※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第200話 昔話

「それでは!アタシ達三人の受験合格と今年一年無事に終えたことを祝って!かんぱ〜い!」

「乾杯!」「乾杯」

 今年も残すところ数時間。そんな中僕の家は珍しく賑やかだった。テーブルには軽くつまめるものと飲み物、分お手製の年越し蕎麦が並べられている。

「それにしても、つまむお菓子は竜胆に任せたけど………ドライマンゴー、プルーン、チー鱈、枝豆の塩茹で、饅頭詰め合わせ、カリカリ梅、素焼きのクルミって………」

「りん兄らしいセレクトですね」

「何だよ、美味しいよ?というか分も一緒に探してたじゃん」

 そして僕の他にこの家にいるのは二人。東風と(くまり)である。

 僕達三人は冬休みを迎える前に見事受験に合格し、冬休みを穏やかに過ごすことが出来た。

 そしてそんな中、『受験合格と年越しを祝って三人で集まろよ!』と言い出したのが、例によって冬休みもウチにやってきた雛罌粟 分である。

 『デパートの一件があったのに、よく家に連れ込めたな』と思われるのも仕方ないのだが、これにはちゃんと理由がある。

 僕だってあれからしばらくはまともに会話出来なかったし、ずっとモヤモヤと悩み続けていた。

 しかしいざ冬休みを迎えると分から『今回もそっち行っていい?』と極めて普通な態度で話しかけてくる分がいた。

 てっきりしばらく連絡すら出来ないと思ったのにこれである。

 当然最初は断ろうとした。あんな事があってまともに会話できるわけがない。

 しかしそのデパートの一件で仕事が劇的に増えてしまい、それに加えて大学入学に関する手続きやらが舞い込んできて、この冬がとんでもなく忙しくなってきた。

 そんな中での分の『今回も家事してやるから』の甘い一言は、僕の分に対する不安定な感情を一気に吹き飛ばした。

 損得は感情に勝るのさ、という言い訳させてくれ。本音はこの事は無かったことにしたい、もう考えたくない。

 こうして分は冬休みもウチにやって来ている。

 そして大晦日。分の提案の元僕達三人のお泊まり会的なものが計画された。

 最初は却下しようとはしたんだが、この計画を知った東風が『丸々一年勉強見てきたんですから、りん兄も分ちゃんを労いたい気持ちもあるでしょう?』と言われて了承した。

 たしかに僕の中で分に対する接し方が不安定になり、合格の報告の後もちゃんと言葉を送ってやれなかった。

 それなら三人で集まって、形だけでもちゃんと祝ってあげようと思ったのだ。

 今年も去年のように罔象の家で年を越そうかとも考えていたが、今回は高校生だけで、という事で罔象には事情を話してある。

 それに対して罔象は怒るどころか『君はそれで大丈夫なの?』という『んなもんこっちが聞きたいわ』と返しそうな心配までしてくれた。

 たしかに正直なところ、僕の中で東風や分との関わり方が不安定なのは認める。当たり前だろう。

 けど、分がわざわざ東風を呼ぶという事に何かしらの意図を感じた事もあり、この日を迎えたわけだ。

 結局罔象とも、『明日分を連れて実家に帰るから、それに間に合うように、且つ公序良俗に反しないならいいんじゃない』ということになってるし、まぁ問題無いだろう。

「というか東風、何気にお泊まり前提みたいになってるけど、年魚さんは許可してくれたの?」

「逆ですよ。りん兄の家で年を越すんだけど、そんな遅くに帰ってくるのは不安だな、って事で相談したんですよ。そしたらお母さんが『出来るなら泊めてもらえば?』って話になって、それが元で今に至るんです」

 お泊まり会の原案は年魚さんかよ。

 龗さんもそうなんだが、娘を一人暮らしの男の家に泊めるのに何の抵抗も無いのか?いや、何もするつもりはないけどさ。

 了承した、ならまだしも推奨するなよ。まぁここは僕に対する信用と受け取ろう。

 二人は既にお風呂上がりでパジャマ姿である。完全に泊まる気満々だ。

 布団も二セットあるし、問題はないだろう。

 

 

「いやぁ、それにしても驚きだよね。まさかアタシ達三人、同じ大学になるなんて」

 

 

「そうですよね。私も驚きました」

 分の言葉に東風が同意した。

 そうなのだ。何と四月から僕達三人とも同じ大学に行く事になっている。学部はバラバラだが

 これに関しては全くの偶然で、僕が知ったのは分が合格してからだ。僕や東風も、分に進路先は話していない。オープンキャンパスも奇跡的にバラバラで行ったし。

 分は最後までどこに行くつもりかを僕達に話しておらず、過去問も自分で何とかしていた。

 そしていざ合格してみたら、僕や東風と同じ大学という事で三人して驚いた。

 まぁ分は今実家を離れるつもりはないようなので、そうなると行ける所は必然的に、ここを離れるつもりのない僕や東風と被るのだが。家もそんなに遠くないし。

「けどさ、竜胆はもちろん、試験会場では東風もいないと思ったんだけどなぁ」

「当たり前でしょ。分は推薦だけど、僕はAOで東風は指定校だからね」

「え⁉︎そうなの?東風すごいじゃん!」

「幸い、あんまり取り合いになる所じゃなかったんですよ。評定も問題無かったでしたし」

 そう、三人とも行く大学は同じでも試験方法がバラバラなのだ。

「あれ?でも東風の学部が指定校あったなら、竜胆の学部も指定校あったんじゃないの?何でAO?」

「たしかにあったけど、受験に極力先生の手は借りたくなかったの」

「りん兄先生受け悪いですからね。無愛想だし身だしなみ整えてないし」

 そういう事だ。推薦ともなれば、先生への評価がものを言う。受けの悪い僕がそのために必死になるなんて、考えただけで面倒だと分かる。

「それに評定もすこぶる良い、ってわけじゃなかったしね」

「え?アンタ理系科目得意じゃん」

「その上で足を引っ張るレベルで低いものがあるんですよ。特に体育が」

「体育?あぁ、致命的に体力無いからか」

「それもそうですけどね。ウチここ最近球技を自由に選んでやってるんですけど、りん兄サボってばっかりで」

「サボってない。全試合参加してるよ」

「得点係として、ですよね?見学するわけでもないのに」

 別に良くない?何であれダメなのかなぁ。上手い逃げ道だと思ってたのに。

 あぁいうのは仲のいい人とやるから楽しいのであって、僕がいても迷惑なだけだ。後疲れるし。

「だから極力高校側の協力無しでやりたかったんだよ。それに、春休みに木偶の一件があって仕事が忙しくなるのは分かってたからね。早めに受験を済ませるって意味でもAOは良かったの」

 実際この中で一番早く結果が分かったのは僕だ。おかげで今は卒業テストの勉強以外、仕事に専念できてる。

「りん兄こんなだから、AOで大学に送る小論文も先生の添削無しに送っちゃったし、先生との面接練習もしてないんですよ」

「あ、アンタ、よくそんなんで受かったわね」

 それはそう。

「あ、年が明けましたよ」

 東風の言葉に時計を見てみると、零時を超えたところだった。

「お!それじゃあ、新年明けましておめでとうございます」

「おめでとうございます」

「おめでとう」

 

 

 

 それからしばらくして、蕎麦のお椀を片付けて戻ってきた分が唐突に聞いてきた。

「そういえばさ、前から聞きたかったんだけど、東風はどうして竜胆が殺し屋だって知ったの?」

「え?何ですか急に?」

 分の急な質問に東風は目を丸くした。

「いや、前に話された時は『幼馴染だしそりゃ知ってるかぁ』って思ったけどさ。竜胆はそういうのあまり気にしないじゃん?それなら、何か知らざるを得ないきっかけがあったのかな、って」

「あぁ、そういうことですか」

 なるほど、それが今回東風も呼んだ理由か。

「たしかに、私も普通にりん兄と一緒にいたら、知ることも無かったんでしょうね」

「だろうなぁ」

 僕と東風は顔を見合わせて笑った。たしかに僕だって東風に殺し屋であることを明かすつもりはなかった。

 東風は姿勢を崩すと話し始めた。

「私、昔お父さんから毎日のように暴力振るわれてたんですよね。いわゆる家庭内暴力っていうので」

「え?あ、ごめん。もしかして聞かない方がよかった?」

「あ、気にしなくていいですよ。昔のことですし、そこまで関わってくる内容では無いので」

 気を遣おうとした分を制して、東風は話を続ける。

「それで小学四年生の冬休みに、暴力が嫌で家出した事があったんです」

「い、家出⁉︎」

「はい。ほとんど反射的な行動だったんですけどね。後先考えずに家出して、でも当然行く当てもなくて、夜遅くまでフラフラと歩いてて………」

 それから語られたのは、懐かしい橡 東風、いや、因幡(いなば) 東風の昔話だった。

 

 

 

「うっ、うぅ………」

 私は泣きながら夜道を歩いていた。外は寒くて身体が震える。指先が青紫になってる。

 お父さんの暴力が怖くて家を出た。行く当てもない、お小遣いも無い、持ってきた僅かなお菓子も無くなってお腹が減った。

 寒い夜風にどこからか聞こえる獣の声。何よりお父さんに逆らってしまったことへの恐怖が私の心を蝕んでいく。

 大切なお母さんを置き去りにしてしまった罪悪感が、私の心を締め付ける。

 時々目に入る木々の影に怯えながら、私は気がつけば森の中にいた。こんな姿を誰かに見られたくないという思いが、そうさせたのかもしれない。

 木の間に蹲り風から身を守る。そんなもの気休めで、自分が倒れる姿が目に浮かぶ。

 そんな時、一人の少年の姿が頭に浮かんだ。

「りん兄………」

 そうだ。一年ほど前に仲良くなり、学校でも放課後でも共に過ごす仲になった。

 ちょっと暗い性格で無愛想でクラスでは除け者にされてる人だけど、話してみると楽しい人だ。

 彼は色んなこと知っていた。私の勉強を見てくれて、最近ではちょっとした武術(?)も教えてくれている。

 いじめられてた私を助けてくれて、何も言わずに一緒にいてくれる。

 この呼び方も、彼の大人びた性格から年上だと勘違いして生まれたものだ。学年が上がりクラスが同じになったことで、その誤解は解けたが。

 とにかく彼と過ごす時間は、私のどの時間よりも楽しかった。

 すると一本の木が目に入った。金柑の木だ。

 たしかこの時期は実がなるってりん兄が言っていた。近づいてみると、暗がりでも丸い実が見える。

 それを一つ採って口に運ぶ。甘酸っぱい味が少しだけ心を和らげた。

「これからどうしよう………」

 こんな所にいては死んでしまう。かと言って行く所もない。

 りん兄に頼ることも考えたが、彼にこれ以上自分のことで迷惑をかけたくなかった。

 寒さがさらに強まり、身につけている防寒具も意味をなさなくなった。

 その時だった。

「はぁっ!はぁっ!………」

 森の入り口で誰かが走ってくる音がした。私は反射的に身を隠す。

 その来た人を見て、私は思わず声をあげそうになった。

 やって来たのは三十代くらいの強面の青年だった。派手な服を着ているものの、髪型が乱れて目が血走っていている。

 それだけならまだ良かった。しかし男の体や顔には所々紅い液体がついている。どう見ても、それは血だった。

 そして手に持っているのは、一丁の銃だった。

 たしかあれは………H&K USPだ。りん兄のモデルガンを見せながら教えてくれたことがある。

 男の様子が、手に持ってる銃が本物であることを物語っていた。身体が寒さとは別の要因で震え出す。

「クソが!DEAD SURVIVORが来るなんて聞いてねぇぞ‼︎組のヤツら全員殺りやがって!」

 男の言っている意味は分からないが、何やら怒っているのは分かった。

 この場にはいない方がいい。本能的に判断した私は、その場を立ち去ろうとした。

 幸い、バレないように気配を消して逃げる方法はりん兄から教わって、上手いと言われている。

 乱れる息を落ち着けて膝を曲げた。右足を垂直に上げて、それから垂直に下ろして踵は付かないように………

 パキッ!

 私は暗がりで目の前に木の枝があるのを見落としていた。それを踏んでしまい音が鳴る。

 心臓が跳ね上がり私はその場に固まった。

「あぁ?何だ?」

 音が届いたのか、男は木々をかき分けてこちらにやって来た。固まってる私と目が合う。

「なぁッ⁉︎何でこんな所にガキがいやがる!」

 男は声を上げると持っていた銃を私に向けた。

「ひ、ひぃッ⁉︎」

 私は怖くなってその場に尻もちをついた。恐怖で上手く声が出せない。

「ハッ!こんなとこ見られちゃ生かしておくわけにはいかねぇからな。憂さ晴らしにちょうどいい、殺してやる」

 その言葉が私の身体を縛りつけた。体の力が抜けて動けない。冷や汗が垂れて口の中が乾く。

「や、やめ、て………」

「ヒャッヒャッヒャッ!その顔、たまんねぇなぁ!」

 男は狂ったような目をしている。私の怯えた表情を見て歪んだ笑みを見せた。

 殺されるという実感に、息が詰まって目の前がボヤけてくる。涙が頰を流れた。

 男が引き金に指をかけた。私はギュッと目を瞑る。

 もう、ダメだ………

 そんな………こんなところで………死にたく、ないよぉ………

「死ねぇッ!」

 

 

 その瞬間、何かがこちらへと駆けてくる音がした。

 

 

「ギャアッ⁉︎」

 それと同時に私に銃を向けていた男が声を上げた。

 私はゆっくりと目を開けると、信じられない光景が目に飛び込んできた。

 奥から駆けてきた何者かが、男の銃を奪って無力化して這いつくばらせると、手に持っていた短刀を振るった。

 男の首が斬り裂かれて鮮血が飛び散る。

 程なくして男はピクリとも動かなくなった。

 私は初めて人が死ぬところを見た。誰かに殺されるのを見た。

 言葉が出なかった。さっきまでの恐怖とは違う、別の何かが私を襲う。

 私は男を殺した何者かを見た。

 黒のトレンチコートにクラッシュハット。そんな大人びた格好に何ともミスマッチなリュックを背負って、手には短刀を握っている。

 暗がりで顔はよく見えないが、背丈はさっきの男よりも小さかった。私より少し上くらいにも見える。

 まさか、子供………?

 その何者かは私に気がつくことなく大きく伸びをした。

「う〜ん!これにて仕事終わりっと。逃さずに済んでよかったぁ」

 まだ声変わりし切ってない少年の声を聞いて、私は思わず自分の耳を疑った。

 今の声、まさか………でも、そんなはず………

「それじゃあ後の処理は鯨波さんに任せて、っと………そういえばコイツ、何か木の向こう見てたな。面白いものでもあったのかな?」

 そう言ってトレンチコートの少年が木々を掻き分けて、私の方に顔を出した。

 動揺で身体が動かず、私はその場を逃れなかった。結果として私はその少年と目を合わせることになる。

 私の顔を見て少年は目を見開いた。それは子供がこんな所にいることにだろうか。それとも………

「ッ⁉︎ な、何で、ここにいるんだ………因幡さん?」

 少年は私の名前を呼んだ。月明かりに照らされて、少年の顔が鮮明に映される。

 その顔を見て、私も彼の名前を呟いた。

 

 

「りん、兄………」




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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