「あ〜、なんとかなったか」
僕は家に入るや否や玄関の土間に膝をついた。
色々危険な事もあったけどなんとかなった助かったな。
っていけないいけない、ボーッと休んでいる場合じゃないっけ。
「店長さん、大丈夫ですか?ちょっと待っててくださいね」
僕は雨ガッパを脱ぐと急いでお風呂場に向かいお風呂を組んだ。体を温めるにはこれが一番だろ。
そしてバスタオルを何枚か取り出すとすぐさま玄関に戻った。
震えている店長さんの濡れたエプロンを脱がせるのを手伝った。そのままだと体に悪いからな。
とりあえずエプロンをこっちで回収すると僕は店長さんが怪我をしてないかもう一度確認しようと──してやめた。
「はい、これ使ってください」
僕は持っていたバスタオルを店長さんに渡した。
「あ、ありがとう」
店長さんはバスタオルを受け取ると、それで体を拭き始めた。
僕も残りのバスタオルで自分の体を拭いた。
とりあえずお風呂が組めるまで出来るだけ体温を下げないようにしないと。
早めに組めるようにしたからすぐだと思うんだけど、それでもこれ以上体温が下がるのは危険だ。
「服、洗濯しますか?」
その濡れた服のままじゃ帰れないだろうからな。換装された方がいいだろ。
「うん、ありがとう。……あ、でもちょっと待って」
そう言うと店長さんは濡れたエプロンのポケットの中に手を突っ込んだ。
「はい、これ君のでしょ?」
そう言って差し出してきた店長さんの手には僕の耳栓があった。
「これって……」
僕が呆然としているとピーピーとお風呂が組めた事を示すアラームが聞こえた。
色々と話すのは後だな。まずは彼女をお風呂に入れないと。
「とりあえず、お風呂汲めたみたいなのでどうぞ」
耳栓を受け取ると僕は彼女をお風呂に促した。話はその後でだな。
「いや、君も濡れてるでしょ?私はいいから先に入れば?」
いやいや何を言い出すかと思えば。それは僕にとってちょっと困るんだけどな。
「僕よりあなたの方が長く雨に晒されてたんですから、僕はまだ大丈夫ですよ」
「けど……風邪ひかない?」
そっくりそのままあなたにお返ししたい。自分の事ちゃんと見てよ。
「店長さんの方が危ないんですから、人の事心配してる場合じゃないですよ」
「でも、君がこうなったのって私のせいでしょ?それなのに……」
そんな事気にしてたのか。別に気にしなくてもいいのに。
「僕の意思でやった事なんです。気にしないでください。とにかく早くお風呂に入ってください」
「でも……」
あ〜もう仕方ないな!素直に言うか。
「その……雨のせいで服濡れてて……色々見えそうなんです!」
最後の方はほとんどヤケクソになって僕は言った。本当は言いたくなかったんだけどな。
「え?……キャッ⁉︎嘘ッ⁉︎」
店長さんはようやく気付いたようで慌てて体を隠した。
一応傘をさしていたとはいえこの風だと傘で雨を防ぐ事は出来なかったようだ。
雨によって服が濡れて体にピッタリ張り付いてしまったようだ。それにより体の綺麗なラインがくっきりと見えてしまっている。
さっきは急いでいたのとエプロンを着ていた事もあり気にはしていなかったけど、今はとても目線を合わせられない。
「だから早くお風呂入ってきてください。替えの服なら僕の貸しますから」
僕は一方的にそう言うと急いで自分の部屋に行こうとした。
「ま、待って!」
しかし出て行こうとしたところを店長さんに腕を掴まれてしまった。
「な、何ですか……」
僕は振り返らずに聞いてみた。
「そ、その……やっぱり君をそのままってのはちょっと申し訳ないよ。風邪ひくかもしれないし」
そんな事言われたって。
たしかにそうかもしれないけど、店長さんにこのままの格好されてもそれはそれで体に悪いよ。具体的には精神的にだけど。
「だ、だから……さ、その……い、一緒には、入ろう、よ」
…………え?
その言葉を理解するのに僕は数秒かかった。
そして理解した瞬間に僕はこれまでに無いほどに顔が熱くなった。
「い、いや!そんな事……い、いいわけないじゃないですか‼︎」
この人急に何言い出すんだよ!僕達はそんな仲じゃない。
この人もしかしてすでに風邪引いてるのか?だからまともな思考力が無いとか?
「それは……分かってるんだけどね。やっぱり……君に何かあったら嫌なの。けど君の気遣いも無駄にしたくないし……。ダメ……かな?」
そう言って店長さんはこっちをジッと見てきた。
店長さんは玄関に座っているために上目遣いになっている。ちょ、断りづらいんだけど!
「でも……」
いくらお互いのためとはいえ一緒にお風呂はちょっとな。気持ちは嬉しいけど、素直にはいとは言えないよ。
「やっぱり……ダメ?」
店長さんがすがるような目つきで僕を見てきた。何でこんなに可愛いんだよ。この人本当に僕より歳上か?
う〜ん……でもなぁ、それでいいのかな?
そこまで深い仲でもない女性と一緒にお風呂入るって色々と問題がある気がするんだけど。
ただここで店長さんの気遣いを無下にするのも失礼といえば失礼だし。
僕はしばらく考えてから顔を背けたままそっと呟いた。
「あ、あなたが……それで……い、いい、なら」
こうして僕と店長さんは一緒にお風呂に入ることになってしまったわけだ。
僕達はぎこちない動作でお風呂場へ向かった。というか言い出しっぺがその反応はやめて欲しいんだけど!
体を温めるために一緒に入るわけだが、僕はすでに体が熱いくらいなんだよな。
お風呂場に着くと僕達はしばらく何もせずに固まってしまった。な、何とかしないと。
「えっと……ま、まず僕から入るので……」
「うん、そ、それじゃ私は一旦出てるね」
店長さんはそう言って脱衣所を出ていった。さすがに一緒に服を脱ぐわけにもいかない。
僕は手早く服を脱いだ。あんまり待たせてもダメだろうしな。
全て脱ぎ終わるとタオルを腰に巻いてお風呂に入ってゆく。
「ど、どうぞ。タオルならそこの棚にあるので」
「うん」
店長さんの短かい返事を聞くと僕は先に体を洗っている事にした。店長さんも洗いたいだろうし。
早めに終わらせようとして体を洗っていたが、僕の手は途中で止まってしまった。
なんとなく後ろを振り向くしまったからだ。
僕の後ろには扉越しでボヤけてはいるにせよ脱衣所が見えるようにいる。
だから当然振り返れば今服を脱いでいる店長さんがぼんやりと見えるわけで。
お風呂の扉によってシルエットすらはっきりとしていないためこちらからは白と黒の何かとしか分からないが、そんな事僕にとっては些細な事だった。
僕はダメだと思ってても吸い込まれたように見入っていた。
その白と黒の何かはまだ上下所々に青いものが見られた。まだ下着は着ているみたいだ。
やがてそれは少し屈むように見えたかと思うと上の青いモノがハラリと落ちた。
ただそれだけなのに僕の心臓の鼓動はかつて無いほどに早くなっている。
そしてさらに下の青いモノもスルスルと下に下ろされていくと、やがて無くなってしまった。
本当にただそれだけなのに、思わず扉を開けようかと思ってしまうほどに、僕はそれに夢中になっていた。
自分の下半身が熱くなっていた。しかし僕はそれすらも気づかずに見ている。
やがてそれは僕が見ていたものとは別の白いものを全体に纏った。タオルを巻いたんだな。
僕はそこでハッとした。
いけないいけない、僕何やってるんだ!これじゃ覗きと変わらないじゃないか!
僕は全力で顔の方向を戻すと、とにかく急ぐためにガシガシと乱暴に体を洗った。
そしてそれと同時に後ろからガチャッとお風呂場の扉が開くのが聞こえた。入ってきたのか。
僕は何も言わずにザバーッと体を流すとお風呂場にかけてあるタオルで顔を拭いた。
僕はフゥッと一息吐いた。多少だけど体の火照りが落ち着いた気がする。
しかし数秒後、僕はとんでもないミスをやらかした。
「すみませんね、お待たせ……しま……した……」
席を店長さんに譲ろうと思い振り向くと僕はまた固まってしまった。
そこに立っていたのはバスタオルを体に巻いた店長さん。そんな事分かってたはずなのに。
それなのに僕は彼女の姿を見てまるで急に見せられたかのようなショックを受けた。
綺麗な顔立ちはもちろん、バスタオル一枚しか纏っていない店長さんはその抜群のスタイルを誇る肢体を露わにしていた。
隠されている所を除いて見える肌は白くハリがあった。
そしてうなじや手足そして豊満な胸など、全てが計算して作られているのではと思うほどに美しかった。
そして普段はサラッとしているが、今回はしっとりと濡れていて、しかもいつものハーフアップを解いている長い黒髪がそれらをなお一層引き立てている。
僕が彼女に振り向いてからどれだけが経ったのだろうか?そんな事も忘れるくらいに僕は彼女に見惚れていた。
「えっと……どうかした?」
僕がずっと固まっていた事を不思議に思ったのか、店長さんが心配そうに聞いてきた。
ヤバい!これじゃ全力で目線を逸らした意味がない!
「い、いえ!その……どうぞ」
僕はそう言うと素早く湯船に浸かった。
あ、今お風呂から出ればよかったんだ。しくったなぁ。
「うん、ありがとうね」
そう言って椅子に座った店長さんは少ししてソワソワし始めた。ん?どうしたんだ?
「どうかしましたか?」
「えっと……今から体洗うから、その……君が見ていると……ね?」
僕はそこでまた自分のミスに気づいた。そうか、体洗うならタオルは取りたいよな。
「す、すみません!向こう向いてますから!」
僕は急いで反対を向いた。だからこのタイミングでお風呂から出ればよかったんじゃん!
またタイミングを逃した。……はぁ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。