※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第2章 遊園地と初デート
第19話 チケット


 雛罌粟(ひなげし)さんと一夜を共に過ごしてから数週間が経った。

 あれからやはり僕の生活習慣が少し変わった。

 まず昼間に『Cafe Red Poppy』に行くことが少なくなった。

 別に疎遠になったとかではなく、その代わりに夜中店が閉店してから行くことが平日の日課になった。

 あの後僕は雛罌粟さんにこれからのお弁当を任せる事にした。

 すごい美味しかったし、楽しくなったという雛罌粟さんのお弁当がどんなものなのか興味があったからだ。

 だから学校から一旦家に帰って夜に店が閉まった後、洗ったお弁当箱を雛罌粟さんに預けるために行っている。

 そこで雛罌粟さんが入れてくれたコーヒーを飲みながら他愛のないお話しをするのが僕のちょっとした楽しみだった。

 相変わらず雛罌粟さん以外の人と話すのは嫌いだけど、彼女との会話はむしろ楽しかった。

 たぶん話のペースみたいのが噛み合ってるんだと思う。だから話してて全く苦じゃない。

 話に限らずやっぱり人のペースと噛み合わないと色々面倒だからな。わざわざ合わせるくらいなら最初からしなくていいと思う。

 もしかしたら雛罌粟さんに迷惑かと思ったんだけど、雛罌粟さんが『こうでもしないと君とゆっくり話せない』との事でこうなっている。

 お互い忙しいといえば忙しいし、大人と子供という関係上予定を合わせるのも難しいのでこれが一番よかった。

 それに一緒にいたいってのは本当に思ってる事だけど、ちゃんと自分の時間も欲しいからな。そう考えるとこの習慣も悪くない。

 そして翌朝になっから学校に行く途中にここに寄って雛罌粟さんが作ってくれたお弁当を受け取るのだ。

 最初は色々戸惑ったりもしたけど数週間もしていればむしろこれが当たり前になってきた。

 こうしてちょっとずつではあるけど二人きりの時間が増えていった。

 ただそれ以上の事はあの夜以来一度もしていない。

 お互い忙しくてそんな時間が無いというのも理由の一つだけど、それ以上に誘いにくいんだよね。

 いや、普通に考えてそんな「シたい」なんて誘うような勇気も無いし、かといって遠回しに誘えるほど口達者でも無い。経験不足って悲しいね。

 出来るならやりたいとは思っているんだけど、そこに至るまでの勇気が無い。

 というわけで心の中でこっそりと雛罌粟さんから誘ってくれないかな〜みたいなことを思っていたり思ってなかったり。

 結局何と言えばいいのか分からずにいつも夜に会っているにも関わらず、何事もなく今に至る。

 健全といえば健全だし、そもそもこの前の状況が特殊だったんだけど、それでもこれはね。

 なんとも情けない話だがかといって背伸びをしても仕方ない。僕は今出来る事を最大限に楽しむだけだ。

 そんなある金曜日の夜。

 いつものように『Cafe Red Poppy』でコーヒーを飲みながら雛罌粟さんとの二人きりの時間を楽しんでいた。

 誰も邪魔してこない僕と雛罌粟さんだけの、二人のためだけに割り当てられた空間。

 落ち着いていて居心地が良くて、ここだけなら耳栓もいらない。

 僕はいつものようにカウンターにいる雛罌粟さんと話していた。

 今日も他愛のない会話で終わるのか。そう思っていた時だった。

 

「ねぇ竜胆君、今週の日曜日って暇?」

 

 いきなり雛罌粟さんがそう切り出してきた。

「えらく急ですね。日曜日ですか?……まぁ特に用事は無かったはずですけど。どうかしたんですか?」

「今日常連さんからこれ貰ったの」

 そう言って差し出してきたのは二枚の紙だった。

 えっと……これは……見た感じ隣の市の遊園地の無料チケット、かな?よく分からないけど。

「スーパーの福引で当てたらしいんだけどね。その常連さん仕事で忙しいから、いらないらしくてさ。二枚あるから誰か誘って代わりにどうぞって」

 なるほどねぇ。僕もたまにスーパーの福引やるけど結構いいものあるんだよね。

「それでさ……よかったら……その、一緒に行かない?日曜日ならお店も閉めてるし」

 そういう事ね。急に何かと思ったよ。

 というか遊園地って大体親子連れかカップルの行く所ってイメージが強いんだけどなぁ。

 にしても遊園地かぁ、これまで行ったこと一回も無かったからどんな所かはっきりとは知らないんだよね。ちょっと興味ある。

「いいですね。行ってみますか」

「本当⁉︎やった!」

 雛罌粟さんはガッツポーズをして喜んだ。そんなにか?

「それじゃ日曜日の七時にここの前に集合ね。私が車出すからさ」

「分かりました。それじゃあ日曜日に」

 こうして僕と雛罌粟さんの休日のお出かけが決まった。

 

 

 

「ふぅ、とりあえず今日はこんなものかな」

 ゲームイベントのノルマを達成させた僕は、椅子から立ち上がり大きく伸びをした。

 今は土曜日の夜二十時くらい。夏だけど外はもう真っ暗だ。

 今日は『Cafe Red Poppy』には行かずに午後はぶっ通しでゲームをしていた。

 このイベントを全クリアすれば、欲しかったキャラクターが無課金で手に入る。楽しみなんだよなぁ。

 そこで僕はふとスマホのカレンダーを見た。そういえば遊園地に行く約束って明日か。

 約束したのは昨日だけど急だったので明日って実感がないんだよね。

 まさかこの歳になって大人と遊園地に行く事になるとは思わなかったよ。というか誰かと出かける事自体すごい久しぶりな気がする。

 普段出かけるとしても一人で本とかアニメグッズ買いに行くくらいだからな。後はもう学校に行くくらいしかないからな。

 それにしても雛罌粟さんすごい嬉しそうだったなぁ。雛罌粟さんもこういうの久しぶりだったりするのかな?

 自分だけで思いっきり室内で遊ぶのは慣れてるけど、誰かと外でってのは久しぶりなんだよね。

 どうしてあげればいいのか全く分からない。

 やっぱり楽しませてあげた方がいいんだろうか。

 やる事は向こうが用意してくれてるわけだし、純粋にそれを楽しめばいいのかな?

 まぁ無理せずにいつも通りでいいだろ。どう足掻いても出来ない事はやるもんじゃない。

 服装もいつも通りでいいか。というよりそんな悩むほど服持ってないんだけどさ。

 僕って得られたお金を出来るだけ趣味に費やしたいんだよね。服とかは必要最低限あればそれでいいし。これ分かる人いるよね?

 適当にいつも着てる灰色のパーカーとジーパンで充分。後荷物はいつも学校で使ってるリュックそのまま使おう。出掛ける時のいつものスタイルだ。

 さてと、準備 (というほどの事でもないけど)も終わった事だし今から何をしようかな。

 溜めていたアニメは午前中に見ちゃったし、ゲームも今日のノルマは達成したしな。

 他にやる事……今日は特に無いんだよね。いつもならスマホの他のゲームをやってるんだけど、ちょうどメンテナンス中で出来ないんだよね。

 この前買ったラノベの新刊はもう読み終わったし、見たい最新動画は今のところ無い。やらなきゃいけない課題も終わってるし、特に自主勉するようなところもない。

 そうなると完全に暇になるわけで。

 かといって寝るにはまだ早いんだけどなぁ。どうしようかな……。

 それかちょっと早くてももう寝てしまおうかな。明日の事もあるし。

 そう思ってベッドに倒れ込もう────────────としてふと立ち止まった。

 そうだ、やる事まだあったっけ。明日雛罌粟さんと出掛けるからやらないとって思ってたんだよ。危うく忘れるところだった。

 僕はパソコンに向かい直ると再びさっきまでやっていたゲームを開いた。

 明日丸一日出来ないんだから今のうちに明日のノルマも達成しておかないとだな。

 さてと、頑張るとするかな。

 

 

 

「はぁ〜〜〜。今日も一日終わったなぁ」

 今日も一日仕事を終えてお店の片付けをし終えた罔象は夕食を食べ終えてお風呂に入っていた。

 湯船に肩まで浸かりながら足を伸ばして脱力している。

 長い黒髪と肌をしっとりと濡らして目を閉じている。大きな胸は自分の目の前でぷっかりとお湯に浮いている。

 こうやって人目を気にせずリラックス出来て一日の疲れを落とせるので、罔象は割とお風呂が好きだったりする。

 明日は竜胆と遊園地に行く日だ。

 昨日彼から了承を得てからずっと楽しみにしている。

 というのも彼と特別な関係になって数週間。今までそういった事が全く無かったからだ。

 お互いにやるべき事があるのは分かってたし仕方ないのは分かっていたけど、それでもちょっと寂しかった。

 元々竜胆はそうやって人と遊ぶのが嫌いな人だと思っていたので、いいと言ってもらえた時は正直驚いた。

 だからこうやって一緒に出かけられるのも、それを彼が快く了承してくれたのも嬉しかった。

「竜胆君、楽しみにしてくれてるかなぁ」

 罔象はポツリと呟いた。

 せっかく二人で出かけるなら彼にも楽しんでもらいたい。

 竜胆と知り合ってから罔象はずっと彼に助けられてきてばかりだった。彼に慰められて元気付けられてきた。

 おかげで少しは前を向いて生きていけるようになった。

 だから今度は自分が彼を楽しませてあげたい。一緒に楽しみたい。

 そして出来ればこういう彼と過ごす機会を増やしていきたい。それが罔象の目的だ。

 竜胆とはそういう関係ではないけど、一緒にいられるならぜひとも増やしたい。

 そして願わくば彼ともう一度、関係の進展を…………。

「んん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ」

 そこまで考えて罔象恥ずかしくなりは顔を赤くして悶えた。

 明日はどんな服を着て行こうかな。そんな事を考えながら罔象の夜はふけていった。

 




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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