※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第195話 解散

 僕は分を抱きしめたまま、そのまましばらくジッとしていた。

 まだ分は泣いていたが、この状況をそのままにするわけにもいかない。

「分、一旦いいか?この場を何とかしないとさ」

「うん………分かった」

 分は僕から離れようとすると、ガクッと崩れそうになってしまった。僕は慌てて受け止める。

 まぁあんな怖い思いしたんだし、すぐに歩かせるのは少し負担が大きいか。

「仕方ない、おんぶするか。ほれ」

「あ、ありがとう」

 僕は分を背負うと辺りを見渡した。

 テロリスト達のことももちろん何とかしなきゃだけど、その前に………

「うっ………ぐすっ、うぅ………」

「おーい、東風。そろそろ何やらかしたのか説明してくれ」

 カーディガンを血に染めてさっきから蹲って泣いている東風に話しかけた。

 服装は普通の女子高生なのに、血塗れで泣き喚くとは。ここ最近見たものの何よりもホラーである。

 いきなり乱入してきて父さんの銃を渡した東風は、さっきからこの様子だ。僕は東風にこんなこと頼んだ覚えはない。

 まぁこの父さんの銃は鯨波さんが持ってたはずで、それを持ってるって事は鯨波さんはこの事知ってるんだよな。

「うぅ………りん兄ぃ‼︎」

 涙目のまま東風が僕に抱きついてきた。顔を押しつけて泣き喚く。

 おい!恥ずかしいマネはやめろよ!一応復讐屋もいるんだからさ!

「落ち着け、何があった、というか何やらかした?」

「ぐずっ………じ、実はぁ………」

 泣き喚く東風の話を何とかまとめると………

 

 

 僕と復讐屋が突入した後、僕達の身を案じた東風は自分も乗り込みたいと相談した。

 当然鯨波さんも断ったが、あまりに東風が一生懸命になるものだから外での問題が解決したら、僕に届け物、つまりは父さんの銃を届けて欲しいとお願いした。

 

 

「って、何やらせてんだ鯨波さんは」

 けどそれを聞く限り何も問題無さそうだ。東風は隠密行動のいろはをちゃんと分かってるし、よっぽどのことがない限り見つかる事はないだろう。

 ………って普通なら思うんだろうな。血塗れのコイツを見れば、話のオチは何となく分かった。

「んで、何でそんなに血塗れなんだ?一応傷は無さそうだけど、お前積極的に戦ったりしないだろ」

「うぅ………最初は、ぐずっ、何ともなかったのぉ………でも、途中で道に迷ってぇ………」

 やっぱりか。

 元々方向音痴であるコイツが、デパートの裏から入って地図も無しに目的地に辿り着くはずがない。

 当然道に迷った東風は、手当たり次第行けそうな場所に向かったそうだ。

 ただ悪運の強い東風は、こともあろうに僕達が敢えて生かしておいたテロリスト達全員と出会してしまったそうだ。

「その人達、ぐすっ、私のこと見たら襲ってきてぇ………それから何も覚えてない………」

 あぁ、嫌な予感しかしない。道理で突入した後にエヴァン達に加勢しに来なかったわけだ。

 大切な情報源、何のために生かしたと思ってる。

「おい東風、いい加減泣き止め。これから警察を突入させるから」

「うっ、は、はいぃ………」

 何とか東風を宥めると、復讐屋がこっちにやって来た。

「Dead Survivor、これから警察を突入させるんでしょうけど、その前にちょっといいですか?」

 そう言うと復讐屋は眠っている人質の中に足を踏み入れた。そしてその内の一人の男性を見つけると足で小突く。

「おーい!どうせ寝たフリでしょ?一旦起きて!」

 復讐屋に蹴られた男は動じることなく寝返りを打つと

「むにゃむにゃ………後一時間」

「ふざけてないで起きてっての!警察に迷惑かけることになるでしょ!」

 そう言われると男はようやく目を開けた。

「おぉ、(れい)!どうしてこんなところに?」

「くだらん小芝居してる場合か!まったく………」

 冷というのが、復讐屋の名前なのだろうか。この男は復讐屋の知り合い?

「えっと………その人は?」

「ん?あぁ、さすがに覚えてないか。この人は鼠牙(そが) (あくた)。八年前にあなたにその短刀を渡した、僕の父親です」

「は?」

 言われてみればどこかで見たことある顔だが、何でそんな人がここに?

「ん?おぉ!Dead Survivorじゃん!俺の渡した武器と名前、使ってくれてるみたいで嬉しいよ」

「は、はぁ………」

 死体がいくつも転がってるこの状況で、特に怯えることなく、むしろ嬉しそうに話しかけてくる。

 それを見て復讐屋、もとい冷さんがため息をつく。

「はぁ………今朝、父さんからメッセージがありましてね。Salvation Of Sinがこれから襲ってくるデパートにいるぜ!みたいな。この人は、あらかじめこのデパートが襲われるのを知ってて、わざと人質になったんですよ」

「え?………何故?」

「本人曰く、楽しいから、だそうですよ」

 冷さんが呆れたように肩をすくめる。

「お前なぁ、あんなテロリストの人質になるなんて人生で一度あるかないかだぞ!そんなの楽しみに決まってるだろ!」

 何言ってんだこの人。

 どうやら本当に好き好んで人質になったようだ。

 けど、これで一つ分かった。冷さんがここが襲われるのを知ってたのは、父親経由の情報だったのね。

「にしてもコイツらいい武器使ってるよなぁ。冷、これ持ち帰っていいか?コレクションに加えたい!これと………あ!これも!」

「ちょっと父さん!また勝手に武器集めて、って僕のリュックに詰め込まないでよ!」

「一応大きめの買い物袋持ってきたけど入りきらないの。手榴弾くらいならいいだろ?やっぱりこういうの楽しいなぁ!」

 当たり前のようにテロリスト達の死体を漁る父親と、それを止める息子の図。まぁこれは放っておくか。

 それよりも………

「東風、分、ちょっと耳塞いでろ」

 僕は近くに落ちてる銃を拾うと、フロアの出口に向かって発砲した。

 壁に弾丸がめり込み、出口に向かっていた一人の青年が足を止める。

「っとぉ………怖い怖い」

 人質は芥って人以外全員奇襲で眠らせたはずだ。それなのに何故か起きてる人がいる。

 僕と同い年くらいだろうか。よれよれした紫のシャツを着た青年だ。

「あ、万年青」

 意外にもそれに反応したのは分だった。

「知り合い?」

「ってほどじゃないけど、捕まった時近くにいたの。アタシのこと助けてくれて」

 ふーん、悪い奴じゃない、のかな。一応銃を突きつけたまま近づく。

「あなた、何者ですか?この状況で起きてるとか、普通じゃないんですが?」

「いやいや、たまたまですよ………って、あなたに誤魔化しても仕方ありませんね」

 万年青と呼ばれた、飄々とした雰囲気の青年はそう言ってスマホを開いた。

「それを見れば、僕が誰か分かるかと。はい」

 そう言って見せた画面を見て、僕は驚いた。いや、僕だけではなく東風もだった。

「りん兄、これって………去年の退学になった人達の、データ?」

 そう、そこにあったのは去年僕が文化祭で退学させた生徒たちのデータだ。

 これと同じものが僕に送られて、それを元に東風をイジメていた生徒達を社会的に殺したのだが………

「あなた、文化祭の時のハッカー………?」

「クックック、かのDead Survivor様にそんなことを言っていただけるとは、光栄ですね」

 コイツ、僕のことを知ってるのか?何でこんなにも知ってる人間がいる。

「さっきのライブ映像も、あなたの仕業ですか?」

「えぇ、こうした方がいいかと」

 なるほどな………まぁ、色々問題はあるものの、こちらも悪いヤツじゃなさそうだ。

「何故あなたのような人が人質に?」

「あ、言っておきますが、これは僕にだって想定外のことです。本当はすぐにでもセキュリティシステムを奪ってどうにかするつもりでしたが、外から何も起きないので下手な事はしない方がいいかな、と」

 たしかにその判断は正しかった。信用はならないが、とりあえず今は放置でいいだろう。

「それと、警察呼ぶなら早くしないとマズいですよ。ほら」

 そう言って見せてくれたのは、クラッキングしたデパートの監視カメラ映像の一つだろう。

 それを見て僕達は愕然とする。

 そこには所々血に濡れて倒れているテロリスト達だった。

 僕達はちゃんと殺したヤツは隠したし、となるとこれは………

「東風………お前さぁ」

「うっ………ご、ごめんなさい」

 死んでないと思うし、襲ってきたのが向こうだから自業自得だが。それにしてもやり過ぎだ。

 放っておいたら本当に死んでしまう。早めに警察に保護してもらわないと。

 ただ人質として保護されるのは面倒だから、こっそり外に出るか。

「それじゃあ外に出るか」

「あ、僕もご一緒してもいいですか?面倒事は嫌なので」

 万年青と呼ばれた青年が手を挙げた。まぁ彼なら構わないが。

「冷さん、あなたはどうしますか?」

「僕もご一緒します。父さんは………いない⁉︎」

 辺りを見渡すと芥さんは既にいなくなっている。

「外にいる連中の物漁りに行ったかな。まぁ、父さんなら自力で何とかするか」

 冷さんは頭を抱えた。大変な父親を持ったもんだなぁ。

「それじゃあ外に出るか」

 僕達五人は鯨波さんに連絡して警察を突入させると、こっそりと外に出た。

 

 

 

 

「竜胆!」

 外に出た僕達はデパートの裏手の通りに出た。そこに鯨波さんがやってくる。後ろには牛尾菜組の若頭の虚宿 冬青さんと舎弟のみんながいる。

「虚宿さん⁉︎何でここに?」

「あ?聞いてねぇのか?外にいたクズ共倒すの手伝ったんだよ。お前の妹に呼ばれてな」

「嘘だろお前………」

「ほ、他に思いつかなかったんです。一人じゃ無理でしたし」

 だからってヤクザに頼むか?知り合いだし、いい人達だからいいんだけどさ。

「まったく、派手にやってくれちゃって。やった事がやった事だし、そこまで難癖はつけてこないと思うけど、ある程度警察の目が厳しくなるのは覚悟してよ」

「んだよ、そんくらいテメェが何とかしろや。それでもサツかよ」

 鯨波さんと虚宿さんの会話は、何というか砕けた感じがあった。

「二人って知り合いでしたっけ?」

「ん?あぁ、言ってなかったっけ?冬青は高校の時の私の同級生だよ。もちろん上枝ともね。仕事上での付き合いもあるし」

 そうなの?たしかに歳は近いなとは思ってたけど。

「鯨波が面倒な事件に首突っ込んでガキ保護してたのは知ってたが、まさかお前だとはな」

「私からしたら、牛尾菜 五十集の孫娘を竜胆が保護してたのが驚きだよ。しかも東風ちゃん作戦の協力者誰かと思ったら冬青達だったし、オマケにめちゃくちゃやるし」

「うっせぇな。助けてやったんだからガタガタ言ってんじゃねぇよ」

 というかこれ頼んで良かったのか?後で金取られたりしない?

「金は取らねえから安心しろ。ウチもヤツらには色々迷惑かけられたからな。ぶっ飛ばしてやりたかったし、呼んでくれて良かったぜ」

 僕の表情を読んだ虚宿さんが笑って答えた。

「つーか、お前冷か?」

「あ、お久しぶりです」

「やっぱりな。東風から復讐屋が手伝ってるって聞いて、まさかとは思ってが、相変わらずだな」

 虚宿さんに声をかけられた冷さんが、軽く頭を下げた。

「ん?知り合いなんですか?」

「前に牛尾菜組からの依頼を受けたことがありまして。このMac11もその時報酬として貰ったんです」

 そうだったんだ。世間は狭いな。

 すると奥の曲がり角から、一台の車が走ってきた。

 僕たちの前に止まると、窓が開いて運転者が顔を出す。

「竜胆君!分!」

「罔象!」

 顔を覗かせた罔象はドアを開けると、僕達に抱きついてきた。

「分!大丈夫⁉︎怪我してない⁉︎」

「うん、大丈夫。ごめんね、心配かけさせちゃって」

「いいのよ!無事で良かったぁ。竜胆君も、ありがとうね」

 涙を流して抱きついてくる罔象の頭を優しく撫でる。

「別に、大丈夫だよ。というか罔象は何しに行ってたの?」

「東風ちゃんに頼まれてね。お迎え係を」

「お迎え?誰を?」

 罔象が後部座席のドアを開けると、そこから三人の人が出てきた。

「パパー!ママー!」

 一番最初に飛び出してきたのはゴールデンウィーク振りの再会となる女の子、水鶏だった。

 座席から飛び出した水鶏は東風に抱きつく。

「水鶏ちゃん!怪我とかしてない?大丈夫だった?」

「うん!害富お兄ちゃんが助けてくれたの!」

「ガイト?誰それ?」

「僕ですよ」

 そう言って車から出てきたのは、かつて文化祭の時に出会い、ゴールデンウィークに牛尾菜組の事務所に共に乗り込んだ貧民街のスリだった。

 この人害富って言うのか。

 東風の話によると、牛尾菜組もSalvation Of Sinと敵対していて、不当な理由で組長の牛尾菜 五十集さんが捕まってしまったようだ。

 そんな脅しをかけられた中、虚宿さん達は東風に協力。その影響で水鶏にまで害が飛び火しそうだったから、害富さんに任せたんだそうだ。

「って、その牛尾菜さんは?」

「ちゃんと拾ってきましたよ」

 そう言って害富さんが車の方を指すと、最後の人物が出てくる。牛尾菜 五十集さんだ。

「どうやら、またお前達に借りができちまったようだな」

「親父!無事か?」

「あぁ。冬青、よくやってくれた。迷惑かけたな」

「別に、当たり前のことをしただけだ」

 虚宿さんを始め、牛尾菜組の舎弟さん達が牛尾菜さんの元に駆け寄った。

「よくすぐに出られましたね」

「私が色々根回ししたの。言いなりになるヤツは何人かいたし」

 鯨波さんが肩をすくめて答えた。どうやら鯨波さんが手を貸して釈放になったそうだ。

「この女の子が竜胆と東風ちゃんが保護した子?可愛い子ね」

 鯨波さんがしゃがんで水鶏を目を合わせると、優しく頭を撫でた。

「お姉ちゃんはパパとママのお友達?」

「お友達って言う意味なら、どちらかと言うと冬青と、かな」

「冬青お兄ちゃんと?」

「「「「ぶふっ!」」」」

 何とも可愛らしい呼び方に、僕と東風と鯨波さん、冷さんは思わず吹いてしまった。

 この強面の虚宿さんをお兄ちゃんとは………

 害富さんと舎弟のみんな、牛尾菜さんは口を抑えて笑っているから、どこかで知っていたのだろう。

「ちょ、水鶏!そういう呼び方は………」

「いいじゃんいいじゃん、懐かれてるみたいだし。ね?冬青お兄ちゃん。クスクス」

「笑ってんじゃねぇぞ!別に懐かれてるわけじゃねぇよ!たまたま世話する事多いだけだ」

「何言ってんだよ、めちゃくちゃ懐かれてるじゃねぇか。お前もまんざらでも無さそうだったしよ。その内結婚したいとは言われんじゃねぇか?」

「お、親父!」

 何だかんだで水鶏も楽しくやれてるんだな。預けて正解だったな。

 まぁ将来結婚したいとか言ったり、それで何かあるようなら、それはそれで問題ない。

 ヤクザも僕の管轄内だ。

「ありがとうございます。水鶏を助けてくれて」

 虚宿さんが叫んでいる中、僕は害富さんに礼を言う。

「別に、報酬なら牛尾菜組から色つけて貰いますから。けど、そう思うならテロリストの一人の処理を死体屋に任せたので、その料金立て替えてくれれば」

 それくらいならお安い御用だ。僕はお金を渡した。

 すると鯨波さんが自分の腕時計を見た。

「さてと、そろそろ私戻らないと。みんなはどうする?」

「あ?親父が帰ってきたんだ。俺らもとっとと帰るに………」

「アンタは残れ。やらかした事の始末をつけろ」

「チッ!………おい鱓。親父と水鶏連れて先に事務所戻ってろや。下のモンにも連絡入れとけ」

「はい!親父、こちらに」

「あぁ。行くぞ、水鶏」

「うん!パパ、ママ、またね!」

「またね!」

 水鶏は最後まで手を振って五十集さん達と一緒に帰って行った。虚宿さんもデパートの方に戻っていく。

「さてと、私達も帰りますか?」

「いや、僕は分を家まで送って行くよ」

 おんぶされている分が何やらぐったりしている。早く帰してやらないと、龗さんも心配してるだろうし。

「それなら私が家まで………」

「罔象は東風達を送ってあげてよ。これだけの騒ぎの後だ、バスやタクシーは通ってないし」

「でも………」

「大丈夫。鯨波さんに送ってもらうし、龗さんには僕達が上手いこと説明しとくから。この状況で罔象が来るのは不自然だよ」

「………分かった。竜胆君、分をお願いね」

「あぁ」

「それじゃあみんな来て。害富君、だっけ?君も来る?」

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

「あ、雛罌粟さん!実はもう一人、デパートの中でハッカーの方がいて、その人も………っていない!」

 東風が声を上げるので隣を見てみると、いつの間にか万年青さんはいなくなっている。逃げたな。

 とりあえず罔象達四人が帰って行くを見送った僕達は、鯨波さんの車に乗って雛罌粟家へと向かった。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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