手が柔らかく温かい感触に包まれて、僕は目を覚ました。
「んっ………んん………」
目をゆっくりと開けて周囲を確認する。いつもよりも派手な赤い部屋、所々に見られる磔や枷、そして………
「あ、竜胆君。起きた?」
僕の隣で寝そべっている美しい
罔象は一糸纏わぬ姿でベッドに横になっていて、僕が起きたのを知ると嬉しそうに眺めている。
艶のある黒髪がシーツに垂れており、うつ伏せになっているため、豊満な胸が押しつぶされてる。彼女の全身をじっくりと眺めていると、僕と手を繋いでいるのが分かった。
「罔象。おはよう」
「おはよう」
僕達は自然と身を寄せ合い密着させた。まだ若干倦怠感が残る体に、罔象の抱擁の心地よさが染み込む。罔象の身体の感触が、微睡んでいた僕の意識を覚醒させていく。
「身体、大丈夫?どこも痛くない?」
罔象の身体には赤いキスマークがいくつもついていて、さらに縄や枷の痕も残っている。
「こうやって見てみると、私の身体すごいことになっちゃってるね。まだ、君に縛りつけられてるみたい」
罔象は自分の身体を見下ろして赤い痕を指先でなぞった。
「ごめん、ちょっと強くしすぎちゃったかな?」
「ううん、これでいいの」
僕の手に唇を触れさせて微笑む罔象の美しさに、僕の心臓が高鳴る。
「不思議な感覚だよ………身体は宙に浮きそうなほど軽いのに、君のおかげで刻まれた痕が、私をここに留めてる気がする」
柔らかい笑みを浮かべて、罔象は握った僕の手に頬擦りをした。
「昨日、竜胆君があんなにも求めてくれたって分かって、すごく嬉しいんだ。ありがとう♡」
身体を密着させて、距離を縮めた僕達の唇が重なり合う。
「んっ♡………ふふっ、もっとベッドの中でイチャイチャしてたいけど、竜胆君に襲われたら敵わないしそろそろ起きる?」
「か、揶揄わないでよ」
「だって、この前からずっと襲われてばっかりなんだもん」
「そ、それは、その………と、とにかく起きるか!」
この前の事とか昨日の事とかを思い出してしまいバツが悪くなる。無理矢理話題を変えようと体を起した。
すると罔象も身体を起こして、僕を捕まえるように後ろから抱きしめてくる。首に腕を回されて彼女の顔が真横にきた。
「罔象?」
「大好きだよ………そんな風に、私のことをひたむきに求めてくれる竜胆君の事、私大好きだよ」
熱い吐息が混じり、罔象の声が僕の耳に響き渡る。
罔象の柔らかい双丘が、僕の背中に押しつけられて潰れている。昨日はパンパンに張っていたが、母乳が搾られたことにより程よい弾力を感じる。
「それに、竜胆君が襲ってくれないと、私もこうやってくっつきにくいからさ」
「そう、かな………」
僕は罔象の手を握ると彼女の方を振り返り唇を触れ合わせた。
「んちゅ♡………シャワー、浴びよっか」
「うん………でも、もうちょっとこのままでいい?」
「キスする?」
「………する」
僕達はくっついたまま、しばらくの間キスを楽しんだ。
「んっ、ちゅっ♡ちゅるっ、んんっ♡、ふぁ………あむっ、くちゅ、れろっ、れろっ、ん〜〜〜♡」
ベッドの上で気の済むまでキスをしてから、僕達は一緒にシャワーを浴びていた。それから湯船に入ってまたキスを楽しむ。
罔象はいつも一緒にお風呂に入る時のように、僕の脚の間に座っている。
「ぷぁっ♡………前来た時も思ったけど、ラブホテルってお風呂広いよね」
「二人で入ること前提だからだろうね」
この前の時とは違う赤い湯船に浸かって、僕は罔象を後ろから抱きしめる。罔象も僕に身体を預けて寛いでいる。
「思いっきり身体伸ばして竜胆君とお風呂入れるし、幸せ〜」
気持ちよさそうに寛ぐ罔象を間隣で見て、僕も幸せな気持ちになる。罔象の身体の温かさと柔らかさで心がほぐれる。
「竜胆君、今日のデートはどうする?」
「どうする、かぁ………あんまり考えてなかったな。罔象は逆にしたいことある?」
「まぁあるにはあるよ。それに私はまだお願い何も言ってないし、それにもちゃんと付き合ってね」
そうだ。今回のデートはお願いができるようにしたんだっけ。
「ちなみにどんな事お願いするつもり?」
「それはね………秘密」
「いや、あの、それすごい不安なんだけど」
ちょっとくらいは心構えさせて欲しいんだけどなぁ。
「ダ〜メ。私だって昨日、ローター仕込まれて下着着ずに歩かされてすごい不安だったんだよ?」
「だって………可愛かったし」
「褒めてもダメですー!お願いはギリギリまで教えません!」
あらら、まぁそこまですごい事お願いされない事を祈るしかないかな。
「でも意外だったなぁ。竜胆君ってオモチャ使ったり縛ったりしてエッチするの好きなの?」
「え?あ、いや、そういうわけじゃ………というか、罔象も楽しんでるみたいだったよ?」
「そ、そんなわけないでしょ!デートの時からすごい恥ずかしかったの!やめてって言ってもめちゃくちゃにイカせるし!」
「わ、分かったよ。それじゃあもうやらない?」
「あ、い、いや………別に、嫌だったわけじゃないし。月一くらいなら………構わないけど………」
罔象は照れ隠しをするように僕の胸板に顔を埋めた。その体勢になると彼女の首元に目が向く。
「そういえば、そのチョーカー昨日からずっとつけてるね」
「え?あぁ………竜胆君に買ってもらってから、ずっと外すの忘れてたから」
このチョーカーも相まって、罔象は子犬みたいに可愛らしい。
「こういうアクセサリーっぽいものつけるのすごい久しぶりだよ」
たしかに罔象がこういうアクセサリーをするのなんてほとんど見たことない。まぁ僕の中での罔象が、ほとんど仕事の時のエプロン姿で固定されてるってのも原因の一つだけど。
「僕が言えたことじゃないけど、罔象ってあんまり服装とか意識しない?」
「本当に君には言われたくないね。けど、そうかもなぁ。仕事が飲食店で制服があるってのもあるから、着飾るって経験があまり無いのかも」
なるほど。たしかに飲食店ならそこまで着飾るのはマズいし、勤務先が家だと外に出るってことが無いからね。
「逆に竜胆君は?基本的にいつも同じようなジーパンとかパーカーだし、強いて違うものといえばお仕事の時のコートでしょ?大学でもそうなの?」
「うん。そもそもそれくらいしか服持ってないし」
基本的にパーカーとジーパンそれぞれ三枚ずつあれば、そのローテーションで服には困んない。
「お金それなりに稼いでるよね?服買わないの?」
「ラノベに円盤に漫画におもちゃ。買いたいものは他にたくさんあるからね」
「君らしいねぇ。けど、それならちょうどいいかも。今日いくつか買ってみない?」
罔象の突然の提案に僕は目を丸くした。
「何、服買うつもりだったの?」
「まぁね。昨日どこかの誰かさんがやめてって言ったのにイカせてくるから、服もズボンもびしょびしょになっちゃったし」
あぁ、そうだった。一応コートで隠せるとはいえ、ずっと濡れたままの服を着るのは嫌か。
「って、もしかして、それがお願い?」
「そう。私のお願いは、今日の買い物に付き合ってもらうこと!」
というわけでホテルを出た僕達は、近くのバスに乗って目的地へと移動していく。そして着いた場所は………
「ここは………デパート?」
「そう。ここでお買い物しようかなって思ってさ」
「はぁ、なるほど」
僕は目の前の建物を見上げてぼんやりと返した。
そこはかつて『Salvation Of Sin』が襲撃し立て篭もったデパートだ。あの事件の後セキュリティを強化して、営業を再開したらしい。果たしてセキュリティがちゃんとなったのかどうか。
とにかくここなら服屋もあるだろう。たしかに来るにはちょうどいいのかもしれない。
「というわけで早速行こっか。あ、でもその前に」
デパートの中に入ろうとした罔象は、立ち止まって僕の方を振り返った。それからズイッと距離を縮める。
「一応言っておくけど、いくつかお店回るから、お買い物中にどこかに行ったりしないでよ?」
「はい?」
これはあれか?罔象の買い物に僕が飽きても帰らないように、という事だろうか。それなら問題ない。
「心配しなくても、暇になったら適当に暇つぶししてるから」
僕は自分のスマホを見せて言った。今のご時世暇つぶしで困る事って少なくていいよね。
「それはそれでどうかと思うけど………まぁ、竜胆君を退屈させても悪いし、買い物自体は一時間もかからずに済ませる予定だから」
あら、思ったよりも全然短い。女性の買い物ってもっと長いというイメージ………というか東風達はそうだったし。
一時間もかからないなら全然付き合っても構わない。
「それくらいなら全く耐えられるよ」
「それならいいや。それじゃあちゃんと付き合ってね」
「うん」
そんな会話の後に買い物を始めて数分後。僕達は一つ目のお店に来ているのだが………
「ね、ねぇ罔象⁉︎本当に僕これ付き合わないとダメ⁉︎外で待ってるからもう出ていっちゃダメかな⁉︎」
僕は今すぐにでも帰りたくて、ガラにもなく人前であたふたとしていた。周りの様子を見ながら縮こまっている。
「ダーメ、お願いなんだからちゃんと付き合って。勝手に出ていっちゃダメだよ?」
「い、いや、でもさ………」
「これでよし、っと。竜胆君、これどうかな?」
僕の言い訳を遮って、目の前の試着室のカーテンが開かれた。
そこから現れたのは、レースのあしらわれた黒い下着だけを身につけている罔象だ。しなやかな肢体は隠される事なく露わになっている。
しかもその下着は、普段の罔象の下着よりも明らかに布面積が少ない。
若干前屈みになると、黒い下着によって強調されている豊かな胸が軽く揺れる。今にもこぼれ落ちてしまいそうだ。
大人っぽくて艶やかな罔象にクラクラしながらも、何とか意識を保つ。
「ちょ、み、罔象!そんな堂々と………」
「大丈夫だよ。今のところお店の中には、竜胆君以外男性はいなさそうだし」
「それが問題だって言ってるの!落ち着かないから!」
「仕方ないでしょ?下着屋なんてそんなものだって」
そう、僕達は今デパートの中の女性ものの下着屋に来ていた。
まぁ今現在罔象は下着を着ていないので、ここに来るのはある意味当たり前とも言える。僕のお願いで下着を着てこないようにと言ったのが、ここにきて仇となった。
なんとも華やかな店内には女性ものの下着が飾られていて、僕の周りには女性しかいない。
男の僕がいることが不自然なのか、周りの人達から奇異の視線を浴びせられる。
普段は周りの目なんか気にしないが、こればっかりは別だ。恥ずかしさと申し訳なさで居心地が悪すぎて、今すぐにでも逃げ出したい。もしくはその場で蹲りたい。
しかも現れた罔象は恐ろしいほどに妖艶で美しい。確実に普段着る用ではなく、僕と夜を過ごすためのものを着ている。
今の下着の前まで三回ほど別の下着姿も見せられて、僕の理性は限界に近くなっている。
掻き立てられる興奮と恥ずかしさで頭がどうにかなりそうだ。それでも罔象から目が離せないのは悲しき男の性だろう。
「ふふっ、竜胆君顔真っ赤だよ。これじゃ昨日の立場と真逆だね」
罔象は昨日の仕返しとばかりに、完全に僕の様子を見て揶揄っている。色々言いたいことはあるが、昨日罔象に全く同じ思いをさせたので何も言えない。
本当は今すぐにでも襲ってしまいたいが、そうすることはできない。興奮だけが一方的に高まって、それを発散できずに悶える。
「ね、ねぇ、罔象。もういいでしょ?」
「ダメだよ。ちゃんと竜胆君の意見を聞いて選びたいんだもん」
「も、もう無理だって………後は自分で頑張って!」
さすがに色々と我慢の限界だ。すぐさま逃げ出そうとする。
罔象はそんな僕の腕を引いて身を寄せる。耳元に口を近づけて囁いた。
「竜胆君が選んでくれた下着で、今夜は一緒に過ごそうと思ってるんだ。だから、君に選んで欲しいの」
「ッ………!」
「もうちょっとだけ、付き合ってよ、ね?」
周りの人から見えないように上手く隠れながら、罔象は僕の頰に唇を触れさせる。
「………う、うん」
それ以外に、僕には答えようが無かった。
その日の夜、僕達は二日連続で熱い夜を過ごしてゴールデンウィークを終えた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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