※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第206話 報告

 夕ご飯のお鍋を食べ終わり、お風呂に入った僕はリビングでゆったりとしていた。隣には分もいて、パジャマ姿でこたつに突っ伏している。

「ねぇ竜胆。そういえばアンタ達っていつまでいるの?」

「あぁ、さっき罔象が明日には帰るって言ってたよ」

「明日⁉︎もうちょっとゆっくりしていけばいいのに」

「まぁ、僕も仕事があるしさ。あんまり休むわけにもいかないの」

「えぇ〜、どうせ二人でイチャイチャしたいする場が欲しいだけじゃない?」

「僕を何だと思ってるんだよ!いつもそんなことしてるわけじゃないって!」

「ふん!よく言う、よ!」

「痛ッ!」

 分が僕の首筋をギュッとつねった。そこは罔象にキスマークをつけられた所で、まだ痕がついている。

「二人揃ってこんなものつけて。どうせ私が寝てる間にイチャイチャしてたんでしょ?このバカップル」

「い、いいじゃん………誰も見てなかったんだし」

 たぶん分は抱き合ってたとかそれくらいの想像なんだろうな。真隣でシてしまったことは黙っていよう。

「でも私が起きた時もお姉ちゃんに胸枕してもらってたじゃん。絶対私の事気にせず楽しんでたでしょ」

「それは………まぁ、それなりに」

「ふ〜ん………おりゃっ!」

「うわっ⁉︎」

 分に腕を引っ張られて、僕は分の方に倒れ込んだ。それと同時にふにゅっと細やかな柔らかさを感じた。

 心地よい感触を感じると共に目の前が真っ暗になった。分の腕が僕に回されて抱きしめられた。

 それが分の胸に顔を押し付けられたことに気がつくのに、僕は少しだけ時間がかかった。

「ちょッ⁉︎分!何してんの!」

「んっ♡!コラ、あんま動かないでよ」

 自分の胸に僕の顔を押しつけて、分は僕を強く抱きしめた。罔象よりも小さいものの、たしかに感じる柔らかさに心臓が跳ね上がる。

 や、柔らかいぃ………

「どう?お姉ちゃんほどじゃないけど、アタシだってそれなりに胸育ってるんだから」

「そ、それは………って違う!早く離れないと!」

「別にいいじゃん、減るモンないんだし。それに、アンタ顔真っ赤だよ?」

「いや、そういう問題じゃ………!」

 そのタイミングで罔象がお風呂場から出てきた。パジャマを着た罔象がリビングにやって来る。

「竜胆君、よかったら今日一緒に寝な、ぎゃあぁぁぁッ⁉︎ちょっと分!なんて事してるの‼︎」

 分の胸に押しつけられている僕を見て、罔象が大声を上げた。

「ん〜?夕方の時のお姉ちゃんの真似〜♪似てるでしょ?」

「ダ──メ──ッ‼︎竜胆君は私の彼氏なの‼︎そういう事していいのは私だけなの‼︎」

「えぇ〜、仕方ないなぁ。それじゃあ竜胆、行こうか」

 分は僕を解放すると手を繋いで立たせて引っ張る。

「え?ちょ、どこに行くの?」

「ん?アタシの部屋。今日は一緒に寝よ?」

「はぁ⁉︎いや、それはダメだって………!」

「何で?この前は一緒に寝てくれたじゃん。ほら、行こう」

「あ゛ぁぁぁぁぁッ‼︎や──め──て──ッ‼︎」

 僕の手を握ったまま分は立ち上がった。そのまま連れて行こうとする前に、罔象が僕を抱きしめて止めた。

 罔象の胸が押しつけられて、また顔が熱くなる。分にも身体が押しつけれて、左右からの柔らかさが鼓動を速める。

「何でよ。お姉ちゃん昼間に竜胆とイチャイチャしてたじゃん。アタシもイチャイチャしたいの!」

「いいわけないでしょ‼︎というか、二人はお昼に出かけてたじゃん!私だってデートしたかったんだから!」

「お姉ちゃんがのんびりしてるからじゃん。明日二人とも帰っちゃうんでしょ?今日くらい二人きりでいさせてよ」

「分がそういう事するから早めに帰るの!」

 二人が言い合い、僕が恥ずかしさであたふたしていると、台所から龗さんが出てきた。

「はいはい二人とも、そこまで。竜胆君が困ってるからやめなさい」

「「…………はーい」」

 二人から解放され、僕は恥ずかしさで顔が火照って収まらない。

「二人とも悪い。ちょっと仕事の話し合いがあるから、今日は一人でいないとマズいんだ」

「………分かったよ。お仕事頑張ってね」

「あんまり夜更かしするんじゃないわよ」

 二人に見送られて僕は部屋に入った。二人も自分の部屋に入っていった。

 二人も早めに寝てしまうだろう。僕は仕事のためにスマホを取り出す…………わけじゃないんだよなぁ。

 僕が今回罔象の帰省に付き合った本当の目的。果たすなら今しかない。

 僕はしばらく部屋の中で静かにして、罔象と分が寝静まるのを音で確認した。

 そろそろ、いいかな。

 僕は部屋を出ると、気配と足音を消して一階へと戻って行く。そして食卓に向かう。

 静かに()を開けると、そこにはパジャマを着た龗さんがいた。

「あら、竜胆君。足音もしないからビックリしちゃったわ」

「すみません。罔象と分起こすわけにもいかないので」

「そうね。余程内緒の話があるようだし」

 そう言って龗さんは近くに置いていた紙切れを摘んだ。それは僕がこっそり龗の夕ご飯の食器に隠しておいたものだ。

 そこには『話があるから、誰にも秘密で夜中台所に残ってください。』とだけ書かれている。

「とりあえず座って。コーヒーでも飲む?」

「あ、ありがとうございます」

 僕は椅子に座り、龗さんはコーヒーを淹れてくれると、僕と自分の前に置いた。

 何となく流れで、僕はコーヒーに口をつける。

「あ、美味しい………」

「ふふっ、これでも喫茶店のマスターでしたから。コーヒーを淹れる腕は、まだ罔象には負けてないつもりよ」

 あぁ、そういえばそうだったね。そりゃコーヒーが美味しいわけだ。

「それで、わざわざこんな手紙まで渡して、何の話かしら?」

 用件を聞かれて僕の心臓がギュッと締めつけられた。

「あ、はい。えっと………罔象、あ、雛罌粟さんとの事で………」

「まぁそんな事だろうとは思ったわ。罔象の呼び方、いつも通りでいいわよ。距離が近くなったみたいで嬉しいから」

「は、はぁ………そうですか」

 あぁ、ダメだなぁ………結構緊張してる。けど、これからのためには、やるしかないもんなぁ………

「えっと、それで、でしてね………ぼ、僕は、今………罔象とお付き合いしていまして………」

「まぁ、それに関しては会った時から何となく分かってたけど。それで?」

 僕の心臓が緊張で高鳴り、手汗が滲んできた。コーヒーを飲んだはずなのに、口の中が乾く。

 

 

「は、はい………それで、その………今は………け、結婚も、考えて、いまして………その、ご報告をしよう、かと………はい」

 

 

 ガチガチに緊張した僕は、声が小さくなりながら何とか声を絞り出した。

 これが僕が今回ここに来た一番の理由だ。

 チラッと龗さんの表情を伺うと、龗さんは少し考えるように首を捻り息を吐く。真剣な表情に軽く身がすくむ。

 この人と一対一で話す事ないから、どうやって話すべきか分からないんだよね。

「なるほど、ね………いくつか聞いていいかしら?」

「え、あ、はい………何で、しょうか?」

 コーヒーで口を湿らせて少しだけ落ち着く。こういう時の水分は本当に大事。

「まず一つ目。何で今このタイミングで、君一人で報告しに来たの?こういうのって、罔象と二人でするものじゃない?」

「僕、こういう事するのは、一人の方が楽なので」

「でも、それじゃあ本当に罔象が結婚に応じてるか分からないわ」

「罔象は常に指輪をつけてます。あなたがその変化に気がつかないとは思えないので、既に応じてるのは分かってるはずです」

 罔象は人の細かい変化にも気づける人だ。それはお店の接客によるものが大きい。

 つまり昔マスターをやってた龗さんも、細かい変化に気がつける可能性が高い。

「それにしたって、ある程度様式美ってものがあるでしょう?」

「僕は報告がしたいんです。体裁を整えたいわけじゃありません」

 どんなに外観が良くても、目的を果たせないなら意味がない。僕はこっちの方が目的を果たせる、だからこうしたまでだ。

「そう。君がそう言うならいいわ。それじゃあ二つ目。結婚するにしても、正式に籍を入れるのはいつ頃?」

「それは………分かりません」

「へぇ、意外ね。てっきり『大学卒業したらすぐ』くらいのことは言うと思ってたわ」

「まだ、結婚するかどうかも、分からないので………」

「それは、どういうこと?」

 龗さんの表情が少しだけ変わった。そりゃそうだろう。結婚の報告で、結婚するか分からないと言ったんだから。

「僕には、やらなければならないことがあります。それが果たされるまで、僕は罔象とは結婚出来ません。そしてその中で、僕は彼女と別れなくてはならなくなるかもしれません」

 父さんを捕まえてヤク漬けにした『Salvation Of Sin』を壊滅させる事。そしてその中て、自分の正義を示す事。

 それが出来るまで、僕は罔象とは結婚出来ない。一緒にいる資格なんてない。

 そのためには、罔象との縁を切る事だってあり得る。めちゃくちゃだけど、それが僕の決めた道だ。

「その『やらなければならない事』ってなに?」

「それは………すみません。言うことはできません」

「私の家族が関わるかもしれないのに?」

「はい。それに、これは本当個人の問題です」

 龗さんは僕が殺し屋である事を知らない。そんな人に目的を話すわけにはいかない。

「そう。その問題を、分は知ってるの?」

「え?えっと………罔象ではなく?」

「あら、罔象が知ってるなんて当たり前じゃない。それとも、話してないの?」

 その答えが分かりきっているかの様に、龗さんは微笑んだ。うぅ、この人相手にするの面倒くさいな。

「罔象には、話してあります。分も知っています」

「それで私には教えてくれないの?」

「はい」

 罔象や分は木偶の事件に巻き込まれて、ほとんど流れで知った様な感じだ。どんな人でも極力仕事に巻き込まない。それが僕のやり方だ。

「それに、たしかに婚約はしました。でも………本当に結婚するかどうかは、また別の話です。別れる可能性もありますから」

「うーん、確かにそうかもしれないけど………普通は『何があっても結婚します』って言うところじゃない?」

「確定してない事を断言するほど、僕は無責任じゃありません。絶対に幸せにするとも、一生罔象と共に歩むとも、僕は言えません」

 それじゃただの詐欺師と変わらない。出来ない可能性があるのなら、それも言うべきだ。

「ただ、今この瞬間だけでも、罔象の側にいて彼女を幸せにしたい。その願望だけは言えます」

「そう………ふふっ」

 すると龗さんは口を押さえて笑った。え?どうかしたのか?

「ごめんなさいね。言いにくいこと聞いちゃって。実は君が話してくれた事、全部罔象と分から既に聞いてるのよ」

「………はい?」

 罔象と分から、聞いてる?

 龗さんの言ってることが分からず僕は首を傾げた。どういうことだ?

「春休みに分が帰ってきて、竜胆君と罔象が婚約した事を話してくれたわ。分は『アイツのことだから、明日にでも報告しに来るかも』って言ってたけど………」

「あ、えっと………行こうとは思ったのですが、罔象に止められまして」

「そうね。いくらなんでも驚いちゃうわ。それに、今日君が寝てる間に今君に聞いたのと同じ事を、罔象にもこっそり聞いたわ」

「………罔象は、何と言ってましたか?」

「君と全く同じ答えが返ってきたわ。結婚するかどうか分からないって。私には話せない君の目的がある事。永遠に共にいる事は無いかもしれない、それでも今は結婚したいと思ってるって」

 そうだったのか………罔象が、そんな事を………

 それにしても、二人とも話してくれていたのか。それなら今までの部分全部無駄じゃんか。緊張返せよ。

「罔象だってもういい大人だし、自分の道は自分で決める事が出来るわ。あの子がそれでも君と一緒にいたいなら、私はそれを応援します」

「そう、ですか………ありがとうございます」

 僕は立ち上がると深く頭を下げた。何か半分近く無駄な時間だった気がしないでも無いが、こうやって答えが聞けたのはいい事だな。

 それを見て龗さんがクスクス笑う。

 

 

「本当に、君は変わってるね。その辺は、扁螺さんと長閑(のどか)ちゃんの子供ね」

 

 

「えっ………?」

 龗さんの言葉に、僕は思わず声が漏れた。頭を上げて目を見開く。

「何で………あなたが、父さんと母さんの名前を………?」

 連枷 扁螺、そして連枷 長閑。僕の父さんと母さんの名前だ。龗さんにはもちろん、罔象や分にも言ってないはずなのに、何で?

 僕の質問に龗さんが目を丸くした。

「あれ?君もしかして何も知らないの?」

 そう言って龗さんは立ち上がると、近くのレシピ本などが置いてある棚から、一つの写真立てを取って僕に手渡した。

 それは『Cafe Red Poppy』の前で撮られた写真なんだろう。今よりも若い龗さん、その隣にいる男性は罔象のお父さんだろうか。

 そしてその隣にいる男女は、見間違えるはずがない。僕がいつも何度も何度も悪夢の中で見た顔だ。

 父さんと母さん。本当の記憶よりもずっと若い姿だ。そして何より、笑っている。

「君のお母さん、長閑ちゃんはウチで働いててね。旦那と、健御《たけみ》さんと三人で頑張ってた。そこで常連さんだった扁螺さんと知り合ったの。それから結婚して、君が産まれた。その報告をしに来てくれた時に撮ったのよ。だから、ほら」

 龗さんが写真に写る自分と母さんを指差す。

 母さんの腕の中には小さな赤ん坊が抱かれていた。これが………僕なのか?

 写真の龗さんのお腹は大きく膨らんでいた。歳が同じ分が産まれる直前だったのかもしれない。

 そんな龗さんの手を握り、楽しそうな笑みを浮かべる一人の少女が写っていた。

 罔象だ。見ただけですぐに分かる。今の罔象の面影がちゃんと残っている。

「そ、それじゃあ………僕は、昔に罔象や分、龗さんと会った事が、あるんですか?」

「本当に小さい時にね。君が産まれてからも時々手伝ってくれたし、辞めてからも君と三人でコーヒーを飲みに来てくれてたわ」

 知らなかった。物心ついた時は、母さんは既に専業主婦だったし。その前に何をしてたかなんて、気にしたことも無かった。

 そうか。龗さん達と父さん達にそんな関係が………

 けど、それなら………

「あ、あの………それでしたら、ぼ、僕の家に、何があったのか………ご存じ、ですか?」

「………もちろん、知ってるわ。二人とも亡くなってるって」

 そう言われた瞬間、僕の心が悲鳴を上げた。息が詰まり、冷や汗が浮かんだ体が震える。

「君は、罔象が高校生の時に何があったか知ってる?」

「はい。木偶との事ですよね?本人から聞きました」

「あれが起きたのと、長閑ちゃん達が亡くなったのが同じタイミングだったの。君達の力にはなりたかった。でも、ウチもそれどころじゃなくて………」

 そうか。罔象が高校生の時、そして僕が小学生の時。歳を考えれば同時期だ。

「しばらく長閑ちゃん達がお店に来なくなって、それからニュースで事件を知ったわ。扁螺さんが麻薬に手を染めて、長閑ちゃんを殺したって………」

「違います!父さんは!………父さんは、自分からそんな事する人じゃありません」

 僕は思わず身を乗り出して声を上げた。

「もちろん、私もそう思う。君は、真実を知ってるの?」

 その問いに、僕は黙って頷いた。龗さんもしばらく黙り、それから口を開く。

「ねぇ、君が私に話せない事があるのは分かったわ。でも、これだけは教えてちょうだい。君達家族に何があったのか。一人の友人として、知っておきたいの」

 龗さんは真っ直ぐ僕を見つめた。

 本心は言いたくなかった。それでも龗さん目を見て嘘をつけるほど、僕は優秀じゃない。

「分かり、ました………」

 僕は自分の過去、何が起きたかを話した。

 前に分を人質にしたSalvation Of Sinが関わってることに、龗さんは驚いた。

 さすがに僕が殺し屋になった事は話さず、起きた事件だけを話した。

「………それで、父さん達が麻薬に手を出して人を殺したというシナリオができてしまった、というわけです」

「そんな………それじゃあ、そのテロリストが、扁螺さん達を殺したの?」

「いえ、実際に父さんを殺したのは僕です。経緯が何であれ、それは変わりません」

「…………そう。ごめんなさいね、君だって話したくなかっただろうに」

「いえ………真実を信じてくれるのなら、話して良かったです」

 全てを話した僕は、息を吐いて椅子にもたれかかった。顔が真っ青なのか自分でも分かる。

 正直、これを話すのはかなりしんどい。嫌でもあの時の光景が頭に浮かんでくる。

 コーヒーを一口飲むと、たいぶ気分が良くなった。それでも頭が痛い。早く寝たいな。

「竜胆君。君はそこまで家族を失っても、罔象を家族として迎えたいの?」

 それは問いというよりは、心配している様な声音だった。

 龗さんは理不尽な理由で最愛の人を失っている。その苦しみは僕とは比べ物にならない程だろう。

 その恐怖を知ってるからこそ心配してくれているのだろう。

「そうですね。罔象を失うのは、怖いですよ。でも………それ以上に、今は罔象と一緒にいたい。ただそれだけです」

「そう、分かったわ。結婚に関しては、私はどうこう言うつもりはないわ。でも………一つだけ条件があります」

「条件、ですか?」

 まぁただで何とかなるなんて思ってない。僕は居住まいを直して身構えた。

「えぇ。罔象と結婚するまでに、君の周りの恋愛事情を何とかすることよ」

「うっ!」

 結構痛いところを突かれて僕は猫背になった。頭の中にさっきの罔象と分の言い合いの様子が浮かぶ。

「昔の事もあって、罔象も分も男の人苦手になっちゃってたからね。二人とも色恋沙汰とは無縁だと思ってたけど。まさか今になって年の離れた二人の修羅場を見る事になるとは思わなかったわ」

「す、すみません………えっと、分の気持ちは、その………知ってるん、ですか?」

「一年前、君が来た時からね。娘の気持ちが分からないほど、私は鈍くないわ。たぶん気がついてないのは君だけだったはずよ。あの子も想いは伝えたみたいだけど」

「え、まさかあの時………聞いてたんですか?」

「さすがに娘の部屋から泣き声が聞こえたら心配にもなるでしょう?」

 そうだったんだ。分のことで頭がいっぱいで、全然気がつかなかった。

「言い訳かもしれませんが、これでもちゃんとケリつけたつもりなんですよ」

「何か思うところがあったのね。あの子本気にさせると怖いよ〜」

「うぅ………な、何とかしてください」

「無茶言わないで。私だって耐えきれずに、思わず逃げちゃったもの」

 昼間出かけた理由それかよ。自分の娘なんだから何とかしてくれ。

「分だって、理由も無しにあんな事はしないわ。後は、君がどうするかよ」

 そんなこと言われてもなぁ。どうしたものか。 

「やれる事はやったはずなんですが………」

「そうねぇ。君は、罔象以外の女性とお付き合いした事はあるの?」

「い、いえ………」

「それなら、ちゃんと向き合わないと分からないわね」

「はぁ………」

 これは、割と本気でどうにかしないとな。とりあえず今日は戻るか。

「とりあえず、僕はこれで失礼します。コーヒー、ごちそうさまでした。龗さん、おやすみなさい」

「あら、お義母(かあ)さんとは呼んでくれないの?」

「まだ違いますし、人と距離を縮めるの苦手なんです。それでは」

 僕は台所を出ると部屋に戻った。布団に寝そべると天井を見る。

 ほんの数分の出来事なのに、体の負担がとんでもないな。

 けど………そんな負担を進んで負うくらいに、僕は………罔象のこと………

 そんな事を考えたが、体の負担が予想以上で、僕はそのまま意識を手放した。

 

 

 

「………て、起きて。竜胆君」

 体を軽く叩かれて目を覚ますと、優しく微笑む罔象の顔があった。寝起きですぐに来たのか、パジャマを着たままで髪も結んでいない。

「みず、は………」

「おはよう、竜胆君」

 起こしに来てくれた罔象の姿を見て、僕の心がじんわりと温まった。

「もう7時半だよ。みんな起きてるから、竜胆君も起きて、きゃっ⁉︎」

 意識がはっきりしてきた僕は、罔象の腕を掴み引くと抱きしめた。

「竜胆、君?まだ寝ぼけてるの?」

「罔象………おはよう」

 罔象は驚いた様に身じろいでいたが、僕の体に腕を回して抱き返してくれる。

「うん、おはよう」

 こんな風に罔象の過ごせる日が、いつか来るといいな。

 心からそう思った僕は、その気持ちを抱擁で伝える。

 流石にずっとくっついてるわけにはいかない。離れようとするが、罔象が抱きついたまま離そうとしなかった。

「罔象?もう、離れてくれて大丈夫だよ」

「い〜や。せっかく竜胆君から抱きしめてくれたんだもの。もうちょっとこうしていたいな」

 僕達はそのまましばらく抱き合っていた。

「罔象。もしかしたら、これからしばらく会う時間減るかもしれない」

「え?どうかしたの?」

「仕事、ちょっと忙しくなるかもってこと」

「そっか………うん、頑張ってね」

「ありがとう」

 自分のために、自分の目的を果たす。そうしなければ、僕は前に進めないし、その先にいる罔象にも追いつかない。

「それじゃあ、今日はいっぱい一緒にいようか」

「そうだね。罔象、布団の中入る?」

「うん。お邪魔します」

 罔象は布団の中に入ると、僕の手を繋いで身体を密着させた。

 自然と顔が近くなり僕達は唇を重ねた。

「んちゅ♡ちゅるっ、んんっ♡!れろっ、んっ、ちゅぱっ♡!はぅ、りんどぉく、んんっ♡!くちゅ、ちゅるっ、んくっ、ぷぁっ♡!」

 口を離すと強く抱き合って身体を押しつけあった。罔象の柔らかい身体から、甘い快感が伝わってくる。

「んっ♡はぁ♡………気持ちいい♡」

 罔象の身体を見下ろすと、昨日つけたキスマークが少しだけ消えかかっていた。

「痕、ちょっと消えてるね」

「それなら、もう一回ちゅ〜ってして、上書きして♡」

「うん、そうする」

 僕は罔象を抱きしめたまま彼女の首筋を舐めた。それから強く吸いつき痕をつける。布団の中でモゾモゾする音と吸いつく音が部屋に響く。

「んっ♡!あぁっ♡………痕つけられるの、いい♡んぁっ♡!もっと、んっ♡!ここにも、つけてぇ♡」

 罔象は自分の胸元に、繋いだ僕の手を触れさせた。

 パジャマの一番上のボタンを外すと、パジャマに押し込まれた胸が溢れ出そうになる。

 大きな双丘の麓には赤い痕がまだ残っていた。僕はその上から吸いつき痕を濃くする。つけた痕を治すように舐めると、罔象の身体からふんわりと甘い匂いが漂う。

「んんッ♡!そこ、舐めちゃ、あぁっ♡!竜胆君♡もっといっぱいして♡」

「罔象………」

 僕はお互いの身体を愛撫しようと、パジャマの中に手を潜り込ませて…………

 

 

 

「朝っぱらからいつまでイチャイチャしてんの!とっとと起きろバカップル‼︎」

 

 

 

 バンッとドアを蹴破ってきた分に驚かされて、罔象が僕を起こしにきたことを思い出した。

 こうして罔象との二度目の正月が、幕を閉じた。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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