「花火大会、ですか?」
この前の遊園地同様に突然の誘いに僕は思わず聞き返した。花火大会ってあの夏の風物詩の花火大会だろ?
「うん、この街の神社で の近く毎年行われてるの。よかったら一緒に行けないかなぁって」
たしかにこの街には神社があって、毎年その近くで花火大会が行われている。小さくではあるけど僕の家からもその花火を見れる事もあった。
雷とかもそうだけど、光の後に遅れて音が聞こえてくるのってなかなか楽しいよね。その間を数えるのとか結構好きだったりする。
「それっていつなんですか?日によっては無理ですよ?」
まぁ色々あって、こんな夏休み中でも僕に用事が出来ることはある。そっちをおざなりにってわけにもいなかしその辺は無理だな。
「今日の夕方からだよ。本当はもうちょっと前から誘おうと思ってんだけど……ここ最近天気が怪しかったからちゃんとやれるって分かったら誘おうと思ったんだ」
なるほどね。だから今日暇かって聞いたのか。にしても急だな。
でもたしかにここ最近は猛暑日だったり豪雨の日だったりが交互に来ていた。
おかげで蒸し暑いんだよね。外出てないから分かんないけど。
そんなんじゃ花火大会もやれるかどうかは分からないだろう。不確定な事は伝えなかったって事か。
「花火大会なら夕方からだからそこまで長時間日光に当たるわけじゃないし、ゆっくり楽しめるからいいかなって」
なるほどね、よく分かってるなぁ。たしかにそれなら僕も普通に楽しめるんだよな。そこまで過度でなければ人混みもその騒がしさも平気だ。当たり前のことだしな。
でも………ちょっと待てよ。一つ問題があるんだよなぁ。僕は目を伏せて考える。
「アレから、えっと………もう、大丈夫、かな?」
「ん?何かマズい事があったの?やっぱり夜でも外に出るのは嫌、かな?」
「あ、いや、そうじゃなくてですね。ちょっと年の計算を、ね」
たぶん………大丈夫、なのかな?相場は知らないけど、もうさすがに大丈夫なはずだ。まぁ向こうも覚えてないだろ。
「うーん、ちょっと待ってくださいね」
僕はそう言うと雛罌粟さんをその場に残して、パソコンの元に戻っていった。
開いたままのゲーム画面を操作しながらゲームの進捗を確認する。ここだけは譲れないからな。
これくらいなら………ノルマに影響は出ないだろう。夕方までで余裕でクリア出来る。花火大会なら土壇場でもすぐに準備出来るから、ギリギリまでゲーム出来るな。
僕としても雛罌粟さんが誘ってくれたのは結構嬉しい。ここ最近ちゃんと話せてなかったからな。
僕はふとそんな事を考えている自分がいる事に気がついて驚いた。
人と関わらなくなってからは、人の事情を考えるなんてほとんど稀な時だけだった。どんな時も自分の事を最優先にしてきた。それで周りから嫌われても痛くも痒くも無かった。
それなのに今のところは雛罌粟さんだけだとはいえ、人の事情のために自分の趣味を裂くとはね。
お互いが変わっていくために今の関係になったから、ちゃんと結果は出てるって事か。
でもいい事なんだか悪い事なんだか。とりあえず僕も変わってきてるって事か。
僕はその他のゲームの進捗や見溜めている動画の確認をすると、雛罌粟さんの元に戻った。ついでに朝食のゴミも捨てるために持っていく。
「いいですよ。今日、行きますか」
「本当?よかった」
雛罌粟さんはそう言ってニコッと笑った。相変わらずだけど、僕なんかと出かけて楽しいのかね?僕はあまりお出かけだからといって盛り上がったりとかはしないんだけどさ。
「それにしてもシートとかどうしますか?やっぱり座る場所はあった方がいいでしょう?」
ウチにそんなものあったかなぁ?あんまり外出しないし、ましてやシートとかが必要な時なんて中学校の遠足以来だからな。たしか捨てた気がする。
「大丈夫、ウチにも無かったんだけどね、実家にあったから帰った時に持って来たの」
準備いいなぁ。本当に前から考えてくれていたのか。
「だから出来るだけいい場所取りたいから、早めに出かける事になるけど大丈夫?」
まぁやっぱりそうなるんだよな。花火大会の恒例イベントみたいなものだ。僕としても立ちっぱなしは嫌だからな。
ただそれが結構面倒な気しかしない。さすがにあそこまで密集した中に飛び込んで席を探すのはキツい。
かといって席をちゃんと確保するのは有料らしいし、そこも人がいっぱいだろうから、それもナシだ。
でも………待てよ、あそこなら………。
「あの、座る場所は僕に任せてくれませんかね?もしかしたら人が少なくていい所あるかもしれないんで。それなら早めに行く必要もなくなるでしょう?」
日に当たりたくないから夜のイベントを選んだのだ。それなのに日中から早く出て行くんじゃ本末転倒だ。
「? まぁ君なら何か考えがあるようだし、それじゃあそっちは任せるよ」
たぶんまだあそこは使えるだろう。問題は人に見つかってないかどうかなんだけどね。その辺は賭けだな。
「それなら待ち合わせは……午後六時でいい?たしか出店とか開くのがその辺りだったはずだからさ」
「そうですね」
まぁせっかく行くなら出店も楽しみたいからな。色々と食べられるものを買っておいて、花火を見ながら食べるのもアリだろう。というか僕はそのためにちょっと計算したのだ。
「それじゃあまた後で……………って言いたいんだけど………」
雛罌粟さんはそう言って僕の方をジッと見てきた。
「な、何ですか?」
「あのさ、お節介かもしれないけど君体調大丈夫?かなり生活リズム乱れてるみたいだけど」
「いえ特には。夏休みは大抵こうなので」
元々こういう生活をしているので慣れちゃったからな。僕にとっては乱れるのが当たり前なのだ。それで倒れたらその時はその時だ。
「えっと……それで大丈夫なの?花火大会で人混みの中で倒れそうで怖いんだけど」
うーん、だしかに否定は出来ないな。割と普通にあり得そうだ。
「その辺はうまく避ければ大丈夫ですよ。日光が当たらないならそこまで体力持っていかれる事もないので」
僕はそう言って部屋から持ってきた朝食のゴミをゴミ箱に捨てた。
「それ何?」
「あぁこれは朝食のゴミですよ」
僕がそう言うと雛罌粟さんはちょっと眉をひそめた。たしかに朝食にこういうゴミが出るのはあまりないか。
「……………ちなみにメニューは?」
「缶詰のパンとジャーキーとドライトマト、それとドライマンゴーですが」
「歯でも鍛えてるの?それとも失礼かもだけど君の家お金無いの?」
雛罌粟さんは目を細めて尋ねてくる。え?そんな風に見えるの?僕の中では当たり前なんだけど。
それに歯を鍛えてるは論外だとしても、お金はあまり食事でかけないようにしてるからな。そしてそのお金はゲームの課金に使われるってわけだ。
「別に、長期休みの時は食事は大体こんな感じですよ」
僕の言葉に雛罌粟さんは顔を引きつらせた。え?何か変?
毎回同じってわけでも無いけど、ゲームをしながら短時間でできて長期保存の効くものとなると結構限られてくる。
インスタントとかもあるけど、お湯を注いで出来上がりを気にするのも僕には惜しい時間なのだ。時間は有限なんだから効率よく使わないと。
「えっと…………お昼ごはんまだだよね?私に作らせてよ」
「? まぁそれは嬉しい事なんで構いませんけど、ウチ今大した食材はありませんよ?買い物面倒なんで長期保存出来るものくらいです」
だからウチの冷蔵庫は今ほとんど空っぽだ。僕の食べてるものは基本的に棚とかに置いておけるものばかりだからな。
むしろ自分の部屋ですぐに食べられるようにわざとそういうものを選んでいる。僕の部屋から台所に取りに行くの面倒だもん。その間にガチャ何回出来る事か。
僕はとにかく趣味の時間をたくさん欲しいんだよ。そのために削られるものは極力けずっていく。
「君ね、そんなんじゃ栄養が偏って………ってそうでもないのかな?割と栄養はあるのか」
「その辺も考えてますからね」
というかさすがにそんな偏ったものばかりだと飽きてくるんだよね。あぁいうのはバランス良く食べるからいいのだ。
「それにしてもそればっかりはダメだよ。ちゃんとした食事も取らないと」
「そうですか?僕としてはよく朝食をルーティンで食べてる人と同じような感覚だと思ってるんですが」
「……………私の家から何か持ってくるよ」
雛罌粟さんはそう言って僕の家を出て行った。なんか当たり前みたいにまたご馳走になってしまう事になってしまった。まぁ雛罌粟さんの料理は美味しいから全然構わない。むしろありがたいくらいだ。
しかしあれだな、雛罌粟さんは結構世話焼きタイプだな。こんな僕にここまでしてくれるなんて。
そんな事を思いながら僕は自分の部屋に戻って行った。夕方までにノルマ終わらせておかないと。
その後サンドイッチなどの軽い食事を作ってきてくれた雛罌粟さんとともに、僕達は食事をした。
それにしてもこの前遊園地に行って、今度は花火大会か。なんだか僕も段々と外に出るようになってるなぁ。でもまぁ、雛罌粟さんと一緒ならいいかな。
僕は向かいにいた雛罌粟さんを見ながらフッと笑った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。