※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第252話 成人式

 街の公民館。

 いつもはそこまで賑わうこともない場所だが、今日はたくさんの人が集まっている。

 その中にいる若者の多くは着物や袴など華やかな衣装に身を包み、入り口の前で談笑している。

 その中には東風の姿もあった。

 

「|東風〈こち〉、撮るわよ」

「うん」

 藍色の振袖を着た東風は、『成人式』と書かれた看板の前に立った。

 その向こうでスーツを着た年魚が構えたスマホのシャッターを切る。

「はい、いいわよ。改めて成人おめでとう、東風」

「ありがとう、お母さん」

 式典自体は終わり、この後は暇だ。

 人によっては同窓会がある人もいるが、小学校ではあまり良い思い出がなく、中学に上がると同時に引っ越してしまった身としてはどうにも参加するのは気まずい。

 どうしたものかと、遠くから見慣れた人がやってきた。

 

「おーい、東風!」

「あっ、(くまり)ちゃん!」

 大きく手を振って、ピンクの振袖を着た分が声を上げる。

「そっちの成人式はもう終わったんですか?」

「まぁね。一応こっちにいた時もあったし顔出そうかなって。あぁ、お偉いさんの話長すぎてダルかったぁ」

「あはは………そこはどこも共通ですね」

 

 ビデオを見て偉い人の話を聞く。その辺はあまり変わらないみたいだ。

 面倒くさそう肩をすくめた分は、周りを見渡して目を細めた。

「それで、見たところ竜胆は………」

「欠席です。『参加する理由が無い』とか何とか」

「やっぱり。年末に行かないとは言ってたけど、成人式くらい来なさいよ」

 相変わらずの自由っぷりに、分は呆れてため息をついた。

 もっとも、来ないからといって家でグダグダしてるわけでは無い。

 今頃仕事で誰かを殺してるのだろう。

 

「それで、東風はこの後どうするの?」

「同窓会には顔を出し辛いので、どうしようか考えてたところです」

「それならお姉ちゃんのとこで食事しない?遅めの昼ご飯ってことで」

「いいですね、行きましょう」

 東風は母親と分かれると、分と共に公民館を後にした。

 

 

 

「おーい、竜胆」

「鯨波さん、こんにちは」

 大通りから外れたバー。

 そこから出てきた僕は、やってきた鯨波さんに会釈する。

「頼んだ半グレは?」

「全部で八人、店の中で死んでます。処分は頼みましたよ」

「はいはい。これでこの辺のヤクザに恩が作れたし、助かったよ」

 

 特殊詐欺やヤクの密売をしていた半グレ、このバー彼らの拠点だった。

 中にいた幹部を全員殺して、今日の仕事は終了だ。

 冬も真っ盛りだし、さっさと帰って休みたい。

 

「にしてもアンタ、せっかくの成人式行かなくてよかったの?人生に一度なのに」

「行く理由も無いですし、絶対ダルいので」

 どうせどこの誰とも分からない人の話聞くのがオチだ。メリットが無い上に面倒なことなんてしたくない。

 

 

「アンタは相変わらずだねぇ。少しはそういうのも楽しむ努力しなさいよ」

「機会があれば」

「まったく………っと、そうだ。これあげる」

 鯨波さんは持ってたバッグから瓶を取り出して差し出した。

「これは、ワイン?」

「初心者でも飲みやすいの選んでみたけど」

 渡されたのは、結構良さげな赤ワイン。ラベルを見るに、僕が生まれた歳の物だ。

 

「一応、成人おめでとう」

「………は、はぁ」

「何その反応。何か変?」

「いや、意外だったので………」

 鯨波さんに祝われるとは思ってなかったので若干戸惑った。

 これまで誕生日とか卒業の時も祝われた事ないし、今回もスルーかと思っていた。

「仮にもアンタの保護者だよ?少しはそれっぽいことさせなさいって」

 少し照れ臭いのか、頰を掻いてワインの瓶を押し付ける。

 

 保護者っぽいねぇ………

 僕は歳を重ねるにつれて、鯨波さんを保護者というよりも、仕事上の関係者として見るようになっていた。

 それで鯨波さんも少しは肩の荷が楽になると思ったから。

 けど、今でもちゃんと僕の保護者でいるつもりなんだ。

 不覚だが、それは嬉しい。

 

「保護者っぽいことついでに言っとくけどさ。アンタも成人したんだし、少しはこれからの事考えなさいよ」

「これから?」

「|殺し屋〈仕事〉のこと。区切りつけるなら良い機会なんじゃない?」

 それは………殺し屋をやめろって事か?今までそんなの言われたことなかった。

 いつになく真剣な顔の鯨波さんに、僕は面食らってしまった。

 

「な、何ですか急に」

「急じゃないよ。エヴァンは殺して、未来の嫁も捕まえて、こうして大人になった。アンタはもう、理不尽に泣くことしかできなかったガキじゃない」

 そうだ。

 自分の弱さから両親を失って、信じてた人達から手のひらを返されて、僕は絶望した。

 けどあの頃の僕は何も出来なかった。目の前で嗤っている敵に、手も足も出なかった。

 だから道を踏み外して、人殺しになったんだ。

 自分の正義のために、自分の敵を、自分の手で、すぐにでも殺すために。

 

「………だからってやめませんよ。仇を殺しても、家族ができても、歳を重ねても、僕の正義は変わってないので」

「竜胆………それでいいの?」

「大丈夫ですよ、考えてないわけではないので。ワイン、ありがとうございます」

 ワインを受け取ると、大通りに戻り人混みの中に潜り込んでいった。

 

 

 

 家に戻る最中に東風と分から連絡が来た。

 どうやら成人式が終わった後会っていたらしい。2人揃って振袖姿の自撮りが送られてきたが、よく似合ってる。

 ただ予想通り結構ダルかったみたいだ。行かなくて正解だったね。

 

 夜になって軽く外でご飯を食べた後、僕は罔象の元へと向かった。

「罔象、こんばんは」

「いらっしゃい、竜胆君」

 お店の締め作業が終わったのか、罔象はカウンターで待ってくれていた。僕もカウンター席に座って足を伸ばす。

 

「あっ、そうだ。分達から聞いたよ、成人式行かなかったんだって?」

「行ったってすることないしね」

「えぇ〜、袴姿の竜胆君とか見てみたかったけどね」

「仕事の方が大事だし、仮に行ったとして袴なんて着るわけないでしょ」

 たった一回のイベントのために、高い金払ってレンタルなんざしたかない。

「罔象は自分の成人式行ったの?」

「そりゃあね。振袖とか着て、久しぶりに友達に会えて楽しかったなぁ」

 そんなもんかね。

 けど、罔象の振袖姿かぁ………絶対似合うだろうし、見てみたかったな。

 

「そういえば竜胆君ってお酒飲んだりしてるの?見たことないけど」

「初めて罔象の実家に行ったときに一回だけ」

「そ、それ以外で………」

 飲ませた本人がバツが悪そうに目を逸らす。

 初めて帰省に同行した時に、ベロベロに酔った罔象に飲まされたんだよなぁ。懐かしい思い出だ。

 

「それ以外だとないかな。いわゆる初心者向けのお酒飲めないし」

「君炭酸ダメだもんねぇ」

 そうなんだよなぁ。アルコール濃度低いお酒ってほとんど炭酸入ってるんだよね。

 二十歳の誕生日自体は過ぎてるし前から飲めはしたんだけど、それが理由で飲んでない。

 炭酸入ってなくてアルコール濃度低いお酒ってないものか。

 

「あっでも、今日鯨波さんからワイン貰ったよ」

 床に置いたリュックからさっき貰ったワインを取り出した。

「へぇ、さすが鯨波さん。おしゃれなお祝いしてくれたじゃん」

「うん。ただ一人じゃ消費できないし、よかったら一緒にどうかな?」

 ワインの瓶一本って初心者が一人で飲む量じゃないからな。せっかくなら|罔象〈大切な人〉と一緒に飲みたい。

 

「もちろん!せっかくなら何かおつまみ作ろう」

「いいね、手伝うよ」

 待ってるだけってのも暇だ。

 僕達は二人でキッチンに入った。

 

 

「それじゃあ改めて、竜胆君の成人を祝って乾杯!」

「乾杯」

 しばらくして、僕達は罔象の部屋で乾杯した。

 ちなみにワインはマグカップに注いである。

 こういう時ワイングラスでもあれば風情があるのだろうが、生憎罔象は持っていないらしい。

 漂うアルコール臭に警戒しつつ少し飲んでみると………

 

「あぁ、なるほど………」

 飲めなくはない。ただ単品でグビグビ飲もうとは思わない、といったところか。

 香りは好きだが、アルコールに慣れてないが故かな。

「どう?」

「これがお酒かぁって感じかな。飲めなくはないけど、少しずつ飲むよ」

「なんか懐かしいなぁ。私も初めてお酒飲んだ時そんな感じだったよ」

 

 

 興味深そうに笑うと、自分も注いだワインを飲んだ。慣れているからか、僕よりも飲む量は多い。

「あ、あの罔象、誘っておいてアレだけど、飲む量考えるか水飲んでね」

「大丈夫、分かってるって」

 帰省した時と旅行の時、これまで二度罔象がお酒を飲んでるのを見たことがあるが、どちら共泥酔してたからな。

 そういえば分もお酒は飲める歳になったわけだが、彼女も弱いのだろうか。

 

「お酒初めてで飲みにくい時は、割ると飲みやすくなるよ」

「ワインカクテルか」

「炭酸で割ることが多いけど、それだと竜胆君飲めないからなぁ。ジュースとかでいいんじゃない?」

 罔象は卓上に用意していたブドウジュースを、僕の飲みかけのグラスに注いでスプーンで混ぜた。

 色は変わってないけどどうなんだろう。

 

「んっ!これ飲みやすいね」

 ワインの渋みがブドウジュースに追加されて、味の深みが増した感じだ。アルコールの嫌な感じが緩和されてるし、これなら普通に飲める。

「おつまみも食べようかな」

「僕も」

 

 

 そんなこんなで一時間程が経った。

 罔象の作ってくれたカクテルが思いの外飲みやすくて、美味しいおつまみも相まって結構お酒が進んでしまう。

 合間に水を飲んでいるからか、全然いつもと変わらない感じだ。

 卓上のおつまみもだいぶ減ってきて、だいぶお腹もいっぱいになってきた。

 

「竜胆君はさ、大学の飲み会とか行かないの?」

「行かないよ。分とかに誘われるけど、行く理由無いし」

「君らしいねぇ〜。そうだ!今度デートの帰りに二人で飲みに行かない?」

「まぁ、あんまりうるさいところじゃなければいいけど」

「やったぁ〜!」

 罔象もそれなりに酔ってきたのか、顔がふにゃふにゃしてきた。さっきからずっとニコニコしっぱなしだ。

 そして甘えるように、僕の肩に頭を乗せて手を握る。

 

「手、握ってていい?」

「い、いいけど………何だか罔象、いつもよりテンション高いね」

 おつまみを作ってる時から、何だかウキウキだった気がする。お酒が入ったおかげで、さらに上機嫌が顕著に現れている。

 そんなに飲みたかったかな?

「うん。だってずっと竜胆君とお酒飲みたいなって思ってたし」

「そうなの?」

「そうだよ。一緒にお酒飲むって、仲良しの証みたいな所あるじゃん?だからさ、好きな人と晩酌してみたいなぁって思ってたんだ」

 

 罔象に言われて、頭の片隅に埋まってた記憶が浮かんできた。

 夜中に寝れなくて部屋から顔を出した時。父さんと母さんが、たまに一緒にお酒を飲んでいる時があった。

 いつも僕といる時とは違う、二人だけの何とも言えない雰囲気だった気がする。

 

「………たしかに、いいかもね」

「でしょ〜!すっごい嬉しい!」

 ワインをグイッと飲むと、罔象はふにゃっと頰を緩ませて笑った。

 やや赤らんだ顔で無邪気な笑顔を見せる罔象に、心がジワッと温かくなる。

 その衝動に身を任せて、僕は顔を近づけた。

 

「ねぇ、罔象」

「ん?何、んッ!」

 こっちを振り向いた瞬間に、軽く唇を触れ合わせた。柔らかな感触に背筋が震える。

 罔象は嫌がることはなかったが、固まったまま目を丸くした。

 数秒間じっくりと唇の感触を味わってから、そっと離した。

 お互いお酒のせいで顔が赤くなったのか、別の理由なのか、分からなくなる。

 罔象は惚けて首を傾げる。

 

「えっと、何でキス?」

「罔象の笑顔、綺麗だったから………好きだなぁって」

 デートの時とか、こうして夜会う時とか、朝お弁当貰う時とか、何気ない時に見せてくれる笑顔が素敵だ。

 この笑顔を近くで見れるのも彼氏の特権、そう思うと何だか誇らしい。

 

「そっかぁ、竜胆君は私のことが好きかぁ」

 恥ずかしそうに身を捩らせながらも、罔象は感慨深そうに頷く。

「うん。自分のやりたいことに一生懸命だし、僕のこと楽しませようとしてくれるし、仕事頑張ってるし。あと、僕と一緒にいてくれるから………ありがとう」

 いつも何気なくやってくれることが嬉しくて、その度に好きだなって、一緒にいたいって思う。

 

「ふーん………それじゃあ、はいっ!」

 罔象はカップを置くと、大きく腕を広げた。

「えっ、何?」

「キスしたんだし、今度はギュ〜ッてしよ」

「なるほどね」

 

 さぁ来いと言わんばかりに目を輝かせて、笑顔で迎え入れようとする罔象。

 カップを置くと腕を広げて、僕達は強く抱き合う。

 寒かった身体はお酒のおかげもあって温まっていた。そこからさらに罔象の体温のおかげで火照っていく。

 

「んふふっ、竜胆君温か〜い!気持ちいい〜」

 僕に頬ずりすると、首筋に軽く唇を触れさせた。

 少しくすぐったいが、それが心地いい。

「私もね、竜胆君のこと大好きだよ。不器用なところはあるけど、自分のやりたい事に真っ直ぐなところとか、私の事ちゃんと考えてくれるのも伝わってるし。一緒にいてとっても楽しいよ」

「罔象………なんか恥ずかしい」

「私も言われて結構照れてる」

 お互いの言葉を誤魔化すように、僕達は密着して相手の温もりに集中する。

 少し早まった罔象の鼓動が僕の中へと響き、彼女の心情が伝わってくるようだ。

 

「罔象は、いい匂いがする」

「お酒の匂い?」

「ううん、罔象のだよ。甘くていい匂い」

 甘い香りに誘われて、僕は罔象の胸元に顔を埋めた。

 弾力に富んだ感触に迎えられて、抱き締める力を強くする。離したくなくて力加減が上手くできない。

 

「ねぇ~、竜胆君結構酔ってるんじゃない?」

「えっ、そうかな?」

 そういえば、何だか体が重い気がする。1キロくらいの服を来てるみたいな感じ。

 これが酔うって感じなのかな。意識はまだはっきりしているから、あんまり自覚がなかった。

 

「水飲まないとか」

 テーブルに置いてあった水のグラスに手を伸ばすが、中身は空っぽだ。

「あれ、もう無くなっちゃった?」

「みたい。水入れてこようかな」

 それなりに注いだつもりだったんだが、さっきから飲んでたし、そりゃ無くなるか。

「うーん………それか他の物飲まない?」

「他の物?」

「うん。ここにいっぱい溜まってるから」

 

 

 罔象は僕の手を掴むと、自分の胸に押しつけた。

 

 

 服越しなのに指が沈み込み、それでいて双丘は触ってわかるほどに張っている。母乳が溜まっているのはすぐに分かった。

 気がつけば罔象の朗らかな笑みには、熱っぽい視線が加わっている。

 

「たぶん、あんまり意味ないよ」

「じゃあ飲まない?」

「………飲みたい」

 

 そういえば飲んだお酒の量に対して飲む水の量が少なかったかもしれない。

 頭に浮かんだ思考を振り払って、僕は罔象と共にソファーに倒れこんだ。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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