お昼ごはんも食べ終わり僕達は再び園内を歩き始めた。
最初はそこまで混んでなかった遊園地も、午後になってからは人が増えた気がする。
「うーん、次どれ乗りたい?」
「そうですね……ご飯終わってすぐなので絶叫系のアトラクションは無しで」
下手すると悲惨な事になるし、何より少し休んだとはいえジェットコースターの後に絶叫系のアトラクションは勘弁したい。
「絶叫系は無しね。でもそうなると後は観覧車くらいじゃないかな?」
やっぱりそうだよな。何となくそんな気はしてた。
この遊園地絶叫系のアトラクションが結構な割合占めてるし、穏やかそうなメリーゴーランドはさっきら乗ったからな。迷宮系とかは結構少ないし人が多い。
でもまぁ周りの景色を楽しみながらゆっくりするのは結構好きだからな。行くのもやぶさかではない。
「後他に何か……」
そう言いながら雛罌粟さんは突然止まってしまった。僕はギリギリぶつかりそうになったところで止まれた。
急に止まってどうかしたのかと思い視線を前に向けると、そこは────────
「おぉこれは、お化け屋敷ですね」
僕は目の前の建物、お化け屋敷を見上げながら呟いた。
これも遊園地の定番だな。入った事はないけど。
「そうだ、次はこれにしませんか?これならそこまで体に負担はありませんし」
僕がそう言っても雛罌粟さんから返事が返ってこない。今も急に止まってどうかしたのだろうか?
そう思って雛罌粟さんの方を見てみると、雛罌粟さんはピシッと固まっていた。
ただ顔色があまり良さそうではない。目が泳いでるしちょっと震えてるし。
あーもしかして……
「雛罌粟さんこういうのダメですか?」
「え⁉︎えっと………ダメ……ってわけでもなくもないというか……ただちょっと入りにくいというか……」
要は苦手なんでしょ?別に隠す事でもないだろ。普通だと思うんだけどな。
まぁ雛罌粟さんが苦手なら入るのはやめておくか。万が一気絶でもされたら面倒だし。かといって僕一人で入ってもそこまで意味無いしな。
「それなら仕方ないですね。そうだ、そろそろ観覧車にでも……」
そう言って僕がその場を立ち去ろうとすると、雛罌粟さんが僕の腕を掴んだ。
雛罌粟さんは僕を見ながら端的に一言言った。
「お化け屋敷、入ろう」
…………え?
「いやいや、大丈夫なんですか?苦手なんじゃ……」
「に、苦手なんて言ってないでしょ。……それにほら、大人の意地ってヤツだよ。こういうのは色々やってみないと」
面倒だなぁ。そう思った僕はため息を吐いた。
「本当にいいんですか?」
「もちろん。なんだかんだで遊園地のアトラクションでしょ?こんなの全然余裕よ!」
お、言ったな?
「それならお一人でどうぞ。僕はその辺で待ってますので」
僕はお化け屋敷を手で指しながら言った。余裕なら僕がついて行くこともないだろう。
すると雛罌粟さんはあからさまに目を逸らした後にポツリと言った。
「えっと……その……-ほら、せっかく二人で来てるんだしさ、それじゃもったいないじゃん?だから、一緒に……ね?」
雛罌粟さんはボソボソと困ったように言った。
あくまでも苦手なのは認めないのね。なんか、見栄っ張りというか何というか。
はぁ、まぁなんか面白い事になりそうだし、元々ついて行く予定だったからいいけどさ。ちょっとスマホつけておくか。
「それじゃあ行きますか?」
「う、うん……行こう」
僕はすごい緊張気味で僕の服の裾を掴んでいる雛罌粟さんを連れてお化け屋敷へと入っていった。
今でこの状態って、この後本当に大丈夫か?倒れたりしないといいけど。
中は病院のような造りになっていて、明るさは暗くてうっすらと道がわかる程度の明るさだった。結構よくできてるな。
「り、竜胆君はこういうの怖くないの?」
雛罌粟さんはビクビクしながら聞いてきた。そんなに声を震わせて何が大丈夫だよ。
「怖くないというか、こういうヤツはゲームとかで見慣れちゃってますからね。今さらです」
むしろ三次元でやってて二次元よりも融通が効かないからか、ゲームの方が怖いね。
ここはどうやら普通に歩いてお化けが脅かしに来るオーソドックスなタイプなようだ。
僕達は病院のようなお化け屋敷の中を進んでいく。
すると突然、といっても僕は気配でなんとなく分かったけど、右からゾンビのようなものが呻き声をあげながら走ってきた。
本当ならよくできてるなとか感心するところなんだけど、今回はそうはならなかった。
「うぉ〜〜〜!」
「ヒィィッ⁉︎」
突然の脅かしに雛罌粟さんが完全にビビってしまい、僕の左腕に抱きついてきたからだ。
「ちょ、雛罌粟さん⁉︎」
僕はいきなり抱きつかれた事に焦ってしまった。
胸が当たってるどころか僕の腕を完全に挟んでるんだけど‼︎気がついてないの⁉︎
雛罌粟さんが思いっきり抱きついているので、彼女の豊満な胸の谷間に僕の左腕が埋まってしまっているのだ。腕を通して柔らかい感触が全身に伝わってくる。
雛罌粟さんが薄着な事もあって彼女のむしろの感触はとてもリアルに伝わってくる。
やっぱりダメなんじゃん、強がらないでよ!
かといって今さら引き下がれないので僕はしがみ付いてくる雛罌粟さんを連れたままお化け屋敷の中を進んで行った。
このままでちゃんとゴールに辿り着けるかな。すごい心配なんだけど。主に僕の精神状態が、だけど。
「あぁ〜〜!」
「ヒィィッ‼︎」
雛罌粟さんが再び僕に抱きついてくる。もう何回目だこれ。
雛罌粟さんと一緒にお化け屋敷に入ってから数分、雛罌粟さんはずっとこの調子である。
脅かされるたびにビクッとして僕に抱きついてくる。
お化け屋敷入る前にお弁当食べ終わっててよかったなぁ。さもなければ今頃バッグの中のお弁当は雛罌粟さんの動きと共にぐしゃぐしゃになっていただろう。
少し経てば慣れるかなと思ったけどそんな事は無く、むしろ腰が引け気味になっていて酷くなっている。
一緒に進んでいるというよりは僕が雛罌粟さんを支えながら連れて行っているといった感じだ。
最初は抱きついていたのは腕だけだったが、次第に雛罌粟さんは僕の全身に抱きついてきた。
いい匂いと共に雛罌粟さんの柔らかい感触が僕の体全体に伝わってきてすごいドキドキする。
僕はその後も脅かしに来るお化けよりもそっちの方に意識が向いてしまった。こんなのどうしたって気にしちゃうって。
歩きづらいとは思ったけど、それ以上にすごい恥ずかしい。
柔らかくて温かくとても気持ちいいんだけど、これはちょっと精神的に良くないな。
僕のモノが痛いほどに大きくなっているのが分かる。頼むから雛罌粟さんにバレないでよ。
本当なら暑苦しいと思うところなんだけど、全くそんな事は感じられない。というより感じる余裕がない。
どうしよう……すごい恥ずかしいんだけど、雛罌粟さんはそれどころじゃないらしくまだ気がついていない。自分の顔がすごく熱いのが分かる。
嬉しい状況ではあるんだけど、ここまでストレートにされるとそれはそれで焦ってしまう。
しかもこれお化け役のスタッフにも見えてるわけだよなぁ。それを考えると尚更。
側から見たらただのイチャついてるカップルだ。それも洒落にならないレベルで。
さすがにこのままだと僕の心がもたない。この状況で徐々に理性が削り取られているのだから。
雛罌粟さんなは悪いけどちょっと離れてもらわないと。お化けの前に僕が雛罌粟さんを襲ってしまいそうだ。
正直何度も雛罌粟さんを押し倒そうとしたけど、何とか理性を働かせて耐えている。
「あ、あの雛罌粟さん?」
僕はドキドキしながらと雛罌粟さんに声をかけた。
すると怖かったのか俯いていた雛罌粟さんが顔を上げた。その顔は半泣き状態だった。まるで僕に縋り付くのが精一杯だと言うように
うっ‼︎こんな状態の人を離すのか。ちょっと心が痛む。
というかここまでダメなのかよ。所詮作り物だよ?ってこの感覚は僕だけなのか?
でもこのままってわけにもいかないし、ここは心を鬼にしてでも離れてもらわないと。離れるは無理でも抱きつくのは勘弁してもらいたい。
「あの、雛罌粟さんちょっと離れませんか?ほら、このままだと僕歩きづらいんで……」
さすがに胸が当たっているから恥ずかしいとは言えないので、別の理由を言った。
「うぅ………ダメ?」
いやそんな泣き出しそうな顔で言わないでよ。本当に僕より年上か?何なら年下にすら見える。
「…………いえ、大丈夫です」
上目遣いで返されて僕はこれ以上雛罌粟さんを拒絶出来なかった。いや、これは無理だって。
僕が了承すると雛罌粟さんは安心したようにギュッと抱きついてきた。さっきまでのビクッとしたものではなく優しく僕への信頼が窺える。
この状況で襲いかかるのは…………無理だよな。すごいモヤモヤするんだけど。
でも、何かこの状態の雛罌粟さん、これはこれで結構唆られるものがあるな。
ちょっとこっちからイジってみるのは………やめておくか。これ以上理性が削られたら本当に襲ってしまう。
とりあえず今は一秒でも速くこの状況を脱しなくては。僕の理性がもっている間に。
「あぁ〜〜!」
「キャ──────ッッッ‼︎」
雛罌粟さんは真正面から脅かしてきたお化けに驚き、またギュッと抱きついてきた。
今すぐ襲いたい。抱き返したい。押し倒したい。
お化け屋敷にいるはずなのにお化けよりもキツいものに苦しめられるとは。
最初は感心していた脅かしてくるお化けなど、今となっては僕の視界には入っていない。
これなら雛罌粟さんが苦手とか関係無しに外で待っておくべきだったなぁ。
そんな事を考えながらかつてないほどにモヤモヤしながら僕は自分の中の本能と戦っていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。