※この作品はR-18です。

どことなく壊れていて、どことなく甘い生活   作:MC RAT

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第254話 一緒に

「「頭痛い………」」

 

 

 翌日起きて、二人揃って第一声はこれだった。

「竜胆君、昨日のことは………」

「ちゃんと覚えてるよ」

 お互いやや顔が赤くなりながら,裸のまま身を寄せ合う。

 どうやら酔ってても記憶は飛ばさなかったみたいだ。ついでに吐き気もしないから多少はマシか。

 ぐわんぐわん揺れている感覚に苛まれながら、とりあえず身体は動かせた。

 服はベッドの周りに脱ぎ散らかされていて、テーブルには昨日飲み食いしたカップやらお皿やらが残っている。

 昨日交わった後、そのまま寝てしまった証拠だ。

「これ、あんまり良くない酔い方ってヤツかな」

「うん。竜胆君も人前で飲む時はセーブした方がいいかもね」

 そういえば、父さんってお酒を飲む頻度は少なかった気がする。

 あんまり強くなかったのかもしれないなぁ。その遺伝か。

 

 

 昔の事を思い出していると、罔象が毛布の中で手を握った。

「でも………すっごい気持ちよかった」

「………僕も」

 いつもの興奮とは少し違う。

 理性の根本が緩くなったというか、沸き上がった感情がそのまま表に出る感じ。

 剥き出しになった心が繋がったような気がして嬉しかった。

 その高揚が快楽に繋がって、思い返すだけで胸が高鳴って堪らない。

 その胸中を知ってか知らずか、双丘で僕の腕を挟んで抱きつき、耳元で囁いた。

「また一緒に飲もうね」

「罔象………」

 耳に侵入してきた艶やかな声が、寝ぼけていた本能を刺激する。

 一瞬で湧き上がった衝動に、体が突き動かされた。

 繋いだ手を引いて、罔象の上に覆い被さる。彼女の二の腕に手を這わせて、チロッと耳を舐める。

「んっ!………竜胆君、スるの?」

「触れてたい………それだけで、いいから」

 耳から首筋へ、首筋から胸元へ、唇を触れさせた。

 罔象の体が震えて、熱い吐息が溢れる。

「あっ、あぁっ!………竜胆、君………」

 僕の名前を呼んで、そっと頬を撫でる。

 それだけで一緒にいるって実感できて、温もりで心が満たされる。

 だから、もっと一緒に………

 

 

「っと………」

「うわっ!」

 それでも酔いが残ったままの寝起きの体を動かせる程、僕はお酒に慣れていなかった。

 フラついた体を罔象が咄嗟に受け止めてくれる。

「大丈夫?もう、酔い抜けてないんだから、寝ぼけて無理しないの。朝風呂でも入って、そこでいっぱい抱き合おう」

「………うん」

 それしか言えなかった。

 

 

 

 

 パシャンッ

「あぁ〜………」

「どう?多少は良くなった?」

「まぁ、さっきよりは」

 湯船の中で大きく伸びをする。

 顔も含めて身体を洗ったら、お酒も抜けてだいぶさっぱりした。目も冴えたし、ついでに冷えた体が温まって心地よい。

 足の間に罔象が腰掛け、彼女の腰に腕を回して密着すると、僕に背中を預けてくれる。

 自然と首筋に顔を埋める様な体勢になり、甘い香りに少し背筋が震えた。

 もっと確かに罔象を感じられる様に、後ろからギュッと抱き締める。

 

 

「ねぇ、竜胆君って匂いフェチ?」

「えっ?何で急に?」

「昨日ずっと匂い嗅いでたから」

 そう、だったか………そうだったな。

 ちゃんと記憶はあるんだけど、興奮しすぎていた時だとちょっと曖昧なのはいつものことだ。

「フェチってわけじゃないけど。ごめん、気持ち悪かった?」

「ううん、可愛かったよ」

 クスクス笑うと、罔象は僕の鼻先をちょんちょんと突く。

 可愛いって………反応に困るなぁ。

 罔象が自分の腰に回された手を握り、身体の上を滑らせた。

「竜胆君って酔うとあんな風になるんだね」

「あんまり思い出して欲しくないんだけど」

 自分でもかなり変になっていた記憶はあるので、出来れば掘り返されたくないんだが。

「いいじゃんいいじゃん。いっぱいキスしてくれたし、いっぱいハグしてくれたし、いっぱい愛してくれたし、私は嬉しかったよ」

 昨日のことを思い出してか、振り返って頬にキスしてくれた。

 脚を伸ばして、パシャパシャと軽く水を蹴る。

「何というか………竜胆君って、私のこと好きなんだなぁって思った」

「えっ、普段伝わってない?」

 これでも最近は、しっかり想い伝える様にしてるはずなんだけど。伝わりにくかった?

「うーん、そうじゃないけどさ………一緒にいて楽しいって、改めて思ったかな」

「あぁ………」

 嬉しいことではあるが、ふと思い出した事と結びついてしまい、中途半端な返事が漏れてしまった。

 

 

 一緒に、ねぇ………

 それは僕だって同じだ。同じだから………

 頭に浮かんだ思考を受け止める様に、腕の中にいる罔象を強く抱き締める。

 一応昨日とは違い、力加減は出来てるはずだ。

「竜胆君?」

「嫌じゃなかったら、いいかな?」

 罔象は目を丸くしたが、僕の目を見て何かを察した様だ。

 腕の中でこちらを振り返り、身を預けてくる。

「せっかくなら、向き合ってしようよ」

「………うん」

 微笑んだ罔象が僕の身体に腕を回してくれて、向かい合って抱き合う。

 お風呂で同じくらい温まって湿った肌が重なり、これだけで繋がったように感じる。心地よくて力が抜ける。

 罔象が僕の足の上に座ってる事で、胸元に顔を埋める形になった。

 温かい弾力に包まれて、体温がより一層高まるのを感じる。

「頭撫でてあげようか?好きなんでしょ?」

「し、シラフの時は恥ずかしいからいいよ」

 さすがにそこまで甘えられるほどの胆力はない。

 それでもこうして罔象に身を任せるのは心地よかった。確かに僕達が共にいられてると実感できるから。

 胸が高鳴って、安心して、瞼が重くなって………

「………寝るかも」

「えっ⁉︎ちょっと、お風呂で寝ちゃダメだって!ほら、もうあがろう」

 そのまま持ち上げられる様にして、僕は罔象とお風呂を出た。

 

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 お風呂から上がった僕達は、朝ご飯を食べ終わり食器をシンクへと持っていく。

「食器洗っておくよ」

「いいの?」

「お弁当作ってくれてるんだし、これくらいはね」

 僕が食器を洗っている隣で、エプロンを着た罔象がお弁当を作ってくれている。

 その様子を横目で見ながら、僕は深呼吸して口を開く。

 

「あのさ、罔象………」

「ん、どうしたの?まだ頭痛い?」

「いや、そうじゃなくて………」

 さっきまで普通に話していたはずなのに、いざとなると言葉が出てこない。

 チラッと隣を見ると、罔象は手を動かしながら目を丸くしてこちらを見ている。

 最後のお皿を洗い終わると、カウンターの席に置いてあるリュックから一枚の封筒を取り出す。

 封を開けると中身を取り出して、罔象に差し出した。

「これ、なんだけど………」

「えっと、鍵?」

 さすがにこれだけだと何がなんだか分からないようで、罔象は首を傾げた。

 本当はこれで察して欲しいんだけど、しっかり言うしかないよなぁ。

「これ、ウチの鍵で………その、罔象に渡したくて………」

「……………えっ?」

 そこで僕の意図に気がついたのか、目を見開いて固まる。

 

 

「その………一緒に住まない?」

 

 

 罔象の手が止まった。

 僕を見て、鍵を見て、そしてもう一度僕を見る。

 突然のことだったからか、ゆっくりと僕の言葉を咀嚼して声を絞り出す。

「えっと、それって……………同棲って、こと?」

「…………まぁ、うん」

 それしか言えなかった。俯いたままそっと頷く。

 

 

 本来なら高校を卒業してしようと思っていた提案で、あの時は自信がなくてできなかった。

 それを間違っていたとは思ってない。未熟なまま一緒になっても、お互いに苦しいだけだから。

 でも昨日鯨波さんに『これからのことも考えろ』と言われて、自分なりに考えてみた。

 成人になったとは言っても僕はまだ学生で、定職にも着いていない。周りから見ればその辺の子供と変わらない。

 それでも、やっぱりこれからも罔象と共に過ごしていきたい。

 だからたとえ背伸びだとしても、今できることを精一杯やることにした。そのための一歩だ。

 

 

「………これから人生どうなるかは分からないし、殺し屋辞めるつもりもないけどさ。真っ当な職には就くつもりだし、罔象を不安にさせる事は………は、話し合いたい。だから………どうかな?」

 思いついた言いたい事を一気に捲し立てて、ジッと罔象を見つめる。

 自分で勝手な事を言ってるのは分かってる。それでも、今の僕に出来るのはこれくらいだから。

 罔象も僕の視線を受け止めて、黒い瞳をこちらに向けた。

 嬉しそうで、でもどこか不安げで、それでも僕を捉え続けている。

 そして微かに微笑んだ。

「竜胆君の事だし、私から言い出さないとダメかなって思ってたけど………そっかぁ、竜胆君も大人になったんだもんね」

 独り言の様に呟いて、罔象は鍵を受け取った。

 小さな声なのに、周りの全ての音よりもはっきりと心に響く。

「私も変わらないと、かな」

 一歩前に踏み出ると、腕を広げて僕を抱き締める。

 昨日と変わらず、強く優しく。

 

 

「それじゃあ、一緒に暮らそっか」

 

 

 いつもと変わらない口調で、僕を宥めるように背中を撫でてくれた。

 包み込む様な声音と背筋から流れる温かい感触で、緊張が解けて罔象と目が合う。

 恥ずかしさが残っていたため、それを誤魔化すようにどちらともなく唇を触れ合わせた。強く抱き合い互いの温もりに酔いしれる。

「………ありがとう、罔象」

「ふふっ、これからもよろしくね」

 一人だと難しいかもしれないが、罔象が一緒にいてくれるんだ。

 二人なら支え合える。まずはそこから始めよう。

 

 

「それにしても、プロポーズの時はなぁなぁにしようとしてたのに。今回は自分から言ってくれるなんて成長したじゃん。嬉しい〜!」

「こんな時に頭撫でないでよ。って、なんか臭わない?」

「えっ?あぁッ!おかず焦げてる!」

 そんなこんなで恥ずかしい気持ちは有耶無耶にして、やや焦げたお弁当も受け取り、僕は大学に行く準備を済ませた。

 罔象もこれから開店準備があるし、あんまり長居はできない。

「詳しい事は今夜話し合おう」

「そうね。竜胆君、いってらっしゃい」

「いってきます」

 罔象に見送られながら、『Cafe Red Poppy』を出て交差点を渡った。

 

 

 さっきまで抱き合ってあんなにポカポカだったのに、寒さがもう体に染みる。自然というのは何とも残酷だ。

 白い吐息を追いかける様にぼんやりと空を見上げながら、さっきまでの時間を思い出す。

 一緒に起きて、シャワーを浴びて、ご飯を食べて。

 これが日常になる、かぁ………

「いいねぇ」




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