年が明けて、竜胆と分が初詣に行っていた頃
「警察署から出れましておめでとう」
「おめでとうじゃねぇよ!鯨波、遅ぇぞ!」
「助けてもらってる身分で偉そうに」
警察署の奥から出てきた牛尾菜組の若頭・虚宿 冬青に、警察官である流鏑馬 鯨波はため息をついた。
「アンタねぇ。新年早々問題起こさないでよね」
「あぁ?半グレが飲み屋で騒いで、客に絡んでるのが
「アンタがやりすぎるからだよ。まったく、Salvation Of Sinの一件で良くも悪くも警察に目つけられるって言ったよね?少しは自重しなって」
「グチグチうるせぇなぁ。テメェなんかの説教なんざ聞きたくねぇんだよ」
「誰の口利きで解放してやったと思ってんの?また戻して三ヶ日ブタ箱の中で過ごさせようか」
「へぇへぇ、悪かったっての。相変わらず面倒くせぇヤツだな」
助けてやったというのに何とも大きな態度に、鯨波は頭を抱えた。
「まったく………助けてやった礼だ。この後ちょっと付き合いなさいよ」
「はぁ?何させんだよ。テメェの点数稼ぎの手伝いならやらねぇぞ。面倒くせぇし」
「今度アンタが捕まっても面倒くさいって理由で助けてやんないからね………じゃなくて、ちょっと食事しない?ちょうど昼時でしょ?」
「何でテメェとメシ食わなきゃなんねぇんだよ。その辺の飯屋で適当なモン食ってろ」
「
「あぁ………分ぁったよ」
「お、意外と素直」
「ちょっと爐に用があんだよ。とっとと行くぞ」
「はいはい。車に乗った乗った」
鯨波は冬青を適当にあしらい車に乗せると発車させた。
しばらくしてレストランに着いた。店の中に入ると、セーターを着た一人の女性がこちらを向いて手を振っている。
「おーい、鯨波、冬青、こっち!」
手を振ってるのは、ガンショップを経営しながら殺し屋の斡旋、武器の修理をする女性・顋門 上枝だ。
「あ、上枝!明けましておめでとう」
「おめでとう。爐はもうちょっと後から来るって」
「まぁ、仕方ないよね。あ、冬青も連れてきたよ」
「おぉ、てっきり来ないモンだと思ってたのに」
「この馬鹿はね………」
「オイ!誰が馬鹿だ!」
「アンタだアンタ。警察に目つけられてるのに、騒ぎ起こしてブタ箱突っ込まれるヤツは充分馬鹿だっての」
「アンタ懲りないねぇ」
「うるせぇな!テメェらが来いっつったら来てやったんだろうが!」
「はいはい。何か頼んだら?」
鯨波と冬青が席に座ったタイミングで、再び喫茶店の扉が開いた。一人の女性が入ってくる。
歳は三十代近くで背は少し低め。
長い黒髪は所々跳ね、背中まで伸びていて、前髪で若干目が隠れている。眼鏡をかけて、大きめのシャツの上からグレーのコートを着ている。
「おぉ〜、みんな揃ってるねぇ」
「爐、明けましておめでとう」
「ん〜、おめでとう〜」
のんびりとした口調の女性・
「お〜、冬青いるじゃん。おぉ、てっきり来ないモンだと思ってたのに」
「この馬鹿はね………」
「そのくだりもういいだろ!つか、お前よく来れたな。病院抜けてきてよかったのか?」
「ん〜、大丈夫大丈夫。何かあったらウチの子達が対応してくれるって」
爐は街の南辺りで『廂間外科クリニック』を開業している医者だ。普通の患者も来るが、彼女の元に来る患者の中にはワケあり患者も多い。
裏稼業の人間や身分の高い者などの治療する『闇医者』であり、一方で殺された死体を処理する『死体屋』でもある。
働いている看護師達も色々ワケありの人が多いので、何かあっても対応できる。
四人はそれぞれ注文すると、頼んだ料理が来るのを待った。
しばらくして上枝と爐が頼んだナポリタン、鯨波の頼んだサンドイッチ、冬青の頼んだカレーが運ばれてくる。
「いやぁ、本当はこんな遠くじゃなくて近くの『Cafe Red Poppy』にしようかな、って思ってたんだけど、今日やってなくてさ」
「爐が言い出したことだったのかよ。にしても、懐かしい名前だな。ガキん時よく行ったっけ」
「まぁあの頃とマスターは違うけどね。たしか娘さんがやってる」
「ほぉ、そういやチョロチョロしてたガキがいたな」
冬青、鯨波、上枝、爐、そしてもう二人の友達六人は、高校生の時『Cafe Red Poppy』によく通っていた。
その時のマスターは罔象ではなく龗だったが。それでも四人にとっては今でもあの店は思い出だ。
すると鯨波と上枝がクスクスと笑った。
「んだよ、二人揃って気持ち
「ふふっ、だって冬青はそのマスターに会ってるよ?」
「はぁ?俺しばらくあの店行ってねぇけど」
「お店でじゃないよ。この前、デパートの立て篭もり事件の時。牛尾菜さんと水鶏ちゃん迎えに行った女の人いたでしょ?」
「あの女⁉︎」
鯨波に言われて、冬青は声をあげた。周りの客がこちらを見て上枝が軽く頭を下げる。
「てっきり上枝の知り合いか何かだと思ってたぜ。何であんな事に手貸してたんだ?」
「竜胆がデパートからおんぶしてた子がいたでしょ?あの子が彼女の妹さんなの」
「それに、あの人竜胆の彼女だしね」
「竜胆の女?………東風じゃねぇの?」
「あぁ………まぁ、アンタならそう思うか」
鯨波がカラカラと笑ってサンドイッチを口に運んだ。
冬青は竜胆と共に行動してる女性といえば、東風しか見ていない。水鶏の時も一応夫婦という形をとっていたから尚更だ。
「あぁ、それでかぁ」
「ん?爐、どうかした?」
「いやね、そのデパートの事件の時、冬青のところで雇ってる男の子がウチに死体捨てにきたの」
「あぁ、害富か。それで?」
「その時あの子車で来てね。持ってないはずだから誰のかなって思ったら、見たことある人が運転してたから。そうだ、あの喫茶店の人だ」
「あの馬鹿、何させてんだ………」
カレーを食べながら冬青が顔を顰めた。いくら協力者とはいえ、表社会の人間を闇医者の所に連れて行ったのか。しかも死体を捨てに。
「それにしても、あの竜胆が彼女かぁ。あんなに人付き合い嫌そうだったのに」
「んだよ、爐も竜胆のこと知ってやがったのか」
「もちろん、ウチに入院したこともあったしね。何より、扁螺さんの息子でしょ?」
「あぁ、そういうことか」
「懐かしいね、昔はよく扁螺さんに怒られてたっけ。『ちょっとは大人しく出来ないのか!』って」
「そうだったか?」
「冬青が一番怒られてたでしょ」
高校生の時、鯨波達六人は街で好き勝手していた半グレや暴走族なんかとの喧嘩(武力行使は主に冬青か鯨波)に明け暮れていた。
そんな彼らを交番まで連れてってはお説教していたのが、竜胆の父親で当時制服警官だった扁螺だ。
「そういえば最近竜胆見てないねぇ。今高校生だっけ?」
「うん。受験も終わってのんびりしてる。ほら、最新の写真」
鯨波はスマホを開くと、今朝撮った写真を見せた。竜胆の両隣で東風と分が竜胆に抱きつくようにしてぐっすりと眠っている。
「わぁお、可愛い娘に挟まれて、アイツ両手に花じゃん。しかもどちらとも彼女じゃないし」
「そうなの。しかもこの後起こしたらさ、アイツめちゃくちゃ慌てちゃって、もう顔が真っ赤になっててね。思わず揶揄っちゃった」
「おぉ〜、伝説と名高い殺し屋も結局は思春期の男の子、って事か。面白い面白い。ねぇ、その写真ちょうだい」
「私も私も!」
「もちろん!」
「鯨波、テメェ………俺の釈放しに来るの遅れた原因それだろ」
冬青は鯨波に恨みがましそうな視線を向けると同時に、これからしばらく彼女達にイジられるであろう竜胆のことを思い、静かに同情した。
それから四人は食事を楽しんだ。
ふと爐が外の景色を眺めてポツリと呟いた。
「それにしても、竜胆が高校生とは。私達が高校生だった頃から、もう十年以上経つのかぁ」
「
「そうね………」
牛尾菜 朧、いやこの街を出て行った時は鴨舌草 朧とアイラ・ローズ・ガルシア。この二人もまた、冬青達にとってはかけがえのない親友だ。
朧は牛尾菜 五十集の息子、つまりはヤクザの組長の息子だ。留学生だったアイラのことを好きになり、アイラもまた朧のことを好きになった。
しかし家の事で関係を進展させないようにしていた事を五十集が気がつき、親子の関係を絶たれた。
こうして二人はお付き合いを始め、後に結婚。娘である鴨舌草・グレース・水鶏を授かった。
「二人とも、そう長く生きられるとは思ってなかったけど、あの時の二人は幸せそうだったね」
日本のみならず外国にも敵対組織の多い牛尾菜組、当然いくら関係を絶っても組長の息子である朧の身に危険が迫ることは変わらない。
それが分かって二人は結婚し、そして敵対組織に人質として狙われて、愛娘を守って二人は殺されてしまった。
「まぁ、あの二人がそれでいいって言ってたんだ。俺らがしてやれんのは、アイツらの想いを繋げてやることだろ」
「そうね。水鶏ちゃん、最近どう?元気にしてる?」
「あぁ、今日も友達と初詣行ってた」
「そっかぁ、今度ウチの店に連れて来てよ。私も見てみたいな」
「見せモンじゃねぇんだ、テメェで来い」
そんな事を話してると四人は食事を終えた。会計を済ませて外に出る。
「さてと、私は家に帰ってのんびりしてるかな」
「上枝羨ましいなぁ。私はどこかで事件が起きるかも、って気が気じゃないよ。実際、一件起きたしね」
「うるせぇな、いつまで言ってんだよ!」
こうして上枝と鯨波は車に乗って帰って行った。
「さてと、それじゃあ私も帰って………」
「おい爐、テメェはもうちょっと俺に付き合え」
「ん〜?何かご用?」
「あぁ、テメェに話っつーか、相談っつーか………頼み、かな」
歯切れの悪い返事をした冬青に爐が首を傾げた。
「おや、冬青が頼みとは珍しい。何なの?」
「いや、俺自身の頼みじゃねぇんだ。実はな………」
「………どう、竜胆!」
「んん………罔象ぁ………」
「夢の中でまでイチャついてんな。とっとと起きろ!」
「ぐふっ!」
ぐっすりと眠っていたところにチョップを喰らい、僕は目を覚ました。
ハッとして目を開けると、そこには分が腕を組んで仁王立ちしている。
僕は辺りを見渡し状況を把握する。
どうやら僕はこたつに入って寝ていたらしい。外はもう夜だ。
あ、そうだ………僕ここで罔象とシちゃって、それで一緒にお風呂に入って、その後罔象の胸枕で寝ちゃったんだ。
「って、あれ?罔象は?」
一緒にいたはずの罔象がいない。先に起きてたのかな?
「とっくに起きて、帰ってきたお母さんと一緒に夕ご飯の準備中。そろそろ食べれるから、アタシが起こしに来たの」
「そうか………本当だ、いい匂い」
鼻を鳴らすと台所の方からいい匂いがしてきた。
「まったく、いつまでグースカ寝てるのよ」
「いや、分も結構寝てたでしょ。いつ起きたの?」
「お母さんが帰ってきた時。それからもう二時間近く寝てるの。アンタって本当にだらしないわね」
「仕方ないでしょ?分も結構だらしなく寝てたけど」
そう言うと、分は僕を見下すように目を細めた。
「人の実家にいるってのに、私の隣で恋人のおっぱいに気持ち良さそうに顔埋めて、しかもその恋人に頭撫でられながらだらしない顔して寝てるようなヤツが、随分とまぁ挑戦的な物言いしてんじゃん。寝言で何て言ってたっけ?たしか『罔象ぁ、僕は………」
「さてと!今から夕ご飯なんだよね⁉︎何か手伝うことあるかもしれないし、台所に行くか‼︎」
分の攻撃に耐えられなくなった僕は、こたつから飛び出して素早く台所に向かった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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