2月8日
「はい、どうぞ」
「ありがとう、罔象」
いつものように罔象から彼女の淹れてくれたコーヒーを貰い、一口啜ると、その美味しさと温もりに小さく息を吐く。
「はぁ………温まる」
「私も飲もうっと」
罔象も僕の隣に座ってコーヒーを飲む。
大学もテストが終わり春休みに入った。大学のことを考えなくても良くなった僕は、殺し屋としての仕事に集中しながら、いつものように罔象の元に訪れている。
冬真っ只中で外は極寒だというのに、この時間だけは全く寒さなんて感じない。温かくて心地よい。
「そういえば、竜胆君」
罔象が飲んでいたコーヒーをお皿の上に置き、少しだけ身を寄せてくる。
「今年のバレンタインさ。お仕事とか入ってたりする?無かったら一緒にいたいなぁって思ってるんだけど」
「あぁ、そうね………」
そういえばもうそんな時期か。春休み入って日にち感覚めちゃくちゃになってたな。
「うーん、仕事は無いんだけどね………」
「もしかして、何か他で用事あるの?」
「用事、というか………東風と
去年二人から送られてきたお菓子と一緒に入ってた手紙、『来年のバレンタインは一緒に過ごそう』って書いてあり、二人もちゃんとそれを覚えていた。
二、三週間前くらいに学校でその話をしていた………気がする。その時はまだまだ日あるからって言って有耶無耶にしたっけ。
「………二人とデート?」
「い、いや、そんなんじゃないけどさ。どうしようかな、って」
「あぁ………まぁ、私はお店あるし早くても夕方くらいからにはなっちゃうから。まだ日もあるしゆっくり考えといてよ」
「うん、ありがとう」
どうしたものかとぼんやり考えていると、唐突に罔象がだきついてきた。耳元でそっと囁く。
「でも………バレンタインくらいは、彼女との用事を優先して欲しい、かな」
「ッ⁉︎罔象………」
「二人きりで一緒にいよう」
「………考えとく」
その日はそのままコーヒーを飲んで、僕は家へと帰っていった。
2月9日
「はぁ………疲れたぁ」
「今日もお仕事お疲れ様。はい、コーヒー」
四、五件の仕事を終えて、僕は『Cafe Red Poppy』へとやって来た。ソファーに座り息を吐く僕に、罔象がコーヒーを差し出す。
「どうも。罔象もお弁当、ありがとう。なんか悪いね、春休み入ったのに作ってもらっちゃって」
「ううん。私から言い出したことだし、一日お仕事あるならお昼は持ってた方がいいでしょ?」
昨日たまたま今日一日仕事があると言ったら、罔象がお弁当を作ろうかと言ってくれたのだ。
「本当助かるよ」
罔象も隣に座り、二人揃ってのんびりと寛ぐ。
「あぁ、そうだ。バレンタインの予定なんだけど………」
あんまり先延ばしにしても悪いので、僕はコーヒーを一口飲んで話を切り出した。
「
「本当に⁉︎よかったぁ」
罔象は満面の笑みを浮かべると安堵の息を漏らした。
「ありがとうね、竜胆君」
「礼なら予定を曲げてくれた二人に言ってやってよ。それに、僕も罔象と一緒にいたいし」
「竜胆君………」
罔象が嬉しさを表すようにギュッと抱きついてきたので、僕も優しく抱き返した。
僕を強く抱きしめながら罔象は耳元で囁く。
「私待ってるから。あの子達に引き留められても、ちゃんと来てよね」
「あの二人もそこまではしないでしょ。大丈夫、必ず来るから」
「それじゃあ、約束の印」
その瞬間、ヌルッとした感触が首筋から感じた。そして今度は強く吸い上げられる。
「んっ、ちゅ〜〜〜っ♡!」
僅かな痛みと心地よい痺れに体が震えた。それでも罔象は離れることなく首筋に顔を埋めて吸いつく。
「ぷぁっ!ちゃんとついたね、キスマーク」
しっかりと痕をつけると、確かめるようにまた首筋に唇を触れさせた。そうすることで、罔象の真っ白な首筋が目の前に晒される。
「楽しみだなぁ………」
吐息混じりの呟きが僕の胸を高鳴らせた。
「罔象………!」
「ひゃっ⁉︎あっ!んんッ♡!」
罔象の首筋に吸いつき、僕もキスマークをつける。周りからも見えるようにはっきりと。
「はぁっ♡!………竜胆君も、つけてくれたの?」
「その………僕からも、約束の印を、ね?」
「そっか………嬉しい♡」
離れるつもりだった僕達は再び抱き合った。罔象の体温が体に染み渡る。
「これだと、コーヒー冷めちゃうかな」
「うーん、それならさ………」
罔象は僕の脚の間に座ると身を預けてきた。
「これなら、コーヒー飲みながらギュッて出来るでしょ?」
「………たしかに」
僕は罔象を後ろから抱きしめながら、足を伸ばして寛ぐ。
「それで、バレンタインの日何しようか?」
「うーん………出かける、となると去年と一緒だからなぁ。それに………」
「あぁ、今年は無いと思うから、そこは心配しなくていいよ」
去年のバレンタインは、虚宿さんが起こした事故のせいで初めてラブホに入ることになったんだよなぁ。
「あっ!そうだ、お菓子作りってどうかな?」
「お菓子作り?」
「うん。いつもは私が作ってるけど、今年は二人でバレンタインチョコ作って、二人で食べる、みたいな」
なるほどねぇ………
罔象と一緒に料理した経験だと………お泊まりの時くらいか。いつもはしてもらってばかりだし、たまには二人でやるのもいいかもしれない。
「いいね。それじゃあ、今年は二人で何か作るか」
「決まりだね!」
2月10日
「ねぇ、見て見て!今日スーパー行ったらポッキーがバレンタイン仕様のパッケージになってたから買ってみたの」
罔象がコーヒーと一緒にポッキーを持ってきた。赤と白で彩られたバレンタイン用のパッケージだ。
「へぇ、ちゃんと見たこと無かったけど、バレンタインになるとこんな感じになるんだ」
「竜胆君も食べる?」
「うん、貰おうかな」
罔象は箱を開けると、ポッキーを一本取り出して僕に差し出す。
「はい、あ〜ん」
「ありがとう」
差し出されたポッキーにパクついた。久しぶりに食べたな。
僕達はポッキーを食べながらコーヒーを飲んで、他愛ない会話を楽しんだ。
「あっ、最後の一本だ。罔象食べる?」
僕が声をかけると罔象が手を伸ばすが、ピタッと止める。
「うーん、せっかくなら一緒に食べよっか」
「えっ?」
罔象は最後の一本を取り出すと僕に向ける。
「ほら、咥えて」
「あ、うん」
言われるがままに僕はポッキーを咥えた。すると罔象がもう片方から咥える。
それを見て、どういう意図なのかが分からなかったが、このまま食べ進んだらどうなるか、何となく分かってきた。
僕が食べ進めていくと、罔象も反対側から攻めてくる。
次第にゆっくりと僕達な顔の距離が縮まっていく。自然と手が触れ合い指が絡まる。
残り僅かになったところでお互い止まり、見つめ合った。
罔象と目が合い、僕達は最後の一口を進める。
「んちゅっ………♡」
唇が重なり合いポッキーが全てなくなった。それでも離れることなく罔象の柔らかい唇を堪能する。
「くちゅ、んっ、ちゅるっ♡………ふぁ、れろっ、ちゅっ、んん〜〜〜っ♡!」
興奮が増して、どちらともなく舌を絡めた。唾液を交換し合い、相手の唇を吸い上げる。
「ぷはぁっ♡!………こんなに甘いポッキー、初めてだね♡」
「好き?」
「うん、大好き!」
罔象が抱きつき僕達はソファーに倒れ込んだ。密着したしなやかな身体を優しく撫でる。
「んっ………もっと味わいたいけど、もう無くなっちゃったね」
残念そうに言いながらも、罔象は僕の首に手を回した。離れる気はないようだ。
「それなら………ポッキー無しで味わってみる?」
「………うん♡」
こうして僕達はまた唇を重ねる。
2月11日
「えっ⁉︎竜胆君ポッキーゲーム知らなかったの?」
「うん。そういう名前だったんだ」
僕は罔象と一緒に寛いでいて、話題は自然と昨日のことになっていた。
「合コンとかでやるゲームなんだって。友達が言ってた」
「へ、へぇ………」
僕はあくまで彼女としたけど、正直他人とやろうとは思わないな。何を思って、どういう距離感でやるんだろう。
「他には………あぁ、愛してるゲーム、とか?」
「何その直球な名前のゲーム」
何やるかだけは名前聞いて分かったわ。僕があんまり得意じゃなさそうなことも。
「お互いに『愛してる』って言って、先に照れた方の負け、だったかな?」
まさかの主観ジャッジ。そしてやる事は予想通りだったな。
「………やってみる?」
「………まぁ、うん」
頷いてしまった。だって罔象となら、楽しそうだし………
でもいざやるとなるとちょっと緊張するな。こんな風に面と向かって言うことあまりしないし。
「そ、それじゃあ、罔象からどうぞ………」
「そうだね。えっと………」
罔象は居住いを正すと、僕と向かい合った。頰がほんのりと赤く染まっている。
「竜胆君………愛してる」
噛み締めるように紡がれた言葉と優しい微笑みに胸が高鳴った。強すぎるほどの罔象の想いに顔が熱くなる。
思わず抱き締めそうになるが、驚かせても悪いしここは我慢。
「な、なんか、改めて言うと結構恥ずかしいね。ほ、ほら!次竜胆君の番!」
「あ、あぁ、うん………」
恥ずかしさを隠すように罔象が僕に振ってきた。
しかし上手く言葉が出ずに戸惑ってしまう。
視線を向ければ、罔象は固まったまま期待するように僕を見つめている。
ゲームなんてただの建前だ。本当はただ相手に気持ちを伝えたいだけ。罔象の声を聞けば、同じ気持ちなのは分かる。
僕だって素直に伝えたい。結果、つっかえ気味ではあったが想いを吐き出せた。
「その、罔象………あ、愛してるよ」
耳の先まで赤くなっているのが、鏡を見ないでも熱で感じ取れた。
罔象は黙って僕の言葉を受け止めたが、次第に頰が緩んでいく。そして感極まったように身を震わせた。
「〜〜〜〜ッ♡!竜胆君♡‼︎」
罔象が僕の胸に飛び込んできて、二人揃ってソファーに倒れ込んだ。彼女の黒い瞳が間近に迫る。
「竜胆君顔真っ赤だよ?」
「………罔象だって」
「それじゃあ引き分けって事で。続けよう」
温かい笑みを浮かべて罔象は僕と唇を触れさせた。僕の体に腕を回して耳元で囁く。
「竜胆君、大好き♡」
「僕も、大好きだよ。離したくない」
「大丈夫、離さないよ。もっといっぱいくっきたいもん」
僕達は密着したまま、自分の想いを伝え続けた。
2月12日
「「ふあぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜」」
その日も仕事を終えた僕は、罔象と一緒にお風呂に入っている。ご飯食べ終わるなり『お風呂入ろう』と誘われて連れて行かれたのだ。
湯船に浸かり、その心地よさに声が漏れ出る。
「寒い日はお風呂が沁みるなぁ」
「だよねぇ、最高〜」
罔象は僕の脚の間に座り身を寄せ合っている。お湯の中でそっと手を握り、さらに温め合う。
「けど、わざわざ僕待ってなくても、一人でお風呂入っててもよかったんだよ?」
「竜胆君と入りたかったの。だって、竜胆君誘っても中々うんって言ってくれないじゃん」
「あ、いや………それは、まだ………少し、恥ずかしいし………」
これまで何度か一緒にお風呂入ったりはしてるけど、それでもそう簡単に慣れるものじゃない。
「それに、あんまりベタベタしたら、我慢出来なくなりそうで………襲っちゃいそう」
今でもこうやって触れ合っていることで、心地よい安らぎを感じるものの、どこかで襲おうとする本能がざわついている。
白い肌にはお風呂に入ってることで赤みが差し、艶の増した黒髪からは水滴が垂れている。
僕の前に座ってることで産毛の生えている頸が露わになり、その先に目を向ければ、ふくよかな双丘が湯船に浮かぶ。
眩しいほどの肉体美は、存在するだけで僕の肉欲を掻き立てる。
だからといって本能のままに襲ったら、なんか情けないし。
罔象はポカンと僕を見ていたが、面白そうに吹き出した。
「ふふっ、そっか………竜胆君は優しいね」
罔象は握った僕の手に唇を触れさせる。
「み、罔象………」
「でもさ、こうやって一緒に入ると、身体だけじゃなくて心までポカポカしない?」
戸惑う僕に身を預けると、振り返り甘えるように頬擦りする。
心臓が締めつけられるように高鳴り、我慢が出来なくなった。自然と手足が絡み合い、もっと欲しくなる。
その内心を見透かし増長させるかのように、罔象は唇を軽く触れ合わさせた。
「んっ♡………それに、私は襲って欲しくない人を、お風呂に誘ったりしないんだけどなぁ」
艶やかな笑みを浮かべ、僕の頰を優しく撫でた。
全身の血が沸き立ち、罔象以外何も見えなくなる。
「それなら………襲う」
そう言うなり、僕は白い頸に唇を触れさせた。身体を洗ったばかりでボディーソープの匂いが罔象の香りと混ざりふんわりと漂う。
香りに触発され、柔らかい身体をゆっくりと撫で始める。お湯の中でもその感触は鮮明に伝わってくる。
「ひゃっ♡⁉︎あぁ♡………竜胆く、んあぁッ♡!くすぐったいぃ、んんッ♡!」
僕の愛撫に罔象は身体を跳ねさせて反応する。甘い声が浴室に響いた。
「罔象の声、可愛い。んっ」
「ひゃうッ♡!耳はダメぇ、はぁんッ♡!もう、極端なんだから、んっ、あぁっ♡!」
湯船に身を沈めながら罔象の身体を隅々まで堪能する。理性が欠壊していき、加減が出来ない。
「あっ、あぁっ♡!わ、私だって、竜胆君のこと襲いたいんだから♡」
罔象は身体の向きを変えると、僕の脚の上に座り向き合った。お湯に濡れた身体が目の前に晒される。
「竜胆君の目、すごくギラギラしてる。その目大好き♡」
罔象が僕を強く抱き締め、僕達の間で豊かな胸がむにゅんと潰れる。
「罔象の首、痕消えそうになってる」
ふと罔象の首筋を見ると、三日前につけたキスマークが消えかかっている。名残惜しい気持ちを伝えるように痕の上を指先でなぞった。
「んんッ♡!だったら、また痕つけてよ。明後日まで残るように、はっきりと、ね?」
「………うん」
軽く頷くと、首筋に残った痕の上から強く吸い上げた。
「ッ♡⁉︎ひぃ、痛ッ、んんッ♡!竜胆くんッ、ひゃあッ♡!待っ、んあぁッ♡!強すぎぃ、あぁぁ〜〜〜ッ♡‼︎」
痛みから罔象は身体を強ばらせて声をあげる。それでも僕は構わず吸い続けた。
「ぷはぁっ………ちゃんとついた、かな?」
首筋についた痕は前のものよりもはっきりと見えている。
痛がってたし、少しやりすぎたかな?
そう思い顔を覗き込むが、罔象は顔を真っ赤にして荒く息を吐いていた。目は蕩けていて、辛そうには見えない。
目線を下げると、罔象の胸から母乳が溢れ出して、白濁の液がお湯にジワッと広がっている。
「罔象、これって………」
僕が先を言う前に、罔象が身体を密着させた。顔を上げて触れ合うギリギリまで迫る。
「ね、ねぇ………せっかくお風呂入ってるんだし、どうせ痕つけるなら、全身につけて」
我慢出来なくなったように罔象は僕の手を掴むと、自身の下半身へと導いた。
お湯とは明らかに違うトロッとした感触。それだけで罔象の心中は伝わってくる。
間近で見つめ合い、お互いの興奮が高まっていく。
「ここにも、ね?」
「うん」
軽いキスを交わし、まずは罔象の胸元に狙いを定める。
「あぁッ♡⁉︎いきなり、そこはぁ、ひゃんッ♡!ちょ、はぁんッ♡!ダメッ、そこ舐めちゃ、んああぁぁぁ〜〜〜〜〜♡‼︎」
艶やかな反応を楽しみつつ、身体に痕を刻みつけていく。浴室に罔象の嬌声がこだました。
2月13日
「竜胆君、お待たせー!」
「こんばんは、罔象」
外は暗くなり、いつもなら『Cafe Red Poppy』で罔象と会ってる時間だ。
でも今日は違う。待ち合わせ場所は近くのスーパーだ。
急ぎ気味で駆けてきた罔象は肩で息をしている。
「はぁっ………はぁっ………ご、ごめんね。私から誘ったのに遅れちゃって」
「だ、大丈夫だから、まずは息整えなよ。買い物なんだから、そんなに急ぐことないって」
車で来たのにこれってことは、駐車場から相当焦って来たな。
今夜は明日のお菓子作りのための買い出しだ。罔象の提案でスーパーで待ち合わせていた。
そういえば、こうやって罔象と出かけるのは久しぶりだな。いつもはお互い仕事で簡単に遠出できないし。
厚手のコートを着た罔象は、手袋にマフラーと防寒バッチリだ。本当、この時期は寒いからなぁ。
「竜胆君、どうかしたの?」
「あ、いや………罔象が着込んでるの、久しぶりに見るなぁって思ってさ」
「そうだね。その………竜胆君とお出かけするし、どんな服着てこうか迷っちゃって………変じゃない、かな?」
「いや、考えただけでもすごいと思うよ」
僕なんか、脳死で部屋着の上に仕事のために用意したスペアのトレンチコート着てきただけだもん。
「だって、ほら………久しぶりの外でのデートだし」
「あぁ………そう、だね」
そうか。たしかにデート、とも言えるか。全く意識してなかった。
でも、そう思うと何だか気恥ずかしくて、変に意識しちゃうな。
「でも、スーパーで買い物だけって、あんまりデートっぽく無いかな?」
「そう、なの?僕は全然いいよ」
正直デートに相応しい場所とかイマイチピンとこないし、普通に楽しそうだけどな。
「こうやってのんびりと普通の日常を過ごしてる方が落ち着くから、僕は好きだな」
「そっか。竜胆君らしいね」
「さてと、ここにいても寒いし、さっさと入ろうよ」
「そうだね」
僕達はスーパーに入ると、カゴをカートに入れて物色し出した。
「というか、そもそもどんなもの作ろうか?」
そうか、やる事決まったのはいいけど、何を作るのかまでは決めてなかったっけ。
「うーん………ずんだ餅?」
「バレンタインのお菓子で何でずんだ餅………チョコ使うものにしようよ」
そういうものか。ふむ、どうしようかな。
いかんせんバレンタインでお菓子なんて作ったのなんて、高校の時に東風と一緒に作って以来だからなぁ。
お菓子コーナーを見ればバレンタインという事で色んなチョコのお菓子がある。
こう見ると選択肢は色々あるなぁ、どうしたものか………
「あっ、そうだ。ついでにウチの買い物も一緒にしちゃうか」
僕はふと思い出し、リュックの中に貼り付けてあった買い物メモを取り出した。
「竜胆君、どうかした?」
「あぁ、ちょっと
「あぁ、そういえば今竜胆君の家にいるんだったね」
例の如く長期休みになり、分はウチに泊まりに来ていた。
家事はもちろんやってくれるし、学年が変わり諸々片付けをしたかっので非常に助かっている。無駄に早起きされるという不満はあるが。
「うん。家事やってくれるから助かるんだけど、あの無駄にアウトドアなのはちょっとねぇ。この前とかデパートの買い物に付き合わされてさ………」
「竜胆君」
言い終わる前に、罔象が僕の口に人差し指を当てて止めた。
「一応今はデート中なんだし、他の女の子の話はナシ、ね?」
「そういうもの、か………了解」
僕が頷くと、罔象は楽しそうに微笑んだ。
「ふふっ。ほら、行こう」
「うん」
僕達は手を繋ぐと、何を作るか話しながらスーパーの中を回っていった。
2月14日
「罔象、湯煎ってこれくらいでいいの?」
「どれどれ………おぉ、いい感じだよ」
バレンタイン当日。『Cafe Red Poppy』の厨房で僕達はお菓子を作っていた。
午前中は東風と分と一緒に遊びに出掛けて、夕方になってから罔象と共にお菓子作りだ。
罔象はエプロンを着て、僕も罔象からエプロンを借りて作っている。
「生クリームは………おっ、いいね。それじゃあチョコちょうだい」
罔象は温めた生クリームと溶かしたチョコを混ぜて、ラップの敷いたバットに流し込む。
「後はこれを冷蔵庫で冷やすだけ、っと」
「生チョコって意外と簡単に出来るんだね」
昨日の買い物で話した結果、割と簡単にできるということで生チョコを作ることになった。
本当にあっという間にできたな。
「さて、固まるまでそれなりにかかるし、今のうちに片付けだけしちゃおうか」
「そうだね」
冷えるのを待ってる間に使ったものを洗っていく。
「それにしても、罔象随分と手際良かったよね。前に作ったことあるの?」
「うん、高校生の時にね。お母さんが教えてくれたの」
「へぇ、それもバレンタインで?」
「うん。友達にあげたりとか、家族で分けたりとか………後は、木偶さんにあげた、かな」
「あぁ、そうか………」
鍋を洗う手が少しだけ止まり、罔象は俯く。
高校生の時だし、その時は木偶と付き合ってたから………そりゃバレンタインチョコくらい渡すか。
「あの時は………喜んでくれたと思ってたんだけどなぁ………」
今にも消えてしまいそうな小さな声だった。
罔象のことだ、彼のことを想って一生懸命作ったんだろう。きっとその場では笑顔で受け取ってもらえて、でも………
「な、なんてね!ごめんね、せっかくの二人きりの時間なのに」
無理矢理明るい声を出して罔象は再び洗い出す。それでもどこか浮かない顔をしている。
「罔象………」
「いいのいいの!昔のことなんだし」
洗い物が終わった罔象は手を拭くと、こちらを振り返った。腕を大きく広げて抱きついてくる。
「今は、こうしてれば大丈夫だから」
「………そっか」
背中をそっと撫でると、僕も優しく抱き返した。
抱擁が心地良かったのか、罔象は目を細めて僕の首筋に顔を埋める。
「竜胆君温かいなぁ」
「………罔象が良ければ、しばらくこうしてるけど」
「そうだね………それなら、一緒にお昼寝でもしない?」
「………うん」
二人で抱き合いながら休み、数時間が経過した。
「後は仕上げにココアパウダーをかけて………できた!」
「おぉ」
厨房に戻ってきて、罔象が最後の仕上げをする。
完成した生チョコを前につい拍手してしまった。本当にできるものなんだな。
「早速食べてみよう」
「うん」
見た目もちゃんとお菓子っぽくて美味しそうだ。試しに一つ食べてみる。
「おっ、美味しい」
ちゃんと生チョコになってる。我ながら結構いい出来だなぁ。
「うん、上手くできてるね」
生チョコを摘みながら、罔象が笑みを浮かべた。
思わず食べる手が止まり、その笑顔に引き込まれた。
何気ない笑顔だけど、だからこそ見惚れるほどに美しい。
「罔象」
「ん?どうかした、んんッ⁉︎」
無意識のうちに罔象に手を伸ばすと、抱き寄せて唇を奪った。
「んっ、くちゅ、んむぅッ♡⁉︎ぢゅるっ、ふぁ、れろっ、はぅ、んんッ♡!れろっ、くちゅ、んっ、ぢゅるるるッ♡‼︎」
素早く罔象の口腔内に舌を侵入させ、彼女の口の中に残ったチョコを念入りに舐めとった。甘いチョコと唾液の味が混ざり口に広がる。
罔象は驚いて身体を跳ねさせたが、途中から力を抜いて僕に身を委ねる。
唇を離すと、距離の縮まった僕達は腕を伸ばして抱き合った。
「ぷはぁっ………り、竜胆君」
「………本当に美味しいよ。罔象のおかげだね」
触れ合う度に愛しさが込み上げてきて、口を開けば想いがポロポロと溢れ出てしまいそうだ。
でもそれを全て伝えるのは、あまりにも滑稽で醜い。あと恥ずかしい。
だから短く。
「ありがとう」
本当はもっと愛の言葉とかを囁くものなのかもしれないけど、ごちゃごちゃした想いをまとめて出てきたのは、不思議にも感謝の言葉だった。
でも、それを変だとは思わなかった。自分の想いを素直に伝えられた気がする。
抱き合ってるせいで罔象の表情は見えず、息遣いだけが彼女の心情を伝えてくる。
大きく深呼吸をすると耳元で囁いた。
「竜胆君………チョコ、口についてるよ」
グッと罔象が顔を近づけて舌を伸ばす。僕の口の端をゆっくりと舐めると、頰に唇を触れさせた。
「んっ………あっ、こっちはチョコついてなかったね♡」
イタズラっぽく微笑んで、罔象は僕の手を握った。僕の胸板に額を押しつけて小さな声で呟く。
「私の方こそ、ありがとう」
優しさと慈愛に満ちた感謝の言葉が僕の心に突き刺さり、全身へと広がっていく。
気持ちが昂り、抑えられなくなった想いがまた言葉となって溢れ出す。
「「大好き」」
それは僕だけじゃない。罔象からも発せられた言葉だった。
お互い真っ赤になった顔を見合わせると、僕達は笑い出す。
こうしてトラウマが、思い出になった。
これはそんな一週間。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
評価、感想等ありましたら、ぜひよろしくお願いします。