※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第230話 おまけ⑤

「こんちわーす」

「おぉ、お前らか」

 薄暗いビルの一室の奥。扉を開けて入ってきたチャラそうな高校生に、部屋の中でタバコを吸っていたガラの悪い男が目を向けた。

 高校生の制服は北高のもので、後ろには同じ制服を着た仲間が何人もいる。

「良さそうな女が四人手に入ったんで売りにきました」

「ほぉ、四人か。どんなヤツらだ?」

「そこに運んできたんで確認してください」

 男は立ち上がると扉を出て別の部屋へと移った。

 そこには腕を縛られている冬青、鯨波、上枝、爐、朧、アイラの六人がいる。

「へぇ、外人もいんのか。中々いい女共じゃねぇか、こりゃ高く売れるな。やっぱ女集めんのをお前らに任せて正解だぜ」

 上機嫌で鯨波達を眺めていた男だったが、朧や冬青を見るなり顔を顰めた。

「おい、何で男がいるんだよ。売るのは女だけつってんだろ。こんなヤツら買わねぇぞ」

「その女共のツレだったんすよ。それにホラ、この男知ってるでしょう?」

「ぐっ………!」

 高校生はヘラヘラ笑って、ボロボロの冬青の髪を掴むと上を向かせた。

「あ?コイツ………さっきボコしたヤツじゃねぇか」

「女共捕まえようとしたら抵抗してきたんで、俺らでノしておきました」

「なるほどな。あんだけボコられたってのに、俺らに敵対したらどうなるか、まだ学んでねぇみたいだな」

 男は血塗れになっている冬青の腹を思いっきり踏みつけた。

「ぐっ!ぐあぁぁッ‼︎」

「へっ!毎回毎回俺らのシノギの邪魔しやがって!オラッ!ガキがでしゃばったマネしたらどうなるか、後でよく分からせてやるよ」

 苦痛に叫ぶ冬青を蹴り飛ばすと、男は高校生に指示を出す。

「ソイツら全員、いつもの所に放り込んでおけ。今回は特別に男共も俺らで処分してやんよ」

「あざっす!」

 高校生は頭を下げると、仲間と一緒に冬青達を部屋の奥にある監禁部屋に閉じ込めた。

 そこには冬青達以外にも、捕まえられたであろう十代の女子達がたくさんいた。みんなが手を縛られて絶望に俯いている。

「オラよ!俺らに反抗したらどうなるか、そこでじっくり反省してろ!」

 扉に鍵をかけられて、冬青達は完全に閉じ込められてしまった。

 高校生達の足音が遠ざかっていくを確認すると、六人は揃って息を吐いた。

「ふぅ………何とか上手くいった、かな?」

「だね。それにしても、思った以上にしっかりした所だよね。こんなビルの中に監禁していたとは」

「ヤクザとか半グレの潜伏場所なんてそんなものですよ。それにしても空気の悪い所ですね」

「うぅ〜、せめてここ以外は換気して欲しいなぁ。タバコの煙で気分悪いぃ」

「で、デスネ………それよりも、冬青サン、大丈夫ですか?せっかく手当てしたのニ」

「ぐっ………ど、どうってことねぇよ。あのクソ野郎共、ぜってぇ俺がブチのめしてやる」

 これまで捕まった人達とは明らかに違う六人に、先に捕まっていた少女達は眉を顰めた。

「さてと、あんまり遅いと夕ご飯の時間に遅れそうだし、さっさとやっちゃおうよ」

「そうして。本当なここ空気悪い。朧、早くして」

「分かりましたよ」

 朧は正座をすると後ろで縛られた手を動かして、右足の靴底を後ろに引っ張った。

 すると靴底はスライドして靴から取り外された。

 靴底の中はケースになっていて、蓋のされた小さなスポイトが入っている。スポイトの中身は液体で満たされていた。

 その蓋を手探りで外すと、朧は身を捩らせて自分の腕を縛るロープにスポイトの中身を少しずつ垂らしていく。

 その瞬間、液体のかかったロープがたちまち煙を上げて黒くなっていった。そこからロープがボロボロになり、軽く腕を捻れば簡単にロープが千切れる。

「おっとっと………これでよし、っと。あぁ、痛かった」

「おーい、早くこっちもやってって」

「はいはい」

 自由になった朧は残り五人の腕を縛るロープにも液体を垂らしていく。同じようにロープが黒くなり簡単に千切れた。

 それを見て少女達を目を見開く。

「一家に一瓶、硫酸は必需品ですね。アイラ、大丈夫ですか?」

「ハイ、ありがとうございマス」

「う〜ん、身体バッキバキだなぁ。やっぱり同じ体勢って良くないね」

「無駄口叩いてんじゃねぇ。とっととここ出んぞ。こっからは何してもいいんだろ?」

「そうだね。私達は悪者に捕まった被害者、外部との連絡も取れないわけだし。それなら脱出のために多少問題は起こしても大丈夫でしょ」

「ったく、わざとアイツらに負けて捕まるとか、めんどくせぇことさせやがって」

「こうしないと後々面倒になるんだから文句言わない!それに正面突破よりも、内部から攻撃した方が楽でしょ?ほら、さっさと行くよ」

「でもこの扉、結構分厚いデスネ。朧サン、何とかできマスカ?」

「たぶんできますよ。えっと、ダクトダクト………あ、あった。鯨波さん、お願いします」

 朧は天井にダクトを見つけると、鯨波の方を向いた。

「りょーかい、っと!」

 鯨波は軽く助走をつけてピョンッと飛び上がった。元々ダクトまでの高さが低く、なおかつ運動神経の良い鯨波は簡単にダクトにしがみつけた。

 軽く引っ張るとダクトが開き、そこから大きな黒いリュックが落ちてくる。朧はそれをキャッチする。

「よっと。やはり物を隠すのにダクトは最適ですね。このリュックは必要ですから」

「その隠したのは私ってこと忘れないでよね?まったく、か弱い乙女をこんなビルのダクトに突っ込むなんて」

「上枝さんは周りをよく見てるので、隠密行動に最適なんですよ。っと、これこれ」

 朧はリュックの中から放射状の形をした機械を三つ取り出した。それを扉のヒンジの部分と鍵の部分に押しつけると、機械は扉に貼りついた。

「え、あ、あの………あなた達、何してるんですか?」

 状況に追いつけていない少女達の一人が冬青達に尋ねた。アイラがしゃがんで微笑んだ。

「ワタシ達はあなた達を助けに来たんデス。朧サン、この人達も解放しないト」

「ん?あぁ、すっかり忘れてました。予備の硫酸がリュックに………あぁ、ありました」

 朧はリュックから硫酸の小瓶を取り出すと、彼女達のロープも炭化させて解放してやる。

 さらに彼がリュックから取り出したのはチェーンとメリケンサック、スリングショットだ。

「鯨波さん、上枝さん、爐さん、使いますか?」

「一応貰っとく。冬青はどうすんの?」

「あ?んなモンいらねぇよ。拳一つで充分だっての」

「相変わらずねぇ」

 フッと笑って鯨波はメリケンサックを、上枝はチェーンを、爐はスリングショットを受け取った。最後に朧が取り出したのはポンプ式のボウガンだ。連射が可能で、下のポンプをスライドすると矢が装填される。

「毎回思うけど、朧っていつも物騒な物持ち歩いてるよねぇ」

「その物騒な物が必要とされてる現状の方がよっぽど物騒ですよ。そんな事言ってないで、爐さんは逃げ道の把握してください。経路を考えたのはあなたなんですから」

「分かってるって〜。アイラ、この人達の誘導お願いねぇ。怪我してる子もいるみたいだから気をつけて」

「ハイ、お任せください!皆サン、ワタシ達についてきてくださいネ」

「は、はぁ………」

 少女達は訳がわからないままだが、ここまできたら従う以外になかった。

「それじゃあ、いきますよ。皆さん、壁際に避けてください」

 朧の指示でみんなが壁際に立った。彼の手には小さなスイッチがある。

「3、2、1、っと!」

 朧がスイッチを押すと、バシュンッ!と小さな破裂音が鳴り響いた。少しの間の後に、しっかりと設置されていたはずの扉が、ギィッと軋んで倒れる。

 目の前には念のための見張りとして叩かれている男が一人いた。いきなり扉が倒れて飛び上がる。

「なぁッ⁉︎お、お前ら何して…」

「オラァッ!」

「ふぎゃあぁぁッ⁉︎」

 地面を蹴り飛ばして踏み込んだ冬青の拳が、一瞬のうちに男の顔面にめり込んだ。男は断末魔と共に鼻血を出して倒れる。

「冬青、あんま動くと傷に響くわよ。それにしても朧の作ったこの装置、すごいわね」

「扉を爆薬で吹き飛ばすためだけの装置ですけどね。特殊部隊の突入作戦とかで使われるのを真似したんです」

 とりあえず部屋から出れて安心したのも束の間、今の騒ぎを聞きつけて人がやってくる音がする。

「おっと、早く逃げないとだね。冬青、鯨波、上枝、ここは任せたよ」

「あいよ。爐達は早くその人達逃しな」

「ハイ!行きましょう!」

「うん。みんなこっちに来て!」

 爐の扇動で朧とアイラ、そして捕まっていた少女達は非常口へと向かった。それと入れ替わるようにヤクザやチンピラがやってくる。

「んだよコレ………」

「チッ!オイ!絶対女共を逃すんじゃねぇぞ‼︎」

「は、はい!ぐはあぁぁッ‼︎」

 北高の男の一人が爐達を追いかけようとしたが、その前に冬青の拳が男を横に吹き飛ばした。

「おい、どこ行こうってんだ?散々ボコしてくれたクソ野郎共、今さら逃すわけねぇだろ」

 冬青は拳の骨を鳴らして身構えた。鯨波と上枝も並んで武器を装着する。

「いくぜ!鯨波、上枝‼︎」

「はいよ!」

「もちろん!」

 

 

「いたぞ!追え!」

「絶対逃すな!」

 冬青達と別れた爐達は捕まっていた人達を連れて、ビルの中を駆け回っていた。

「あ、アノ!スゴイ数の人が追いかけて来てるんデスガ!ハァ、ハァ………冬青サン達が相手してる人より、多くないデスカ⁉︎」

「はぁっ、はぁっ………そりゃあ彼らの収入源奪ってるんだし、当たり前だよ!えっと………こっち!」

 爐は周りを見渡してみんなを誘導する。

 着実に逃げれてはいるものの、彼らの潜伏してるオフィスが5階にあるため、逃げるのにも一苦労だ。

「はぁっ、くっ!ふぅ………み、みんな待ってくださいよ」

 朧はみんなの後ろを走っていて、追いつきそうなチンピラの脚をボウガンで撃ち抜いた。チンピラが断末魔と共に崩れ落ちる。

 さらに扉を閉めて制服のポケットから感電装置を取り出すと、それをドアノブに取り付けた。追いかけてきたチンピラはそれを知らずにドアノブに触れて感電する。

「朧急いで!朧がやられたら私達終わるから!」

 事務所に残っているヤクザを潰すという意味で、武闘派の冬青と鯨波、上枝を残してきたが、そうなると残るのは比較的体力が低い三人だ。

 所々で隠れてやりすごしたり、朧の持ってきた装置や薬品を使ったりして何とかなってるものの、三人とも息を切らしている。

 爐は前方にいる敵をスリングショットで倒しながら道案内。朧のリュックはアイラが背負っていて、朧は攻撃に専念している。

「ここ出れば出口までは真っ直ぐだよ!」

 しかし出口までもう少しというところで、爐達の目の前に何人ものヤクザが集まってきた。

「オイ、どこ行こうってんだ?」

「随分と好き勝手なことしてくれたじゃねぇか。覚悟はできてんだろうな!」

 明らかな人数差に爐達はたじろいだ。ヤクザ達がジリジリと迫ってくる。

「へっへっへ!女共は商品だから大切に扱うが、男のテメェは無事で済むと思うな…」

「ヤアァァ─────────ッ‼︎」

 ヤクザの言葉を遮って、アイラが叫んで手を伸ばした。その手にはリュックの中から取り出された小瓶がある。

 アイラはその中身をヤクザ達にぶち撒けた。

「ぐあッ⁉︎な、何だ、これッ、ぎゃあぁぁぁッ‼︎」

「あ゛ぁぁぁッ‼︎か、身体がぁッ、熱いぃぃッ‼︎」

 するとヤクザ達は液体のかかったところを押さえて苦痛に悶えた。よく目を凝らすと液体のかかったところの皮膚が爛れているように見えている。

 朧の持ち歩いている薬品は濃度が高いため、こうなることも珍しくはない。

「アイラ?何の薬品使いましたか?」

「え?あ、わ、分からないデス。漢字読むのニガテなので。カタカナで『ナトリウム』と書いてあったので、塩化ナトリウム、塩水かと思ったんデスガ………」

 朧はアイラから瓶の蓋を受け取った。書いてあるラベルを見る。

『水酸化ナトリウム』

「あぁ………」

「えっと………ワタシ、何使ったんデスカ?」

「いや、うん、塩化ナトリウム水溶液だよ。この人達の反応がオーバーなだけ」

「ぐはぁッ!」

 朧は適当に誤魔化すと、身体を起こして反撃しようとしたヤクザの脚をボウガンで貫いた。

「それじゃあみんな、この通り右に曲がれば警察署だから。そこにいる人にこれまでの事話してね」

「は、はい。ありがとうございました!」

 ビルの外に出ると、捕まっていた少女達は爐達に礼を言って警察署へと走っていった。それを見送り、爐はビルを見上げる。

「さてと。それじゃあ、ラストスパートといこうか」

 

 

 

「吹っ飛べやぁッ‼︎」

「ぷぎゃあぁッ‼︎」

 ビルの中では冬青達三人が、ヤクザやチンピラ達相手に圧倒的な強さを見せていた。

「よっ!」「はぁっ!」

「ごへぇッ!」

 上枝はチェーンを鞭のようにしならせて、ヤクザの顔を二人まとめて引っ叩いた。そしてメリケンサックを装備した鯨波の拳がトドメを刺す。

「オラァッ!逃げてんじゃねぇぞ!」

「ぐふぅッ!」

 冬青に至っては一人で何人も殴り飛ばしている。

 絶望的な人数差をものともせずに、床には死屍累々とヤクザ達が倒れている。

「チッ!雑魚ばっかじゃねぇか!おい!コイツらのボスはどこだ⁉︎」

「爐の予想だと、この奥だって」

 そう言って鯨波が奥の部屋の扉を見ると、煌びやかな服を着たボスらしき人が、二人の部下に守られて逃げようとしていた。

「アイツら、逃げるつもりみたい!」

「このッ!逃すかよ‼︎」

 冬青は全員を殴り飛ばしてボスを追いかけた。鯨波と上枝もその後を追う。

 このままでは追いつかれると思ったのか、ボスは立ち止まって懐から銃を引き抜いた。

「このガキが!舐めたマネしやがって‼︎」

「ッ⁉︎」

 いくら冬青達とはいえ、銃相手に渡り合える術は持っていない。

 ボスが引き金に指をかけて引こうとした瞬間、彼らの背後で大きな爆発音がした。

「ぐっ!な、何だ⁉︎」

 その衝撃でよろめきながらも振り向くと、背後の床には真っ黒な焦げ目がついていた。

 その先には先に紐のついた丸いものをお手玉のように回している朧と、後ろから追いついた爐とアイラがいる。

「う、うわぁ、すごい音デスネ」

「遊びで作った小型焙烙火矢、試すにはちょうどいいタイミングでしたね」

「さぁ、年貢の納め時だよ」

 爐の言葉を合図に、冬青達は大きく踏み込んで一気にボス達と距離を縮める。

 ボスやその部下達がそれに気がついた時には、自分達の視界は冬青達の拳で埋まっていた。

「「「ゲス野郎共、終わりだぁッ‼︎」」」

 三人の声と拳の音が重なり、空虚なビルの一室に響く。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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