※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第218話 入学式

『皆さん、ご入学おめでとうございます』

「ふわぅ………」

 今日何度目かになる言葉を聞きながら、僕は漏れ出そうになる欠伸を噛み殺す。

 十二時半に始まった大学の入学式。準備や移動を考えると昼ご飯を食べていくか否かという微妙な時間。

 僕は食べないという選択を取った。式の終わる時間は明記されてなかったが、中学や高校と同じなら一時間ちょっとで済むと思ったからだ。

 遅めの昼ご飯にしようと決めて臨んだのだが………これは予想外だった。

 まさかまさかの三時間近く。二部構成でほとんどが必要な事だったけど、クラブ紹介なんて今やるか?オリエンテーションの時もめちゃくちゃしてたのに。

 ただでさえスーツという慣れない格好なのに、その上長時間拘束。あぁ、緩いパーカーと新刊ラノベが恋しい。

 その中でも理事長話長いんだよなぁ。原稿あるなら寄越せ、十分くらいで終わるように添削してやる。

 そんなこんなでようやく解放された僕は、迫り来るサークル勧誘のうるささに倒れそうになるが、急いで耳栓をして回避。

 会場の外に出て大きく息を吸った。あぁ、空気が美味しい。

「すぅ───はぁ───………あぁ、疲れたぁ」

「竜胆」「竜胆君」

 すると後ろから三人の声がした。振り向くとそこにはスーツ姿の分、罔象がいる。

「おぉ、二人とも。お疲れさん」

「アンタの方がよっぽどお疲れっぽいけど、大丈夫?」

「まぁ、高校でも間々あった事だ、このストレスは慣れないとね」

 とはいえ長い入学式で疲れてるってのに、あんなうるさい勧誘されたら本気で倒れそうだ。

「慣れようとするのはいいことだけど、無理しないでね」

「ありがとう。罔象も何か悪いね、自分に関係無いのに車出してもらって、こんな時間まで付き合わせちゃって」

「いいのいいの、私が来たくて来たんだから。って、東風ちゃんは?」

「え?一緒じゃないの?」

 僕は周りを見渡すが東風の姿がない。おかしいな、僕より先に退場したはずなんだが。

 嫌な予感するなぁ。

「はぁ、仕方ない」

 僕はため息を吐くと、耳栓をして会場へと戻っていった。僕の予想が正しければ………やっぱり、いたいた。

『野球部に入りませんか?』『映画部いかがですか?』『弓道部ぜひどうぞ!』『茶道部です!見学だけでもぜひ!』

『え?あ、あの、私行かなきゃ、ちょ、人多くて行けな、あぁ、すみません。え?時間はあるんですが、私は、あぁ、いえ、その、資料だけでも、ぐえッ⁉︎』

 サークル勧誘の人混みに飲み込まれて、全てのサークルに声をかけられ、その断れない性格からちゃんと対応してしまっているスーツ姿の東風がいた。

 人混みの中をスルスルとすり抜けると、先輩に囲まれている東風の首根っこを掴んで人混みから引き摺り出した。

 罔象達の所まで連れて行って離す。

『ぐはっ!り、りん兄、ありがとうございます。でももう少し優しくしてくださいよぉ………』

「これが一番手っ取り早いの。まったく、勧誘に流されおって」

 僕は呆れながら耳栓を外した。

「こういう人混みを素早く抜ける方法は、昔教えたはずだけど?」

「なんかすごい熱意で迫ってくるから断れなくて………」

 こういうところは相変わらずだなぁ。あんなの無視すりゃいいのに。

「おっ、東風も来たか。それじゃあ写真撮影しに看板に行くか!」

「はいはい、行ってらっしゃい」

「何言ってんの、アンタも来んの!」

「え?ちょ、おい!」

 分に腕を引かれて僕達四人は会場前の看板へと向かった。

 ちなみに今回いる身内はこれだけ。

 鯨波さんはもちろん、年魚さんや龗さんは仕事があって来れないとのことだったので、龗さんの代わりに罔象が来てくれたのだ。

「それにしても竜胆君、予想よりもちゃんとスーツ選べたんだね。服とかあまり頓着しないのに」

「違うよ、選んだのは僕じゃなくて東風」

「鯨波さんに頼まれたんです。りん兄がめんどくさがって中々買いに行かなかったので、私のとついでに」

 いやぁ、スーツ選びはほとんど東風に任せたからなぁ。サクサク進んで本当にありがたかった。

「へぇ、そうなんだ。よく似合ってるよ」

「そりゃどうも。けど、僕としては罔象のスーツ姿が新鮮すぎてびっくりしてるよ」

「まぁ、普段は私服かエプロン姿しか見せてないもんね。実際スーツも久しぶりに着たし」

 卒業式の日に罔象の高校の制服姿は見たが、それでも罔象のピシッとした格好は新鮮だ。

「なんか、いいね。カッコいい」

「そう?ありがとう」

 周りに人がいるので目立たないように、僕達は指を絡めた。

「おーい、二人とも!アタシ達の番来たよ!」

 分に呼ばれて僕達は看板に立った。罔象が撮ってくれるみたいなので、並んで写真を撮ろうと………

「ね、ねぇ、二人とも………ちょおっと竜胆君と距離近くない?」

 分のスマホを預かってこちらに向けている罔象が、若干強めの口調で言った。

 東風と分が左右から僕の両腕にしがみつき、身体を密着させている。色々と当たっていて身動きが取れない。

「大丈夫大丈夫。こうしないと、ちゃんとカメラに収まらないし」

「ほら、りん兄逃げないでください。写真撮れませんよ?」

「ちょ、東風!分も、この体勢はちょっとさ………」

「いいから動かない。お姉ちゃんも早く撮ってよ。待ってる人いるし」

「くっ!わ、分かったよ………!」

 僕に抱きついてくる二人を見て、罔象はこめかみをピクピクさせながら写真を撮る。

「これでいいね。さてと、お昼ご飯どうする?というか、時間的にはおやつの時間も過ぎたけど」

 撮った写真を確認しながら、分がディスプレイの時計を見る。

「あっ!そういえば近くの公園でお祭りやってましたよ。せっかくならその出店で何か買いませんか?」

 言われてみれば、遠くから何やらいい匂いと賑やかな音がする。入学式のストレスで気がつけなかったな。

「いいじゃん。そうするか」

 入学式で疲れた体を休めるにはちょうどいいじゃないか。

 会場からしばらく歩いた所に大きな神社があり、そこでお祭りは開かれていた。

「う〜ん、いい匂いするね。ここでお昼ご飯兼おやつにしようか」

 本当に、お祭りの屋台っていい匂いだよねぇ。

「そうですね。ついでに夕ご飯のおかずもここで買っちゃいますか。お母さんにもお土産あげたいし」

「アタシもそうしようっと!よ〜し、何から食べようかな!まずは………あっ!牛タンあるじゃん!あれにしよ」

 素早く食べるものを決めた分に続いて、僕達も屋台へと向かっていった。

 それから四人で屋台を回ったり催し物を見たりしてお祭りを楽しんだ。

 そしてケバブ屋の屋台に並んでいると

「あれ?虚宿(とみてぼし)さん?」

「ん?おっ、竜胆!東風もいるじゃねぇか」

 そこで肉塊を削っていた虚宿さんは目を丸くした。

「あれ?この人って………」

「デパートの事件の時に東風ちゃんといた人だよね?」

 虚宿さんとそこまで交流の無い罔象と分が、思い出すように遠い目をした。

「えっと、たしか………お兄ちゃん、って呼ばれてた人?」

「あ、あぁ………テメェらにはちゃんと名乗ってなかったな。虚宿 冬青(そよご)だ、その呼び方はやめてくれ」

 デパートの時に水鶏(くいな)が呼んでいた呼び方を言われて、虚宿さんは少しげんなりする。

「つか、テメェら何で揃いも揃ってスーツなんだ?」

「近くで大学の入学式だったんです。虚宿さん何してるんですか?」

「何って、見りゃ分かんだろ?俺ら牛尾菜組は、毎年この祭りで出店やってんだよ」

 そうだったのか。それにしてもまぁ役員の着る白い法被(はっぴ)と頭に巻いたタオル似合うな。

「あ、それじゃあケバブ一つください」

「おぅ!一つ六百円な」

「僕も一つ、持ち帰れるように」

「そんなら千円だ」

「ぼったくりだって鯨波さんに突き出しますよ」

「ハッハッハ!冗談だっての。ほらよ」

 虚宿さんが笑ってケバブを差し出した。おぉ、美味しそう。

「そういや、水鶏も遊びに来てるから挨拶してったらどうだ?」

「え?水鶏ちゃんいるんですか?」

「おぅ、害富(がいと)に面倒見させてるから、その辺にいるはずだぜ」

 そう言われて辺りを見渡すと、桜の木の近くで鱏棘(じんきょく)さんと出店で買ったものを食べている水鶏がいた。

「あっ!水鶏ちゃん!」

「ん?あぁ!パパ!ママ!」

 僕達に気がついた水鶏がこちらに駆けてくる。抱きついてきた水鶏の頭をそっと撫でてやる。

「久しぶり、元気にしてた?」

「うん!今年で二年生になったよ!パパとママは高校を卒業したんでしょ?おめでとう!」

 しゃがんで目を合わせた東風の質問に、水鶏が元気に答える。

「ありがとう。貰ったしおり、大切に使わせてもらってるよ」

「えへへ、よかった!」

「おーい、水鶏。勝手に走り出さないの」

 すると水鶏と一緒にいたスリの鱏棘さんが走ってきた。

「害富お兄ちゃん!パパとママがいたの!」

「え?本当だ、みんなお揃いで。こんにちは、葬式か何かですか?」

「入学式ですよ。水鶏ちゃんはよく鱏棘さんと一緒にいるの?」

「うん!最近よく遊んでくれるの!一緒にお祭り回ってくれるって」

 この人まだ牛尾菜組から解放されてないのか、災難だな。

「まぁ出店の力仕事やらされるよりかはよっぽどマシなんで。それに、小遣い稼ぎもできますしね」

 そう言う鱏棘さんのポケットの中にはお札が何枚かある。財布は持ってるはずなのにそこにあるってことは、ここでスッたな?

「虚宿さんにどやされませんか?」

「その辺は上手くやってますよ。水鶏、この辺は人多いから向こう行こう」

「うん!パパとママも一緒に行こう!お姉ちゃん達も!」

 水鶏と鱏棘さんも加わり、僕達はベンチの方へと向かった。買ったものをいくつか広げて食べる。

 僕もおさつ揚げを食べながらモモジュースを飲んでいる。するとたこ焼きを持った罔象がやってきた。

「竜胆君、隣いい?」

「もちろん」

 罔象の座る場所を作ると、そこに座った罔象が上を見上げる。

「桜、綺麗だね」

「そうだなぁ」

 本当も頭上の桜を見上げた。風に煽られて花びらが舞う。その中にいる罔象は、本当に美しい。

「竜胆君たこ焼き食べる?」

「いいの?ありがとう」

 罔象は楊枝でたこ焼きを一つ刺すと、吐息で冷まして僕に向ける。

「ふーっ、ふーっ。はい、あーん」

 笑顔と共に向けられたたこ焼きを頬張った。

「ん、美味しい」

「だよねぇ、って、竜胆君口にソースついてる」

 すると罔象が頬張ったの腕に抱きついて近づくと、僕の口の端についたソースを舐めとった。そのまま密着してくる。

「ッ⁉︎み、罔象、人いるんだからそういうのは………」

「ダ〜メ、さっき東風ちゃんと分とベタベタしてたバツです」

 うっ、やっぱり気にしてたかぁ。

 唇を尖らせた罔象は頰を緩ませて微笑んだ。

「竜胆君、ちゃんと言えてなかったけど、入学おめでとう」

「ありがとう」

 僕達は身を寄せ合って手を繋いだ。罔象が僕の肩に頭を乗せる。

 こうして僕の大学生活が始まった。

 

 

 

 そしてもう一つ、大学生といえば………

顋門(ひよめき)さん。こっちの掃除終わりましたよ」

「おっ、ありがとさん」

 そう、アルバイトである。

 前に約束した通り、僕は顋門 上枝(ほつえ)さんのガンショップで働くことになった。

 三月の内に採用は決まってたので、これで何度目かのバイトである。

 人はそれなりに来るが、そんなに忙しいわけでもない。

 しかし顋門さんは殺し屋の仲介人でもあるため、彼女からの依頼を積極的に受ける約束もしている。

 結果的にあらゆる『仕事』という面では忙しくなったかな。

「それじゃあ竜胆、ちょっとお遣い頼んでいいかな?」

「ん?お遣い?」

 ガンショップでお遣いって何だ?通販とかやってるなんて話も聞いてないが。

 僕が首を傾げていると、顋門さんが棚から箱を取り出した。

「これ、(いろり)の病院まで届けて欲しいんだけど」

 そう言って箱を開けると、中にあったのは一丁の拳銃だ。これは………本物の銃だな。

「ちょっと前に私が仕事回した殺し屋が、派手にやられちゃってさ。任務完遂の代償に銃は壊れて、本人は爐の所に入院してんの。んで、その銃の修理頼まれて終わったからさ、届けに行ってきて」

 廂間(ひあわい) 爐さんは顋門さんや鯨波さんの友達だ。

 この街で『廂間外科クリニック』の院長をしている一方で、裏社会の人を診る闇医者や死体を処分する死体屋を営んでいる。

「いやそれガンショップ関係無いでしょう。顋門さんの仕事なんですから、あなたが行ってくださいよ。僕が店番してますから」

「私入ってきた依頼の整理しなくちゃなんないの。ねぇお願い!その分給料ちゃんと上げとくから」

 手を合わせ出した顋門さんに、僕はため息をついた。

 まぁこの人の元で働く時点で、こういうことがあるのは予想してたが。この人こういう性格だから。

 それにしたって、何でこんな運び屋みたいなことしなくちゃならないんだか。

「はぁ、分かりましたよ」

「ありがとう!爐には連絡してあるから、行けばすぐに案内してもらえるよ」

 仕方なく受け取った箱をリュックに詰めると、僕は自転車に乗り廂間外科クリニックに向かう。

 そこまで遠い場所ではないのですぐに着いた。自転車から降りて病院に入り、受付へと歩いて行く。

「すみません、『トイガン ゲウィーア』のバイトの者ですが、こちらに入院されている方の銃を届けに来ました」

 この病院で働いている全ての人は裏社会の人間なので、ストレートに用件を言っても問題ない。

 僕が手渡しすると面会の手続き云々が面倒なので、看護師の方に渡してもらうようにした。

「修理の具合を確かめてもらいたいので、すぐに渡してもらいたいのですが」

「分かりました。ねぇ、ちょっといいかな?患者さんに届けて欲しい物があるんだけど」

 受付にいた人は奥に引っ込み、そこにいる人に声をかける。

「はい、分かりました」

 受付の人に呼ばれた人が頷く声が聞こえた。

 ん?今の声………

 僕が首を捻っていると、奥から受付の人が戻ってきた。そしてその後ろから声をかけられた人が………

「「は?」」

 僕と目が合って、お互いに変な声が出た。当たり前だ。だって………

 

 

 受付の奥から出てきたのは、ナース服を着た東風なのだから。

 

 

「り、りん兄………」

 僕と東風はしばらくの間固まっていた。驚きで頭が真っ白になり数十秒後、東風が口を開いた。

「りん兄………何故、ここに………?」

「いや、バイトでちょっと、じゃなくて。東風………お前、こんな所で何してるんだ………?」

「え、えっと………私も、バイト………ですかね」

 さらなる衝撃に久しぶりに気絶しそうになった。彼女の言ってることをようやく飲み込むと、声を絞り出す。

「いやいやいやいや、何やってるの⁉︎ここでバイトって、ここがどこだか分かってるのか⁉︎」

「あ、当たり前じゃないですか!昔一度入院してるんですから。ここが裏で何をしてるかは、ちゃんと覚えてますよ」

 あぁ、あの時(・・・)のことはちゃんと覚えてるんだ。もう随分と前なのに。

「それなら尚更、何でここを選んだの!」

「私看護学科ですから。勉強しながらちょっとした経験も、みたいな感じです」

「他にバイト募集してる病院ならこの辺にいくらでもあるだろ!むしろここは募集してないはずだけど?」

 僕達が言い合っていると、廊下の方から一人の女性がやって来た。

「ん〜、何なに、騒がしいんだけど」

 のんびりとした口調でやって来たのは廂間 爐さん。この病院の院長だ。

 白衣に身を包み、背は低めで少し猫背。気怠げな目をして、髪は少し跳ねている。

「あれ、竜胆。何でここにいるの?」

「あ………廂間さん、こんにちは。顋門さんのお遣いで来たんですが」

「え?あぁ、そういえば上枝のとこでバイトしてるんだったね。なぁんだ、上枝が来るかと思ってたのに」

 さすがに少し騒ぎすぎたので、僕は大きく深呼吸して廂間さんに挨拶した。

「あの、廂間さん。これどういうことですか?何で東風がここでバイトしてるんですか?というか、何で出来てるんですか?」

「ん?あぁ………」

 僕が詰め寄ると、廂間さんは明らかに気まずそうな顔をして目を逸らした。

 ここで働いているのは全て裏社会と関わりを持った人達だ。東風はそれには当てはまらないはずなのに、何故雇ったんだ?

 廂間さんは東風をチラッと見るとため息をつく。

「はぁ、思ったより早くバレたなぁ。東風ちゃん、どうする?」

「えっと………りん兄には、全部話しましょう。落ち着いてきたら、どの道話すつもりでしたし」

「了解。ちょうど診察もひと段落したから休憩しようか。こっち来て、竜胆も」

 廂間さんに手招きされて、僕と東風はついて行った。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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