※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第242話 手入れ

 空がオレンジ色に染まってきた頃、僕と東風は水鶏を連れて動物園を出た。

「水鶏ちゃん、楽しかった?」

「うん!また行きたい!今度はおじいちゃんと冬青お兄ちゃんと害富お兄ちゃんも一緒に!」

「絵面がだいぶカオスになるからやめときな」

 そのまま僕の家に到着すると、東風は夕ご飯の仕上げを始めた。元々準備自体は行く前に済ませてあった。

 東風が仕上げしている間、僕と水鶏はコタツに潜ってのんびりとしている。

「〜〜〜♪」

 水鶏は机の上に色鉛筆を広げて、鼻歌混じりに絵を描いていた。スマホゲームのクリスマスイベントをしていた僕は、絵を覗き込む。

「水鶏、何描いてるの?」

「宿題の絵日記。今日のこと書くの!」

 あぁ、僕も昔あったなぁ。何書くのか本当悩んだっけ。

 絵の欄には動物園を背景に、水鶏や僕、東風の姿が描かれている。

 水鶏が使っている色鉛筆は、去年のクリスマスに僕と東風からプレゼントした物だ。東風がやけにこだわって選んでたな。

 大切に使ってくれているみたいで嬉しい。

「はーい、ご飯できたからコタツの上片付けてね」

 しばらくして東風が夕ご飯を運んできた。

「うわぁ!お鍋⁉︎」

「今日は寒いからね。チーズフォンデュにしたよ」

 カセットコンロの上にお鍋を置くと、周りにバゲットや野菜、ソーセージなどを並べる。

 鍋の中からフツフツと煮えている溶けたチーズのいい匂いがする。

「「「いただきます」」」

 手を合わせて僕達は食べ始めた。まずは………バゲットかな。

「あむっ………ん〜‼︎美味しい!」

「やっぱりこの時期にお鍋は外せませんね」

「温まるわぁ」

 チーズの油分がバゲットに染み込んで柔らかくなっていて、熱々に蕩けたチーズの味が口いっぱいに広がる。

 うん………カロリーとか考えたらマズいヤツだな。

 ちなみにチーズは僕が選んで買ってきた。せっかく作るんだ、そこはこだわりたい。

「水鶏ちゃん、火出てるから気をつけてね」

「うん。パパこんなすごいの持ってるんだね」

「ただのカセットコンロだよ。この時期には必需品だから」

 こうしてコタツの上で温かいお鍋はもちろん、揚げ物なんかも出来るからな。一人で冬の食事を楽しむなら、必ず買うべきだ。

「はむっ、熱っ、んっ………お野菜も美味しい!」

「ちゃんと野菜食べれてえらいねぇ。ほら、たくさんあるからいっぱい食べてね」

「うん!」

 それにしても、まさか一人鍋のために買ったカセットコンロを三人で囲むことになるとは。

 けどまぁ、これはこれで悪くないかな。

 楽しそうに鍋をつつく東風と水鶏を見てると、自然と頰が緩んだ。

 食事ともコタツとも少し違う熱が、心からじんわりと広がっていく。

 

 

 

 夕飯を楽しむと、先にお風呂に入ってリビングでのんびりとしていた。

 すると後にお風呂に入っていた東風と水鶏が出てくる。

「りん兄、お風呂上がりましたよ」

「うぅ、お風呂出ると寒いぃ」

 東風と一緒にリビングに戻ってきた水鶏は、ソファに座っていた僕の着ていた服を物珍しそうに引っ張る。

「パパの服フワフワしてるね」

「はんてんだよ。冬はこれ無いとキツいから」

「昔から冬はずっとそれ着てましたもんね。っと、水鶏ちゃん、髪乾かすからこっちおいで」

「うん」

 東風は水鶏の髪をドライヤーで乾かすと、自分も乾かして時計を見る。

「さてと、いつでも寝れるように準備だけしちゃいますね」

「あぁ、お願い」

 東風が布団の準備を始めて、水鶏は僕の脚の間に座る。机の上に置いてあった自由帳を手に取る。

「パパ見て!今日の動物園の絵、いっぱい描いてみたの」

「え?ほぉ、また随分と描いたね」

 自由帳には動物園にいた動物がたくさん描かれていた。どうやら見ながら描いていたようだ。

「今日のこと、おじいちゃん達にたくさん話してあげたいから。絵にすれば、もっともっと伝わるでしょ?」

「なるほど………」

 水鶏の自由帳をめくって絵を見てみる。どれも明るく、楽しそうな様子が伝わってくる。まるで………

「こんなに似るものかねぇ」

「え?何か言った?」

「いや、何でもない。きっと、牛尾菜さん達も喜んでくれるよ」

「うん!動物園楽しかったし、お鍋美味しかったし、後はプレゼント待つだけだなぁ………」

「水鶏は、今年何をお願いしたの?」

「絵の具だよ。この前学校の帰り道に、絵の具で絵を描いてる人見てね、欲しいなぁって思ったんだ」

「そっか。ちゃんと届くといいな」

「うん。そうしたら、また、絵をいっぱい………」

 しばらくして水鶏は眠ってしまった。僕に寄りかかって丸くなる。

 すると布団の準備を終えた東風が戻ってくる。

「水鶏ちゃん、夜も遅いからそろそろ寝よ………って、もう寝ちゃいました?」

「あぁ。何せ一日中歩いてたからな、さすがに疲れてたんでしょ」

 僕は水鶏を抱えると、起こさないようにそっと布団に寝かせてやった。

「ん〜〜〜………」

 頭を撫でると気持ちよさそうにすり寄ってくる。

「東風、プレゼントを」

「はい」

 水鶏のプレゼントである絵の具(あらかじめ牛尾菜さんに聞いておいてもらってた)を枕元に置いた。

「水鶏ちゃん、喜んでくれるといいな」

 東風は小さな寝息を立てる水鶏を微笑ましそうに眺める。

 僕はリビングに戻り、近くに置いてあったリュックを手元に持ってきた。その中から拳銃を一丁取り出す。サイレンサー付きの拳銃だ。

「りん兄、それって………トカレフTT-33ですよね?サイレンサーつけられましたっけ?」

「顋門さんが改造してくれた銃だよ」

「へぇ、持ち歩いてるんですか?」

「あぁ、仕事で使うかもしれないからね」

 僕は一緒に入れてある手入れ用具も取り出して、銃を分解していく。

「そういうところ、変わりませんね。いつも短刀しか使わないのに、持ち歩く必要ありますか?」

「念のためだよ。ある程度距離があってもちゃんと殺せるように、ね」

 別にしっかり殺せるなら武器なんて何でもいい。殺すことだけが、僕の仕事なのだから。

 分解した銃を布で拭いて汚れを落としていく。東風が隣でその様子をマジマジと眺める。

「それにしても、いよいよ東風も銃を見て驚かなくなったな」

「そうですね。バイトで嫌ってほど見るようになりましたし。それに、よく考えたら、バイト始める前からも、何回も見てますから」

「あぁ、たしかに………」

 僕の正体を知った時、牛尾菜組が襲撃された時、『Salvation Of Sin』の立て篭もりがあった時。普通に銃突きつけられてたな。

 そういえば、七年前のちょうど今日も、銃を向けられてたっけ。僕を助けるために。

 あの時東風が助けてくれなかったら、僕は今こうして生きてなかった。

「良ければ銃の手入れ手伝いますか?」

「あれ?僕銃の手入れのやり方とか分解方法とか教えたことあったっけ?」

 そもそもあんまり銃には触らせないようにしてたはずなんだけどな。

「いいえ。ただバイトでやることがあるので、鼠牙さんに教えてもらいました」

「あのなぁ、あの復讐屋にはあんま関わるなって言ってるでしょ?というか、バイトで銃の手入れって。看護師見習いだよね?」

「手を怪我した人とか、手入れ出来ないじゃないですか。でも顋門さんみたいな業者に頼んだらお金取られちゃうし、だから頼まれちゃって」

「それで引き受けたのか。何の報酬も無しに?」

「だって、困ってるみたいだったし。これでも、結構評判良いんですよ」

 相変わらずお人好しだな。そんなの放っておけばいいのに。

 看護師としちゃ悪くない心がけなのかもしれないけど、曲がりなりにも裏稼業の人間としちゃ、その性格は心配になる。

「あっ、そうだ。りん兄に渡すものあるんだった」

 東風は持ってきたバッグの中から大きめの箱を取り出して僕に渡す。

「はい、りん兄。メリークリスマス」

「えっ?僕に?」

 若干戸惑いながら箱を開けると、そこに入っていたのは黒いスニーカーだった。

 僕は衣服にこだわる人間じゃないし、正直こんなの送られてもたぶん使わないんだけどなぁ。

 そう言おうと思ったが、靴全体を見てみて東風が送ってきた理由が分かった。

 普通なら靴の裏に溝があるものなのに、それがなく滑らかになっている。これただの靴じゃないな。

「なるほど。スニーキングシューズか」

「はい。りん兄持ってなさそうだったので」

 たしかに、僕はスニーキングシューズは持ってないな。

 スニーキングシューズは足音や足跡を消すための靴だ。無くてもある程度なんとかなってきたから、買うのは必然的に後回しになっていた。

「でも、どうやって手に入れたんだ?そう簡単に手に入るものじゃないでしょ?」

「銃の手入れのやり方教わる時に、鼠牙さんに相談したんです。そしたら裏稼業の道具を扱ってる業者を知ってたみたいで、手に入れてくれたんです。それを私が買いました」

 なるほど。たしかにあの人ならそういう業者も知ってそうだ。

「りん兄のことだから、仕事に役立つ物贈った方がいいかなって」

「分かってるじゃん、ありがとう」

 いや、本当にありがたい。早速明日から使うか。サイズもちょうど良さそうだし。

「それじゃあ、僕からも」

「えっ⁉︎りん兄がですか⁉︎」

「何だその反応。僕がプレゼントするのがそんなに変か?」

「あっ………はい」

 おい。

 いやまぁ自分でもそう思うから何も言わないけど。

「はい、どうぞ」

「ど、どうも………」

 僕がリュックから取り出したのは細長い小さい箱だ。

 東風は箱を受け取り蓋を開ける。

「ッ⁉︎これ………ネックレス、ですか?」

「あぁ」

 東風に渡したのは銀色のネックレスだ。満月を象った飾りの中心に赤い石があり、派手ではないものの華がある。

「綺麗………でも、りん兄装飾品詳しくないですよね。どこで買って、ん?」

 ネックレスを触ってるうちに東風は違和感を抱いたようだ。

 ケースから取り出してネックレスを引っ張ってみる。強く引っ張ってもネックレスはピンと力強く張るだけだ。

「これ、もしかして………ゲブラーコードですか?」

「正解。顋門さんにお願いして作ってもらったの」

 やっぱり気がついたか。

 ケブラーは防刃ベストなんかにも使われている丈夫な繊維だ。

 それだけ丈夫ということは、絞殺や拘束、逆に拘束された時摩擦熱を利用した脱出が可能となる。それらのやり方は昔教えたはずだ。

「それと、この飾りにも仕掛けがあるよ」

「へ?あっ、本当だ」

 満月の飾りの中に刃が仕込んである。コイン型の暗器を元に作られている。

「東風って、一応カランビットと高校卒業した時に虚宿さん達から貰ったペンがあるとはいえ、常に身につけられる武器は持ってなかったからさ。一つくらいあった方がいいでしょ?」

 一応裏稼業の人間なんだし、常に武器は使えるよう身につけておいた方がいいだろう。

「この飾りは、りん兄が考えたの?」

「仕掛けだけね。本当はもっとシンプルなデザインだったんだけど、顋門さんが手加えたみたいで」

 あの人曰く、『女の子に贈るならもっとオシャレじゃないと』だそうだ。そんなものかねぇ。

 東風はネックレスを呆然と眺めている。

「あぁ………もしかして、ネックレスじゃない方がよかった?長めのコードを誤魔化すにはこれがベストだと思ったんだけど、形状変えるか?」

 何せ人に装飾品贈る経験ってのが、罔象に指輪を贈った時以外無いもので。

 東風は箱からネックレスを取り出すと、自らにつけて顔を上げる。

「どう、ですか?似合ってます?」

 つけたネックレスを見てから、僕をジッと見つめる。

 銀色の満月を象った飾りが東風の胸の膨らみに乗り、部屋の光を反射して輝いている。

「………まぁ、いいんじゃないの」

「そっか………ありがとう、りん兄!」

 東風は笑って抱きついてきた。薄いパジャマ越しに彼女の肌の感触と体温が伝わってくる。

「うわっ⁉︎お、おい!抱きつくなって!」

「りん兄………!」

 離れようとしても、東風が強く抱き締めて離さない。

 はぁ………嬉しいことあると抱きついてくるのは、昔から変わってないなぁ。いい歳なんだから自重して欲しいんだが。

 しばらくそのままでいたが、これ以上くっついているのは精神衛生上あまり良くない。

「おーい、東風。いい加減離れて………」

「すぅ………すぅ………」

 ………寝ちゃってるよ。ここも変わってないな。

 東風を水鶏の隣に寝かせると毛布をかけてやる。それからソファーに戻り銃の手入れを再開した。

 手入れも終わり銃を組み立てると、マガジンを装填しスライドを引いた。サイトを覗いて具合を確かめる。

 うん、いいかな。

 そのままサイトの先を東風に合わせた。銃口の先で東風は気持ちよさそうに眠っている。

 マガジンには弾が入っている。引き金を引けば、東風の眉間に命中するだろう。

 そんなことにも気づかず、東風は気持ちよさそうに寝息を立てている。

「まったく………無防備なヤツ」

 銃のセーフティをかけるとリュックに戻した。

 東風の側にしゃがむと、彼女の頭を撫でる。昔のように、優しく。

「東風………生きてくれて、ありがとう」




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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