※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第231話 おまけ⑥

 こうして浅葱組は壊滅、組員や子分のチンピラや北高の学生達も逮捕された。囚われていた人達は無事に解放されて警察に保護されたそうだ。

 そして浅葱組を壊滅させた冬青達六人はというと………

 

 

「それじゃあ、お前達はたまたま捕まっただけなんだな?」

「はい、そうです」

 近所の警察署の一室、そこには冬青達六人と一人の警察官が座っている。いわゆる事情聴取だ。

 六人にはお茶が出されていて、警察官が事情聴取をしているところだ。警察官の問いに朧が読書をしながら頷く。

 警察官はうんざりとした表情で続ける。

「………お前達は六人でいたところ、たまたま北高の連中に襲われた。抵抗したものの全員がやられて捕まった。それから六人で力を合わせて脱出、結果として浅葱組を壊滅させることになった、と?」

「はい」

「逃げることも通報することもできずに捕まったと?」

「はい」

「つい最近冬青が喧嘩した北高の連中と、彼らがつるんでる浅葱組に捕まったのはたまたま、なんだな?」

「はい」

「ヤクザを壊滅させたのも、計画したことではなくその場での成り行きだと?」

「はい」

「決してお前達から進んで喧嘩をふっかけたわけではないと?」

「はい」

「君達は完全な被害者だと?」

「はい」

 堂々と頷く朧の返事を聞いて、警察官は落ち着くようにゆっくりと息を吐いた。

 その様子を見て六人は安心したように顔を見合わせて………

 

 

「そんな嘘通じると思ってんのかあぁぁぁ───────ッッッ‼︎」

 

 

 バンッと机を叩いて立ち上がった警察官が大声を上げた。。六人はビクッとして顔を顰める。

「そんな都合よくヤクザが壊滅させられてたまるか‼︎それにいつもいつも喧嘩ばっかしてるお前らが六人いて、あんなチンピラに逃げる間も無く捕まるわけないだろ‼︎」

 マシンガンのように怒鳴り散らす警察官に、冬青が立ち上がって言い返す。

「おい、勝手な言いがかりつけてんじゃねぇよ‼︎突入したサツから事情聞いてねぇのかよ!」

「聞いたからおかしいって言ってんだろうが!」

 掴みかかろうとする冬青を警察官が取り押さえた。

「ッ⁉︎この、おいやめろよ!テメェ、サツが怪我人に手出すのかよ!」

「手出されたくなかったら素直に話せ!ぐっ!コイツ、襟掴むな!」

 もはや日常茶飯事とまで言える光景に座っている五人はため息をついた。

「はいはいはい、ストップストップ!」

「冬青サンも連枷(からさお)サンも落ち着いてクダサイ!」

 ヒートアップしてきた二人を鯨波とアイラが引き剥がした。それでも二人は睨み合う。

 六人の取り調べをしている警察官・連枷(からさお) 扁螺(きさご)は、椅子に座り直して話を続ける。

 三十代前半の彼はいつものことように呆れている。

「ふぅ………それで、本当は何があったんだ?」

「だから、今言った通りですって。僕達は捕まって、命からがら逃げ出したんです。それとも、それが嘘だって証拠はあるんですか?」

 上枝の質問に扁螺は朧をジロッと睨んだ。睨まれた本人は気にも止めずに本に目線を落としている。

「ビルの下の階にいた連中、ほとんどがクロスボウでやられてたが?」

「僕が日常的にクロスボウ持ち歩いているのは知ってるでしょう?別に今法で規制されてるわけではありませんし、今回も持ってただけです。その他の薬品とかもね」

「その薬品だの火薬だのに関しては、一応法で規制されてるんだがな」

「その規制されてるもののおかげで助かったんですから、そこは不問にしてくださいよ」

「分かったから、とりあえず本から顔を上げろ」

 扁螺の注意も無視して朧は読書を続ける。

「とにかく、私達は今回は完全な被害者だし、やった事も正当防衛の範囲内でしょ?早く帰らせてくれません?もうクタクタ〜」

「おぉ、そうだ!とっとと帰らせろポリ公!」

 爐に同調した冬青の暴言に扁螺の額に青筋が走った。

「あぁ、そうか、分かったよ。要はお前らあの程度のヤツらにボコボコにやられて、何も出来ずに捕まったってことでいいな?」

 あまりにもわかりやすい挑発だが、それに反応したの冬青だった。

 

 

「あ゛ぁ⁉︎んなわけねぇだろ‼︎あんなクソ共俺一人でブチのめせたっての!朧に言われたから仕方なくやられたフリしてやっただけだ‼︎」

 

 

『あっ………』

 五人が止める間もなかった。立ち上がった冬青があっさりと挑発に引っかかり怒鳴った。

 冬青も少ししてから自分のしてしまったことに気がついた。

「………と、彼は言ってるけど?」

 再び睨まれて、さすがに朧も本から顔を上げざるを得なくなる。みんなはそっと扁螺から目を逸らす。

「はぁ………指示を仰ぐなら、思い通りに動いてくださいよ」

「ぐっ!この汚ぇぞ!」

「これが仕事なんだよ。まったく………お前達はいつもいつもいつも問題ばかり起こしやがって」

 喚く冬青を受け流して扁螺は額に手を当てた。

「お前達は少しは大人しくするってことが出来ないのか?何か問題を見つけたら俺たち警察に知らせろ、っていつも言ってるよな?」

「そもそもよぉ、テメェらサツがマトモに機能してねぇから、俺らが代わりに街のゴミ共一掃してやってんだろうが。いい加減感謝状の一枚くれてもバチは当たんねぇぞ」

「やり方が問題だつってんだよ!お前らのやり方はやりすぎなんだ!」

「何よ、別に悪いことばっかじゃないでしょ?ヤクザを潰したんだし、そっちの仕事が減ったと思えば………」

「事後処理の面倒考えたら、むしろ仕事量は増えてるんだ!」

 いよいよ限界になってきたのか、あっけらかんと言う鯨波に扁螺が怒鳴り返す。アイラが間に入ってそれを諌める。

「まぁまぁ、よかったらお茶飲まれマスカ?私淹れマスヨ」

「あ、それじゃあ僕もお茶おかわりお願いできますか?」

「私も。今日暑いから喉乾いた〜」

「コラコラ、鯨波。スカートバサバサしないの」

「俺もおかわり頼むぜ。つーか、他につまむモンねぇのかよ。茶ばっかじゃ腹溜まんねぇぞ」

「今日はお菓子は………持っていませんネ」

「だと思って、ほら。家にあったクッキー持って来てあるよ」

「おっ!上枝ナイス!私貰お」

「俺は三個もらうぜ!」

「ちょっと冬青!六つしかないから一人一つ」

「僕チョコチップがいいんですけど………一つありますね」

「あ〜、朧!私もチョコチップがいいんだけど」

「私バタークッキーにしよっと。アイラもそれでいい?」

「ハイ。それじゃあお茶は七人分でいいデスカ?連枷サン、お茶淹れますから急須おかりしマスネ」

「いらんわ‼︎というか補導した学生にお茶淹れられる警察官がどこにいるんだ!とりあえず全員座れ‼︎」

 マイペースすぎる六人に扁螺が大声をあげた。取調室の外にまで響く声をあげてから、くたびれて座る。

「お前なぁ………毎回毎回補導されて、やってる内容関係なくいい加減に学校で処罰されるぞ?特に冬青なんか喧嘩ばっかしてるんだから………」

「グチグチうるせぇなぁ。つーか朧、それ俺の湯呑みだぞ。お前のはこの上の方にヒビ入ってんのだろ」

「あ、本当ですね。これは失礼」

「お前ら専用の湯呑みなんざここには無い‼︎」

「んだよ、週三くらいで使ってんだから実質俺ら専用のモンだろ?他に使ってるヤツ見たことねぇぞ」

「それだけお前らがここに来てるって意味なんだから、悪びれもなく言うな!」

「まーまー、そんなにカリカリしないの。ハゲるよ?」

「お前らの起こす問題のストレスで既にハゲそうだよ………」

 扁螺は深くため息をついて俯いた。

 冬青達が今回のレベルの騒動を起こしたのは、何も今回が初めてじゃない。それどころか結構な頻度で起こしている。

 その度に扁螺に補導されては警察署で叱られる日々。六人はすっかりこの流れに慣れてしまっている。

 本来なら一人一人やるはずの事情聴取を六人まとめてやるのも、お茶を出しているのも、これまで何度も何度も補導されたことにより、真面目にやるのが馬鹿らしくなった扁螺がやってることだ。

 やってることは実質犯罪者の退治だし、面倒事にならないように計画(主に朧と爐が)しているので、扁螺も表立って強く罰せられない。

「いつもお疲れ様デス。お茶どうぞ」

「結局淹れてくれたのか………まぁ、ありがたく飲ませてもらうよ」

 アイラの淹れてくれたお茶を飲んで多少落ち着いたのか、カップを置いて扁螺は一息ついた。

「ふぅ………喧嘩ばっかりしてた冬青達が爐達とつるむことになったって知った時は、これで多少コイツらも大人しくなると思ったんだがなぁ」

 かつて日常的に喧嘩をしていた冬青や鯨波、上枝。

 そんな彼らに大人しめで争いを好まない爐や朧、アイラが加わり、扁螺は彼らが冬青達を止めてくれると思っていた。

 しかしその予想は大きく外れ、むしろ余計な知恵と武器が身についた彼らの喧嘩は、今やこのレベルにまでなってしまった。

「揉め事は嫌というか………やる時は徹底的にやる、そうじゃないなら争いはしないってだけです」

「メリハリって大事だよねぇ」

「喧嘩のメリハリなんかいらんわ!というか、朧と爐はともかく、アイラは確実に止めてくれると思ってたんだけどな」

「ワタシ達の住む街が少しでも良くなるなら、ぜひお手伝いしたいんデス!」

「いや………たしかに良くはなってるけどさぁ………」

 明るく無邪気に笑うアイラに扁螺はげんなりする。

 アイラ達が今回のような問題を起こすのは、不良や犯罪者によって第三者が被害を被ってる時ばかりだ。

 だからたしかに町の治安が良くはなっている。とはいえやってることがやってることだ。完全に肯定はできない。

「はぁ………今はプライベートでも大切な時期なんだし、頼むから問題起こさないでくれよ」

「あぁ、そろそろ子供生まれるんだっけ?」

「早いよねぇ。結婚したのがつい昨日のことのように感じるもん」

 扁螺がよく通っている喫茶店『Cafe Red Poppy』の店員である長閑(のどか)と結婚して数ヶ月。二人の間に子供ができて、いつ産まれてもおかしくない状態だ。

「『Cafe Red Poppy』で長閑にだらしなく鼻の下伸ばしてた扁螺が、今や父親かぁ。すげぇ奇跡もあったモンだよな」

「えぇ、その奇跡がいつまで続くか見ものですね」

「よし、冬青と朧は腕を出せ。ワッパかけてブタ箱にブチ込んでやる」

 こういう自分の意見を遠慮なく言ってしまうところが、この二人の共通点で一緒にいれてる理由なのかもしれない。

「もう産休取ってるんでしょ?」

「もちろん。というか、龗さんのところも二人目の子供が産まれそうだって言うし、店そのものが休みになるかもな」

「あぁ、そういえば言ってましたネ。どんな子供が産まれるか楽しみデス!」

 冬青達にとっても『Cafe Red Poppy』は大切な喫茶店だ。

 地上げ屋とつるんでいたチンピラがお店に絡んだ時に、六人でその地上げ屋ごと潰したことがあった。

 それ以降何もない時はそこでコーヒーを飲むことが多い。当然経営している雛罌粟 健御(たけみ)と雛罌粟 龗にも顔が覚えられている。

「男の子だっけ?元気な子が産まれるといいねぇ」

「親父に似ためんどくせぇガキにならなきゃいいがな」

「あぁ、子供でそれは嫌ですね」

「冬青みたいな単細胞だの朧みたいな根暗だのよかよっぽどマシだろ」

 そんな事を話していると外はすっかり陽が傾いていた。眩しい夕日が窓に差し込む。

「さてと、茶も飲み終わったしそろそろ帰ろうぜ」

「そうだね。それじゃあ扁螺さん、またね」

「またね、じゃねぇよ!話は終わってないし、勝手に帰せるわけないだろ!」

「いいじゃん、いつものことなんだしさ」

「いつものことだから帰すわけにいかないんだよ!これから問題起こさないって約束しろ」

「はぁ?んだよそれ。めんどくせぇな」

「お前達の問題を一々片付けるのもめんどくさいんだよ」

「それがテメェの仕事だろうが。仕事サボろうとするんじゃねぇよ」

「学生の本分である勉強サボってるバカに言われたくないわ」

「テメェ今バカつったな。バカつったなこの野郎!」

「本当のことだろ。殴り合いでしか問題解決できないヤツをバカって言って何が悪いんだよ」

「もっぺん言ってみろ!ガキの顔見る前にあの世に送ってやんよ‼︎」

「はいはいそこまで〜」

 再び掴み合いになりそうになった二人の間に爐が割って入る。

「冬青。良かれと思ってやっても、起こした問題はどこかに皺寄せがいくの。それで町の人の迷惑かけたら嫌でしょ?」

「ぐっ………それは、そうだけど………」

「扁螺さんも冬青相手にムキになんないの。冬青に喧嘩するな、なんてペンギンに空飛べって言ってるようなものだよ?成長の過程で平和的解決って概念を無くしたんだよ」

「なるほど。そう言われたら無理な注文だった気もするな………」

「爐、テメェふざけんじゃねぇぞ!」

「とーにーかーく!誰かとっちめるにしても、やり方考えろってことでしょ?警察の人の迷惑にならないようにすればいい、そうでしょ?」

 カオスとなってきたその場を上枝が手を叩いてまとめた。こういう場をまとめるのは上枝の得意分野だ。

「たしかニ、人のためにしたことで人に迷惑かけては意味ないデスヨネ」

「そういうこと。冬青、普通の喧嘩レベルだったら警察もとやかく言わないから、いいね?」

「チッ………わぁったよ。ったく、昔はグダグダうるさくなかったってのに」

「冬青さん、話が長引くので余計な言い訳しないでくださいよ」

「朧!アンタも反省しな!百歩譲ってボウガンはともかく、爆薬なんか使ったから大ごとになるの分かってたでしょ⁉︎」

「効率的な殲滅方法と成功率の計算の結果なんですがねぇ」

「その考え方をやめろって言ってんの」

「おぅっ!」

 鯨波のチョップを頭に食らって、読書をしていた朧は飛び上がった。

「扁螺さんも、それならいいでしょう?」

「まぁ、お前らにとってはそれが最適解なのかもな。今回はそれで良しにしてやるよ」

 諦めたように笑って立ち上がると、扁螺は机の端に置いてあった紙を手に取った。それを冬青達に差し出す。

「ほらよ」

「あぁ?んだよこれ?」

「えっと………か、カンシャケン?」

「アイラ、たしかに漢字のつくりと同じ読み方の漢字があると教えましたが、これは違いますよ。感謝状(かんしゃじょう)って読むんです」

 扁螺の差し出してきた感謝状には、冬青達六人の名前がくっきりと書いてあった。

「どういうつもりだ?」

「『いい加減感謝状の一枚くれてもバチは当たんねぇぞ』って言ったのはお前だろ?事後処理の迷惑はかけられたが、町の平和に貢献してくれたんだ。ちゃんと礼はしないとな」

 そう言って扁螺は居住まいを正す。

「感謝状。虚宿 冬青殿、流鏑馬 鯨波殿、顋門 上枝殿、廂間 爐殿、牛尾菜 朧殿、アイラ・ローズ・ガルシア殿。あなた方は犯罪者を捕縛、さらに暴力団を壊滅させ、町の治安の維持に大きく貢献しました。ここに深く感謝の意を表します」

 噛み締めるようにじっくりと言葉を紡ぎ、扁螺は六人に感謝状を手渡した。

 冬青達は顔を見合わせて笑った。

「おぅ、感謝しろよ」

 代表して冬青が感謝状を受け取り扁螺と笑い合う。

「よし!それならさ、せっかく賞状貰ったんだし、写真でも撮ろうよ!」

「おっ、いいねぇ。扁螺さんデジカメとか持ってない?」

「そう言うと思って持ってきてあるよ。ほら、並びな」

 扁螺がポケットからデジカメを取り出して起動させる。

「ほら、冬青真ん中に来なって。アイラと朧も」

「ハイ!朧サンも来てクダサイ」

「おい朧、こんな時くらい本から顔上げろっての!」

「ちょ、分かりましたから、栞だけ挟ませてくださいよ」

 冬青を中心に六人がカメラの前へと並んだ。扁螺が六人をカメラの中に収める。

「それじゃあ撮るぞ。はい、チーズ」

 シャッターが切られてフラッシュが焚かれる。撮った写真を確認して、扁螺はフッと笑う。

「明後日くらいにプリントしてくれてやるよ」

「ありがとうございます。それじゃあそろそろ帰ろっか」

 鯨波がそう言って荷物を持ち上げたタイミングで、部屋の中に携帯の着信音が響いた。

「ん?俺の携帯か、ちょっと失礼」

 自分の携帯が鳴っていることに気がついた扁螺が電話に出る。

「もしもし………あぁ、龗さん、こんにちは。はい、はい………えぇぇぇッ⁉︎」

 扁螺が今日一の大声をあげて、みんながビクッと跳ね上がる。

「はい、はい、分かりました、よろしくお願いします!」

 慌てた様子で電話を切った扁螺にみんなが首を傾げる。

「どうかしたんですか?」

 携帯のアンテナを縮めると、震えながら冬青達の方を振り向いた。

「………う、産まれる」

「は?何がだ?」

 

 

「こ、子供………俺の子供が、産まれる」

 

 

『………えぇぇぇぇ──────ッッッ⁉︎』

 いきなりすぎる報告に全員がフリーズして数秒後に、ハモって声をあげた。

「ま、マジで⁉︎」

「今さっき陣痛が始まったって。龗さんが家に遊びに来てたから、急いで救急車呼んで付き添ってくれてるって」

「い、急いで行かないと!」

「病院に?扁螺さんの家に?」

「救急車に搬送される速さとここからの病院までの距離を考えると………病院に行った方がいいですね」

「それなら今すぐ行かないト!」

「あぁ………けど、今仕事中………」

「馬鹿野郎‼︎家族のこと優先して怒られるような職場なら、んなとことっととやめちまえ‼︎」

「後で報告すれば大丈夫だって!」

「そ、そうだよな!よし!」

 六人に背中を押されて扁螺は顔を上げた。部屋を飛び出して、脇目も振らずに署内を駆け巡っていく。

 駐車場で自分の車に飛び乗ると、エンジンをかけて………

「オラ、テメェらさっさと来い‼︎間に合わなくなんぞ!」

「はぁ⁉︎お前らも来んの⁉︎」

 いつの間にか一緒について来た冬青達が、無断で車の中に乗り込んできた。

「当たり前でしょ!こんなの放っておけるわけないじゃない!」

「大切な人の出産なんデスから、行くしかありませんヨ!」

「まぁ、このまま帰っても暇ですからね。せっかくですし行きましょう」

「扁螺さんの大きな車なら、私達全員乗れるでしょ?爐、病院までの最速ルート案内してやりな」

「りょーかい。この時間帯は帰宅ラッシュだから、ルートは選ばないと」

「んなめんどくせぇなことしなくていいだろ!サツなんだからサイレンかき鳴らして走りゃ、全部の車退くんじゃねぇか?」

「それはそれで面倒なことになりますよ」

 これまで補導されている時に冬青に車に乗っていた彼らは、手慣れた様子で後部座席に潜り込んでいく。最後に爐が助手席に飛び込む。

 常時無気力な朧すらも行く気満々になってしまっている中で、六人に何を言っても止まらないのは扁螺もよく知っている。

「はぁ、お前らはまったく………スピード違反ギリギリでかっ飛ばすから、ちゃんと奥歯噛み締めてろよ!」

 扁螺はため息をついてから、思いっきりアクセルを踏み込んだ。言葉通りスピード違反ギリギリの速度で、警察署から車が走り出す。

 爐のナビのおかげもあって、七人はあっという間に病院についた。

 病院に入ると待合室にいた雛罌粟 龗が駆けてきた。

「龗さん!長閑の様子は⁉︎」

「扁螺さん!って、何で冬青君たちまでいるの?」

「んなことどうでもいいんだよ!それより長閑は⁉︎」

「え、えぇ。まだ産まれてませんよ。結構長いですね………」

 冬青に迫られて、一度出産を体験している龗は、不安そうに長閑のいる病室を見る。

「そうですか。すみません、龗さんも身重なのに」

 龗のお腹は大きく膨らんでいる。彼女も子供を身籠もっているのだ。

「いいんですよ。それよりも、早く長閑ちゃんに会いに行ってください」

「はい!」

 扁螺が長閑の元へと走っていくを見送って、六人は龗と一緒に分娩室の前で待っている。

 時折長閑の苦しそうな声が聞こえてくるたびに、顔を見合わせて俯く。

 冬青など落ち着きがなくウロウロしている。

「冬青、ちょっとは落ち着きな」

「んなこと言ってもよ!………クソッ!」」

「長閑サン、大丈夫、でしょうカ………」

「私達じゃどうする事も出来ないよ」

「落ち着いて待ってればいいですよ」

「その割には、いつもしてる読書しないのね」

 内心は落ち着いていないことを上枝に指摘されて、朧はバツが悪そうに苦笑いする。

「大丈夫、大丈夫だよ………長閑ちゃんなら」

「龗サン………」

 冬青達を宥めながらも心配している龗の手にアイラが手を重ねる。

 みんなの不安が最高潮に達したその時だ。

 分娩室から赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。

『ッ⁉︎』

 みんなが顔を上げて突入しようとするが、すぐに入れるわけもなくジッと扉の先を見る。

 しばらくして扉が開いて扁螺が出てきた。

 この数十分で全ての精神力を使い果たしてくたびれていたが、力を振り絞り顔を上げる。

 そして満面の笑みを浮かべて親指を上げた。

「よっしゃあぁぁぁッ‼︎」

 喜びに満ちたみんなの歓声が夕焼けの空に響き渡る。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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