※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第196話 帰宅

「それじゃあ、何とかなったんだね?よかったぁ」

「後の処理は鯨波さんと虚宿さんで何とかするそうです」

「りょーかい。ごめんね、なんか巻き込んじゃったみたいで」

「いえいえ、無理言ったのは私なので」

 ガンショップへと戻った私達は、顋門さんに事の顛末を話した。と言ってもほとんど東風ちゃんが話したけど。

「じゃあね。罔象ちゃん、だっけ?また来てよ」

「はい。また来ますね」

 私と東風ちゃん、そしてスリの害富君と復讐屋(冷君というらしい)はガンショップを出た。

 お母さんに今回のことをメールでざっくりと説明する。後は竜胆君に任せよう。

「さてと、それじゃあみんな私が家まで送ろうか?」

「あ、でも私の家雛罌粟さんとは真逆の方向なので、そこまでしてもらうわけには………」

「それじゃあ、あなたは僕が送りますよ。僕の家もそちらの方向なので」

「あ、ありがとうございます」

 そんなわけで東風ちゃんは冷君がバイクで送ってくれるとのことだったので、私は害富君を送る事になった。

「東風ちゃん。カーディガン、私の方で洗濯しておこうか?それじゃあ帰れないでしょ?」

「そう、ですね。すみません、よろしくお願いします」

 東風ちゃんの血塗れのカーディガンを預かった私は、害富君を車に乗せて走り出した。

「すみませんね。さっきからお世話になってばかりで」

「いいのいいの。この街守るの手伝ってくれたんだし、お礼だよ」

「そう言ってもらえて助かります。身分上、暗くなるのが早いこの時期は、あまりその辺一人でウロウロしたくないので」

 何とも物騒な理由だが、相変わらず育ちと肩書きからは想像出来ないほど(失礼)に礼儀正しい子だ。竜胆君と同い年くらいなのに、私より大人びて見える。

 害富君は特に何かを話すでもなく、ボーッと外を見ている。こういうところ竜胆君と似てるなぁ。

 私は聞こうか聞こうかと迷った末、おずおずと口を開いた。

「ねぇ、害富君。君は、その………スリ、なんだよね?」

「まぁ、そう名乗れるほどの者でもありませんが、一応」

「それじゃあ、何で今回牛尾菜組、だっけ?あのヤクザさん達に協力してたの?関係ないと思うけど」

 言葉を選びながら聞いてみると、害富君が大きくため息をついた。

「はぁ───いやね、僕だってこんなに長いお付き合いするつもりは無かったんですよ。けどね、ゴールデンウィークに何処ぞの殺し屋とその妹さんが暴れに暴れて舎弟さん達はほぼ負傷。しかもその責任は全部僕に背負わされたんですよ、おかしくないですか?そりゃ反抗はしましたけど、それ言ったらあの二人も同じじゃないですか?けど僕だけなんですよ。抗争には駆り出される、スパイの代わりにはされる、しまいには花火大会の的屋まで手伝わされたんですよ。舎弟の人達が回復してもずっとですよ?金払いがいいから我慢してますけど、それにしたって今回もいきなり呼ばれて………そういえばあの二人、あなたと花火大会来てましたよね?僕が一体誰の尻拭いしてやってんのかも知らないで何を楽しそうにしてんのか………」

「あ、あの!よかったら今度ウチの喫茶店に来てよ!何かサービスするから!」

「はぁ………機会があったらぜひ」

 怒涛の勢いで愚痴を漏らした害富君に、私は思わず引いてしまった。相当疲れてるなぁ、今度竜胆君には言っておこうかな。

「君は、お金になることなら何でもやってるの?」

「何でもってわけじゃないですけど、まぁスリ一本じゃキツいので」

「そっか………」

「何ですか、旦那さんの仕事のことが気になるから、近い事やってるなら色々聞きたい、ってことですか?」

 心の中を読まれて、私は手元が狂いそうになるのを何とか抑えた。

 竜胆君もそうだけど、裏社会の人達ってみんなこういうの鋭いのかなぁ。

「ご、ごめんね。私、君達のこと何も知らないのに、こんな失礼なこと………」

「いえいえ。だからこそ、何かを知ろうとする姿勢はとても大切ですよ。どんなことでも、ね」

 そう言って害富君は肩をすくめた。歳下にフォローされちゃった。

「君から見て、竜胆君ってどんな人?」

「そりゃあ、怖いの一択ですよ。何せ一般的には存在すらあやふやな人なので。僕もいつ狙われるか分かりませんし、狙われたら一巻の終わりですから。それに何より、彼は線を背負っている」

「線を、背負う?」

 聞いた事のない言葉に私は首を傾げた。

「そう。彼は仕事の線引きをして、その引いた線、その責任を全て背負っている。僕の経験上、線を引ける人間は強いですから」

「線を引ける人間、ね………」

「えぇ。『引いてる』のではなく、『引ける』人間。彼はそういう人です」

 正直、害富君の言うことは全ては分からない。けど、私なりに理解はした。

「でもね………私の知ってる竜胆君は、そんな子に見えないの。強いとは思うよ、でも………」

「人というのは波ですよ。とんでもなく突き出る人は、同じくらい凹む部分があるものです。けど………」

 害富君はキャップのつばで表情を隠した。

 

 

「その凹んだ部分を、弱さを預けられる人がいるから、彼は強くなれる」

 

 

 弱さを預ける

 その言葉は私の心に強く突き刺さった。

「弱さを受け止めてくれる『家族』がいるから、強くいられる。まぁ、僕にはいませんが」

 そういう害富君の声音は、どこか震えていた。

 もしかして、彼にもそんな大切な人が………

「彼は自分で線を引き、波を作った。それを支えてくれる家族も。それが全てです」

 そっか………何か、色々気になってたことが全て消えた気がする。

 すると後ろから別の車のクラクションが鳴った。前を見ると、信号は青だ。

「ありがとうね、害富君。おかげで………」

 車を出しながら礼を言おうと振り向くと、そこに害富君はいなかった。周りを見ても彼は見当たらない。

 まったく………

「………これは、コーヒー一杯のサービスじゃ安過ぎるかな」

 そんな事を呟いて私は自分の家へと帰っていった。

 

 

 

 

「っと、着きましたよ」

 私を乗せてバイクを走らせた冷さんが、私の家の前で止まった。彼の後ろから降りると、被っていたヘルメットを返す。

「あの、今日は色々とありがとうございました!」

「いいですよ。これも仕事ですから」

 渡したヘルメットを受け取って冷さんは苦笑した。

「それに、助かったのは僕もです。あなたが外のテロリストを何とかしなかったら、全て終わってましたからね。まさか本当に何とかしてしまうとは、正直今でも信じられません」

「い、いやぁ………あれは、虚宿さん達がいたからで………」

「なるほど………一つ、いいですか?あなたはその力を、どこで身につけたんですか?」

「え、あ、いや………りん兄から技教えてもらってたら、何となく………」

「何となくでテロリスト十人以上倒せますか?」

 そんなこと言われても、本当にそれだけだ。私だってりん兄に騙されて覚えさせられてたし。

 りん兄曰く才能があるから、らしいけどよく分からない。

「まぁいいです。けど、何故学ぼうと思ったんですか?見たところ、荒事が好きそうには見えませんが」

「それは………」

 たしかに、りん兄から教わってるのが人殺しのためのものと知った時は、こんなもの欲しくないと思った。

 私は人を傷つけたくない。その痛みを、自分なりに知ってるから。

 けど、これで自分を、大切な家族を守れるなら、いいかもと思った。

 そして、それ以上に………

 

 

「きっと………そうしたら、りん兄が褒めてくれたから、ですかね」

 

 

「ほぉ、Dead Survivorが?」

「はい。この力に限った話じゃないですけど」

 今回もそうだ。りん兄の役に立ちたい、その一心であれだけのことができた気がする。それが私の最も単純で、大きな動機だ。

 すると冷さんは一人で納得したように微笑んだ。

「ふふっ、なるほどね………道理で彼が固執するわけだ。実に羨ましい」

「え?」

「いえ、何でもありません。あ、そうだ。一応これ、どうぞ」

 そう言って冷さんが渡してきたのは、白い薄いケースに入った一枚の真っ白な紙切れだった。

 彼がケースから紙切れを出すと、懐から出したライターでそれを炙る。

「本当はこういうのは副業で隠すんですが、何せ学生以下のニートなので」

 すると紙切れに『復讐屋 レイ』のいう文字と、裏サイトのURLらしきものが浮かんできた。

「何かご依頼がありましたら是非どうぞ。今回のこともありますし、サービスして助けになりますよ」

 冷さんは名刺をケースに戻すと、ケースごとそれを私に渡した。え?名刺ってケースから出すんじゃないの?

 そんな質問をする間も無く、冷さんはバイクに乗って行ってしまった。

 いや、こんなもの渡されても困るんだけどなぁ………

 貰った名刺を見ていると、ケースの中に名刺以外の物が入っているのに気がついた。

 指を入れて取り出すと、それは何かのコインだった。お金じゃないけど、何かの記念コインとか?

 鼠の頭蓋骨が描かれたこのコインを、私はマジマジと見る。

 冷さんの忘れ物かと思ったが、人に渡す名刺のケースにこんな物入れるわけないし、貰ってくれってことなのかな?

 正直持ってていいかどうか不安だけど、かと言って捨てるのも悪いしなぁ。お財布の中にでも入れておくか。

「あら、東風!そんな所で何してるの?」

 すると外から見てたのかお母さんが出てきた。

「あ、お母さん。ただいま」

「おかえり。そんな所にいると風邪ひくわよ?」

「うん!今行く」

 私は名刺をポシェットの中に入れると、家の中に入った。

 

 

 

(くまり)‼︎」

 罔象の実家に着いた僕が呼び鈴を鳴らすや否や、家の奥からドタドタッと足音がして龗さんが飛び出してきた。

 玄関の扉を開くと、既に一人で立てるようになっている分に抱きつく。

「分大丈夫⁉︎怪我してない⁉︎」

「大丈夫だから!心配かけてごめんね」

「本当に心配したんだから!よかったぁ!」

 予め罔象から連絡はするように頼んだが、それでもやっぱり不安だったのだろう。

 そこで龗さんは初めて僕達が来てることに気がついた。

「あれ?竜胆君?それとあなたは………」

「どうも。警視庁組織犯罪対策部の流鏑馬と言います。今回の一件のご説明をと思いまして、お伺いさせていただきました」

「そ、そうですか………とりあえず中へどうぞ」

「お邪魔します」

 僕と鯨波さんは龗さんに案内されて家の中に入った。

「分、先に部屋に戻ってな」

「え?でも私もいた方が………」

「大丈夫だよ。それに、龗さんに迷惑かけたくないんだろ?まだ顔色が悪い、今はゆっくりしてた方がいいよ」

「………分かった」

 分が階段を登っていくのを見届けて、僕と鯨波さんはリビングに案内された。

 

 

 

「………そうですか。それじゃあ、もう分は大丈夫なんですね?」

「はい。デパートを占拠したテロリストは全て警察に連行されました。これ以上危険は無いかと」

 鯨波さんは事件の概要(話せる箇所だけ)を龗さんに話した。

 僕は分と一緒にデパートにいて、人質になったことになっている。その方が楽だ。

 シナリオとしては、外のテロリスト達は虚宿さん達が、中にいたテロリストは鯨波さんが秘密裏に動かしていた部隊によって制圧した、ということにしてある。鯨波さんにとっては、いい点数稼ぎだろう。

「本当に、ありがとうございました」

「いえいえ、これも仕事ですから。それでは、私達はこの辺りで」

 僕と鯨波さんが席を立って出て行こうとすると、

「ねぇ、竜胆君」

 後ろから龗さんに呼び止められた。

「何でしょうか?」

「君が良ければでいいんだけど、今夜はウチに泊まっていかない?」

「はい?いや、普通に帰れるので泊まる理由は………」

「分のこと。あの子まだ体調優れなかったし。同じ経験した友達の君がいた方が、あの子も楽かなって」

 なるほど、そういうことか。どうしたもんかなぁ。

 僕はチラッと鯨波さんを見ると、鯨波は少し考えて、

「私はこれから署に戻らないといけないし、今日だけお世話になれば?迷惑はかけないようにね」

「分かりました。それでは、お世話になります」

「ありがとう。部屋は前使った所、まだ空いてるから」

 そんなわけで泊まることになった僕は、荷物を前使った部屋に置くと隣の分の部屋に向かった。

 部屋の前で扉を叩く。扉が開き分が出てくる。

「竜胆?さっき鯨波さんの車が出て行ったような………」

「鯨波さんは仕事があるから、今日は泊めてもらうことになった」

 部屋の奥を見ると、そこには参考書とノート、筆記用具が置かれていた。

「勉強してたのか?休まないと」

「明日入試だし、こっちの方が落ち着くの。それでさ、よかったらちょっとだけ教えてくんない?」

「………いいよ」

 僕は頷くと分の部屋に入った。




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