎」

 竜胆と初めてちゃんと面向かって話した時、アイツはアタシに言ってくれた。

 

 

『罪は償えませんよ。何したって罪は許されない。大切なのはそれを全部背負って幸せに生きていけるか、だと思いますけどね』

 

 

 今でもちゃんと覚えてる。

 アイツは『罪が許される』なんて、そんな甘えた事一度も言ったことがなかった。それが口だけじゃないのも、アタシは知ってる。

 だからアタシも、自分の罪を刻みつけながら生きようと思った。罪を一人で背負って、それでも逃げずに自分の正義のために生きようと思った。

「アンタはただ、自分のやってる事から逃げてるだけでしょ。大した覚悟も無しに背負わなきゃいけないものから逃げて、それをみんなに押し付けて!そんな人が救えるほど、世界は甘くない‼︎」

「黙れぇぇぇッ‼︎」

「きゃあッ!」

 その瞬間、怒鳴り散らしたエヴァンによって、アタシは蹴り飛ばされた。身体中の息が吐き出されて、目の前が霞む。小さい頃の子供の暴力よりも、何倍も痛い。

 それでも、アタシは立ち上がった。恐怖と苦痛で身体がフラついた。

「オレは神の使徒だ‼︎唯一絶対の!ガキが見下しやがって‼︎オレの下す正義が、この世界の全てだぁ‼︎」

「私の正義は違う‼︎あなたとは分かり合えない‼︎」

 だから、ぶつかるしかない。たとえどんなに愚かでも、他の誰でもない、自分のために。

 エヴァンの目は血走っていた。銃をアタシに向ける。

「だったら、テメェを見せしめにしてやるよ。蜂の巣にして、斬り刻んで、動けなくして、犯して、与えられる苦痛全てを与えて、殺してる‼︎それを全世界にばら撒いて、オレの力を見せつけてやる‼︎」

「………それも神の意思?そんなに力見せつけたいなら、駆けっこでもやれば?逃げる速さなら、誰よりも速いんじゃない?」

「このッ………舐めんじゃねぇぇぇぇッ‼︎」

 エヴァンが引き金に指をかけた。自然と恐怖は無くなっていた。

 アタシは自分の正義を貫いた。その先に待つのが死だとするのなら、アタシはそれを喜んで受け入れる。

 そのためにアタシは今日まで生きてきた。そう胸を張れる。

 お姉ちゃん………お母さん………東風………竜胆………みんなに言いたいこと、いっぱいあったのに………

 でも………ごめん。それとアタシと生きてくれて、ありがとう。

 

 

 

「テロリスト相手に挑発とか、やっぱりすごいな、分は」

 

 

 

 どこからかしてきた小さな声。でもアタシには、その声がはっきりと聞こえた。

 そしてその瞬間、アタシ達の周りに何かが投げられた。いくつも投げられたそれは、落ちると同時に煙を発した。

 これ………コイツらが使ってた、睡眠ガスの手榴弾?

「ぐっ!んだよ、どうなってる⁉︎」

 突然の出来事に、エヴァン達は慌てて後退した。動けない人質達は戸惑っている。

 すると一人の人影が煙の中から現れた。その人影はアタシを抱き寄せると、煙から逃れるようにそこから離れる。

 煙が少し晴れて、人影の顔がはっきりとしてきた。いや、見える前から、それが誰かなんて分かりきっていた。

 

 

「竜胆………!」

 

 

 込み上げてきた熱い感情を噛み締めて、アタシは目の前にいる愛する人の名前を呼んだ。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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