※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第229話 おまけ④

「お待たせしました。オムライスです」

「ありがとう、分ちゃん」

 とある休日のお昼、『Cafe Red Poppy』に来ていた刑事の鯨波さんにアタシはオムライスを出した。

「鯨波さんがこの店に来るのって珍しいですね」

 アタシがお姉ちゃんのお店でアルバイトを始めて数日。これまで鯨波さんが来たことなんて全く無かった。

「まぁね。久しぶりにこの店で食事したいなぁって思ってさ。ちょっとストレスも溜まってたし」

「またあの虚宿さんって人が逮捕されたとかですか?」

「まぁそれもそうなんだけどね。竜胆もやらかしてくれたから………休日だってのに呼び出されるし、終わったら二人まとめてお説教だよ。はぁ………」

 心底うんざりしてため息をつく鯨波さんに、私は同情を禁じ得ない。

「そういえば、久しぶりにって言ってましたけど、前にもここに来たことあるんですか?」

 何となく鯨波さんとこの店を結びつけてなかった私は、思わず目を見開いた。

「と言っても学生の頃の話だけどね。よく友達と通ってたよ」

「友達って、虚宿さんと?」

「アイツだけじゃないけどね」

 そう言って鯨波さんは、お財布の中から一枚の写真を取り出した。

 

 

「廂間さん、一通りの掃除終わりました」

 病室の掃除を終えた私は廂間さんに報告した。バイトの仕事にも段々と慣れてきて、少しではあるけどここに貢献できてるはず。

「東風ちゃん、お疲れさま〜。お昼休憩にしていいよ、というか私も休もうっと」

「はい。あ、そういえば、さっきりん兄、じゃなくて連枷さんから殺し屋の死体を十五人ほど捨てたいと連絡がありました」

「いつも通りの呼び方でいいよ。まったく………アイツは相変わらず運んでくる人数の桁がおかしいんだから」

 それは何となくわかる。他の殺し屋さん達からも死体処分の連絡は来るけど、基本的には一人が二人だ。二桁なのはりん兄か虚宿さんくらいだし。

「そんなに死体出たなら鯨波ちゃんの方に処分して貰えばいいのに。警察の方が安く処分できるでしょ?」

「私もそれは言ったんですが、鯨波さんの方にも二十人ほど処分してもらって『これ以上処分できるか』って打ち止められたそうです」

「はぁ…………なるほどね。とりあえず了解。休憩終わってからでいいから、運ぶケースの準備して。あと、数が数だし、ここじゃ処分し切れなきから、埋める場所も目星つけといてよ」

「分かりました。それと、さっき倉庫の掃除してたらこんなもの見つけたんですが」

 私はさっきの掃除で見つけたもの、小さな封筒を取り出して廂間さんに手渡す。

「ん?あぁ、これかぁ。そうかそうか、倉庫で落としちゃったんだな。ありがとう」

 どうやら廂間さんの落とし物らしい。

「それ何なんですか?手紙、とか?」

「ううん。写真だよ」

 そう言って頰を緩ませると、廂間さんは封筒を開けて写真を取り出した。

 

 

「顋門さん、仕事終わりましたよ」

「おぉ竜胆、お疲れさーん。それじゃあ早速お店の掃除よろしく」

 殺し屋とヤクザ殺しを終えて、顋門さんのガンショップへとやってきた僕に、顋門さんが掃除道具を渡してきた。

「あの、ちょっと休ませてくださいよ。仕事して終わりばかりなんですが」

「仕方ないわね。それじゃあいつも通り一時からね」

 僕はお店の奥の控え室に入ると、リュックサックを下ろした。そこから罔象の作ってくれたお弁当を取り出す。

 今日は休みだというのに、殺し屋の仕事とバイトがあるからと作ってくれたのだ。感謝感謝。

「お〜、美味しそうな愛妻弁当だねぇ。野菜炒めちょっとちょーだい」

 顋門さんは僕のお弁当を見ると、おかずを取ろうと手を伸ばしてくる。

 僕はその手をすかさず全力ではたき落とした。

「痛ッ‼︎ちょっと!何も本気で叩くことないじゃん!」

「僕のお弁当なんです。自分のお昼ご飯あるでしょう?」

 誰が罔象からのお弁当を渡すものか。ちゃんと僕が食べるんだ。

「まったく、可愛げがあるんだかないんだか」

 呆れたような顋門さんを無視して、僕はお弁当を食べようとする。

 すると控え室の棚の上に目が向いた。

「顋門さん、あれ何ですか?」

 僕が指差した先には一つの写真立てが置いてある。やけに古いものなのが見てわかる。

「ん?あぁ、これかぁ」

 どこか懐かしそうに微笑んで、顋門さんはその写真立てを手に取った。

 

 

「おい(れい)!遅ぇぞ!」

「無茶言わないでください。これでもバイク全速力で来たんですから」

 僕は留置所に繋がれていた虚宿さんと一緒に警察署を出た。

 仕事が終わって家に帰ろうとしたところ、刑事である流鏑馬さんに呼ばれて、僕は暴力沙汰で捕まった虚宿さんを迎えに来ていた。

「つーか、何で鯨波じゃなくてテメェが来たんだ?アイツ何してんだよ」

「『Dead Survivor』のお仕事の関係で手が空いていないそうです。釈放の準備だけして、後は僕に任されました」

 まったく。今日は復讐依頼が終わったら、その報酬で課金してゲームイベントに参加する予定が………完全に狂ってしまった。

「害富はどうした?アイツの方が連絡つきやすいだろ」

「お宅の組長のお孫さん………水鶏ちゃん、でしたっけ?彼女と出かけてるとかで不在でした。何より彼は貧民街の人間ですので、身元引き受けは難しいでしょう」

「まぁ、それもそうか。つーか、何でアイツが水鶏と出かけてんだ?」

「本人の希望だそうですよ。前に会った時に約束したそうです」

「何で俺よりも害富に懐いてんだよ………」

 それはあなたがしょっちゅう逮捕されてて水鶏ちゃんと会えてないから、その穴を鱏棘さんが埋めてる、とは言わなくてもいいな。めんどくさい。

「とりあえず僕はもう帰りますよ?あとは一人で帰ってください」

「おぅ、また頼むぜ」

「二度とやりませんよ」

 そう言って虚宿さんと別れようとすると、彼の服のポケットからスマホが落ちた。

「スマホ落としましたよ」

「ん?あぁ」

 スマホを拾って渡すと、スマホケースに入っている一枚の写真が目についた。

「虚宿さん、この写真って………」

「は?あぁ、これな………昔の写真だよ」

 虚宿さんはケースに入っている写真を懐かしそうに眺めた。

 そこに映っているのは交番らしき所の中に立っている学生服を着た男女六人組だ。ずっと昔だから分かりにくくはあるが、学生時代の虚宿さんが映ってるのが分かる。

 それに今日僕を呼びつけた流鏑馬さん、闇医者の廂間さん、殺し屋の仲介人をしている顋門さんもいる。みんな若干面影が残っている。

 そして見覚えのない男女二人が映っている。

 一人は髪の毛ボサボサでクマのある目の上から眼鏡をかけている男子。もう一人はイギリス人だろうか。お淑やかな印象を受ける金髪碧眼の女子だ。

 そういえば、前に聞いたことがあるな。

「虚宿さん。もしかしてこの二人って………」

「あぁ、牛尾菜(しおで) (おぼろ)とアイラ・ローズ・ガルシア。水鶏の両親で、俺のダチだ」

 

 

 

 今から19年前

 

「くたばれやぁッ‼︎」

「ぐへぇッ⁉︎」

 勢いよく繰り出された拳が、チンピラの顔面を抉った。チンピラは鼻血を噴いて倒れる。

「こ、このガキ無茶苦茶だ!一人で何人相手するんだよ!」

「怯むんじゃねぇ!人数じゃ負けてねぇんだ!囲んでやっちまえ!」

 チンピラの仲間が叫ぶと、みんなはチンピラを殴り飛ばした男子を取り囲んだ。男子よりも大柄な彼らの手にな鉄パイプやナイフが握られている。

「舐めんじゃねぇ‼︎」

「ぐふぅッ!」

 しかしその男子は人数差に怯えることもなく、次々とチンピラ達を殴り飛ばしていく。

 その拳は敵の血で染まるが、それでも尚、彼は拳を振るうのをやめない。

 すると少し離れた所からバイクのエンジン音が聞こえてきた。その音はどんどん大きくなっていく。

 やがて一筋の光が男子を照らした。それがバイクのライトと気がついた時には、バイクは自分の目の前に迫っている。

「ぐあぁッ⁉︎」

 反射的に避けようとはしたが、避けきれずにバイクと衝突する。さらにバイクは追撃して男子を追い回す。

「よぉ、随分のウチのモンを可愛がってくれたみたいじゃねぇか」

「チッ!このッ、ぐはぁッ!」

 男子は反撃しようとするが、その隙を突かれて周りのチンピラ達に取り押さえられてしまう。

 それと同時に、物陰からさっきまではいなかった大柄な男達が何人もやってきて、男子を捕らえた。

「おい押さえたぞ!やっちまえ!」

「オラァッ!このガキが!よくも好き勝手やってくれたな!」

「いつもいつも俺達の邪魔しやがって!」

「ぐあぁッ!」

 大人数に取り押さえられて、男子はチンピラ達にいいように殴り飛ばされる。血反吐を吐いてよろめいた。

「へっ、どうだ!思い知ったか!」

 しかしチンピラ達にいくら殴られようとも、その男子は決して倒れることなく立ち続けている。

 口についた血を拭って身構える。

「群れなきゃ戦えねぇようなヤツらの拳なんざ………何も痛くねぇんだよ!」

 ボロボロになりながらも男子は拳を握り振るった。真っ直ぐ打ち込まれた拳がチンピラの顔にめり込む。

「ぎゃあッ!」

「この野郎!やっちまえ!」

 逆上したチンピラ達が再び男子に殴りかかろうとした、その時だった。

 いきなり彼らの頭上から筒のようなものが降ってきた。それは着弾と同時に大量の煙を発生させる。

「ぐっ!ゲホッゲホッ!んだよこれ!」

「ま、前が見えねぇ!」

 突然の煙幕にチンピラ達は顔を塞いだ。

 そして煙が晴れる頃には、さっきまでボロボロだった男子はいなくなっていた。

 

 

 

「ハイ。紅茶をどうぞ」

「おっ、ありがとうございます」

 ガンショップである『トイガン ゲウィーア』。その店の奥の居間では、四人の学生達がのんびりと過ごしていた。

 一人の少女が、紅茶の入ったカップを本を読んでいた男子に差し出した。彼はお礼を言ってから紅茶を一口飲む。

「ふぅ………相変わらず、アイラは紅茶を淹れるのが上手ですね」

 本を読みながら紅茶を飲む男子、朧は美味しい紅茶に思わず息を溢した。

「えへへっ、ありがとうございマス。上枝さんと爐さんも紅茶いかがですか?」

 紅茶を淹れた少女、アイラは微笑むと近くで寝転がって漫画を読んでいる上枝と、のんびり日向ぼっこしている爐の方を向いた。

「おっ、気が効くねぇ。ありがとう」

「私も、貰おうかなぁ」

「では、今持ってきますネ。よろしければクッキーもどうぞ」

 アイラはクッキーを出すと、すぐにポットの元へと戻っていく。カウンターに腰掛ける初老の男、上枝の父親がそれを見てため息をつく。

「はぁ………上枝、いつもそうだけど、お前仮にもお客さんに何させてんだよ。ウチに招いたんだから、お前がお茶出せよ」

「あぁ、いいんデスよ。ワタシがやりたくてやってるので。ハイ、どうぞ」

 楽しそうに紅茶を淹れるアイラを見て、上枝の父親は感心したように口をへの字に曲げる。

「アイラちゃんは偉いねぇ。というか、この光景もいよいよ見慣れてきた感じがあるよ。すっかり君達の溜まり場だな」

「いつも押しかけてしまって、スミマセン」

「いいんだよ。ウチもそんなに繁盛してるわけじゃないし、ガランとしてるよりかは、ある程度賑やかな方が見てて楽しいってモンさ。って、今日はその賑やか担当がいないな」

「冬青なら朝から見てないよ。アイツの事だし、またどっかでケンカでもしてるんでしょ」

「だろうねぇ。鯨波が探しに行ってるらしいよ」

 寝転がりながら答える上枝に、だらけてリラックスしている爐が答えた。

「まぁいいさ。そんじゃあゆっくりしていってくれ」

 それだけ言って上枝の父親は店の外へと出ていった。それを見送りアイラが不安そうに俯く。

「ふ、二人だけで大丈夫でしょうカ?」

「大丈夫じゃない?一応鯨波が朧の発煙筒持って行ったらしいし、何かあれば逃げてくるでしょ」

「持って行ったというより、無理矢理ひったくられたんですがね」

 本から視線を上げる事なく、朧が呆れたように頰を引き攣らせた。

「とはいえ、そろそろ来てもいい頃だけどねぇ」

「これは、何かしらトラブルがあったと見て良さそうですね」

 遠くの景色と本、真逆の方向を見ながら会話する爐と朧。

 するとお店の入り口からガタンッと大きな音がした。

「ちょっと!みんないる?手貸して!」

 お店の入り口で大きな声がして、みんなが顔を見合わせた。声のする方に顔を覗かせる。

 そこにいたのは血塗れでボロボロになっている冬青と、彼に肩を貸して声をあげている鯨波だった。

「キャアッ!だ、大丈夫デスカ⁉︎」

 一番に反応したのはアイラだった。慌てて駆け出して鯨波に手を貸す。

「あらあら、思った以上にボロボロじゃん。爐、救急箱持ってきて」

「はいよ〜」

 爐に指示を出すと上枝も鯨波に手を貸した。そんな中でも朧は本から目を離さずに黙々と読んでいる。

「ちょっと朧!アンタも本読んでないで手伝って!」

「一人の手当くらい四人もいれば充分でしょう?僕は必要ないかと」

「いいから来いっての!」

「はぁ………分かりましたよ」

 鯨波に怒鳴られて朧はため息をつくと、ようやく本を閉じて腰を上げた。

「救急箱持ってきたよぉ」

「ありがとう。手当ても手伝って」

 とりあえず冬青を店の奥に運んで爐がテキパキと手当をした。消毒をしてから薬を塗ったガーゼを当てて包帯を巻く。

「上腕部に三箇所、腹部に四箇所、脚部六箇所、顔面五箇所の打撲傷。斬られてるのは………スピアーブレードのバタフライナイフですね。傷の大きさの違いから、十五人以上とは相手しましたね。服の擦り切れや他の傷との具合の違いから察するに、バイクにでも追いかけられましたか?」

「ぐっ!………う、うるせぇよ………」

 冷静に傷の具合を確かめる朧に冬青が悪態をつく。

 一通り手当てを済ませると冬青は壁に背中を預けて脱力した。

「それで、今日はどこの誰とケンカしたの?」

「………北高の三年と、ソイツらの入ってる族の連中だよ」

「はぁ?あそこってたしか結構大きな組織の傘下でしょ?そこに一人でツッコんだの?というかアンタ前もそんな事してなかったっけ?」

「あのクソ共が、またウチの学校の女手出そうとしてたんだ。目障りだから軽くシメてやったんだよ」

「それでソイツらの仲間呼ばれて、バイクで追い回されたの?何ですぐ逃げないかねぇ。んで、その女子生徒は?」

「私がさっき警察まで逃したよ。たぶん保護されてる」

 爐の質問に鯨波はくたびれたようにグッタリとして答えた。アイラがタオルを持ってきて手渡す。

「あ、そうだ。鯨波さん、発煙筒返してください。六本も持っていったんですから、何本かは余ってるでしょう?」

「え?あぁ、ごめん。緊急事態だから慌てて全部使っちゃったわ」

「えぇ?何で全部使っちゃうんですか!」

「ごちゃごちゃ言わないの。また作ればいいでしょ?」

「発煙筒作るのもタダじゃないんですがね………」

 上枝にピシャリと言われて朧は項垂れた。

「クソが!ぜってぇに許さねぇ!すぐにでもブチのめしてやる‼︎」

「その体でできるわけないでしょ!ちょっとは落ち着きなって」

「あ゛ぁ⁉︎このままイモ引けってんのか⁉︎」

「今の冬青一人じゃ無理ってだけ。ちょっとはゆっくりしたら?」

「うるせぇ‼︎ここまでされて黙ってられっか‼︎」

 鯨波と爐の静止を振り切って冬青は飛び出して行こうとする。その間に割って入ってきたのはアイラだ。

「まぁまぁ、二人とも。体が問題無いようなら、紅茶でもいかがデスカ?爐さん達も、おかわりいかがデス?」

 そう言ってアイラは、微笑んで鯨波と冬青の前に紅茶を差し出した。

 怒りに満ちている冬青とは真逆の穏やかな雰囲気が、その場の空気を和ませる。

「ッ………菓子はねぇのかよ?」

「クッキーでよろしければ。ハイ」

 アイラの柔らかい笑みに多少怒気が抜かれたのか、冬青はその場に座って紅茶をガブ飲みする。

「ありがとう、アイラ」

 色々な意味での感謝を伝えると、鯨波も紅茶を飲んだ。

 少し場の空気が落ち着いてきたところで上枝が口を開く。

「ふぅ………それにしても、ちょっと妙じゃない?」

「あ?何がだよ」

「アンタと喧嘩した北高の連中、ソイツらを助けたヤツらだよ。助けに来るタイミング良すぎない?それにいくら仲間とはいえ、女子高生強姦させるのにそこまで手貸すかな?」

「あ、それ私も思った。それに見た感じ、北の連中の仲間ってよりは、上司って感じだったなぁ。族の仲間かと思ったけど違うのかも」

 紅茶で口を湿らせて、鯨波は思い出すように天井を見上げた。

「ワタシはこのようなことに詳しくありませんが、先程上枝サンが言っていた、傘下にしてる組織の方々、ではないのデスカ?舎弟の敵である冬青サンを警戒してた、とカ?」

「たしかにそれが濃厚だけど………子分の私欲満たしてやるのにそこまでするかなぁ?」

 アイラの予想に爐は首を傾げた。みんなが眉を顰めて頭を捻る。

 やってる事とやってる組織の規模がどうにも噛み合わない。みんなが黙って考えていると………

 

 

「彼らが女子高生を狙っていた理由は強姦ではない」

 

 

 静かになった空間を破った声に、みんなが視線を向けた。

 声の主はいつの間にか読書を再開していた朧だ。

「朧、どういうことだ?」

 顔を上げた冬青が短く質問する。朧は本に視線を向けたまま口を開いた。

「冬青さん。あなたがこれまで北高の人達を倒した時、彼らはいつも女性を襲ってたのではないですか?」

「おぅ、だったら何だ?クソ共が女襲ってるってだけだろ?」

「相当の色物好き、という可能性も無きにしもあらずですが、別の目的があって襲ってるとしたら?」

「カツアゲとか?」

「もっと大きな事ですよ。その助太刀に来た組織ですが、おそらく浅葱(あさつき)組では無いかと」

「えっと………名前から察するに、ヤクザ?」

「えぇ、彼らのシノギの一つが売春の斡旋なんですがね。勢いが増した時期と、北高の人達が女性を襲い始めた時期がピッタリ一致するんですよね」

「アンタ相変わらずそういうこと詳しいわねぇ。さすが組長の息子」

「単なる趣味ですよ」

 茶化すように笑う上枝に朧が肩をすくめた。

 しかしここまで言われれば、何となくみんな察しはついた。

「もしかして、襲った子達を売り飛ばしてる、とか?」

「可能性としてはあり得ます。まぁ暴力でなくても騙したり脅したりとかして、売春してるのでは、と。それなら高校生の方が向いてます」

 暴力だけならともかく、騙したりする場合は見知らぬ大人がするよりも、歳の近い高校生がやった方が明らかにやりやすいだろう。

 合コンなり何なりで知り合いになって、仕事紹介するなんて言えば信じる人は信じそうだ。

「つまりその浅葱組ってのが、舎弟の北高のゴミ虫野郎共に女を攫わせてるって事かよ」

「おそらく。それを邪魔したんです。彼らからしたらあなたは商売の邪魔、組織が手を貸してもおかしくないでしょう?」

「たしかに、そうデスネ………酷いデス………」

 予想以上に大きな話となり、全員が俯いた。アイラなど今にも泣いてしまいそうだ。

 しかし冬青はすぐさまに立ち上がった。首を回して骨を鳴らす。

「そんなら話は早ぇ。二度とンな馬鹿なマネしねぇように、俺がその浅葱組もまとめてぶっ潰してやんよ!」

「ぶっ潰すって………具体的にどうすんの?相手ヤクザなんだよ?私達でどうにかなる問題じゃないって」

 鯨波の問いに冬青は躊躇う事なく爐と朧の方を向いた。

「おい、朧、爐。テメェら何か作戦出せや」

「えぇ〜?何で私達が?」

「小狡い知恵絞り出せんのがテメェらの取り柄だろうが。俺一人で無理ってんなら、少しはそのオツム回して考えろや」

「無茶苦茶言いますねぇ。大体、毎回毎回あなたのケンカに加担して連枷(からさお)さんに怒られるのは嫌なんですよ」

 心底嫌そうに朧は首を振った。

 そもそも戦力差から考えて勝率は低く、たとえ勝っても面倒事がついてくる。そんなの朧はゴメンだった。

「あぁ?んじゃあバレねぇような作戦考えりゃいいだけだろ」

「嫌ですよ、めんどくさい。被害者の女子生徒が保護されたなら警察が動きます。それならあとは彼らに任せればいいでしょう?」

「そのサツがまともに機能してねぇからこのザマなんだろうが!あのウジ虫共が跳ね回ってんのは昨日今日の話じゃねぇんだぞ!」

「そうだよね。やっぱ、私達で何とかするべきじゃない?」

「ホラホラ、いつもみたいに面白い作戦考えてよ!」

「そうは言われましてもねぇ………」

 これからどうなるのか大方予想のついている朧は、明らかに乗り気では無い。

「あ、あの、朧サン!私からもお願いしマス!私も出来ることなら何でもしますから!」

「いや、アイラ?いつも言っていますが、あなたは留学生なんですよ?下手に問題を起こせば強制送還の可能性もあるんですから、こういうことには首を突っ込まないで………」

「でも!こんなこと、黙って見てるなんて………」

 アイラの真っ直ぐな瞳に、朧は耐えられないとばかりに目を逸らした。自然と隣にいる爐に助けを求めるようになってしまう。しかし………

「朧、こうなったらもう、やるしかないんじゃない?」

 すっかり諦めた様子の爐が口元を引き攣らせる。

 冬青はもちろん、アイラも上枝も鯨波も、やる気は充分なようだ。ここで下手に反抗しても無駄なのは、これまでで嫌と言うほど学習している。

 全体を見渡してから、朧と爐は顔を見合わせて深くため息をついた。パタンと本を閉じる。

「はぁ………………冬青さん、これまでの一連の事件の詳細、全部話してください」




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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