「これで、これで………こうかな」
「うん。ちゃんと合ってるよ」
龗さんの夕ご飯を貰い、お風呂もいただいた僕は、
いつもは結んでいる髪を解きパジャマ姿の分が、机に向かって問題を解いている。
「それじゃあ今度は化学を………」
「いや、そろそろ寝た方がいいんじゃない?」
「え?いや、でも………」
「遅くまで勉強してたら明日大変になるよ?朝早いんだし、早寝しないと」
「………それも、そうか。そうだね」
ノートを閉じた分は一息ついて立ち上がった。
「悪いね、最後まで付き合わせちゃって。アンタも受験あるのに」
「別にいいよ。もう終わってるし」
「えっ⁉︎そうなの⁉︎何で言ってくれなかったのよ!お姉ちゃんには言った?」
「まだ。結果分かったのが昨日で、その後すぐに仕事が入ったの。だから、今日の帰りにでも行こうかと思ったんだけどねぇ」
「あぁ、タイミング悪いねぇ。まぁ、とりあえずおめでとう」
「ありがとさん。っと、そうだ。ちょっと分に頼みがあるんだけど」
「頼み?アタシに?」
「うん」
僕は頷くと、近くに置いておいたリュックのチャックを開けた。その中からお目当てのものを取り出す。
「これなんだけど」
「ッ⁉︎こ、これって………アンタのお父さんの拳銃、よね?」
分は僕の握る拳銃を見て目を見開いた。
「うん。父さんが死んで、無茶言って鯨波さんが今日まで持ってた。これ、貰ってくれないかな?」
「は⁉︎」
僕の頼みに分は声をあげた。まぁそうだろう。
「いやいや!それお父さんの遺品なんでしょ⁉︎アタシ銃なんて使えないし、持っていいわけないでしょ!」
「そう、なんだけどさ………」
言い淀んだ僕に、分が怪訝そうな顔を向ける。
「これ持ってると、昔のこと思い出して、僕も鯨波さんもいつまで経っても前に進めないんだ。だから、貰って欲しい」
「何で、アタシなの?」
「何となく、かな。分がいいと思った。鯨波さんにも了承は得てる」
しばらく分は僕と銃を交互に見ていたが、小さくため息をついた。
「はぁ、仕方ないわね。分かったわ」
呆れたように笑うと、分は銃を受け取って胸に抱いた。
「大切にする」
「ありがとう」
これでいい。分になら、託せる。
「それじゃあ、僕もそろそろ寝るから。おやすみ」
そう言って僕は部屋を出て行こうと………して、服の裾を分に掴まれた。俯き気味で表情は見えない。
「分?どうかした?」
「今日さ………一緒に寝ない?」
………は?いきなり何言い出してるんだ?
「いいわけないでしょ。布団は龗さんが用意してくれたみたいだし、そっちで寝るよ」
「何でよ、いいじゃない。お姉ちゃんとはいつも一緒に寝てるんでしょ?」
「い、いつもじゃないっての。それに………罔象とは、その、付き合ってるわけだし」
「付き合う前から寝てたんでしょ?」
「そ、それは………というか、どうしたの?そんな子供みたいな、ッ⁉︎」
するといきなり分が体重を預けてきた。そのまま隣のベッドに倒れ込む。
「分………?」
「ねぇ、お願い。今日は、一緒にいよう」
表情は伏せられて見えないが、その声は少しだけ弱々しかった。
「………きょ、今日だけ、な」
僕はそれ以外、答えられなかった。
「んっ………竜胆、狭くない?」
「うん、大丈夫」
分のベッドに入った僕達は向かい合うようにして横になっていた。
罔象とは違う女子と共に同じベッドで寝てる、ということに罪悪感を覚えるも、今の分を放置していくことは出来なかった。
その気まずさから何か話せるわけもなく、僕は黙って分の様子を見ていた。
それもキツくなり、そろそろ目を閉じようかと思った時、いきなり分が僕に抱きついてきた。
「ちょ、お、おい!何やって………」
「いいじゃんいいじゃん。せっかく一緒に寝てるんだし、もっとくっつこうよ」
「お、お前なぁ………そういうこと、気軽にやるの、やめといた方がいいよ?」
「何でよ?アンタなら大丈夫でしょ?」
「そ、それは………僕だって男子なわけだし、その………襲うかもしれないじゃん」
「アンタはそんな事しないし、しても、まぁいいかな。何とかなる」
何だそれ?まぁこの状況で何かするつもりはないけどさ。
「それにね。そういうリスク差し引いても………今はこうしていたいの」
そう言われてしまえば、何で分がこんな事をしてるのかも、何となく分かってしまう。
「まだ、怖いの?」
「………人が、目の前でたくさん死んだんだ。何の意味もなく、遊びのために、あんな殺され方して………」
そう言う分の身体は少しだけ震えていた。
いや、本当はさっきからだ。夕ご飯の時は、龗さんに悟られないように我慢していたものの、食欲も無さそうだった。
あんな体験をしたんだ。まともに戻れって方が難しいだろう。
「竜胆は、すごいね。いつもあんな光景見てるんでしょ?」
「まぁ自分が作り出してるんだけどね。別にすごくないよ、慣れただけ」
分の声はどんどん弱くなっていった。放っておいたら消えてしまいそうなほどに。
「怖かった、何度も死ぬかと思って、すごい怖かった。………でも、それ以上に、悔しかった」
「………」
「目の前で人が殺されて、みんなが怖がってて、そんな人達を見ることしか出来なくて………結局何とかしたのは竜胆達で、東風だってあんなに活躍してたのに、アタシは………」
「アイツを基準にするな。あれは異常だ」
東風は肝が据わってるとは違う、むしろ逆だ。その場の感情に流されて、パニックになってだけ。
まぁそれであれだけのことができるのがすごいんだが。ある意味才能の塊だろう。
「でも………みんなが頑張ったのに、アタシは………助けられた命が、あったかもしれないのに………」
いや、あの状況じゃ何したって助けられなかった、なんて言っても意味無いんだろうな。
震える分を見て、僕は何となく昔を思い出していた。エヴァン達に捕まって、どうすることもできなかった自分を。
「でも、僕は助けられたよ」
「え?」
僕を見上げた分の背中を優しく摩った。嫌がられるかと思ったが、特に抵抗したりはしない。
「分と一緒にいたハッカー、魑魅 万年青さんって言ってたっけ?あの人、僕達が乗り込む前にデパートの防犯システムを一部テロリストから奪ってたんだ。分達がいたフロアの監視カメラ映像が、僕のスマホに流れてきた」
「それって………」
「あぁ。分が子供を守って、アイツらに啖呵切ってるの、ちゃんと見てたよ」
目の前で人が殺されて、自分が殺されるかもしれないのに、分は自分と関係ない子供を守り、あれだけの勇気を見せた。
あの時分が叫んだ言葉、僕は一生忘れることはないだろう。
「あの時、何か………救われた気持ちだった。分のおかげで、前に進めた………本当に、ありがとう」
自分でも知らないうちに、自分の声が震えていた。分に頼られてるはずが、僕が頼ってるみたいだ。
「竜胆………何か、あったの?」
「あ、いや………別に」
「言いなさいよ。アンタの事だし、どうせお姉ちゃん絡みでしょ?お姉ちゃんに言ったりはしないから、話しなよ」
そう言われて、僕は自然と口が動いていた。それだけ分を信用しているのだろう。
「………最近、迷うことが多いんだ。これで良かったのかな、って」
「お姉ちゃんと、婚約したこと?」
「うん………別に、後悔してるわけじゃない。いつも楽しくて、これが日常になるのが、すごい楽しみで………」
罔象といる日常は、とても楽しくて、僕のかけがえのないものだ。そこに嘘偽りは無い。
「けどさ、ふとした瞬間に、思い出しちゃうんだよ、昔のこと。自分のせいで、家族がいなくなっちゃうかもって。それで今日、分が捕まって、そのことで頭がいっぱいだった」
「別に、アンタのせいで捕まったわけじゃ………」
「分かってる………でも、さ………」
守りたいと思った人を守れなかったら、僕はもう耐えられない。たとえ自分とは関係なくても。
「夏休みに旅行行った時にさ、罔象が将来の話をしてくれたんだ。僕達の将来の話」
「け、結婚した後のこと、とか?」
「うん。正直………自分が情けなかった。自分の事ばっかりで、そういうの考えた事なかったからさ。罔象はちゃんと考えてくれてたのに」
結局のところ、僕はどこまでも子供なのだろう。
ちゃんと幸せにすると決めたのに、覚悟も考えも足りなくて。いつまでも大人の罔象に甘えてばかりで、そんな自分が情けなかった。
「そんな僕が、罔象と結婚して、本当にいいのかなって思ってさ。こんな僕じゃ………また、失うことになるかもって。どうしたらいいのかなって」
いつもなら誰にも言えない悩みを、分にならポロッと言えてしまった。これも甘えだろうか。
「だから分に言われて、ちょっとだけスッキリした。何があっても、それから逃げずに全部背負って………そしたら、守れるかな、ってね」
何の根拠もないけど、おかげで前に進めた。家族を守るために。
「それ、いつものアンタと変わらないじゃん」
「そうかな?けど、それに気が付けた。分のおかげで。まぁ、まだ全然自信無いんだけどさ」
僕と分は目が合うとお互い苦笑した。
「そっか………アンタはアンタで、色んなモン抱えてるのね」
「でも、そんなまま罔象と結婚しても、絶対幸せには出来ない。どうしたらいいのか、そんな事考えてばっかだよ」
大人になれば、こういうのもすぐに何とかできるものなのだろうか。
「あのさ、竜胆」
すると分が抱きついたまま口を開いた。さっきよりも、少しだけ力強い声だ。
「アンタが、色々抱えてるのは分かった。けどさ、もうちょっと抱える余裕、ある?」
「? どういう事だ?」
質問の意図が分からずに僕が尋ねると、分は抱きつく腕に力を込めた。
「アンタは今すごい悩んでるかもしれない。これまでのこと、これからのこと。自分の事で悩んでばっかで、子供で何もかもが足りなくて。確かに弱いし、守れないかもしれない。けどね………」
少しだけ俯いた分は顔を上げて、僕を真っ直ぐ見た。その視線に不覚にもドキッとしてしまう。
「アタシは、そんなアンタが大好き。友達として、家族として………一人の男として」
「…………は?」
自分が何を言われたのか、思ったよりも早く理解できた。分がストレートに伝えたのと、過去二回の体験からだろうか。
それでもいきなり言われたその一言は、僕の心に深く突き刺さった。
「きっとお姉ちゃんだってそうだよ。人のために悩んでばっかのアンタが好きなんだと思う。だからちゃんと自信持ちな。アタシ達が好きになったのは、過去でも未来でもない、今の竜胆なんだからさ」
気持ちの整理が追いつかず、僕は何も返せなかった。
「分、何言って………」
「ごめん、ズルいよね。こんな時に告白するなんて」
何も言えなくなってしまった僕に、分は優しく微笑みかけた。その真っ直ぐな微笑みに、僕はどうするべきか、頭がごちゃごちゃになる。
分の想いが本気なのは、見れば分かった。それでも僕には………
な、何か言わないと………
そう思っても浮かんでくる言葉は、どうしたって分を傷つけてしまうだろう。
自分の気持ちは曲げられない。でも、その代わりに分が傷つくのは………
「あの、分。僕は………ッ⁉︎」
僕が言う前に分が僕の唇に指を当てて止めた。
「声、震えてる。無理しなくていいよ。アンタを困らせたいわけじゃないし。まぁ今困らせることになるのは分かってたんだけどさ」
どこか呆れたような声の分は、強く僕に抱きつく。そんな彼女を僕は見ることしか出来なかった。
「別に、アンタと付き合いたいとか結婚したいとか言うわけじゃないの。まぁそうなれたら嬉しいけどさ。竜胆とお姉ちゃんの関係は、素直に応援してるつもり」
「なら………何で………」
「伝えたかったの、アタシの気持ちを。そうしなきゃ、って思って」
分がいつから僕の事を好きだったのかは分からない。
でも、彼女は僕と罔象の関係をいつも気にしてくれていて、何度も背中を押されて。そのおかげで罔象と結ばれた。
もしかしたらその時に、僕は何度も彼女を傷つけてしまったのか?それなのに分は………
「だから、ね………覚えてて欲しい。アタシという人間が………今でも竜胆の事を、大好きなこと」
僕は、彼女を、家族を傷つけたくない。
分が傷つく理由なんて、あるはず無いから。傷つく理由の無い人は、傷つけられない。
それが僕が『裏社会の人間』のみを殺す理由だ。僕の仕事に対するこだわりでもある。
「うん、分かった………」
分はそれを分かってくれていた。だから僕が苦しまないようにしてくれた。これまでも、今だって。
だから………
「分、ありがとう………それと………やっぱり僕、罔象のこと大好きだな。結婚するなら、罔象がいい」
「ッ⁉︎」
ちゃんと、傷つけよう。
分の優しさに甘えたくない。そんなままじゃ、いつまでも子供のままだ。
逃げたくない、だから傷つけた罪は僕が一生背負う。
分は僕と視線を交わすと俯いた。僕の服を強く掴む。その身体が小さく震える。
「………バカぁ」
「ごめん」
その声は明らかに泣いていた。
テロリストに怖い思いをさせて、泣かせたのが今日の夕方。まだ辛いはずなのに、また彼女は傷ついた。僕が傷つけたんだ。
彼女の泣き声が、僕の心を締めつける。
「そんな、泣きそうな声で言われたら………アタシが泣けないじゃん………」
「仕方、ないでしょ………」
僕は分の頭をそっと撫でた。僕の服が分の涙で濡れる。
「優しく、すんなぁ………人の気遣い、無駄にしやがってぇ………ッ」
「うん………でも、逃げたくないんだ」
「…………ありがとう………大好き」
僕達は抱き合ったまま、ゆっくりと目を閉じた。
翌朝、柔らかな温もりを感じて、僕は目を覚ました。
目を開けると、僕の腕の中には小さな寝息を漏らす分がいた。その目には泣いた痕が見られる。
そんな分をマジマジと見ていると、彼女の瞼がピクッと動いた。ゆっくりと目が開いて、僕の視線と交わった。
「んっ………あ、竜胆」
「お、おはよう………」
「う、うん………おはよう」
昨日のことが一気にフラッシュバックして、お互いに目を逸らした。分の顔が赤く染まる。
どうしよう………こんなこと、初めてだからどうしたらいいか分からない。
気まずいし、何か言った方がいいかな?
「分、その………ぐはっ⁉︎」
そう思った時、いきなり分が布団の中から僕を突き飛ばした。
ベッドの上から突き落とされた僕は、部屋の奥まで転がっていって壁に頭をぶつけた。
「痛ッ⁉︎」
ぶつけた頭を押さえながら顔を上げると、分がベットの上から見下ろしていた。
「まったく、いつまで抱きついてんのよ。ほら、早く出てって」
「は?」
「は?じゃないでしょ。今から着替えんの。それとも、アタシの着替え見たいの?変態」
「え?あ、あの、ちょっと………」
「いいから!早く出てって!」
「は、はい!」
僕は言われるがままに部屋を出て行った。
あれ?そこまで気にしてない、のか?変に気にしてるの僕だけ?
僕が不思議そうに部屋の前で呆然としていると、扉が開いて学生服を着た分が出てきた。
「何ぼけっとしてんのよ。ご飯行くわよ」
「え?ちょ、おい!」
分はそう言って僕の手を取ると、有無を言わせずに一階に引きずって行った。
「「「ごちそうさまでした」」」
予想外の分の様子に戸惑うも、僕と分、龗さんは朝食を済ませた。
僕達の食器をさげながら、龗さんがこっちを振り向く。
「あ、そうだ。昨日の夜罔象から連絡があってね。この後すぐに竜胆君を迎えに来てくれるって。ついでに分も試験会場まで連れて行ってくれるそうよ」
「あ、分かりました」
「やった!楽できるじゃん!」
というわけでしばらく待っていると、家の前に罔象の車が止まった。
「竜胆君、分、お待たせ!」
「罔象、おはよう」「よろしくね!」
助手席に僕が、後部座席に分を乗せて罔象の車が走り出した。
「罔象、悪いね。迎えに来てもらっちゃって」
「いいのいいの。私も気にはなってたし」
そう言って罔象は後部座席で英単語帳を見ている分を見た。昨日のことは言わんでおくか。
それからしばらくして分の試験会場に着いた。
「はい、着いたよ」
「ありがとうね」
お礼を言って分は車を出た。そのまま会場に向かう………前に僕の方を振り向いて扉を叩いた。
何か用でもあるのかな?とりあえず窓を開けた。
「どうかした?」
「結局ちゃんと言えてなかったから。助けてくれてありがとうね」
「ん?デパートの事なら別にいいよ。一応仕事だったわけだし」
「それだけじゃないよ、まったく」
そう言うと分は僕の胸ぐらを掴んで引き寄せた。分の顔が近くなる。
「え?ちょ、ッ⁉︎」
僕は次の言葉が出なかった。
分の唇が、僕の唇を塞いでいたからだ。
「ッ⁉︎」「なぁッ⁉︎」
温かく柔らかい感触、そして目の前まで迫っている分の顔に、目の前が白黒する。
驚きのあまり固まっている僕を無視して、分の舌が僕の口腔内に侵入してきた。
「んちゅ、ちゅるっ、れろっ………んくっ、くちゅ、ちゅぱっ!」
分の舌が口腔内を舐め回し、甘い快感に身体が痺れた。
「ぷはぁっ!初めてにしては、上手くできたかな?」
唇を離した分は、口の端についた唾液を舐めとると、首を傾けて罔象の方を見る。
「お姉ちゃん、アタシまだ竜胆のこと諦めたわけじゃないから。あんまり油断してると横から奪うからね」
そう言って分はピョンと飛び跳ねて僕達と距離を取る。
「竜胆、昨日は一緒に寝てくれてありがとう!合格したらどこかでデートしようね!」
それだけ言って分は会場へと走って行ってしまった。
あまりの事態に動けなかった僕は、そんな彼女を見送ることしか出来なかった。
柔らかかった唇の感触がまだ残っていて、顔が発火したかと思うほどに熱い。
「なぁ………あぁ」
後ろから罔象の声が聞こえる。あんま見たくないなぁ。
そう思いながらも恐る恐る振り返ると、驚いたような泣きそうな、なんとも言えない表情をした罔象がいた。
「えっと………ごめ、ん」
「………君に、謝られても、なぁ………」
そりゃそうなんだけどさ。
「………とりあえず、帰ろう、か。話はそれから」
「………………ぁい」
「そろそろ試験が始まります。荷物を外に出してください」
試験官の知らせに、みんなが隣に置いておいた荷物を外に出した。
アタシも荷物を外に出した。会場に戻る前に筆箱を開ける。今朝入れたばかりのものこっそり取り出す。
小さな金属の塊、弾丸だ。竜胆から貰った拳銃の中に入っていたものだ。
しかしそこには、本来あるべき弾頭がない。ただの空薬莢だ。
昨日竜胆がアタシを助けるために撃った弾丸、その空薬莢だった。竜胆の想いが詰まった、アタシの宝物。
届くはずのない想いを伝えて、当然フラれて。アイツが傷つかないように、返事は求めなかったのに、ちゃんとフッてくれちゃって。
アイツにそこまでの覚悟があるって言うなら、アタシも遠慮するのはやめた。だから想いを示し続けた。
やってみれば思ったよりも身体が勝手に動いて、めちゃくちゃ恥ずかしいけど、めちゃくちゃスッキリした。
アタシは空薬莢を強く握りしめた。昨日貰った竜胆の温もりが伝わってくるような気がする。
「あんなモンじゃ済まないんだから、覚悟しなさいよ」
そう言って空薬莢を筆箱に閉まって立ち上がる。
今頃竜胆はお姉ちゃんと面倒なことになってるんだろうけど、それは二人に任せよう。
アタシはアタシで、今やるべき事を。この想いが竜胆に伝わり続けるように。踏み出そう。
「そのための、第一歩!」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
評価、感想等ありましたら、ぜひよろしくお願いします。