「見て見て、りん兄!ライオンがいるよ‼︎」
「はいはい、あんまりはしゃぐと転ぶよ」
東風に手を引っ張られて、僕は園内を回っていった。
僕の隣では、これまでにないほどに目を輝かせている東風がぴょんぴょん飛び跳ねている。
どうやらよっぽど動物園が気に入ったらしい。さっきから騒ぎっぱなしだ。
鬱陶しいほどの人混みをものともせずに、動物を見て回ってはゲージに貼りついている。
「すごい!写真で見るより迫力あるなぁ!」
齧り付くように眺めている東風は、手元にスケッチブックを広げて色鉛筆を取り出す。
「何してるの?」
「せっかくの本物の動物見れるんだし、何匹かは描いて残そうって思ってるんだ!生で見て分かることもあるだろうし!」
「あ、あぁ………程々に、な」
夢中過ぎるだろ。こんなにテンションの高い東風は初めて見た。これは、一緒に行動するにはめんどくさいかな。
「あっ!こっちに歩いてきた!ほら、おいでおいで〜」
歩いてくるライオンを微笑ましそうに見ながらも、真剣に絵を描いている東風を、僕は少し後ろでボーッと見ていた。
東風は楽しんでいて、僕も決して楽しくないわけではない。むしろ動物は好きな方だ。
それでも、楽しんでいる東風を見ていたらどうにも微妙な気分になってしまう。
「〜〜〜♪これでよしっと………りん兄、どうかしたの?」
いつの間にか絵を描き終えていた東風が、振り返って首を傾げる。
「あ、いや、何でもない。もういいの?」
「うん!次行こう!」
「はいよ」
僕達が歩き出そうときた時、同時に逆方向に歩き出そうとした人がいて東風がぶつかってしまう。
「ひゃっ!」
「おっと、大丈夫?」
転ぶ前に彼女を抱き止めると、手を握って優しく起こした。
「う、うん。ありがとう」
「まったく、人多くなってきたから気をつけなよ」
お昼が過ぎた頃だからか、人混みが多くなっている気がする。また巻き込まれない内にさっさと出るか。
東風の手を離そうとするが、それよりも早くギュッと強く僕の手を握った。
「東風?」
「あの………人多いし、このままでいい?」
「は?まぁ、いいけど。転びないでよ」
「うん、行こう」
僕達は手を繋いで園内を歩いて回った。
色んなブースを回ったり、動物との触れ合いコーナーを楽しんだり、ここ最近で一番動いた気がする。
そして三時くらいになった時。
「っと、これで一周したんじゃない?」
僕は入り口のゲートで貰ったパンフレットを広げて、園内マップを確認した。
東風の持ってるスケッチブックにはたくさんの動物が描かれており、よく特徴を捉えられてると思う。
「そう?あっという間だったなぁ。って、あれ何?」
「ん?あぁ、お土産コーナーだよ。寄る?」
「うん。お母さんにもお土産買いたい!」
というわけで僕達はお土産コーナーに入り、買いたいものを物色することにした。
「うーん、どれがいいかなぁ………って、りん兄は買わないの?保護者の、えっと………鯨波さん、だっけ?」
「あぁ、僕達そういう関係じゃないから」
とは言ったものの、実際のところ買ったら動物園行ったのバレるからだ。チケットネコババしたのバレそうだし、やめておこう。
けど、自分に何か買うのはいいかもしれない。夜食でも探すか。
そんなわけで僕もキョロキョロと店内を見渡していると、東風に袖を軽く引かれた。
「ねぇ、りん兄りん兄」
「ん?」
振り返ると、東風がお土産として売っていた猫耳カチューシャをつけていた。
「どうかな?」
「どうって………」
東風はつけた猫耳を触り、何かを期待するかのように上目で僕を見つめる。
周りに人がいるってのに、よくそういう事できるよな。
とはいえ、カチューシャ自体は似合ってると思う。黒猫を模しているのか、東風の髪色とも馴染んでいる。
だから………
「なんか、いつもと変わらないね」
「えっ、どういう意味?」
「子猫みたいだな、って」
僕は東風の頭に手を乗せるとそっと撫でた。そして頰から首筋へと手を滑らせて、子猫を可愛がるように撫でてやる。
コイツこれやると本当喜ぶんだよな。こういうところが子猫みたい。
「んっ、ちょ、ちょっとりん兄。いきなりしたら、くすぐったよぉ」
「いやぁ、うん、もうちょいやらせて」
「な、何それ⁉︎ちょっと!あ、あんまりやると髪崩れるから!あぁ〜〜〜………」
東風はしばらく抵抗していたが、やがて大人しくなりされるがままとなる。結局心地良いのか目を細めている。
気が済むまで撫で回すと、東風を解放した。
「んっ………もう、髪くしゃくしゃになっちゃったじゃん!」
「悪い悪い。本当に猫みたいだったから、何となくさ」
「そう、かな?それなら、まぁ………」
照れたように俯く東風の頭からカチューシャを外してやる。
「これ買ってやるか、面白かったし」
「外じゃつけないよ?」
「そう?もったいない」
その後東風も年魚さんのお土産を買った。小腹も空いてきたので園内にあったベンチで休憩することにする。
「はい、そこに自販機あったから」
「お汁粉?」
「この時期にはいいでしょ」
「ありがとう」
自販機でお汁粉を二つ買うと、一つを東風に渡した。彼女の隣に座りもう一つを開ける。
一口飲んで息を吐くと隣を向いた。東風もお汁粉を飲んで温まっている。
「どうだった?動物園、楽しかったか?」
「うん!すごい楽しかった!」
「そうか………」
自分で描いた絵を見返して、東風は朗らかに笑った。
「ねぇ、何で動物園に連れて来てくれたの?」
「言ったでしょ?チケット捨てるのは勿体無かったから」
「でも、いつもはそういうことしないじゃん」
「あぁ………」
コイツも中々鋭くなってきてるなぁ。まぁ誰がこんな風にしたかと言われれば、たぶん僕なんだけど。
「その………東風は、こういう事したいのかな、ってさ」
「私が?」
僕はお汁粉で口を湿らせて、空を見上げた。
「なんていうか………友達らしいこと、みたいな。やった事なかったでしょ?」
東風と出会って三年近く経つが、それはきっと東風が僕と友達としていたいと思ってくれたからだ。
でも僕は、そんな東風に友達らしいことを何もしてやれなかった。
当たり前に一緒に遊んだり、どこか出かけたり、彼女が僕に求めていたかもしれないことだったのに。
東風との距離が近くなるのが怖くて、心のどこかでそれを避けていたのかもしれない。
僕がしてやれた事と言えば、人殺しの技を教えたくらい。まともに話せていたのかも怪しい。
夏休みの時もそうだ。結局、僕は刃を向けることでしか、東風と本音で関わる事が出来なかった。
だから、何か一つ友達らしいことをしてやりたかった。どこにでもいる、普通の友達らしいことを。
「だから、東風が喜んでくれてよかったよ」
「りん兄………!」
僕をジッと見つめていた東風は、次の瞬間いきなり抱きついてきた。身体が密着して、体温が一気に上がる。
「うわっ⁉︎お、おい、何してるんだよ⁉︎人いるんだから、そういうのは………!」
「だって………なんか、こうしたくて………」
「はぁ?」
東風は僕の体に回した腕に力を込めて、顔を擦り付けて胸板に埋めた。東風の体温が染み渡って、体が火照ってくる。
「嬉しい………ありがとう」
「まったく、大袈裟だな」
少し泣き声になっている東風を僕も優しく抱き返した。人に見られてるかもと思うと恥ずかしいが、この温もりを離したくなかった。
普段は言えなかったことを言ってしまったからか、僕の口は勝手に開いてしまう。僕が、ずっと前から思ってたことを。
「なぁ。東風はさ、これから何かやりたいことあるか?何か、人生をかけてやりたいこと」
「え?それは………無い、かな。今は」
首を傾げた東風だったが、俯いて小さな声で答えた。
僕は降ろしていたリュックを開けて、中に手を入れる。
「そうか。それなら、僕と…………」
「ん?」
僕の意図が分からず、東風は覗き込んでくる。
言ってしまいたい。思いだけが先走って、言葉が出そうになる。
でも彼女と目が合った瞬間、次の言葉が出てこなくなってしまう。
………これは、僕の主義に反するか。
「いや、何でもない。気にしないで」
「そ、そう?」
誤魔化すように、僕は東風の背中を軽く叩いた。これ以上くっついているのは恥ずかし過ぎる。
「さてと、そろそろ帰るか」
「うん、お母さん呼ぶね」
年魚さんを呼んで、僕達は動物園を出た。長い時間だったというのに、いざ過ぎてみるとあっという間だ。
「東風、動物園楽しかった?」
「うん!色んな動物見れたし、いっぱい絵に描けたんだ!」
「そっか。ありがとうね、竜胆君」
「いえ」
何をするわけでもなく、ただボーッと外の景色を眺めていると、突然僕のスマホが震えた。
「失礼」
一言断ってからスマホを見てみると、それは廂間さんからの着信だった。
仕事を頼んだ覚えも、頼まれた覚えもないんだけどどうかしたのか?
とりあえず電話に出ることにした。
「もしもし、廂間さん?どうかし………」
『竜胆!今すぐ病院に来て‼︎』
短い叫び声と共に電話は切れてしまった。
今のは廂間さんの声、だよな?あんなに焦ってる声は初めてだ。
とにかく行ってみよう、話はそれからだ。ここからなら廂間さんの病院はすぐ着く。
「年魚さん、すみません。ここで降ろしてもらっていいですか?」
「えっ、ここで?いいけど………」
車が止まると、僕はすぐさま飛び出した。
「りん兄、どうかしたの?」
「ちょっとね。最後まで一緒にいれなくてごめん、それじゃあ」
短く答えて僕は駆け出した。
リュックの中からトレンチコートとクラッシュハット、そして短刀を取り出す。念の為に持ってきておいて正解だったな。
病院の近くまで来た僕は、すぐに近くの木に隠れた。
人の気配がする。数は十人くらい、病院を囲んで潜んでるな。廂間さんが呼んでた理由はこれか?
とにかく病院に入るか。隠れる必要も無いので堂々と入る。
「すみません、廂間さんに呼ばれたんですが」
受付にいた人に看護師に声をかけると、彼女は目線で奥の部屋を指した。
その部屋から廂間さんが顔を覗かせる。
「竜胆、こっち」
そこには霊安室と書かれている。まぁ実際のところは霊安室兼死体の処分室だけど。
外にいる人達の視線に気をつけながら安置室に入る。
中に入ると、そこには廂間さんや看護師だけでなく鯨波さんまでいた。
「竜胆、休みの日に呼んで悪いね」
「いえ。それにしても、外にいる人達は誰ですか?」
「『Salvation Of Sin』の特殊部隊だよ。昨日くらいから狙われてるの」
アイツらか………またロクでもないことやろうとしてるのか。
「鯨波さんは何でここに?」
「警護だよ、爐達とこの人のね」
鯨波さんが指差した先にはベッドがあり、一人の女性が横たわっていた。包帯が身体の至る所に巻かれていて、満身創痍なのは見てとれる。
「この人は?」
「私の後輩。警察内で『Salvation Of Sin』に情報をリークしてるヤツを突き止めて、証拠を掴んだんだ。それで………」
「口封じに始末されそうになったと?」
「あぁ。何とか一命は取り留めてる。警察病院に運んだら間違いなく殺されると思ったからここに運んだんだけど、まだ狙われてて」
ヤツらのやりそうな事だ。予想通りロクでもないことだったな。
バァンッ‼︎
その瞬間、扉の方から窓ガラスが割れる音が聞こえた。痺れ切らして突入してきたな。
「鯨波さんは廂間さん達をお願いします。僕が外のヤツらを殺してきます」
「お願い。他の患者さんは逃してるから、遠慮なくやっちゃっていいよ」
頷くと同時に僕は霊安室を飛び出して物陰に隠れる。
入ってきたのは防弾ベストやヘルメットを装備したテロリスト達だった。持っているのはハンドガンやショットガンだ。
まずは外にいる看護師さん達の安全からを確保しないと。
あらかじめ廂間さんが話を通していたのか、看護師さん達は素早く身を隠していた。それなら、避難経路を作るか。
短刀を引き抜き、まずは受付にいたテロリストに飛び掛かる。
太ももに刃を突き刺ししゃがませると、喉笛を切り裂いた。
「がッ⁉」
白い壁に鮮血が飛び散り紅く染めた。
すぐにカウンターの内側に入ると、そこに隠れていた看護師さんに声をかける。
「他の看護師さんと一緒に霊安室に隠れて、外には出ないでください。外にまだ人がいます」
囮があったにも関わらず、これだけ厳重に見張るくらいだ。ここに残ってることも想定してるなら、おそらく外にスナイパーがいる。出るのは危険だ。
今殺したテロリストからハンドガンを奪うと、こちらに近づいてきたテロリストの眉間を狙って発砲する。
ゴーグルなどはしていなかったため、狙い通り眉間に弾丸がめり込みテロリストは死んだ。
それを確認することなく、僕はカウンターに隠れる。足音を消してカウンターの外に出る。
「ぐっ!何だ⁉︎」
テロリストの一人が、仲間が死んだ方を見たことで僕に背を向ける。
その隙をついて近づくと、膝の裏を蹴って跪かせた。
「ッ⁉︎」
口を塞いでこちら側に引っ張り込むと、首を斬って寝かす。
「気をつけろ、誰かいるぞ」
「ッ⁉︎そこに、がッ⁉︎」
カウンターを出て向かいの病室に飛び込むと、近くにいたヤツを襲い首を斬る。
「いたぞ‼︎」
さすがに発見されたが、後はゴリ押しでいける。
素早く両脇にいた二人の膝をつかせて首を掻き斬ると、銃を奪い遠くにいたヤツを撃ち殺す。
「な、何だこのガキ⁉︎」
「撃て!撃ち殺せ‼︎」
やっぱり、武装の割に大したことはないな。
とはいえ数は多い。外の人達も気になるし、手早く殺そう。
すると奥にいたテロリストの一人がポケットからボタンを取り出した。
「死ねぇッ‼︎」
彼が手元のボタンを押した瞬間、殺したテロリストの服の裏側が点滅していることに気がついた。
まさか………ッ⁉︎
咄嗟にその場を離れたと同時に、殺したテロリストの体が爆発する。爆風に煽られて壁に叩きつけられた。
「がはッ⁉︎」
威力はそこまで大きくないが、何せ至近距離だ。血肉が飛び散り壁が焼け焦げる。
アイツら、爆弾抱えてるのか。しかも他人の爆弾を爆発させられるなんて。
壁に叩きつけられた僕は、身体が痺れて上手く動けなくなる。近づいてきた男が僕の腹を踏み、銃を突きつける。
「ガキが、舐めたマネしやがって‼︎」
「ぐはッ⁉︎」
「竜胆!」
爆発音を聞きつけて、霊安室から鯨波さんが顔を覗かせた。
「出てきちゃダメです!」
鯨波さんが出てきたら廂間さん達を守る人がいなくなる。
「おい!まだ人がいるぞ!」
「殺せ殺せ‼︎」
鯨波さんを見つけて、彼らは霊安室へと向かっていった。
止めようとするが、踏まれていて動けない。僕に銃を突きつけた男が、引き金に指をかけた。
ヤバい、このままじゃ………
「がぁッ⁉︎」
しかし男は引き金を引くことなく、何故か苦痛に顔を歪ませた。
すぐに跳ね除けると、首を掻き斬り突き飛ばす。
倒れた男の太ももにナイフが突き刺さっている。さっき殺したヤツが持ってたナイフだ。
訳が分からず隣を見た瞬間、僕は自分でも分かるほどに顔が引き攣った。
「りん兄‼︎大丈夫⁉︎」
「こ、東風………」
そこにいたのは家に帰ったはずの東風だった。彼女がナイフを男に刺したんだ。
涙目になっている東風はガタガタ震えていて顔色が真っ青だ。
僕を殺すはずだった男が倒れて、テロリストの注意がこっちに向く。
「お前何やってるんだ⁉︎」
「りん兄のことが心配で着いてきたの‼︎そしたら病院の中から大きな音が聞こえて、中に入ったらりん兄が倒れてて‼︎何とかしなきゃって‼︎」
それで咄嗟に死んでた男からナイフ奪って突き刺したのか。相変わらずパニックになった時の行動力が異常だ。
テロリストが僕達を取り囲み銃を構える。
すると東風が僕の盾になるように前に出て、死んだテロリストが落としたハンドガンを拾い構えた。それによりテロリスト達も動きを止める。
東風には銃の構え方は教えたが、体格的に反動に耐えるのは難しいと思って撃ち方までは教えてない。つまり東風は銃が撃てない。
「馬鹿‼︎何やってる、早く逃げろ‼︎」
「だって、りん兄が………」
盾になった東風の声は恐怖で震えていて、今にも倒れてしまいそうだ。それでも逃げずに立ち続けている。
「僕のことはいい!まだ間に合うから、早く逃げて………」
「嫌‼︎」
泣き声で叫んだ東風は、動くことなくゆっくりと息を吐いた。
「私だって、家族を守りたい…………」
撃てもしない銃を構えて、東風は一人で十人近いテロリストと睨み合う。
本当は怖いはずなのに、逃げたいはずなのに、たった一人で………
まったく、この馬鹿は………
「はぁ………そんな今にも倒れそうなヤツに守って欲しかないね」
僕は立ち上がると、リュックの中にあったものを取り出す。
東風の持っていた銃を取り上げると、代わりにそれを差し出した。
「ッ⁉︎これって………夏休みの時に使った、カランビットナイフ?」
カランビットナイフを受け取った東風は、目を丸くして呆然とする。
「回れ右」
「えっ?」
「いいから、早く回れ右」
「う、うん」
東風は指示通りに僕とは反対方向を向いた。
そして、僕は東風に背中を預ける。本当よりも小さいはずの背中が、何故か頼もしい。
「りん兄………」
初めてだな、誰かに背中を預けて戦うのは。
「奥の部屋に怪我人がいる、自爆の可能性もあるから絶対近づけさせるな。出来るか?」
「………うん‼︎」
呆けていた東風の顔が、興奮で紅潮していく。涙を拭って元気いっぱいに頷くと、ナイフを構えた。僕も短刀を持ち直す。
「攻撃、開始」
僕の合図で僕達は踏み出た。
同時に発射された弾丸を避けると、僕は目の前にいたヤツの銃口から身体を逸らして、アキレス腱を切り、倒れたところにトドメを刺す。
東風も向けられたハンドガンの銃身を突き飛ばした。弾丸は見当違いの方に飛び、味方の足にめり込む。
怯んだ一瞬をつきナイフを腕に引っ掛けて銃を奪うと、膝をつかせて顔を掴む。強く捻ると骨の折れる音がして男は倒れた。撃たれた方も同じようにして壁に叩きつける。
その倒れた男を僕が掴み弾除けにして、前に押し飛ばした。
死体とぶつかって怯んだところで東風と立ち位置を入れ替えて、落ちていた銃で後ろにいる二人を撃ち殺す。
一人だとキツいと思っていた敵が、東風と一緒になった途端あっという間に片付いていく。
残り五人、そのタイミングで一人がさっきと同様にボタンを取り出した。誰か一人を爆発させる気だ。
すかさず東風が懐に潜り込み、内股、腕、脇を素早くナイフで突き刺す。
「ぐっ!」
たまらずに男が爆破スイッチを落とすと、それを拾いスイッチを押し込む。
爆破の点滅でそれを悟った僕は、爆発する男の後ろに回り脇腹に短刀を突き刺した。呻いている隙に爆弾をもぎ取ると、後ろで固まっていた三人に向かって投げる。
凄まじい爆音がして、三人とも吹き飛ばされて気絶する。死んではいないようだ。
最後に爆弾をもぎ取った男の腕を掴み、肩甲骨を使って手前へと引き寄せた。東風も同様にスイッチを奪った男の腕を掴み引く。
僕達がぶつかる瞬間に、僕と東風は身をかわして、男二人だけが衝突し倒れる。
こうして全てのテロリストが倒された。
「これで全部?」
「いや、まだ外にいるはずだよ。行こう」
「うん!」
病院の近くの森では男が二人、部隊の指揮を取っていた。
「チームアルファ、状況を伝えろ………チームアルファ、応答せよ、応答せよ」
男は、通信が繋がらないことを確認し、別の部隊に通信する。自分とは逆方向で待機している狙撃部隊だ。
「チームブラボー、院内の状況は?」
『こちらチームブラボー。人影無し。ターゲットはまだ院内にいる模様、ぐはッ⁉︎』
『チームガンマ、こちらも異常無し、ぐふッ⁉︎』
「チームブラボー、ガンマ………チームブラボー、ガンマ、応答せよ!」
一瞬のうめき声と共に通信が途絶えた。
「どうした?」
「全チームからの通信が途絶えた」
「撤退するか?」
「あぁ、一度エヴァン様の報告し、再度作戦を………」
二人は背後から近づく短刀とカランビットナイフに気がつくことなく、意識を失った。
「はぁ、はぁ………こ、これで、全員?」
「あぁ」
「うわあぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜‼︎怖かったぁ‼︎」
気が緩んだ途端、東風はナイフを落とし、その場に膝をついて泣き叫んだ。
だから逃げろって言ったのに。怖がりなくせに無理しおって。
仕方なくしゃがむと東風の背中をさすってやる。今日何回泣くんだよ。
「ほら、もう泣くな、大丈夫だから。早く帰らないと年魚さん心配するよ?」
「ひっく………う、うん………」
ようやく泣き止んだ東風は、僕に抱きついたまま顔を擦りつける。
「りん兄………私、ちゃんと守れた?りん兄のこと」
「そうだな………うん、助かったよ。ありがとう」
小さな声で囁くと、東風は顔を上げてはにかんだ。
「よかった………」
東風の笑顔に心が温まり、少しだけ抱きしめる力を強くする。
誘えばよかった………
「さてと、それじゃあ帰るか。っと、帰りにケーキでも買って行くかな」
「あっ、私も今日クリスマスケーキ食べるよ!あっちのケーキ屋で買ったの。たしか一人分のケーキも売ってたような………」
「それなら、そこ寄るか」
僕は立ち上がり東風に手を貸すと、家へと帰っていった。
もしも、東風と共に殺し屋をやれたら………
そんなくだらない想像と共に。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
評価、感想等ありましたら、ぜひよろしくお願いします。