「トリック・オア・トリート!」
「………はぁ」
『Cafe Red Poppy』扉を開けるなり悪魔の仮装をした
「あれ?万年青!アンタがウチ来るなんて初めてじゃん」
「仕事で近く通ったので、お昼ご飯でも食べようかと思ったんですが………」
店内をグルリと見渡してから、仮装している分をもう一度見る。お店の中には折り紙で作ったカボチャやコウモリが飾ってある。
「すっかりハロウィン一色ですね」
「まぁ当日だもの。仮装も気合い入れたんだから」
自分の衣装を見せつけるように分は胸を張る。
「服はご自分で作られたんですか?」
「ううん。大学の物置にあったのたまたま見つけたから、拾って手加えたの」
「あなた裁縫も出来るんですね。随分とお上手なことで」
「えへへ、ありがとう」
分の格好は黒を主体としたゴシックなデザインのシャツとミニスカートにニーハイ、頭には蝙蝠の羽根を象ったようなカチューシャをつけている。
使われてる生地の様子からしてかなり手が入れられていて、分の技術の高さが窺える。
「アンタも何か仮装してみる?適当に持ってきたから、男用の服もあんのよ。アンタが似合いそうなのは………ゾンビとか?」
「仮にも客の目を見てゾンビの仮装が似合うと言うのはいかがなものかと思いますが、遠慮しておきますよ。代わりと言ってはなんですが、せっかくハロウィンですし、お菓子でも差し上げましょうか?」
「えっ、いいの?」
小腹の空いていた分はお菓子の言葉に目を輝かせた。
「構いませんよ。イタズラされるのは嫌ですし、少しだけ僕のおやつ差し上げます」
「おぉ!気が効くじゃん!」
戯けたように笑うと、万年青はパーカーの内ポケットから小さなケースを取り出した。
万年青からお菓子を貰った分はカウンターにいる罔象の元へと戻っていく。
罔象は特に仮装はしておらず、いつものエプロンの胸辺りに折り紙のカボチャが貼ってあるだけだ。
「分、随分と話し込んでたけど、あの子ってたしかデパートの時にいた………」
「うん。魑魅 万年青、ハッカーらしいよ。学校で使ってるパソコンはアイツから貰ったの」
「へぇ、仲良いのね」
「いや、仲良いとは違うんだけどね。あぁ、ハロウィンってことでアイツからお菓子貰ったけど………アイツやっぱ変だわ」
「あら、優しい子じゃない。何貰ったの?」
分はポケットから今貰ったものを取り出して罔象に見せる。ケースごと貰ったので、蓋を開けた。
「ムカゴの塩茹とイナゴの佃煮だって。わざわざ今朝採ってきたらしいよ、食べる?」
「………まぁ、気持ちはありがたく受け取ろう」
携帯してたってことは、たぶん本人は純粋なプレゼントのつもりなんだろうなぁ。
そんなことを思いながら、年頃の女の子に贈るお菓子(かどうかすら怪しいが)にしては微妙すぎるセンスとケースの中の絵面に、罔象は目を細めた。
「それじゃあ、これで依頼完了ね。報酬は後で振り込んどくわ」
「お願いします」
今日は授業が3限までで、課題も全て終わってるので割と時間ができた。
ということで先程マフィアの幹部を二、三人ほど殺したので、仕事の完了を顋門さんに報告していた。
帰りの山道で採ってきたアケビを摘みながら寛いでいる。ん、甘くて美味しい。
「それにしても………店の内装、ここまでハロウィン仕様にする必要ありましたか?ガンショップとハロウィンあんまり関係ないでしょう?」
「いいじゃない。季節の行事に乗っからないと」
ハロウィンに合わせた飾り付けをされた店内を見て、僕はため息をついた。この飾りつけ手伝わされたんだよ。
「それじゃあ、今日はこれで」
僕は『トイガン ゲウィーア』を出て、罔象の元へと向かう。
「罔象、こんばんは」
「いらっしゃい、竜胆君」
『Cafe Red Poppy』に入ると、カウンターにいた罔象が笑顔で出迎えてくれた。
店内を見渡すと、『Cafe Red Poppy』もハロウィンの飾りつけがされている。
うん、こっちは違和感無いわ。
「すぐコーヒー持っていくから、先に部屋で待ってて」
「うん」
僕が罔象の部屋で待っていると、罔象がコーヒーを持って入ってくる。
「はい、どうぞ。ウチのハロウィン限定メニューのパンプキンパイもあるよ」
「やったぁ、ありがとう。いただきます」
早速パンプキンパイを食べてみる。
程よく甘いカボチャのクリームがサクサクのパイ生地に包まれていて、とっても美味しい。コーヒーにもよく合うし。
「美味しいなぁ」
「よかった。今年から始めてみたんだけど、新メニューって上手くいくかどうかって不安になるから」
「そういうものかぁ」
パンプキンパイも食べ終わり、罔象とコーヒーを飲みながら他愛ない会話を楽しんでいると、部屋の隅に置いてある段ボールに目が向いた。
「罔象、あれ何?」
「ん?あぁ、これ?これは仮装用の衣装だよ。分が大学の倉庫から引っ張り出して改造してきたらしいの」
「アイツ、そんなことしてたのか」
そういえば、今日恒例行事のハロウィンパーティーやるとか、大学の掲示板に広告貼ってあったな。たぶんこれまでので使われてた衣装だろう。
「って事は、罔象と分は仮装したの?」
「仮装したのは分だけ、私はやらなかったよ」
「へぇ………」
僕はチラッと衣装の入った段ボールを見る。
衣装の全貌は見えないので何とも言えないが、きっちり仕分けられてるのを見るに分は罔象が着る用の衣装も作っているのだろう。
罔象が着たところ、見てみたいんだけどなぁ………
「ねぇ、罔象は着てみないの?」
「えぇ?いや、さすがにこの歳になってこういうのは、ねぇ。昨日試着してみたけど、色々キツかったし」
「そう、なんだ………似合うと思うんだけどなぁ………」
僕がボソッと呟くと、罔象はピシッと固まった。それから僕をジッと見つめる。
「竜胆君は、見たいの?」
「まぁ………着てくれるなら」
僕は素直に頷いた。
罔象は顔を赤くしながら少しだけ考えて、段ボールの中の服を掴む。
「それなら、いいよ。竜胆君だけなら………」
「本当に?」
思わず前のめりになってしまった。少し落ち着いた方がいいな。
「うん。それじゃあ着替えるから、ちょっとあっち向いてて」
「あ、うん」
言われるがままに僕は後ろを向いた。ここで出て行ってと言わない辺り、僕への信頼が窺える。
「えっと、どれがいいかな………」
しばらくガサゴソと段ボールを漁っていた罔象だが、服を決めたのか衣擦れの音が聞こえる。
若干下心があって頼んでる僕には拷問に等しいが、ここで振り向いてしまえば台無しになる。何とか耐えてその場で固まった。
「うぅ………これでいい、のかな。竜胆君、こっち向いていいよ」
ようやく呼ばれたので、僕は後ろを振り向く。
「ど、どうかな………?」
そこにいたのは魔女の仮装をした罔象だった。ただし僕の予想の何倍も艶やかな姿だ。
分がどんな風に手を加えたのかは知らないが、第一印象通り派手な飾りなどは無く、オレンジと黒をベースにしたドレスのようにしか見えない。
しかし胸元が大きく開いていて深い谷間が強調されている上に、腹を隠す布地はなくへそが露わになっている。
ロングスカートから白い脚がのぞいており、てっぺんが尖り大きなツバのついた帽子が魔女っぽさを醸し出している。
罔象の肉体美を浮き彫りにしている衣装に、僕の視線は釘づけになったが、あんまり見すぎるのも悪いと思い目を逸らした。
「あの、罔象、その格好は………」
「えっと、どうせやるなら竜胆君が喜んでくれそうなものにしようかなぁ、って………や、やっぱり、変?」
さすがに自分でも露出度が高い自覚はあったのか、罔象は腕で身体を隠した。
「そんな事ないよ!ただ、ちょっと目のやり場が………」
「あぁ、そっか………」
自分の身体を見下ろしてから、罔象は僕の隣に腰掛けた。触れ合いそうになる程距離を縮める。
「今は私と竜胆君の二人きりなんだし、ちゃんと見てくれた方が嬉しいんだけどな」
「罔象………それなら」
僕は罔象の方に身体を向けると、彼女の姿をしっかりと目に焼きつけた。
「うん、すごい似合ってるよ」
「そう?ありがとう」
もっとも、似合ってるからといってお店で着てくれなくてよかったとも思っている。こんな綺麗な姿、他の男に見せたくないし。
罔象が身を寄せてきたので僕は優しく抱きしめた。所々露わになっている肌の感触が心地よい。
ギュッと手を繋ぐと、罔象の鼓動が早まったのが分かった。彼女の温もりに興奮が高まる。
僕達は戯れ合うように抱き合い、相手の身体を優しく撫でていく。
僕の視線は勝手に罔象の方に向いてしまい、彼女のしなやかな身体につい手が伸びてしまう。
戯れあいは段々熱を帯び始めて、四肢を絡め合うようになっていった。
罔象は熱い息を吐くと、僕の耳元で囁いた。
「んっ♡………ふふっ、仮装なんてすごい久しぶり。子供の頃は、よく分と仮装してたんだよね。それでお母さん達からお菓子貰ってたの」
「そうなの?見てみたかったな」
きっとすごく可愛かったんだろうな。まぁ今も見惚れるほどに可愛いけど。
「トリック・オア・トリート、お菓子をくれなきゃイタズラするぞ〜、なんてね」
「いやいや。いきなり言われても、僕はお菓子なんて持ってないって」
罔象が手を差し出してくるが、生憎と準備なんてしてない。何か持って来ればよかったかな。そんなの分かってるはずなのに………
「ふぅん。それじゃあ………」
僕の脚の上に乗って向かい合うと、罔象は顔を両手で挟み込んで顔を近づける。僕の額に唇を触れさせると優しく微笑んだ。
「いっぱい、イタズラしちゃおうかな♡」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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